第28話 浴場と食堂と。
お読み頂き有り難う御座います。
第28話です。
シェルバールを出発したザック達は、一路アーデンを目指して旅をしていた。
ザック:『今日はこの辺までにするか?』
アン:『ねぇザック、明日は移動をお休みするのよね?』
ザック:『あぁ、浴場が完成したそうだからな。』
リアスが手掛けていた浴場が今日完成するという話を聞いたので、今晩は全員で屋敷に戻る事になっていた。
ザック:『モービィとトレーラーは魔法でロックするから盗まれる心配は無いけど、一応元盗賊の子を2人監視に連れて来るぞ。』
アン:『その方が良いわね。イタズラとかされるの嫌だし。』
ザック達は屋敷に転移した。
ザック:『エラとレイジーをモービィの監視に連れて行って良いかな?』
フェルテに2人をモービィの監視に使いたい旨を伝えるとあっさり了承してくれた。
フェルテ:『はい、今屋敷の仕事はそれほど忙しくも無いですし、宿屋の親子の面倒は我々でも十分ですからね。』
宿屋の親子がやっている修行は予定より時間を掛けて行っている。
双方の宿屋の連携を考え、互いを助け合える様に指導をしているのだ。
リアス:『ザック様、その者達に持たせたい物が有るのですが?』
リアスが箱型の物を持って来た。
ザック:『これって・・・無線機か?』
リアス:『よく御存知ですね?正確には魔信機と言いますが、上空にある魔力層を使って遠くと会話をする為の物です。以前ザック様と行った店に壊れた物が有ったので買っておいたんですよ。』
ザック:『それをリアスが修理した訳か。それでどの位飛ぶんだ?』
リアス:『今朝完成したんですが、出力は500ベクセルなので大陸全土を賄えると思います。魔力層が厚くなる時期なら帝国まで届くと思いますよ?』
ザック:(て事はCBトランシーバーみたいなもんか。恐らく通信距離も少し少ないか同じ位かな?)
ザック:『一応向こうとこっちで通信してみよう。片方は リアスが持っててくれ。』
そう言ってザック達はトレーラーに転移した。
エラ:『主様、これでお屋敷とお話し出来るんですか?』
エラが首を傾げて聞いて来た。
ザック:『このスイッチ入れてここを押しながら話すんだよ。』
エラ:『こことここですね?』
ザック:『そうそう、じゃあ試しに使ってみるよ?え~こちらはザック、リアス取れるかい?』
リアス:『こちらリアス、感度レベル5で受信しています、どうぞ。』
ザック:『こちらも同じく感度レベル5、これより屋敷に戻ります、どうぞ。』
レイジー:『凄いですね!』
エラ:『本当に交信出来るんですね!』
ザック:『それじゃあトレーラーは自由に使ってくれ、何か有ったらこれで連絡ね。』
エラ:『畏まりました!』
レイジー:『ゆっくり休まれて下さい!』
ザックが屋敷に転移するとリアスが得意気な顔で立っていた。
リアス:『どうですか?ちゃんと使えましたでしょ?』
ザック:『あぁ、よく直してくれたな。お陰で安心して此方に居られるよ。』
そう言ってザックがリアスの頭を撫でると、リアスは嬉しそうに微笑んだ。
この日の夕食は久々に屋敷の食堂でとる事にした。
料理を作ったのは宿屋の主人達である。
ジーナが監督し、料理の全てを宿屋の主人達が作ったのだ。
主人達が不安そうに見ている中、いつものメンバーで食事をする。
ザック:『うん、旨いじゃないか!たいしたもんだ!』
アン:『ホント美味しい!これなら宿屋のお客さんも喜ぶわ!』
メル:『良い味です、味の濃さも丁度良いし食感も良いですね。』
ローラ:『美味しいです!』
みんなの反応を見て宿屋の主人達はホッとした様だった。
ジーナが後でザックに話したのだが、どうやらこれが最終試験だったらしい。
食後リビングで寛いでいると、ジーナとフェルテが宿屋の親子達を連れて来た。
フェルテ:『ザック様、4名とも合格点に達しましたので、宿屋の方に戻したいのですが。』
