第11話 サリーとローラと。
お読み頂き有り難う御座います。
第11話です。
ガタンッ!
静寂の中突然の物音に目が覚めた。
ザック:『何だぁ!?』
恐る恐る廊下に出ると、メルがしゃがんでこっちを見てた。
メル:『す、すいません・・・斧を落としちゃって・・・。』
ザック:『夜明け前にそんな物騒なモン持ってどうしたの?』
メル:『目が覚めたので、庭で練習してまして・・・。』
そう言うとメルは気まずそうにしていた。
ザック:(あぁ、そうか、昨日の事を気にして・・・。)
ザック:『あまり無理はするなよ。』
メル:『はい。』
部屋に戻って着替える。
身仕度が終わるとリビングへ向かった。
廊下でフェルテと朝の挨拶をしてリビングに入ると、珍しくジーナが仕事前に寛いでいた。
ジーナ:『おはようございます。』
ザック:『おはようジーナ、この時間にリビングに居るなんて珍しいね。』
ジーナ:『はい、今朝は仕込みが早く終わったんで少し休憩しようと思って。』
ザック:『まだ早いしゆっくりしてて良いよ。』
しばらくするとアンとメルがリビング来た。
頃合いを見計らう様に、ジーナは厨房へ戻る。
朝の仕事を終えたサリーとフェルテもリビングに入って来た。
メルが何かを思い出した様に聞いてきた。
メル:『ザック様、昨日旅に出るという話がありましたが、具体的にはどちらの方へ行かれるんですか?』
ザック:『まずはアンから希望があった王都には行くつもりだよ?その後は未定だけどね。』
メル:『王都ですか・・・。ザック様は最近王都で起こってる誘拐事件はご存知ですよね?』
ザック:『あぁ、こっちでの実行犯が捕まったから知ってるよ。』
メル:『その誘拐事件に王都の貴族が関わっているという噂はご存知ですか?』
ザック:『貴族が!?詳しく聞かせて貰えるか?』
メルの話によると家名までは解らないが王都の貴族が誘拐した女性を強制的に奴隷にして金を儲けているらしい。
商人ギルドに内通者がおり、【奴隷の首輪】を不当に入手している様だ。
奴隷の首輪は着けられた者の自由を奪う魔道具で、落とされた奴隷が奴隷商の手に渡るまで着けられる。
奴隷の首輪は商人ギルドが管理しており、月に一度管理書類が役場に提出されるそうだ。
実際奴隷商で奴隷紋を付けられると必要の無い物だが、各商人ギルドに返却される為、本来は数の誤魔化しは利かないはずだという。
ザック:(首輪の話はボルトから聞いていたが、貴族と商人ギルドが絡んでいるとなると厄介だな。)
ザック:『何故俺にその話を?』
メル:『これらから話す事は内密に願います。』
メルが話したのは、王都で白昼堂々誘拐が横行している事。
ギルド所属のネームパーティーが数名誘拐されている事。
その捜査が僅か2日で打ち切られた事だ。
ザック:『・・・分かった。だが証拠になる物が無い以上、今のところ手の打ち様が無い。他人には話さない方が良い。』
メル:『心得ております。』
ジーナが朝食が出来たというので食堂に集まる。
昨日もそうだったがメルはジーナの料理に大満足な様だ。
メル:『本当にジーナさんの料理美味しいですね。ムーランを除いて、今まで泊まった宿屋や食堂の料理とは別物ですよ。』
ジーナ:『そう言って貰えると凄く嬉しいです!夕食も頑張って作りますね。』
ザック:『俺もジーナの料理を初めて食べた時は驚いたよ。どんな食材も無駄無く使って、味付けも見事な物だったからね。』
ジーナは満面の笑みを浮かべていた。
食後は討伐・戦闘における打ち合わせをした。
ザック:『昨日はメルの動く範囲を大きく取り過ぎた気がするんだ。メルの武器や戦闘スタイルから考えて、出来るだけメルに負担が掛からない方向で考えたいんだけどどうかな?』
アン:『私もそれは感じたの。移動幅が大きくなると、どうしても効率的な攻撃が出来ない感じがしたのよね。武器の特性から考えても、一発の攻撃力を有効にする戦術じゃないと勿体無いわよ。』
メル:『でも私の攻撃を軸に戦術を考えると、お二人のスピードが犠牲になってしまいませんか?』
ザック:『う~ん・・・こりゃ後衛がもう1人必要かもな。』
アン:『どういう事?』
ザック:『アンは牽制・援護・撹乱の3つを1人でこなしてるから、3体以上の魔物になると忙しいだろ?俺は突撃して撹乱と削り役とトドメをやっているから1体に掛かりきりになる。メルは随時削り役だから、メルを動きやすくするならもう1人後衛が欲しいんだ。』
メル:『御言葉ですが、1人パーティーに入れるとなると・・・。』
アン:『そうよねぇ。信用出来ない人はちょっとねぇ。』
ザック:『1つだけ手段はあるぞ?』
アン:『手段って?』
ザック:『後衛のスキルが高い奴隷を買うんだよ。』
メル:『なるほど、その手がありましたね。』
アン:『でもさぁ、その奴隷にも話すんでしょ?大丈夫なの?』
ザック:『パーティーに入れる奴隷なら問題無いよ。忠誠心が高い奴隷なら下手に情報を漏らす事は無いからね。』
