第3話 初討伐とパートナーと。
3話目です。
お読み頂き有り難うございます。
ふと目が覚めた。
まだ外は日が昇っていない。
まだ馴染んでいないベッドの上で、自分が生きているという実感を探るかの様に背伸びをする。
ザック:『起きよう。』
風呂場で顔を洗って服を着る。
9月とはいえ以前暮らしていた世界よりも暖かい。
窓の外を見れば遠方に討伐に行く冒険者のパーティーが歩いてる。
紅茶を飲んで目を覚まし階段を下りるとこんな時間からメリアが仕事をしていた。
ザック:『おはようメリアちゃん。』
メリア:『おはようございますザックさん。早いんですね。』
ザック:『ちょっとギルドにね。帰ったら朝食を頂くよ。』
メリア:『あまり遅くならないで下さいね。』
ムーランを出て表通りを歩くとチラホラと人が歩いている。
その時一台の荷馬車とすれ違った。
(今操馬手がニヤッと笑った気がしたが・・・気のせいか?)
冒険者ギルドは既に開いていた。
そこにはこれから討伐に行くであろうパーティーが何組か打ち合わせをしている。
ザック:『あのう、パーティー募集の掲示板ってこっちですか?』
シルビア:『あ、ザックさん・・・でしたっけ?昨日はどうも、受付のシルビアと言います。はい、掲示板はそちらですが、基本的にはシルバーランクの募集がメインですよ?』
ザック:『ザックです、宜しく。そうですか・・・一応見てみますね。』
パーティー募集の掲示板見る。
ザック:(やはりほとんどがシルバーランク以上か・・・てことはやはり自分でパーティーを作るか奴隷を買うしかないかな?)
奴隷をパーティーに入れるのは別に珍しい事では無い。
戦闘能力が高い獣人属や弓を操るエルフの奴隷をパーティーに入れてる冒険者はむしろ多いほどだ。
中には主と奴隷のみのパーティーもあるが、性処理のみを目的に奴隷を買って討伐中に捨てて来る外道も居る様だ。
ザック:『どうしたもんかなぁ・・・。』
後ろから視線を感じた気がしたので振り向くと、一人の女の子がモジモジしながらこっちを見ていた。
ザック:『何か・・・用かな?』
その女の子は綺麗な金髪に特徴的な横に伸びた耳を持つエルフ属の娘だった。
女の子:『あ、あのう・・・・パーティーをさがしてるの?』
恥ずかしそうに話し掛けて来た。
ザック:『うん、でも募集に出てるのがシルバー以上がほとんどなんだよね。でも俺はブロンズたからさぁ・・・。』
女の子:『私もパーティーを探してたんだけど・・・その、私もブロンズで・・・。』
ザック:(なるほど・・・この子も同じか。・・・なら・・・。)
ザック:『もし良かったらなんだけど、俺とパーティー組んで貰えないかな?』
女の子:『え!?私で良いの!?』
ザック:『うん、君は弓士?魔法使い?』
女の子:『私は弓士で風属性の魔法も使えるの。』
ザック:『そっか、俺はザック。一応魔法剣士・・・になるのかな?よろしくね。』
アン:『私はアン。よ、よろしく。』
アンはアーデンから遥か東にあるエルフ属の村の出身で、年齢はまだ15才とエルフ属の中ではかなり若い。
ザック:『アンはどうしてこの町に?』
アン:『私は村より便利だからって言うのもあるんだけど・・・町って村じゃ食べられない美味しい料理とか多いし・・・。』
(私緊張して変な事言っちゃった!)