ザック:『それなら俺から幾つか貴方達に言っておきたい事があります。現在双方の宿屋では15組ぐらいずつのお客様が宿泊されています。更に昼間も食堂を営業しておりますので、当面はこの状態を維持出来る様に頑張って下さい。魚介類の仕入れに関しては、漁業船社ランバルより特別に便宜を図って貰える様に交渉しましたので、必ずランバルさんから仕入れる様にお願いします。』
ムーンライト店主:『ザックさん、何から何まで有り難う御座います!』
モーニングスター店主:『2店で力を合わせて、きっとシェルバールでも指折りの宿屋にしてみせます。』
ネロ:『私達も精一杯頑張ります!』
リズ:『ここで教わった事を向こうでも活かせる様に努力します!』
ザック不在の間、ジーナとフェルテはとても熱心に教育していた様だった。
宿屋の4人も、ザックの立場(使徒以外の)を知って熱心に取り組んでいたらしい。
4人に紅茶とお菓子を振る舞い、ゆっくり休んだ所でシェルバールに戻った。
4人は自分達の宿屋が繁盛しているのを見てとても喜んでいたが、サリー達からの言葉で自分達がやって来た事に深く反省していた。
サリー:『私達が屋敷に戻った後も同じサービスを続けられますか?』
ムーンライト店主:『はい、お屋敷での修行はとても参考になりましたし、今後宿屋でも役立てて行こうと思います。』
ネロ:『私も皆さんのご好意を無駄にせぬ様にやって行ける様に努力します。』
ザック:『それじゃあサリー、屋敷に戻ろうか。』
サリー達を連れて屋敷に転移した。
サリー:『正直宿を離れるのが惜しくなりました。』
そう言って笑うサリーはどこか寂しそうに見えた。
元盗賊の2人も良い勉強になったと言っていた。
その後宿屋で働いていた4人に夕食をとらせ、全員を居間に集めた。
ザック:『明日は浴場の落成式だ。リアス、落成式が終わったら即オープンする予定だが、リアクターと水道の調整は済んでるのか?』
リアス:『はい、湯張りも循環システムも問題無いです。シャワーの開閉弁もザック様の希望通りにしてありますよ。』
ザック:『よし、食堂の方はどうなんだ?』
リアス:『食堂は洗い場を広く取って片付けをしやすく改良しました。ザック様の言ってた水のサーバーですが、水道から直接引っ張る仕様から間に氷魔法の冷媒を通して冷たい水が出る様にしておきましたよ。』
ザック:『凄いな、北方でもそんな仕組み有るのか?』
リアス:『いいえ?私のオリジナルですよ?北方と違ってアーデンは温暖なので、冷たい水が出ませんからね。湯上がりだと冷たい水を欲しがるお客様も居ると思いまして。』
ザック:(やはりリアスを買って正解だったな。他の技術者ならこうはいかないだろう。)
ザック:『有り難う、お客さんも喜ぶと思うよ。そのサーバーを浴場の脱衣場にも置けるかな?』
リアス:『工事は単純なので、営業中でも可能です。でも何故脱衣場に?』
ザック:『風呂上がりに果実水や水を飲みたがる人が多いだろうからね。』
(ま、向こうの世界ならコーヒー牛乳が定番だけど。』
リアス:『なるほど、では早速部品を手配します。』
そんなやり取りをしながら夜が更けて行った。
翌朝、いつの間に宣伝したのか、早くから裏の通りには町の住人や冒険者、宿屋に泊まっていた旅人等が集まっていた。
今日は落成記念として、1日無料で入れる様になっている。
落成式の支度は前日に終わっているし、始まるのは昼前だ。
ザック:『サリー、宿屋の切り盛りで疲れているだろ?今日はリアスとジーナに任せて少し楽したらどうだ?』
サリー:『そうですね、元々浴場と食堂はあの2人の担当ですし、少しだけ楽をさせて頂きます。』
そう言って微笑むサリーを見ると、普通の少女らしい感じに見えた。
普段サリー凛々しい顔を見ているが、時折少女らしい仕草を見せる事がある。
サリーは他の使用人達の纏め役という事もあり、少女らしい態度や仕草を見せる機会が少ない。
ザックは時々2人で外出してサリーの息抜きをさせる様にしていた。
ザック:(たまにはサリーにも息抜きが必要だもんな。)
