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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第2章 領主そして建国。
30/77

第29話 マリエリアと自転車と。

お読み頂き有り難う御座います。


第29話です。

浴場と食堂がオープンして1週間が経った。


モービィとトレーラーは既に屋敷に戻っている。


ジーナを始めとする料理人達は、思いの外大盛況な食堂を切り盛りするのに大忙しだ。


浴場はオープンから閉店まで客足が途切れる事が無い。


元盗賊の使用人達が掃除や片付けを頑張ってくれているお陰で、客のサイクルも良い。


魚介類の仕入れと野菜類の出荷は、移送と仲買人との交渉を除いて商人ギルドに委託する事になった。


ザック達が本業である冒険者の仕事がほとんど出来ないばかりか、大きな商売となるので物流管理が難しいのだ。


商人ギルドからは総合利益の7%を受け取り、必要な魚介類を必要な分だけ無償で貰える事が条件だ。


商人ギルド側もこの条件に快く承諾してくれた。


実際商人ギルドとしても、物流ルートや受け渡しルートが確保された状態から介入出来るメリットは大きかったのだろう。


しばらく浴場や魚介類の事で忙しかったので、パーティーメンバー全員で冒険者ギルドへ行く事になった。


シルビア:『おやまぁ皆様御揃いで。今日はどうしたんです?』


ザック:『シルビアさんお久しぶりです。ギルド長はいらっしゃいますか?』


シルビア:『ギルド長なら執務室にいらっしゃいますよ。』



執務室の扉をノックすると中からカリンの声が聞こえた。



ザック:『カリンさん、お久しぶりです。』


カリン:『ザックさん、聞きましたよ?シェルバールとの交易をされているんですってね?』


ザック:『はい、と言っても今は週に3回ほど転移魔法で向こうと行き来しているだけですがね。』


カリン:『ギルドではザックさんが冒険者から転職したんじゃないか?って皆が不安がっていたんですよ?』


ザック:『冒険者を辞める気は無いですよ。まぁ討伐やクエストを出来る時間は明らかに減りましたけどね。』


カリン:『そうでしょうね、あんな立派な浴場と食堂まで作っちゃったんですもの。ギルドの酒場ではお客が取られるって嘆いていましたよ。』


ザック:『うちではお酒は扱わないですし、食堂は結構早い時間に閉まりますから大丈夫ですよ。』


最近ザックの使用人が増えた事で、ギルドでは色々な噂が立っているらしい。


ザック:(これは時々酒場にも顔を出した方が良いかな?)


カリン:『そう言えば昨日ザックさんを訪ねて来た方がいましたよ?』


ザック:『俺をですか?』


カリン:『結構身なりがキチンとした方で、御屋敷の場所は教えましたけど伺ってませんか?』


ザック:『来ていないみたいですね?何か言ってませんでしたか?』


カリン:『ロードズ・ブレイブはどの人だ?と言っておられましたが・・・。』


ザック:(二つ名で呼んだって事は知り合いでは無いな・・・。)


ザック:『分かりました、一応覚えておきます。』



執務室を出ると、ゴールド2人組に呼び止められた。



エリオラ:『ザック君達じゃない!しばらく顔を見なかったけどどうしてたの?』


ザック:『エリオラさんにユンシャさん、お久しぶりです。色々と忙しくて。』


ユンシャ:『色々噂は聞いてるわよ?なんか手広く商売してるみたいね?もしかして冒険者辞める気ぃ?』


ユンシャがイタズラな表情で聞いて来る。


ザック:『辞めませんよ。この町に必要な事をやってたら、たまたま手広くなっただけです。いずれはほとんどの業務を委託してまた本業に戻るつもりですしね。』


エリオラ:『なら安心ね。たまには酒場にも来てちょうだいね?』


アンがザックをジト目で見ながらエリオラに言った。


アン:『ザックって酔うとどうなるんですか?まさか口説いて回ったりやらしい事して無いですよね?・・・。』


エリオラ:『そんな事しないわよ、むしろそれを期待してた子達は逆にガッカリしてるみたいね。』


アン:『ザックってお酒強いんだ?』


ザック:『どうだろう?あまり普段は飲まないからなぁ。』


メル:『そう言えばザック様が飲んでるのをあまり見た事が無い気がしますね。』


ローラ:『ホームパーティーの時しか見た事が無いですね。』


ザック:『毎晩晩酌して酔っぱらうよりは良いだろ?それに俺以外全員女性なんだから、酔って変な気起こしたらそれこそ何するか分かんないだろ?』


アン:『わ、私はザックの彼女なんだし・・・別に・・・。』


メル:『私も・・・。』


ローラ:『私は・・・その、元奴隷ですし・・・。』


ザック:(ん?何この反応?)


