第17話 帰還と二つ名と。
お読み頂き有り難う御座います。
第17話です。
王都から数日間、ザック達は盗賊に襲われる事も無く旅を続けた。
馬車を返さなければならない為、ワープで帰る事は出来ない。
宿屋に泊まる度にワープで屋敷に戻り、サリーには予定を伝えていた。
やっとランスの町を出発してその日の夕方にはイブに馬車を返せる。
イブに着いたらそのままワープで屋敷に戻る予定だったが、サリーが止めた方が良いと言うので徒歩でアーデンまで戻る事になった。
アン:『サリーはなんて言ってたの?』
ザック:『王都から使者が来て、明日アーデンの西門付近で帰還の催しをやるらしいんだ。だから今晩家に帰ると色々面倒な事になるらしいよ?』
アン:『あの女王陛下にも困ったもんねぇ。大事になっちゃったじゃない。』
メル:『あの女王陛下ならやりそうな事ですね・・・。』
ローラ:『私達長旅で結構疲れてるんですけどね・・・。』
ザック:『とりあえずは明日にして寝ようぜ?明日は嫌ってほど色んな人に話をしなきゃならないしな。』
翌朝早目にイブを発った。
街道を歩いていると、時折此方を振り返る旅人が結構居る事に気付く。
ザック:『時々視線を感じるなぁ・・・気のせいか?』
メル:『いいえ、確実に見られてますね。悪意を感じる訳では有りませんが、あまり気分の良いものではありませんね。』
アーデンの郊外まで来ると、その理由が明らかになった。
ザック:『おい!?そこまでするか!?』
アン:『さすがにアレはやり過ぎよね・・・。』
メル:『旅人がジロジロ見ていたのはこういう事だったんですね・・・。』
なんと兵士団と騎士による検問が行われて居たのである。
検問所ではアーデンに入る人も出る人も、厳しい検査を受けている様だった。
兵士:『おぉ!ザック殿!お帰りなさいませ!』
ザック:『あ、ど、どうも。』
ザック達は兵士団と共にアーデンの西門へ向かった。
西門の近くではちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
露店やら横断幕やら色々有ったが、元々この町には祭りがほとんど無い。
今回の事がよほど嬉しかったのか、結構な馬鹿騒ぎになっていた。
門を抜けると兵士団長と王都の騎士が待ち構えていた。
その場で祝辞を受け、冒険者ギルドへ通された。
ギルドの前ではカリンが待っており、そのまま執務室に通された。
カリン:『ザックさん、今回の一件について色々と御説明頂けますでしょうか。』
ザック:『今回の旅の経緯としては、パーティーで王都まで旅をするというのが元々の主旨でした。行く先々で出会った方々や襲ってきた盗賊などから闇の奴隷商人に関する話を聞き、その後シンクレア王女が一人で刺客から逃げていた所を保護しました。王女の話と今までの話を精査したところ、四大貴族の一人ロンゼウム伯爵の首謀により国家を乗っ取る為の策略と判明した為、王宮に赴いて事件を解決したというのが話の全てです。』
カリン:『つまり貴殿方はその一連の事件を解決し、王国の危機を救ったという事ですね?ザックさん、貴方は私に何か重要な事を隠していませんか?例え国家の危機を救ったとは言え、女王陛下自ら一冒険者にこれ程の恩情を賜ったという例は聞いた事がありません。それに情報の入手や王女様の保護などのタイミングがあまりにも良過ぎます。』
ザック:(やっぱ鋭いなぁ・・・こりゃそろそろ限界かもな。)
アンはザックに頷いた。
アンもこれ以上黙っているのは無理だと判断したのだろう。
ザック:『それではカリンさん、これから話す内容は例え親しい間柄の方にも他言無用に願います。』
ザックは総てを話した。
自分の正体を女王陛下に話した事も王都に行った本当の理由もだ。
カリン:『ザックさんが神の使徒・・・ですか。そういう事なら納得出来るというものです。貴方の異常なまでに高い能力・素早く事の真意を見分ける判断力や理解力・鋭い洞察力どれを取っても、高等な教育を受けて相当厳しい社会を経験した者で無ければ、貴方程の偉業は成し遂げられなかったでしょう。当然世界神様の恩恵もかなりあるのでしょうが、我々より進んだ社会での経験が無ければ説明のつかない事が山ほどあります。橋を作った時なんか正にそれです。』
ザック:『それで俺の扱いはどうなるんですかね?』