ザック:(あ、真っ赤になってる。でもそうだよなぁ、種族単一の村だと掟やしきたりとかも厳しいだろうし。)
ザック:『アンはこの町に来てからどの位になるの?』
アン:『丁度一月。早く仕事を見つけなきゃって焦ってたのよね・・・。』
ザック:『じゃあ今から腕馴らしに二人で討伐行ってみる?』
(俺も神様から貰ったお金ばっかりあてに出来ないしな。)
アン:『え?今から?二人で?森には中級の魔物も出てるって話よ?』
(さすがに二人だと不安だなぁ。)
ザック:『多分大丈夫だと思うよ?』
ザックは自分のギルドカードをアンに見せた。
アン:『ちょ、ちょっと!?これってノワール!?さっきブロンズって言ってなかった!?』
ザック:『ランクはブロンズなんだけど、適性がノワールみたいなんだ。回復魔法も使えるし、大規模魔法も使えるから、数が多くても何とかなるんじゃないかな?』
(見せるの不味かったかな?でもパーティー組んでくれるならどのみち隠せる訳無いもんなぁ。)
アン:(この人何者!?確かにオーバースキルの人はカードの色が違うって話は聞いた事あるけど・・・。)
ザック:『で、どうかな?一緒にパーティー組んで貰える?』
アン:『・・・っ!い、いいわ、組みましょ。それで?何処に行くの?』
ザック:『これから手始めにギルド依頼にあった町周辺の魔物討伐をやってみようと思うんだ。』
アン:『報酬は低級の魔物10匹につき2.200ジルかぁ、結構な労力になりそうね?』
ザック:『兎に角お互いの腕を見る為に草原に出てみようよ。』
二人はギルドに討伐を申し込んでパーティー登録をしてから東門に向かい平原に出た。
しばらく歩くと大きなウサギの魔物が現れた。
ザック:『あれが【ホーンラビット】か、低級と言っても結構大きいんだな。』
アンが弓で牽制するとホーンラビットはこちらに向かって来た。
アン:『来るわよ!』
ザックは魔力をかなり抑えてファイアボールを放った。
火の玉が飛んで行き、ドーン!という炸裂音と共に炎が拡散され、一発でホーンラビットを倒してしまった。
ザック:『やっぱり魔力をセーブしても強すぎるかなぁ。』
アン:『えっ!?今のって威力抑えてたの!?』
(嘘でしょ!?私が見た事あるファイアボールの中でも、かなり強力な方なのに・・・。)
アンが呆れた様に目を丸くしていた。
ザック:『うん、本当はアンの弓の腕を見せて貰おうと思ってね、魔物を足止めしたかったんだけどね』
頭をかきながらそう言うザックにアンは笑っていた。
その後数種の低級の魔物を20匹ほど倒すと空が明るくなってきた。
ザック:『日が出て来たから町に戻ろう。』
アン:『お腹も減ったしね。』
その後アンと一端別れてムーランに戻った。
ザック:『メリアちゃん、ただいま』
メリア:『ザックさんおかえり、朝食もういいですよ。』
洗面所で手と顔を洗い食堂に行くと、ボルトが朝食を食べていた。
ザック:『おはようボルト。』
ボルト:『やぁ、おはようザック。何処かに行って来たのか?』
ザックはアーマーと剣を着けたままだった。
ザック:『町周辺の魔物を討伐してたんだよ。』
ボルト:『昨日の今日で討伐かぁ。まさか1人じゃ無いよな?』
ザック:『ギルドでエルフの娘とパーティー組んだんだ。弓士なんだけど、結構な腕前だったよ。』
ボルト:『そりゃ良かったな、駆け出しの冒険者はパーティーを組むのに苦労するって言うから。』
ザック:『パーティー募集の掲示板を見たんだけど、ほとんどがシルバーランク以上だったんだよ。そしたらたまたま俺と同じ様にパーティーを探してた子と会えたんだ。』
ボルト:『その子もブロンズかい?』
ザック:『そう、だから二人でパーティーを組んだんだ。』
