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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第2章 領主そして建国。
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第36話 モービィと国産と。

お読み頂き有り難う御座います。


第36話です。

式典が無事終わり数日が経った。


国内の各騎士局には帝国から寄贈されたモービィが配備され、北方出身の者達による教習が行われていた。


ザック達は各領地の視察がようやく終わり、町村毎による今後の経済支援や福祉活動の打ち合わせを各首長と行っていた。



ザック:『やはり小規模の村は色々抱えている問題も多いみたいだな。農業と畜産が経済利益の主軸になるけど、規模が小さい分農家への純利益が明らかに少ないし。』


メル:『元々はどこも自給自足を目的とした村ですからね。町に馴染めない人達や静かに暮らしたい人達が村を開拓したので、開拓当初の経済状況がそのまま今の形に残っちゃってるんですよ。』


ザック:『でもその人達のおかげで肉や野菜が食べられるのも事実ですからね・・・。市場に並ぶ食材の大半は小さな農村の作物ですし。』


アン:『今農家に与えられている農地って、国が割り振ってるのよね?もう少し拡大させられないの?』


ザック:『今は俺の領地だし拡大させるのは簡単だけど、人手不足になったり作物の相場が下がったりと結構マイナスな面もあるんだよ。作物の大半はアーデンの市場で取引される訳だしね。』


メル:『農村にある一定の権限を与えては如何でしょうか?領地外の町での収入に関しての税金を免除するとか。』


ザック:『そんな事をしたらアーデンの市場に作物を持って来る人が居なくなるだろ?それならアーデンの市場に他の町から買い付けに来る行商人を呼び込む方が現実的じゃないかな?』


アン:『どうやって?』


ザック:『買い付けの行商人って今まで徒歩か乗り合い馬車で来てただろ?それだと一回の買い付けで仕入れる量が意外と少ない上に種類もあまり買えない。だから急ぎの物以外は後日に配達する様にすれば行商人の負担も減るし、総合的な売り上げも上がるだろ?』


アン:『配達ってどうやって配達するのよ?まさか農家の人にやらせる気?』


ザック:『いいや?通常の路線馬車の他に貨車専用の路線馬車を運行するんだよ。各町の停車場に荷物の受け取り所を作って、行商人にはその受け取り所に荷物を取りに来る様に言えば良い。』


アン:『なるほど、その手があったわね!』


ローラ:『運賃はどうするんです?旅客よりも安くしないと利用者が少ないと思いますが・・・。』


ザック:『荷馬車に箱型の仕切りを作って、一升幾らって感じで定額料金を設定するんだよ。そうすれば行商人だけで無く一般の人達も利用出来るだろ?』



こうして路線馬車に貨車専用の定期便が増える事になった。


数日後、商人ギルドと各町村との打ち合わせを行い、荷馬車の改良を行った。


料金的にも一般者が利用しやすい価格設定となり、多くの人々からは喜ばれた。



そんなある日、帝国からモービィのファクトリーの代表が来た。



ベルテン:『はじめましてエルベスタ殿、私は帝国のファクトリー【クエロ】のベルテンと申します。貴方からの提案を皇帝陛下から伺いまして、非常に興味深いと思い直接お話を伺いたく参上致しました。』


ザック:『遠路遥々ようこそお越し頂きました。モービィの現地生産の件ですね?』


ベルテン:『はい、王国内での生産が可能となれば、今後の販売見込みは相当な数字になるという判断に至りました。それで此方の国ではどの様な物を主軸として販売されるおつもりですか?』


ザック:『御存知かとは思いますが、王国では移動手段が徒歩か馬車です。さすがに町から町までの距離も長く、荷物を抱えて移動するには限界もありますので、乗用と貨物のモービィを考えています。それに伴って道路整備も見直すつもりです。』


ベルテン:『となると比較的安価な物を大量生産するという事ですな。実は我がファクトリーは新設計の小型モービィを生産する準備をしておりまして、その生産ラインをこちらに作らせて頂きたいと考えておりましてね。王国のみならず他国への輸出も念頭に考えていたんですよ。』


