第34話 説明会と行政と。
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第34話です。
ザック達はリースで領民に対しての説明会を行っていた。
最も多かった質問は、法の取り締まりが厳しくなるかという事と、領地になる事での領民税の取り立てに関する事であった。
無論取り締まりに関しては安全面での強化を行うが、領民の生活に干渉するものでは無い。
あくまでも不審者に対する取り締まりを強化する事を伝えた。
領民税に関しては、収入履歴が解る様にギルドと商店に帳簿を義務付けて、一定の収益以上の収入が有る者達から徴収を行う。
冒険者は換金時に発行される換金証明書を当人とギルドの両方で保管を義務付けて、それらを照らし合わせて税を徴収する事とした。
さらに帝国との友好条約以降はモービィが輸入されるので、それに伴っていわゆる道交法も整備する事を説明した。
犯罪に関しては王国法に準ずるものの他に、領民法にて犯罪の度合いによる刑罰の基準を設けてより住みやすい環境を作る事を伝えた。
これ等はエルベスタ領全体共通の法整備となるが、領民税に関しては領民登録後一年間は免除される。
移民の人達の生活を圧迫しては意味が無いからだ。
新たにリースからランス迄の路線馬車を開通させ、領地内の移動の簡略措置も予定している。
商人ギルドに一任して雇用を確保する様に伝えた。
リースでの説明会を終えると、治安維持のために兵士局を開設するために町の中心部の土地を確保した。
ザック:『これをしばらくの間続けるのか・・・。』
アン:『仕方無いでしょ?これでも説明が足りない位なんだし。』
ザック:『そうだよなぁ。領民特権の話はまた今度だな。』
ザックは自分の領地に住む者達に、ある特権を与えるつもりでいた。
それは一定収入以下の収入しか無い者達の為の特権で、特に高齢者を対象したものである。
生活保護と年金制度を合わせた様なもので、領民税から積立を行い支払われる領民保護特権である。
他の地域には無いこの制度で、高齢者も住みやすい町にしようと考えたのだった。
また孤児に対する保護制度を検討中で、教会との話し合いも進んでる。
リースからイブに転移して説明会を行うと、イブでは地域による収入格差を気にする声があがったが、移民が増えて経済が活性化する可能性が高い事と、今まで一律の税額だったものが収入によって変動する事を伝えると納得してもらえた。
複雑な制度を作ると領民が理解出来無い事があるので、出来るだけシンプルにしたのだ。
また移民に関しては公式の手続きを行うと国から生活保証金が一定の期間支給されるので、その間に職を見つけられる。
これからは商人ギルドと冒険者ギルドによる雇用説明会が開かれるので、さほど仕事に困る事は少いだろう。
技術開発における企業の立ち上げに関しては、専門の部所を立ち上げる事になった。
北方からの移住者の中で技術者と有識者達によって技術開発機構が発足される事になったのである。
これはリアスが熱望していたもので、当面の顧問にはリアスを抜擢した。
これに伴いモービィの現地生産を可能にする工場をアーデン郊外に造る事になった。
ランスでの説明会では自治組織の発足を要望された。
しかし自治組織を作る事によって、王国法や領民法を逸脱した自治法を整備する可能性が否定出来無い為にこれを却下した。
この世界の文化は中世だ。
統治者不在の中で自治組織を作れば、国家への反乱分子になりかねない。
その為に王国には町単位での独立を禁止する法が有り、その町を管轄する統治監督部所である兵士局や騎士局が管理しているのだ。
移民の町ではこの独立した自治組織を希望する者達が多かったが、特別自治法を制定して町の行政を行えるシステムを作り、町の代表であるアレクと統治者であるザックとの協議により行使出来る事を伝えると納得した。
この町だけは元からこの国に住む者がきわめて少ない為にこれを適用したのだ。
町の移転に関してはすでに伝えてある。
移転後この地下都市はリアスの研究施設として活用する事になった。
一通りの町で説明会を行った後で、アーデンでの説明会を行った。
アーデンでは領主が在住する事もあり、領都としての役割がある。
騎士局・兵士局の他に治安維持活動を主とした警察局を設ける事になった。
貧民街における治安維持と町が拡大する事による兵士や騎士の負担を軽減する為の組織だ。
適性を満たした冒険者を警察官に任命して、冒険者ギルド内に局を作る。
局長にはゴールドランクの冒険者であり、なおかつ能力の高いユンシャが抜擢された。
ユンシャ:『え!?アタイが局長!?』
ザック:『是非宜しくお願いしますよ。』
ユンシャ:『なら武闘派揃いの組織にしなきゃ!』
ザック:『あの、あくまでも治安維持が目的なんで、その辺間違えないで下さいね・・・。』
アーデンの貧民街の住人達には特別生活支援金がザックから支払われる。
貧民街には冒険者を引退した高齢者や病気や怪我により仕事が出来なくなった者達が住んでいる。
生活再建と健康維持のために一時金として支給されるのだ。
さらに手工業を主とした生産工場を作り、体力が低い高齢者でも仕事に就ける環境を作る事にした。
これにより貧民街の再開発と安価で住めるアパートの建設計画が立ち上がった。
今後の開発計画に伴って建設局を設立し、建築技士と作業員の確保が急務になった。
以前大衆浴場を建設した者達が運営と管理を行う。
これ等の法整備や各局・工場等の施設建設に関しては、女王自身が熱望している独立国建国の前段取りとなる。
ザック:『やる事が山積みだな・・・順を追って説明するにも限界があるぞ・・・。』
アン:『まだ他にも案件書類がこんなにあるの!?』
ザック:『出来るだけ領民の要望は取り入れたいからね。こんなに面倒だとは思わなかったけどさ。』
アン:『でもこの説明会が終われば、少しは休めるんですよね?』
ザック:『いや、まだ移民の町の建設や各施設の監督部所の設立、他にも公的機関や医療施設の設置や王宮側との意見交換なんかもあるよ。』
アン:『しばらくの間は討伐や冒険は無理ですね・・・。』
その後も多忙な日々は続き、やっと移民の町の建設が開始された。
町の名前はアードリーに決定した。
アーデンに付随する町という意味が込められている。
問題はこれ等に掛かる膨大な費用だが、女王が帝国に訪問した際に費用の一部を帝国側が負担してくれるのと、王国からも補助金が出る事になっている。
加えてザックが領主になった事で得た開発準備金で賄われる事になった。
医療施設の所長にはボルトが就任する事になっているが、治療魔法の使い手や薬草の知識に長けた者達を確保しなければならない。
短期間でこれだけの事を同時進行でやらなければならないのには理由がある。
帝国からの移民が日々増える事と、他の地域からの移住者がすでに集まって来ているからだ。
現在の行政システムでは限界が来ているのである。
説明会の数日後には行政システムの大半が稼働を開始した。
全ての町で領民登録が行われ、移住者による建築許可の申告もすでに100件以上来ている。
アーデンとイブ・リース・ランスでは、全ての宿屋が満室らしい。
その一月後、ノルバーン帝国より皇帝エルベラが友好条約の調印式の為に来訪した。
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