ザック:『ところでアン達は?』
サリー:『皆さんはランバル様に送る野菜やハーブ等の仕入れの打ち合わせに行きましたよ?何でも早目に決めないと時期的に仕入れられない野菜が有るとかで。』
ザック:『そっか、俺が落成式とかで忙しいからって自分達でやってくれてるのか。悪い事したな。』
サリー:『皆さん楽しそうにしていらしたので良いんじゃないですか?』
ザック:『でも俺が独断で始めた事だしなぁ。』
サリー:『皆さんは嬉しいんですよ。ザック様が決めた事が形になって行く事が。』
ザックは知らず知らずのうちに、この世界で向こうの世界のシステムを導入しようとしている。
仲間達はそれを喜んでいるが、それを善しとしない者達もいるだろう。
サリーの言葉にザックは少し複雑な心境になっていた。
落成式の時間が近くなると、裏の通りがより賑やかになっていた。
リアスに連れられて浴場の裏から中に入る。
ザック:『おぉ!良い出来じゃないか!これなら結構な人数が一度に入れるよ。』
リアス:『混み合う時間帯は入場制限をもうけるので、待合ロビーも作ったんです。此処も受付から繋がっているので、果実水や紅茶の販売が出来るんですよ。』
北方の都会育ちのリアスはザックに近いセンスを持っている。
アーデンの様な田舎町には無い感覚を持っているので、ザックとしてはとても助かっていた。
落成式の時間になり、ザックが集まった人達の前で挨拶をする。
ザック:『本日は浴場の落成式にお集まり頂き有り難う御座います。此方の浴場は大衆浴場として、有料にはなりますが皆様に利用して頂き易い料金で入浴して頂ける施設にさせて頂きました。また食堂を併設しており、昼間の御食事の提供もさせて頂きます。本日より開業致しますのでどうぞご利用下さい。なお、浴場は落成記念として本日無料でご利用頂けます。』
ザックが話し終わると同時に大きな歓声が湧いた。
皆順番に浴場と食堂へ入って行く。
ジーナ達料理人は厨房で忙しく働いてる。
浴場は混雑してはいるが、皆順番を守って待合ロビーで寛いでいる。
受付ではサリー付きの元盗賊の頭クランが受付を行っていた。
ザック:『クラン、調子はどうだ?』
クラン:『ザック様!こんな仕事までさせて頂いて嬉しいです。元手下のペイルも脱衣場で張り切ってますよ。』
ザック:『そうか、お前達の頑張りでこの浴場を盛り立ててくれよ?ここの収入の大半はお前達の給金になるんだからな?』
そう言うとクランは嬉しそうに頷いた。
食堂は大盛況だ。
ふと見るとダイソンが食事を楽しんでいた。
ザック:『ダイソンさん、お昼ですか?』
ダイソン:『ザックさん!ここの料理美味しいですよ!ジーナちゃんが監修しただけあって、味付けや口当たりが良い!ですがザックさん、この味付けって・・・まさか。』
ザック:『はい、実はムーランの味に寄せてます。此処に来た旅人にもムーランを紹介する予定になってますんで。せめてもの恩返しみたいなものですよ。』
ザックの言葉にダイソンは深く感謝した。
このアーデンには宿屋が10軒ほどある。
その中でもムーランは料理に定評のある宿屋だが、風呂付きという事もあり料金は少し高めだ。
ほとんどの旅人は安い宿屋に泊まり、風呂は川で行水を行う人が多いのだ。
だが旅人は料理の味にうるさい事が多い。
ザックはそこに目をつけた。
料理の旨い宿屋を紹介する代わりに昼は此方で食べて貰おうという事だ。
旅人が冒険者なら長期滞在が望める。
となればムーランにもこの食堂にも良い利益になるのだ。
ザックは一通り視察を終えると一度屋敷に戻った。
居間にはアン達が戻っていた。
アン:『ザックお疲れ様。』
ザック:『そっちもね。それで成果はどうだい?』
アン:『明日の朝一に結構な数の野菜とハーブを回して貰える事になったわ。それをランバルさんに届ければ魚介類を此方に持って来れるでしょ?』
ザック:『そうだな、空いた時間にモービィを移動すれば良いかな?』
アン:『考えたんだけど、誰かに運転を教えて此処まで運んでもらったらどうかな?』