エリオラ:『・・・私もザック君の御屋敷に住んじゃおうかしら?』


とエリオラが突拍子も無い事を言い出すと。


ユンシャ:『なら当然アタシも行くわよ?』


とユンシャもそれに乗って来た。


ザック:『ちょっと待てって!何でそうなるんだよ!』


ザック:(何か変なフラグ立っちまった!?)


アン:『って言うか、むしろあの子達はそれを期待してる感があるわよね・・・。』


メル:『あぁ、あの方達ですね・・・。』


ローラ:『あ・・・。』


当然使用人達の事なのだが当のザックは。


ザック:『ん?あの子達?』


エリオラ:『・・・ザック君って天然よね・・・。』


とエリオラが言うと女性陣全員が頷いた。


突然、ギルドの入り口から聞き覚えの無い声が聞こえて来た。


少女:『貴女達、ロードズ・ブレイブという二つ名の冒険者を御存知かしら?』


大声でザックを探していたのは、貴族の様なドレスを纏った少女だった。


皆がザックの方を見ると、少女はザックに歩み寄った。


少女:『貴方がロードズ・ブレイブかしら?』


ザック:『そうですが貴女は?』


マリエリア:『私はマリエリア・エルク・ロムネイブ。やっとお目に掛かれましたわ。』


名前を聞いただけで貴族と解るその少女は、とても晴れやかな笑顔で答えた。


ザック:『失礼ですが、俺の事をどちらで?』


マリエリア:『私はシンクレアと幼少の頃からの友でして、貴方様のお話を伺ってからはどうしても御会いしたかったんですの。』


ザック:(シンクレア・・・って王女殿下かよ!?)


ザック:『左様で御座いましたか、誠に失礼致しました。ロードズ・ブレイブの二つ名を授かりましたザック・エルベスタと申します。』


マリエリア:『シンクレアが言っておられた通りの男性ですわね。ところでザック様、聞いたお話ではシェルバールから魚介類を取引されているとか?』


ザック:『はい、最近シェルバールの漁船主から仕入れを始めましたが何か?』


マリエリア:『実は父が王宮での食料流通の管理を担当する職に就いておりまして、王都にも魚介類を卸して頂けないかと思いまして・・・。』


ザック:(なるほど、そういう事か。)


ザック:『そうですねぇ。王都に卸すのでしたら、ロムネイブ家の名前を使って直接取引をされては如何でしょうか?私の名前で取引を行うにしても、物量に限界が有りますので供給が追い付かないでしょう。その代わり移送は私が代行するという事なら、市場から転移魔法で直送する事も出来ます。』


マリエリア:『確かに物量の問題も有りますわね・・・王都での需要を考えてもザック様御一人では運送の負担が大き過ぎましょう。では此方の魔術師協会から転移魔法の使い手を数名用意した方が宜しいでしょうか?』


ザック:『それならいっそシェルバールの商人ギルドに直接行かれた方が早いと思いますよ?お時間さえ宜しければ今から向こうに転移しますが?』


マリエリア:『連れて行って下さるのですか?』


ザック:『えぇ構いませんよ、先ずは騎士局で身分の証しをされた上で、商人ギルドに口利きをして貰った方が良いでしょうねぇ・・・何か家名や家紋の付いた物をお持ちですか?』