ボルト:『う~ん・・・ザック、シルバーかゴールドランクを1人パーティーに入れた方が良いぞ?』
ザック:『それはより良いクエストが受けられるって事?』
ボルト:『いや、それも有るけど、万が一の時に上位ランクの冒険者が居ると安心なんだよ。お前の相方は確かエルフだったよな?エルフはその容姿や肉体的に年をとりにくい事から盗賊や闇の奴隷商人に狙われやすい。高ランクの冒険者が居るパーティーだと狙われ難い利点があるんだよ。』
ザック:『闇の奴隷商人?』
ボルト:『あまり大きな声では言えないんだが、最近正規ルート以外から奴隷が出回っているんだ。そのほとんどが誘拐された少女達で、本来商人ギルドからしか出回る事が無いはずの【奴隷の首輪】が闇の奴隷商人の元に渡っているらしい。強制的に首輪を着けられて、姓奴隷としてオークションに出されているって話だ。』
ザック:『つまりあの子も誘拐される危険があるって事!?』
ボルト:『その危険は十分にあるって事だ。一応気を付けてやった方が良いぞ。』
ザック:『分かった。俺も出来るだけ彼女には気を配る様にするよ。』
(まぁ中世ならあり得ない話では無いな・・・でも俺の力が有ればアンを救ってやれるかも知れない。一応彼女の事は気を付けてやらないと・・・。)
朝食を食べ終えて町の中央広場に向かう。
この町は中央広場を起点に東西南北にメイン通りがある。
昨日サリアと会う約束をしたので待ち合わせ場所に向かった。
サリア:『ザックさ~ん!』
サリアが手を振っている。
ザック:『サリアおはよう、少し遅かったかな?』
サリア:『そんな事ありませんよ。それより紅茶でも飲みに行きませんか?』
ザック:『うん、行こうか。』
サリアは商人ギルドで事務の仕事に就いたそうだ。
仕事は昼から日没までらしい。
サリア:『ザックさんは冒険者さんですよね?』
ザック:『うん、なりたてだけどね。討伐も今朝初めてやったから本当の駆け出しだよ。』
サリア:『実は私も本当は冒険者になりたかったんですよ。でも剣や弓を使った事も無いし、魔法も治療魔法が少し使えるだけなので・・・。』
ザック:『もしかしてサリアはそれを気にしてる?人には向き不向きもあるけど、自分が得意な事や出来る事を仕事に生かして頑張れば、自分に自信が着くんじゃないかな?』
サリア:『私、元々村の教会で仕事をしていたんです。教会のシスターから神職の仕事を勧められたんですけど、もっと外の世界を見てみたくてこの町に来たんです。旅の途中で女性冒険者の方に色々助けて頂いて、冒険者に憧れる様になったんです。』
ザック:『冒険者の仕事は結構体力勝負だからねぇ。サリアが冒険者になりたいなら、まずは体を鍛える事から始めた方が良いかな?それと神職に着きながら冒険者をするって方法もあるよ?』
サリア:『えっ!?神職でも冒険者になれるんですか?』
ザック:『神職だからって必ず教会に勤めなきゃならないって事は無いしね。長期の討伐とかになると神職の魔法力は貴重だからね。』
サリア:『・・・ザックさん、私今の仕事である程度稼いだら神職になろうと思います。神職として経験を積んで、私の魔力が強くなったらザックさんのパーティーに入れて貰えますか?』
ザック:『まぁ神職になっても魔力がそんなに早く上がる訳じゃ無いから、焦らずに頑張ると良いよ。』
サリアは自分の進む道を決めて、何かを覚悟した様に目を輝かせていた。
二人は昼食を食べた後に別れ、ザックはアンと合流して午後の討伐に向かった。
アン:『ねぇ、やっぱり森には行くの?』
アンが不安そうな顔で聞いて来た。
ザック:『森には入らないけど今回は森の近くで討伐しようと思うんだ。』