ザック:『それではかなりの人手が必要なのでは?さすがに領地内の労働者だけでは無理がありますね。』


ベルテン:『いやいや、こちらで生産したいのは試験生産品です。つまり王国で試験生産とユーザーテストを行ってから帝国の大工場で本格的な生産を行うという意味なんです。その分価格は抑えて販売をさせてもらえます。』


ザック:『ユーザーテストをする前のロードテストを十分に行って安全性が確認されるなら構いませんが、試験品をそのまま販売するというのは納得しかねます。場合によっては重大な事故に繋がりますので。』


ベルテン:『基本的な技術面では従来のモービィと変わらないので、安全性については問題有りませんよ。新設計になるのは外寸や車輪の寸法です。小型化するにあたってのロードテストは不要かと考えておりますので。』


ザック:『いや、むしろ小型化するからこそのロードテストなんですよ。動力源が同じで車体が小型化すれば車体の強度や制動装置の強度が問題になります。特に車体の強度に関しては小型化する事で華奢になる事が多い。横転や追突時に乗ってる人が怪我をしやすい作りでは安心して販売など出来ませんよ。』



ザックがそう話すと、ベルテンは明らかに怪訝な表情になって話し始めた。



ベルテン:『そうなると安価な売値での販売は難しいですね。値段と手間隙との折り合いがつかない物となれば、試験品としての販売では無い以上安価で販売すればファクトリーの利益がほとんど取れません。ユーザーテストを優先して試験販売をするからこそ安価に価格を抑えられ、その中でも利益を取れる訳なのですから。』


ザック:『では質問をしましょう。貴方の御家族がその様な試験販売品を安いという理由だけで購入したいと言ったら、貴方は両手放しに賛成されますか?』


ベルテン:『っ!!・・・なるほど、言いたい事は解ります。しかし技術発展というものは利益が無ければ進展はしません。この地でモービィを製造販売をされたいというお考えならば、我々ファクトリー側の立場を優先的に考慮して頂く必要もあります。』


ザック:『ファクトリー側の事情や御立場も有るとは思いますが、俺は領主として領民の方々に進んで危険なテストをさせる訳にはいきません。もう一度ファクトリーで精査して頂いてからお越し頂けますでしょうか?』


ベルテン:『分かりました。ではロードテストの件も含め、ファクトリーで会議を行ってからまたお邪魔させて頂きましょう。』



ベルテンの思惑は見事に外れた。



技術後進国である王国の地方の領主が、技術面や安全面においての知識を持っているとは思わなかったのだ。


ベルテンはザックという男を危険だと判断し、ファクトリーに戻ってからは、王国での独自開発をさせない様に帝国政府に嘆願書を提出した。


あくまでもモービィの開発利権を帝国のファクトリーに限定させる為だ。


ザックは逆にこうなる事は初めから分かっていた。


帝国の各ファクトリーに関する話はリアスから聞いていたし、ファクトリーの問題点についても聞いていた。


利益優先型のファクトリーが多く、こと安全面に関しての意識が低いというのだ。



その後、帝国の幾つかのファクトリーから何件かの打診は有ったが、到底納得出来る内容では無かった。



ザックはリアスを呼んで今回の交渉からライセンス生産を見直すかどうかを話していた。



ザック:『やはりオリジナルを作らなきゃ駄目かな?』


リアス:『王国製のオリジナルモービィですか?』


ザック:『うん、どうも帝国のファクトリーは俺達と価値観が違い過ぎる。となると初歩の設計から見直する事になるか・・・。まずはシャーシだな。』


リアス:『シャーシ?ってなんですか?』


ザック:『モービィのベースになる部分だよ。ここの良し悪しでモービィの基本性能や安全性が変わると言っても過言じゃ無いんだ。うちに有るモービィは帝国の物と造りが違うのに気付いてた?』