ザック:『運転かぁ・・・メル、確か魔法使えたよな?』
メル:『えぇ、一応火炎魔法と風魔法は使えます。』
ザック:『モービィの運転を覚えてくれないか?』
メル:『私で宜しいのですか?』
アン:『そうね、メルが適任だと思うわ。』
ザック:『魔法使いのローラの方が魔力は多いけど、それなりに周囲の動きに気を配りながら操作が出来る人の方が運転に向いてるんだ。その点ではメルの方が集中力が高いから運転手向きだと思うんだよ。』
ローラ:『私だと色んな物に目を奪われがちになるんで、メルさんの方が適任だと思います。』
メル:『そういう事でしたら是非。』
一度トレーラーへ転移して使用人達には屋敷に戻ってもらった。
ザック:『メル、まずは真ん中のペダルを踏む。そしたらこのツマミを奥に回して、このメーターが上がるのを確認してくれ。』
メル:『こうですか?』
ザック:『そう、そしたらこのレバーをこの位置に入れて、シート横のレバーを少しだけ引き上げたらボタンを押して下に下げる。それでペダルから足を離して右のペダルをゆっくり踏むんだ。』
メル:『う、動きました!』
ザック:『落ち着いて。止まる時はペダルから足を離して、また真ん中のペダルを静かに踏み込むんだ。』
メルがブレーキを踏むと静かにモービィは停止した。
ザック:『どうだ?結構単純だろ?モービィから降りる時はレバーをこの位置に入れてシート横のレバーを上に上げるんだ。で、このツマミを手前に回せば鍵が抜ける。』
メル:『なるほど・・・少しの間運転してみても良いですか?』
ザック:『あぁ、隣で見ててやるから自由に運転してみなよ。』
ザックは驚いていた。
少し説明しただけでメルはモービィを乗りこなしているのだ。
しかもトレーラー分の内輪差を考慮した運転をしている。
もっとも対向車も居なければ、ほとんど飛び出しも無い田舎道ではあるのだが。
ザック:『上手いよ。これならハンドルを任せられる。』
メル:『まだスピードを出すと怖いですけどね。』
ザック:『そんなに飛ばす必要は無いさ。急ぎの時は俺が運転するしね。それに女王陛下がモービィを国内に輸入したら、いずれは乗り方を覚えなきゃだろ?』
そうなのだ。
女王は帝国に特使を送った際にモービィの輸入を依頼し、帝国政府が受諾したそうなのだ。
いずれ近いうちにモービィが国内を走る事になるので、先に乗り方を覚えておいて損は無い。
しばらくメルが運転していると、リアスから無線が飛んで来た。
リアス:『ザック様、聞こえますか?』
ザック:『此方ザック、レベル5で受信中だ。』
リアス:『御屋敷に商人ギルドの方がお見えです。』
ザック:『了解、直ぐ戻るからさっきの2人を準備させてくれ。』
リアス:『了解です、以上。』
教習を一端終了して屋敷に戻った。
屋敷に来ていたのは商人ギルドで奴隷商を担当していたレイティアだった。
レイティア:『ザックさん、お久しぶりです。』
ザック:『レイティアさん、今日はどの様な用件で?』
レイティア:『実はシェルバールから魚介類を仕入れられるとお聞きして、御願いがあって参りました。』
ザック:『と言いますと?』
レイティア:『実はザックさんの噂を聞いたリースのギルドから、向こうの市場でも魚介類を取り扱いたいという事でして・・・。』
ザック:『なるほど・・・量的にはリースにまわす分も仕入れられるとは思いますが、その分向こうに卸す野菜やハーブの仕入れを増やす必要が有りますね。リースの特産品って何でしたっけ?』
レイティア:『リース近郊では酪農と養鶏が盛んですが、農産物となると小麦でしょうね。』
ザック:『小麦かぁ・・・向こうで小麦は西方大陸産が容易に手に入るので需要は少ないですね。野菜とかは無いですか?』
レイティア:『一応有りますが、根菜ですね。オルガノを栽培している農家は多いです。』
ザック:(つまりは玉葱か・・・まてよ?魚のカルパッチョってビネガーで和えた玉葱使うよな?)