(森に入ったら盗賊と出会す可能性が有るからな・・・。)
アン:『でもさすがに中級の魔物はキツいんじゃない?』
ザック:『中級が一匹1.200ジルだから結構稼げると思うんだ。』
アン:『えっ?本気で中級とも戦うつもり!?戦った事あるの!?』
ザック:『無いけどさっきのホーンラビットって低級の魔物なら、初級の火炎系魔法で一発だったろ?もしかすると俺の魔法だと中級ぐらいが丁度良い気がするんだよ。』
アン:『でも私は朝のが初討伐だったのよ?中級になったら弓だって通用するか分からないじゃない。』
ザック:『俺だって今朝が初討伐だよ。だからこそ俺が前衛に出るんじゃないか。朝の討伐では魔法主体の攻撃だったから、剣を使って魔物を足止めしながら倒すんだよ。』
(正直剣のスキルも最大値になってるから中級の魔物にはオーバースキルだと思うけど・・・。)
アン:『でもそんな接近戦して大丈夫なの?』
ザック:『無理はしないよ。剣で駄目な様ならすぐ後退して魔法に切り替えるし。』
森の近くまでは低級の魔物を討伐しながら進んだ。
アン:『ザック!あれ見て!』
アンが指差す方を見るとコボルトが森から出て来た。
コボルトは牛と虎を合わせた様な魔物で、中級の中でも攻撃力が高い。
ザック:『アン、弓で牽制してくれ。俺はアイツの側面から斬りつけるから。』
アン:『わかった、気を付けてね。』
ザックが走り出すとアンが弓で牽制する。
コボルトがこちらに走り出した。
ザック:『アン!場所を移動して援護してくれ!』
ザックがコボルトの側面から斬り込むと、コボルトはこちらに向き直る。
すかさずアンが援護射撃をするとコボルトの注意を反らした。
その瞬間ザックがコボルトの脇腹に剣を突き刺す。
その痛みからか、コボルトはザックをはね除ける様に距離を取ると、アンが風魔法で更にダメージを与える。
コボルトが気を反らした所を見計らってザックがコボルトの首元に剣を突き刺すと、コボルトは叫びながらその場に倒れた。
念のために目に剣を突き刺すが、反応は無かった。
ザック:『アン!やったぞ!』
アンが駆け寄ると恐る恐る倒した魔物を見た。
ザック:『さて、討伐部位を取らなきゃな。』
ナイフを出して討伐部位を切ると魔物が煙の様に消えた。
アン:『ねぇ、それ、もしかしてドロップアイテムじゃない?』
ふと見るとコボルトが消えた場所に牙の様な物があった。
ザック:『おぉ!やったな!』
アン:『私、初めて見た!』
ザック:『さて、これからどうする?』
何だかんだで低級だけでも30匹近く倒している。
ザック:(あまり長い時間森の近くに居ると複数の魔物に襲われる可能性もあるな・・・。)
アン:『ここから町まで結構時間掛かるし戻りましょうか?』
その後も低級の魔物を倒しながら町へ戻った。
ザック:『結局ドロップアイテムはこれだけかぁ。』
ザックは不満そうにコボルトのドロップアイテムを見る。
アン:『それにしてもザックの剣術凄いわね?何処かで習ったの?』
ザック:『いや、我流だよ。攻撃・回避・防御のバランスを考えたら自然にあんな感じになったんだ。』
アン:『そうなんだ?でもとても今日初めて討伐した人の剣さばきには見えなかったわよ。』
ザック:(出来れば詮索されたく無いなぁ・・・。)
そこうしてる内にギルドに着いた。
シルビア:『ザックさん、パーティーを組まれたそうですね?』
シルビアがにこやかに声をかける。
ザック:『うん、この子はアン、同じブロンズの弓士だよ。今日は二人で朝から初討伐をしたんだ。』
シルビア:『アンさんやっとパーティーになれたんですね。ザックさんなら良いパートナーになれると思いますよ。』
ザック:『ところでシルビアさん、討伐の鑑定お願いしたいんですけど。』