リアス:『そう言えば腹下のベースフレームが違いましたし、衝撃吸収用の装置も造りがしっかりしていますね。もしかして向こうの世界の技術なんですか?』


ザック:『まぁかなり単純化されてはいるけどね。本当は4輪の方が安定感もあるし、積載重量も稼げるんだけどな。』


リアス:『4輪だと小回り効かなくないですか?確かに安定性は有りそうですが・・・。』


ザック:『左右の車輪に動力を伝達する部分に荷重によって動力を振り分ける、デファレンシャル・ギアっていうケース入りのギアを使うんだ。曲がる時って曲がる反対側に荷重が掛かるだろ?その時に左右の回転比率が変わる力を利用して荷重が抜けた側に動力を送るんだよ。』


リアス:『なるほど、つまり曲がる時に内側になる車輪に動力を送るんですね?それだと片側の車輪がフリーになるから小回りは効きますね。確かにそれって凄く画期的で便利ですけど、かなり構造が複雑そうですね・・・。』


ザック:『そうだな・・・歯車だけでも結構な数を使うし、特種な形の歯車を使うからなぁ・・・ん?待てよ?このスマホで・・・。有った!こんな構造なんだよ。』


スマホで検索して出した画像を見せると、リアスはメモを取り始めた。


リアス:『これ・・・作りましょう!材質はハードメタルで代用すれば可能ですし、後は歯車の歯数が解れば作れます!』


ザック:『車輪の寸法や車体の大きさによっても変わるけど、大方の歯数は分かるよ。問題は加工精度かな?潤滑油で保護は出来るけど、精度が悪いと壊れやすいからね。』


リアス:『その辺は御心配無く、変速座標可変式の旋盤機を作りましたので、どんな形状の歯車でもかなりの精度で作れます。試しに3種類のケース入り歯車を作って実験しましょう。』


屋敷に造られたリアスの工房は帝国のそれよりもかなり進んだ設備が揃っている。


そのほとんどがリアスによって産み出された特種な機械だが、北方の技術を基にザックの知識とリアスの発想を合わせて作られた加工機械だ。


以前に考案した自転車を作る為に設計した加工機械もこの工房で作られていた。


元々オリジナルの乗り物を作るつもりではいたが、モービィに関しては皇帝との事もあるので開発対象から外していたのだ。



ザック:『魔導装置なんかは北方からの輸入になるんだよな?となるとファクトリーとの関係を拗らすのは不味いかな?』


リアス:『魔導装置とモービィのファクトリーは別ですから問題無いのでは?逆に魔導装置のファクトリーからは喜ぱれるかも知れませんよ?』


ザック:『どういう事なんだ?』


リアス:『魔導装置のファクトリーはモービィのファクトリーよりも多いんですよ。元々魔法使い向けに作られた物だというのもあるんですが、モービィのファクトリーは自分達に有利な形の契約しかしませんから魔導装置のファクトリーはほとんど利益が取れて無いんです。もしザック様がファクトリーごと此方の国に移設したいと言ったら喜んで来ると思いますよ?』


そんな訳で魔導装置のファクトリーと交渉する為に、ザックとリアスの2人で帝国に行くことが決まった。


アン:『え!?2人だけで行くの?私も行きたい!』


ザック:『向こうは亜人種に対して人権すら無いんだぞ?安全面から考えても俺達2人の方が良いだろ?』


アン:『それこそ向こうじゃ何があるか分かんないのよ?パーティーで行った方が安心じゃない。』


ザック:(アンの言う事も分かるが、向こうではどんな扱いを受けるか解らないからなぁ・・・。)


ザック:『陛下に書状を書いてもらうか・・・。向こうの皇帝陛下が後ろ楯になってくれれば少しはマシかも知れないしな。』


アン:『え?じゃあ私達も行って良いの?』


ザック:『ちゃんと段取りを踏んでからな?』


ベルクレアに書状を貰い、皇帝にも通達をお願いした。


全ての準備が整ったのはそれから10日後の事だった。







お読み頂き有り難う御座いました。

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