マリエリアは懐から家紋の入ったメダルを出した。


マリエリア:『これは我がロムネイブ家のメダルです。これなら身分の証となりますでしょう。』


ザック:『結構でしょう。それでは私の手をお握り下さい。みんな、ちょっと行って来るよ。』


アン:『夕飯までには帰ってね。』


ザック:『解った。それではマリエリアさん、いきますよ?』


マリエリア:『はい。』



ザック達はシェルバールに転移した。



エリオラ:『ねぇアンさん、ザック君ていつもあぁやって人助けしてる訳?』


アン:『いつもと言うか、毎回ですね・・・。』


メル:『まぁザック様らしいと言うか何と言うか。』


ローラ:『ほとんどがこうですよね。』


ユンシャ:『・・・あんた達苦労するわね。』



シェルバールに転移したザック達は、町の入り口付近の騎士局に居た。



マリエリア:『本当に一瞬で来てしまうのですねぇ・・・。』


マリエリアは突然の事に唖然としていた。


ザック:『さぁ騎士局に入りましょう。』


騎士局に入ると、先日対応してくれた職員が居たので声を掛けた。


ザック:『先日はどうも。』


騎士:『ザックさんじゃないですか!今日はどうしたんです?』


職員に事情を説明し、マリエリアが身分を明かした後で要望を話すと職員は快く対応してくれた。


ロムネイブ伯爵家は建国時から存在する名家中の名家で、当時から王家との交流があったそうだ。


マリエリアは父の秘書を勤める傍ら、若干15才の若さで自ら事業を経営している。


西方諸国の食料品等を取り扱う貿易会社で、王女殿下からホームパーティーでの事を聞いたそうだ。


さて紹介された漁業船社だが、ランバルとの交流も深い大手の漁業船社を紹介して貰う事が出来た。


本来ならアポイントを取ってから商談を行うのが普通だが、王宮が管轄する商談とあって即面会する事になった。


長距離輸送の場合は鮮度等の問題から普通は交渉が難しい。


シェルバールから王都までは馬車だと一月以上も掛かってしまう。


王都は大陸の真ん中に位置している為に、海の幸とは無縁だったのだ。


だが転移魔法を使って輸送を行う事を話すと、ほぼ即決で話がまとまってしまった。


王都の魔法使いが数名シェルバールに常駐する事を条件に、毎朝の漁獲量から何割かを優先的に買える事になったのだ。


勿論一流の仲買人も紹介して貰える事になった。


王宮が関わった事も有るが、マリエリアの交渉も見事なものだった。


手続き上王宮との直接交渉となれば他の漁船業者から不満が出る。


マリエリアは自分の商社を代行業者にして、書類上は商社との取引という形で交渉したのだ。



交渉が終わり、一息着いたところでマリエリアはザックに話を切り出した。



マリエリア:『ザック様、良い取引が出来ました。感謝します。』


ザック:『私は貴女をシェルバールにお連れしただけですよ。交渉をされたのはマリエリアさんじゃないですか。』


マリエリア:『これほど迅速に交渉が成立したのはザック様が連れて来て下さったからですよ。アーデンに魚介類が入荷されたとの情報を聞いた時は本当に驚きました。馬車なら20日も掛かる距離なのにどうやって!?と困惑したほどです。ザック様が転移魔法を駆使して輸送されていると聞いた時には正直やられたと思いました。』


ザック:『普通は転移魔法をそんな事に使いませんからね。今でも1日4往復してるので魔力が結構持って行かれます。』


ザックが苦笑しながら言うとマリエリアは固まった。


マリエリア:『ザック様は此処までの距離を4往復も転移出来るのですか!?魔導師や魔法使いでも1日で2往復もすれば立てなくなるでしょうに・・・。』


マリエリアはザックの魔力量に驚いていた。


実際ザックの魔力量は普通の魔法使いの5倍はある。


ザックは無意識に長距離を何度も転移しているが、実際は転移する距離に比例して消費される魔力も増えて行くのだ。


ザック:『まぁ俺はスキルがこれなもんで・・・。』


そう言ってザックは冒険者カードを見せた。


マリエリア:『・・・ノワール。そういう事だったのですね。世界に数人しか存在しないノワール判定スキル。貴方の偉業の数々をお聞きした時には正直眉唾な話だと思いましたが、これで納得がいきました。』


ザック:『と言っても能力の半分も使いこなせて無いんですけどね。自分でも不相応なスキルだと思います。』


マリエリアはザックの言葉にホッとした。


ノワールスキル・今までの偉業、どれを取ってもただの冒険者ではあり得ない。


ザックが野心家であるならば出来るだけ早く自分の管理下に置いて、その過ぎた力を封じようと思ったからだ。



マリエリア:『ザック様、貴方はその力に何を求めますか?正直私は貴方の力が恐ろしいです。その力は間違った事に使えば、必ずや災悪をもたらします。善き事に使えば人々に笑顔と安らぎをもたらすでしょう。貴方がその力に求めるものは何ですか?』


ザックは迷っていた。


彼女に素性を明かすべきかどうかを。


シンクレア王女が彼女に明かさなかったのは、不用意に話を広めない為というのも有るのだろうが、それ以前に彼女を巻き込まない為という事の方が大きいのではないか?と推測したが、ザック自身マリエリアという人物をまだ無条件に信用するには至ってないのだ。


ザック:『俺がこの力に求めるのは仲間の笑顔です。俺の屋敷にはパーティーメンバーの他に使用人も沢山居ます。奴隷として俺に買われた使用人達ですが、彼女達は俺の仲間であり家族なんです。俺には世界の難しい事情は良く解りません。ですがせめて彼女達が笑顔で暮らせる未来を作ってあげたい。それが俺が自分の力に求めるものです。』