シルビア:『えっ!?何ですかこの数は!?こんなに倒したんですか!?』
シルビアは並べられた討伐部位の数に驚く。
今日初めて討伐を始めた冒険者とは思到底えない数だった。
ザック:『あと、コボルトを倒した時のドロップアイテムもあるんですけど・・・これです。』
シルビア:『コボルト!?討伐初日でコボルトを倒したんですか!?』
ザックのステータスを知っているシルビアでも驚いた。
どれほど高いステータスでも、討伐初日に中級の魔物と戦う冒険者は普通居ないからだ。
シルビア:『取り敢えず数が多過ぎるので、奥で鑑定して来ますのでしばらくお待ち下さい。』
シルビアが鑑定の為に席を立った。
アン:『ねぇ、やっぱり初日に中級を討伐したのはまずかったんじゃない?』
アンが気まづそうに言った。
ザック:『そうかな?でもそこまで危険じゃ無かったでしょ?』
アン:『たまたま一匹だけだったし、連携が上手くいっただけよ。』
ザック:(アンは結構不安だったんだろうな。しばらくは草原で連携の練習をしよう。)
奥からシルビアが戻って来た。
シルビア:『お待たせしました。今回の討伐報酬は低級50に中級1で12.200ジルと、ドロップアイテムの値段は1.000ジルになります。全て換金なさいますか?』
ザック:『お願いします。取り分は折半にして下さい。』
アン:『え?良いの?』
ザック:『何で?二人で討伐したから折半で良いじゃん。』
アン:『だってパーティーリーダーはザックでしょ?普通はリーダーが多く取るんじゃないの?』
ザック:『でも二人で討伐したのに俺だけ多くは貰えないよ。アンが居なかったらこんなに倒せなかったんだし。』
アン:『・・・有り難う。ねぇ、その・・・正式に私とパーティー組んでもらって良いかな?』
ザック:『ん?だってパーティー登録したよね?』
アン:『これからもずっと一緒にパーティー組んで貰いたいなぁ・・・って思って・・・。』
ザック:(そうか、アンは今日のが即席パーティーだと思ってたのか。)
ザック:『もちろんだよ。』
シルビア:『それでは折半にしてよろしいですか?』
ザック:『はい、お願いします。』
ギルドを後にして、二人でカフェで紅茶を飲む。
アン:『ところでザックは何処に住んでるの?』
ザック:『ムーランって宿屋だよ。』
アン:『ふぅ~ん・・・決めた!私もムーランに移る!』
ザック:『え!?どうして?』
アン:『これからずっと一緒にパーティー組むのに、別々の宿に住むのはおかしいじゃない?それに同じ宿に住んでれば打ち合わせとかも楽になるし。』
ザック:『なるほど一理あるね。』
アン:『じゃあ私帰ってから荷物まとめてムーランに行くから先に帰ってて。』
アンはそう告げると走って行ってしまった。
ザック:『え!?ちょ、ちょっと!?アン!?』
(・・・行動力あるなぁ・・・。)
ムーランに戻るとメリアが迎えてくれた。
メリア:『ザックさんお帰りなさい。ザックさんにお客様が来てますよ?食堂にいらっしゃるので。』
ザック:『客?誰かな?有り難う。』
食堂に行くとギルド長のカリンさんが来ていた。
ザック:『カリンさん!?』
カリン:『ザックさん、突然すいません。』
ザック:『どうしたんです?』
カリン:『こちらのメリアさんにザックさんがここに泊まっていらっしゃると聞いて。今日は相談があって来たんです。』
ザック:『相談・・・ですか?』
カリン:『貴方がアンさんとパーティーを組まれたと聞いたので、我々がアンさんに危惧している事をお話しようと思ったんですよ。』
ザック:『・・・もしかして闇の奴隷商人に関するお話ですか?』
カリン:『っ!?何故その事を!?』