ザック:『ではオルガノをメインに幾つかの野菜とミルクを仕入れられる様に手配して頂けませんか?その仕入れ分と魚介類を引き換えに、週1回お渡し出来ると思います。』
レイティア:『有り難う御座います!では早速リースのギルドと交渉させて頂きます!』
ザック:『あ、待って下さい!どうせならこれから一緒に行きましょう。』
レイティア:『えっ?どういう意味ですか?』
ザック:『転移魔法でこれからリースに行くんですよ。』
レイティア:『ザック様は転移魔法が使えたんですか!?』
ザック:『はい、元々転移魔法で魚介類を持って来ようとしてましたからね。だから鮮度は保証しますよ。』
レイティアとザックはリースの商人ギルドに転移した。
受付嬢:『いらっしゃいませ・・・ってレイティアさん?それにロードズ・ブレイブ!?』
ザック:『こんにちは。レイティアさんからお話を伺って交渉に来ました。』
受付嬢:『はぁ、でもレイティアさんにお話ししたのは今朝ですよ!?こんな早くどうやって!?』
ザック:『転移魔法で来させて頂きました。ではレイティアさん。』
レイティアはザックからの条件を話した。
リースのギルドは他にも特産品が有ると言って、ある物を持って来た。
受付嬢:『こちらは数ヶ月前から市場に出しているハニーシロップとマスタードです。』
ザック:『マスタードとハニーシロップか・・・イケるな。』
そう言うとザックは小皿にマスタードとハニーシロップを取り混ぜ合わせた。
ザック:『ハニーマスタードです。少しなめてみて下さい。』
レイティア:『んっ!!美味しい!こんな食べ方も有るんですね!?』
ザック:『調合の割合を教えますんで、これを製品にして下さい。肉に着けて食べると結構イケますよ。』
受付嬢:『では、これと野菜とで魚介類を?』
ザック:『えぇ、ハニーシロップ・マスタード・ハニーマスタード・野菜類。あと小麦が取れるって事は穀物のビネガーも有りますよね?』
受付嬢:『はい御座います。』
ザック:『ではオルガノのピクルスでも作りますか。ビネガーとワインを合わせてオルガノを数週間漬けるんです。』
受付嬢:『なるほど・・・やってみましょう。』
こうして新たな特産品と魚介類の交換交渉が成立した。
ちなみにこれ等の物流に関してザックへの利益はほとんど無い。
だが食堂の売り上げにも大きく影響する事でもあるので断る訳にもいかないのだ。
またこの特産品を食堂で利用する事も出来るというメリットもある。
屋敷に戻ったザックは早速ジーナの所へ行き、ハニーマスタードを試させた。
ジーナ:『ザック様の言う通り、確かに肉料理に合いそうですね。薄切りのロースト肉に試してみましょう。』
と言ってブロック肉をオーブンでローストし、薄切りにしてから、茹でてバターと岩塩を絡ませた野菜と共に皿へ盛り付けた。
最後にハニーマスタードと干し茸の微塵切りとオリーブ油を火に掛けた物をかければ出来上がりだ。
食べてみると肉の臭みやクセが無くなり、肉汁と混ざり合ってとても奥深い味わいとなった。
ジーナ:『これは良いですね。大量に入手出来る様になれば食堂のメニューに加えたいです。』
ザック:(下手な料理屋より豪華な料理だと思うのは俺だけか?)
ザック:『でもコスト的にどうなんだ?この料理じゃ安く提供出来ないだろ?』
ジーナ:『いいえ?そんなにコストは掛かって無いですよ?この肉で10人分以上はありますからね。値段次第では結構な利益が取れます。』
ジーナはきちんと利益計算をした上で作っていた。
ザック:『食堂に出す事を前提に作ってた訳か、大したものだな。これなら心配要らないな、製品化したら直ぐに入れるよ。』
ジーナ:『はい、宜しくお願いします。』
当然ながら夕食には同じ物が少し手を加えて並んだ。
他の使用人やパーティーメンバーにも好評で、我が家のメニューにも加わる事となった。
夕食後、皆で浴場へ行く事にした。
昼間以上に客入りが良く、来ていた旅人や冒険者は今後も利用してくれると言ってくれた。
こうして慌ただしい1日が終わった。
お読み頂き有り難う御座いました。