マリエリアはザックという男を誤解していた事を反省した。


マリエリア:(世界を手に入れられるかも知れないほどの力を持つ男が、こんなに慈愛に満ちた言葉をさも当然と言わんばかりの顔で言うとは・・・この方はもしや・・・いや、もしそうだとしても、陛下ですらお膝元に置かなかった方を私がどうこう出来る筈も無い。)


マリエリア:『そうですか・・・ザック様が皆に好かれる理由が解った気がします。さぁ、皆様が心配されてるといけませんわ、アーデンへ戻りましょう。』


ザック:『マリエリアさん、王都までお送りしましょうか?』


マリエリア:『いや、実はアーデンに連れを待たせておりますもので。』


ザック:『そうでしたか、ではアーデンへ戻りましょう。』



アーデンの冒険者ギルドへ戻って来た。



マリエリア:『ザック様、本当に有り難う御座いました。王都においでの際は是非私を訪ねて下さいませ。パーティーの皆様ともお話しをしてみたいですわ。』


ザック:『えぇ、是非伺います。』


こうしてマリエリアと別れた。


不意に後ろから異様な気配がした。


気付かれない様に見ると、マリエリアの後をつけようとしていたフードを被った人物が居た。


ザック:『失礼、あんたマリエリアさんとどういう御関係?』


そう声を掛けると突然襲い掛かって来た。


ザック:『相手が悪かったね。』


ザックはその者の攻撃をかわして押さえつけた。


女:『まて、私はマリエリア様の護衛だ!』


フードを取ると可愛らしい女の子だった。


ザック:『何でそんな怪しい格好してんだよ?危うく銃で撃ち殺すところだったじゃないか。』


護衛:『失礼致しました。私はシンクレア様からのご命令でマリエリア様の警護をしているのです。』


ザック:『マリエリアさんは狙われているのか?』


護衛:『王都での事件後、マリエリア様が御一人で出歩かれる際は我々が護衛をしております。万が一の事が有るかも知れないとの事で。』


ザック:『で、俺が誰かも分からずに攻撃した・・・と?』


護衛:『・・・はい。』


ザック:『俺はザック・エルベスタ。チーム・アポストロのリーダーだ。』


護衛:『っ!!知らぬ事とはいえ、とんだ御無礼を!』


ザック:『いや、良いよ。王都までマリエリアさんを宜しくな。』


護衛の少女は深々と礼をしてマリエリアの後を追った。


屋敷に戻るとメルがトレーラーを洗っていた。


メル:『ザック様、戻られたんですね。』


ザック:『悪いね、洗車なんかさせちゃって。』


メル:『いいえ、これだけ豪華な物ですから、お手入れしないと勿体無いですよ。』


確かに旅で砂ぼこりを結構被っていたので、それなりに汚れてはいた。


ザック:『向こうの世界でもそうだけど、ついつい後回しになっちゃうんだよなぁ。』


メル:『向こうの世界ではどんな乗り物に乗って居られたんですか?』


ザック:『スクーターって言う車輪が2個の乗り物だよ。速度は遅いし法律で2人乗り禁止だったから、仕事の通勤やちょっとした買い物にしか使えなかったけどね。』


メル:『え?車輪が2個しか無くても乗れるもんなんですか?なんか不安定な気がするんですけど・・・。』


ザック:『一定の速度さえ出れば2輪でも安定するんだよ。スクーターは難しいとしても、自転車ならこっちでも簡単に作れるんじゃないかな?』


メル:『自転車とはどんな物なんです?』


ザック:『足でこいで乗る乗り物だよ。スクーターと同じ2輪の物と3輪の物が有るんだ。重たい荷物は無理だし坂道の登りでは押して歩かないと無理だけどね・・・って、ん?まてよ?3輪かぁ。荷物が積めて安定して乗れて、しかもあまり場所を取らない。向こうのと違って自由に設計出来るから、少し構造を見直して・・・作るか。』


メル:『え?作るんですか!?』


ザック:『うん、うちのモービィみたいに前に2個の車輪がある設計なら、思ったより結構簡単に作れるんじゃないかな?』


メル:『凄いですねぇ、それって誰でも乗れる物なんですか?』


ザック:『少し練習すれば誰でも乗れるよ。別に魔力とかが必要な訳じゃ無いからね。でも問題もあるんだよなぁ。』


メル:『どんな問題なんです?』


ザック:『先ずは車輪かな、モービィの車輪だと太いし外径が小さいから、細くて径が大きい物を専用で作らなきゃならない。次に動力を伝える部分。こっちの世界のチェーンは大きいのしか無いから、シャフトとギアで駆動出来る様にしなきゃだし・・・。』