カリンは驚きを隠せなかった。
冒険者ギルド内では出来るだけ伏せていた話題だったからだ。
ザックはボルトから聞いた内容に関して、獣人やエルフ等の亜人種が危険な状況にある事を十分に理解していた。
ザック:『実はとある知り合いからその話を聞きました。すでにアンとパーティーを組んだ後だったので、他人事には思えなかったんです。カリンさんがアンの名前を出して、お願いがあるという事はそういう事なのかと思ったんです。』
ザックは詳細を語らなかった。
詳細を知っているとなれば、自分も監視対象になりかねないからだ。
カリン:『・・・今アンさんのパートナーが貴方で本当に良かったと思いました。冒険者ギルドとしても、この問題は重くとらえています。この町では亜人種の冒険者が少ないのですが、王国から派遣された兵士からも若い亜人種の冒険者にはソロ討伐をさせない様にとの指示を受けておりますので。』
ザック:『実はこれからアンとはずっとパーティーとしてやっていく予定です。あと、この後アンがこの宿屋に移って来るって言ってましたから、討伐以外の時間も行動を共にする事が増えると思います。』
カリン:『あら~?今日初めて会ったばかりにしては随分進展が早いんじゃないですか?ザックさん?』
ザック:『あ、いや、別に変な関係では無いですよ!・・・でも、これで少しは危険を回避出来るとは思います。』
カリン:(いくらパーティーを組んだからって、今日初めて会ったのにわざわざ他の宿屋から移って来る女の子なんて居ないわよ?ザックさん。)
含み笑いをしながらカリンは席を立った。
カリン:『ま、何はともあれ、ザックさんが側にいて下さるなら取り敢えず大丈夫そうですね。では私はギルドに戻りますね。』
ザック:『わざわざ有り難うございます。』
カリン:『あっ!そういえばザックさん、新しい規定が出来て、登録から一定期間内の冒険者は三名以上のパーティーじゃないと森には入れなくなったので、森へは行かないで下さいね。』
カリンはそう言うと宿屋から出て行った。
しばらくすると受付カウンターからメリアに呼ばれた。
メリア:『ザックさん!この方がザックさんと同じ部屋に泊まると言ってるんですが・・・。』
ザック:『アン!?』
アン:『来たよ~♪』
ザック:『いや、ちょっと待てよ!俺と同じ部屋に泊まるとか正気か!?』
アン:『え?駄目なの?』
ザック:『いや駄目って言うか、ほら、年頃の女の子が男と同じ部屋に泊まると色々と・・・ねぇ?』
アン:『それって私の事・・・1人の女性として意識・・・してくれてるって・・・事?』
ザック:『いや、まぁ・・・そうだけどさ。』
(アンは何言ってんだ!?まさか・・・でも・・・。)
アン:(どどどどどうしよう!?私なんかとんでも無い事言っちゃってた!?って言うかザックが私を1人の女性として・・・ならいっそ・・・。)
アン:『それなら私を・・・ザックの彼女にしてくれても・・良いよ?』
≪えぇ~!?≫
ザック:(おい!何言い出してんだよアン!?)
メリア:(このお客さんなんなの!?ザックさんとどういう関係!?)
アン:(言っちゃった!言っちゃった!言っちゃった!言っちゃった!どうしよう~!?)
ザック:『落ち着いてアン、どうしても同じ部屋じゃないと駄目?さすがに宿屋にも迷惑だと思うんだけど・・・。』
アン:『・・・そう・・・だよね・・・。』
メリア:『あ、あの~、一応ザックさんの隣の部屋ならご用意出来ますんで。』
アン:『・・・じゃあそれでお願いします。』
その後二人で一緒に夕食を取り、夜更けまでザックの部屋で語り合った。
まだ使徒らしい事を何もしていない主人公。
何かハーレム路線になりそうな気がする。