カリン:『王宮より貴殿方を本来与えられるべき正当な処遇をせよとの話が来ております。本来なら貴方をゴールドを飛び越えプラチナムに昇格させるところですが、貴方はそれを望まぬでしょう?』
ザック:『そうですね名誉騎士団となったからと言って、俺達は基本的には変わりませんし。でもギルド的にはこのままって訳にはいかなそうですよ・・・ね?』
カリン:『当然です。最高位勲章を賜った冒険者をシルバーで留めたとなれば、我がギルドがどれ程責められる事か・・・という訳で貴殿方2人をシルバーからゴールドに昇格させ、他のメンバーもシルバーに昇格します。そしてザックさん、貴方には二つ名を持って頂きます。』
カリンが悪戯な笑みを浮かべてそう言った。
ザック:『ゴールドに二つ名ですか・・・。まぁ及第点という所でしょうね。でもなんか既に二つ名は決めていた様な口振りですね?』
カリン:『やはり読まれてた様ですね。実は王宮から御話があった時から決めていました。貴方にはこれから【ロードズ・ブレイヴ】と名乗って頂きます。』
ザック:『カリンさん、俺は勇者じゃ無いですよ?』
カリン:『貴方は使徒かも知れませんが、貴方に救われた方々にとっては勇者そのもの。貴殿方が王国の救済者である事実は変わりません。しかも貴方は神に選ばれし者でしょう?』
アン:『諦めなさいザック、もう此処まで来たら使徒も勇者も変わらないわよ?』
ザック:『アンは俺を勇者にさせたいのか?』
アン:『あくまでも二つ名ってだけじゃない?まぁ二つ名で勇者と付く冒険者は世界の何処にも居ないけどね。』
カリン:『ロードと名の付く冒険者は過去に一人だけ存在して居ましたが、もう数百年も前の話です。二つ名には少なからず、その者の偉業を讃える名が付けられます。貴方の場合は王女の命と国家の危機を救った事から命名しました。これは異例な事だと思って下さいね。』
ザック:『なら別にガードナーオブキングダムとかでも良かったのでは?』
アン:『もう良いじゃない。諦めなさいよ。』
こうしてザックはゴールドランクとなり【ロードズブレイヴ】の二つ名を得た。
カリンに王都のギルド長からの伝言を伝えて執務室から出ると、ワルデンナイツのメンバーに守られながらギルドを出た。
ギルド内には一目ザックを見ようとアーデン内外から冒険者が押し寄せて居たのだ。
女冒険者:『あなたがザック君ね?』
声を掛けて来たのはアーデンギルドでザック達を除けば3人しか居ないゴールドランク冒険者の1人、女性剣士のエリオラだった。
ザック:『初めまして今回ゴールドランクになったザックです。此方は同じくゴールドランクになったアンです宜しく御願いします。』
エリオラ:『此方こそ宜しく頼むわ。うちのギルド初の二つ名持ちに挨拶ぐらいはしておこうと思ってね。』
カリンはザックに二つ名を贈るに当たり、他のゴールドランカーに相談をしていた。
何を隠そうこのエリオラがザックの二つ名の一部であるブレイヴという名をカリンに進言したのである。
ザック:『何か仰々しい名前を頂きまして・・・。これから色々と御世話になると思いますんで宜しく御願いします。』
エリオラ:『あなたのお陰でアーデンの知名度が一気に上がったのよ?しかも聞いた話では王都に留まるのを断ってまでアーデンに帰って来たんですってね?それならこれからもアーデンの広告塔になって貰わなければねぇ~♪』
エリオラはザックの肩を抱き、自分の胸を押し付けながら笑顔で言った。
他のみんながジト目で見る。
ローラは自分の胸をペタペタ触りながら呟いた。
ローラ:『お胸・・・。』
ギルドの前にはダイソンとメリアも来ていた。
2人は遠目から手を振っているだけだったが、2人共嬉しそうだった。
ワルデンナイツのメンバー達に屋敷の警備の礼を言い、騎士と兵士団と共に兵舎へ向かった。
騎士団長:『この度の王都での貴公等の功績により、この町に兵士局と騎士局が出来る事になりましてな。チーム・アポストロを騎士局の名簿に加える事になりました。』
ザック:『でも俺達は冒険者ギルドの所属ですよ?』
騎士団長:『あくまでも名誉騎士団であるチーム・アポストロの名を形式上入れておきたいだけですよ。実際にはギルドの管轄である事には変わりませんので。』
ザック:『そういう事でしたら構いませんよ。』