そんな話をしているとリアスがニコニコしながら話に交ざって来た。



リアス:『それなら、いっそペダルをラチェット機構にして、駆動シャフトにベアリング噛ませれば動力のロスを最小限に抑えられますよ。』


ザック:『それは分かってるんだけど、問題はシャフトとギアの制度なんだよ。北方の工場に特注して毎回取り寄せる訳にもいかないだろ?』


リアス:『そんなの私が自動旋盤作れば済む話じゃないですか?』


ザック:『え?・・・そんなの作れるの?』


リアス:『私を誰だと思ってるんですか!?ただの技術屋じゃ無いんですよ!?』


ザック:『いやいやいや、金属加工や装置の設計まで出来るなんて聞いて無いし、自動旋盤がこっちの世界に有るなんて知らなかったし!』


リアス:『材料さえ有れば大型の装置の設計だって出来ますよ。それに考えてもみて下さいよ、モービィだって大小のシャフトやギアを大量に使ってるんですよ?作業用のモービィに至っては左右回転制御機構付きの4輪なんですから。そんなの手作業での鍛治仕事なんかで作れる筈無いじゃないですか。』


ザック:『言われてみればその通りだな・・・待てよ?て事は変速機も有るのか?』


ザック:(それにこの世界は中世の文化しか無いって神様も言ってたからなぁ。)


リアス:『有るに決まってるじゃないですか。北方大陸の技術工場は技術開発の最先端なんですよ?ザック様のモービィは魔導装置の動力をそのまま後輪にシャフトで駆動させるシンプルな機構ですが、ほとんどのモービィは低い魔力でも速度が出せる様に変速機が付いてるんです。』


ザック:『じゃあ何で俺のは変速機が無いのかな?』


リアス:『それは多分ザック様の魔力が人一倍強いから、それに合わせているんですね。あのモービィは乗り手が出した魔力量によって最高速が変わる設計なので、変速機を使わずにシャフトの径を太くして強度を優先してあるんです。』


ザック:『別に魔力が強いからって壊れやすいって訳でも無いだろうに・・・。』


リアス:『いやいや、壊れやすいですよ?特にザック様の魔力で普通のモービィに乗ったら、相当魔力をセーブしないと直ぐにシャフトが折れますね。』


ザック:『・・・マジですか。』


リアス:『ところでさっきの自転車の話ですが、こっちの世界には無い発想の乗り物なので興味深いですね。人の体力頼みの乗り物っていうのは見た事がありません。』


ザック:『まぁ馬車が有れば事足りるもんなぁ、でもちょっとした買い物や近場への移動には便利だよ?いちいち借りに行く手間も無いし、そんなに場所も取らないから自分で保管も出来るし。』


リアス:『面白そうですね、ならその仕事やらせて貰えませんか?』


ザック:『よし、良いだろう。大まかな設計は俺がやるから、技術的な部分の設計と製造はリアスに任せるよ。勿論リアスのオリジナルも作って良いぞ。』


リアス:『じゃあ工房を早く完成させなきゃですよね!よっしゃ!気合い入って来たー!』


メル:『ザック様、さっきの話、私には内容が解りませんでしたが、この手の話をするとリアスさんのテンション凄いですよね?』


ザック:『そりゃ自称開発者・・・だからな・・・。』


リアス:『もっとも最近じゃ建築家みたいになってますけどね・・・。』


リアスがガックリと肩を落としながらポツリと呟くと、2人が苦笑いした。



トレーラーの洗車を終えて屋敷に入ると、サリーが食堂から出て来た。



サリー:『ザック様、少しお話が有るのですが宜しいですか?』


ザック:『何だい?』


サリー:『実は近い内に王都に連れて行って頂きたいのですが・・・。』


ザック:『良いけど王都に用事でもあるの?』


サリー:『実は私の御師匠様に、一度無事を知らせたくて・・・。』


ザック:『今日はもうすぐ夕食時だし、明日行こうか。』


サリー:『宜しいのですか?明日は確かシェルバールに行かれる御予定ですよね?』


ザック:『もしかしてずっと気にしていたんじゃないのか?』


サリー:『・・・私が奴隷に落とされたあの日、御師匠様は最後まで私を助けようと前の主を説得しておりました。私がザック様に助けられ、こうして身に余るほどの生活を送れている事をどうしても伝えたくて・・・。』


ザック:『解った。明日の午後に王都へ行こう。』



翌日、シェルバールから最後の仕入れを終えた後、ザックはサリーと王都へ向かった。

お読み頂き有り難う御座いました。

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