騎士団長:『それでは商人ギルドへご案内します。屋敷の手続きがありますので。』
商人ギルドに行くとサリアが出迎えてくれた。
サリア:『ザックさん、皆さん、お帰りなさい。』
ザック:『何か色々変な事になっちゃったね。』
サリア:『王宮は屋敷を正規の価格で購入して下さったので、ギルド的には有り難いです。それにあのお屋敷はザックさんにお似合いだと思いますよ。』
書類と手続きを済ませ、余計に支払っていた分の家賃を受け取るとようやく解放されたと思った・・・が。
ザック:『何でお前達が此処に居るんだ?』
リサ:『いやだなぁザック様の凱旋なら当然じゃないですか!』
エミリア:『王都の騎士団からザック様のお話を聞いたら、いてもたってもいられなくて!』
そう、リースに住んでいる2人組暴走娘の冒険者、リサとエミリアである。
リースに住んでからはメキメキ実力を着け、リースのギルドでは結構有名なコンビらしい。
ザック:『あぁ、有り難う。俺は疲れてるから、アン、あと任せた。』
アン:『ちょっとぉ!それは無いでしょー!?』
リサ:『御心配無く!私達はこの後すぐリースに帰りますので!お祭りも堪能出来ましたし!』
エミリア:『どうぞゆっくりお休みになって下さい!それでは!』
ザック:『なぁ・・・あいつ等・・・少し大人になったか?』
アン:『ちょっと・・・拍子抜けしたわね・・・。』
メル:『あの者達は何者なのですか?』
ローラ:『それほど悪い方々には見えませんでしたが。』
アン:『話すと長いのよ・・・。』
やっと屋敷まで戻って来た。
サリー『ザック様!』
サリーが駆け寄りザックに抱きつく。
ザック:『サリーとは時々会ってたじゃないか。』
玄関の扉が開き、フェルテとジーナもザックに抱きついた。
ザック:『みんな・・・ただいま。』
ジーナ:『ザック様ぁ、私が作った夕食、食べて頂けますかぁ?』
ジーナは抱きつきながら甘える様な口調で聞いて来た。
ザック:『もちろんだよ。ずっと楽しみにしてたんだから。』
他のみんなはその光景を温かい笑顔で見ていた。
食事の席で旅の話を沢山した。
サリー・ジーナ・フェルテの3人は自分達の主が国を救った事を使者から聞いていた様だが、詳細までは知らなかったらしい。
その席でザックは自分の正体をジーナとフェルテに明かした。
だが2人はさほど驚いた様子は無く、むしろ納得していた感じがした。
その事を聞くと、例えザックの正体が何者であったとしても、自分達にとっては最愛の主である事に代わり無いという返答であった。
旅の土産を3人に渡すと、とても喜んでいた。
そしてこの屋敷が持ち家になった事・ローラを解放した事・パーティーが名誉騎士団の称号を与えられた事・最高位勲章を全員が賜った事・ザックとアンがゴールドランクになった事やザックに二つ名が付いた事等を話すと、3人からは称賛の声が上がった。
ジーナ:『何か私達って、なんかとても凄い方の元に来てしまったみたいです・・・。』
サリー:『そうですね、王宮に自由に出入り出来る冒険者なんて、そうはいませんもの・・・。』
フェルテ:『これからはお客様が増える事を覚悟した方が良いかもですね・・・。』
ザック意外のメンバーは、疲れていた事もあって自室に戻った。
リビングにはザックと使用人の4人で寛いでいる。
ザックはスマホを出して【神託】の項目を開いた。
【期待以上の働きと、貴方の正義感溢れる行動に敬意を表し褒美の品を贈ります。今後の生活と冒険に役立てて下さい。サクラ】
ザック:『なぁサリー、もしかすると近いうちに荷物が届くかも知れない。』
サリー:『畏まりました。それとザック様、ワルデンナイツの皆様には会われましたか?』
ザック:『うん、ギルドで会ったよ?一応警備の礼は言っておいたけどね。』
サリー:『皆様はザック様の身を御案じになっておられました。そこで提案なのですが、屋敷で細やかなパーティーでもされて招待しては如何でしょうか?』
ザック『そうか・・・良いかも知れないな。なら知り合いをみんな招待するか。どうせ自分の持ち家になったんだしな。』
サリー:『では明日から早速準備に入らせて頂きます。』
ザック:『王都のクイーンズエレメントも招待しよう。折角同盟を結んだんだしな。』
こうして自宅に戻ったザック達は今後の事を色々考えながらそれぞれの夜を満喫していた。
お読み頂き有り難う御座いました。