アン:『なら良いんだけど、ちょっと奴隷商に行ってみる?』
ザック:『そうだな、時間もあるし行って見るか。』
3人は先日使用人を買った奴隷商に向かった。
受付嬢:『これはいらっしゃいませ。本日はどの様な御用件でしょうか?』
ザック:『実は戦闘経験者が居たら欲しいと思ったんですが。』
受付嬢:『そうですね・・・今なら剣士と武闘士、後は魔法使いも居ますが、こちらはあまりお勧め出来ません。』
ザック:『その理由は?』
受付嬢:『この魔法使いはいわゆる出戻りでして、買われた先で他のパーティーメンバーと揉め事を起こした経験があるのです。』
アン:『その揉めたパーティーメンバーも奴隷なの?』
受付嬢:『はい、基本的に奴隷は先輩奴隷が居る所では先輩奴隷の方が格上になります。彼女はそのルールが守れかったので再び売られたのです。』
ザック:『ちょっと会わせて貰えないかな?』
受付嬢:『畏まりました。では奥の部屋へどうぞ。』
奥の部屋で待って入ると、先日の担当者のセデスが入って来た。
セデス:『先日は有り難う御座いました。あれから彼女達はどうしてますか?』
ザック:『はい、結構のびのびやってますよ。』
セデス:『それは良かった。本日は魔法使いとの事ですが、ローラは前回買い取られた先でトラブルを起こして出戻った娘です。ですが前回の主にも些か問題も有った様ですので、じっくり話を聞いてから判断して頂けますでしょうか。』
ザック:『はい、面接してから判断しようと思います。』
見た感じ可愛らしい人属の女の子が連れて来られた。
セデス:『こちらがローラになります。』
ローラ:『ローラです・・・。』
ザック:『君は魔法使いだそうだけど、どの位のスキルがあるんだ?』
ローラ:『・・・属性は火・風・光・・・です。』
ザック:『前の主の所で揉めた理由を聞いても?』
ローラ:『・・・どうしても言わなきゃ駄目ですか?』
ザック:『別に?でも君は買って貰わないと、その内低俗落ちになるだろ?そしたら前より嫌な事を沢山される事になる。俺は君が欲しくて来てる訳じゃ無い。あくまでも魔法使いが欲しいだけなんだ。でも君の言う内容によっては買ってあげても良いと思ってる。』
ローラ:『・・・討伐中に先輩奴隷が私を無理矢理前衛に出したんですよ。私はシルバーランク並の実力は有ると思いますが、中級相手に前衛に出れば大怪我を覚悟しないといけません。私が回復魔法が使えるってだけで前衛に出そうとしたんですよ。』
ザック:『そうか、よく話してくれたね。君の年齢は?』
ローラ:『14才です。』
ザック:『俺は君を前衛に出す気は無いけど、乱戦になったら自分で動いて貰う事になる。でも危険な時はみんなで協力してフォローしてやれる。どうかな、うちに来たくはないか?』
ローラ:『私を・・・買ってくれるの?』
ザック:『俺は後衛を安心して任せられる仲間が欲しいんだ。君が俺の言う事をきちんと聞いてくれるなら買ってあげるよ?』
ローラ:『・・・たい・・・行きたい・・・行きたいです!』
ザック:『という事なんだけど、売ってもらえるかな?』
セデス:『ローラ、今度御主人様をガッカリさせる事が有れば、どうなるかは解っていますね?』
ローラ:『はい。こちらの御主人様に誠心誠意御奉仕します!』
ザック:『よろしくな、ローラ。俺はザックだ。』
アン:『アンよ。よろしくねローラ。』
メル:『これから宜しくローラ、私はメルです。』
ローラはその場で引き取って帰る事にした。
東エリアでローラに必要な物を全て揃えたら、冒険者ギルドでパーティー登録をした。
見た事も無い魔法使いが【使徒の一団】に加入した事でまたどよめいたらしい。
その後中央広場で軽く食べてから屋敷に戻った。
ローラ:『ご、ご、ご、ご御主人様・・・この様な豪邸にお住まいなんでしゅか!?』
という安定の反応と。
サリー:『お帰りなさいませ。』
ザック:『ローラだ。この子の部屋を頼む。』
サリー:『畏まりました。』
ローラ:『し・・・執事さん!?』
というまたもやお馴染みの反応。
フェルテ:『紅茶をお持ちしました。』
ローラ:『メイドさんまで・・・。』
はい、フルコース終わり。
ザック:『さてローラ。君は俺達のパーティー【チーム・アポストロ】に入った訳だが、色々説明しなければならない事がある。まずうちの使用人達は全員奴隷だ。討伐や旅の時以外は執事のサリーが君の教育係だ。』
ローラ:『さっきの執事さんが・・・。』
ザック:『他の事に関してはこれから徐々に説明するけど、まずはこの屋敷に慣れてくれ。』
ローラ:『質問宜しいでしょうか?』
ザック:『なんだい?』
ローラ:『パーティーの皆様ももしかして・・・。』
アン:『あ、そうか、ごめんね、私達は奴隷じゃ無いのよ。私は元々ザックのパートナーだったの。』
メル:『私はザック様の従者です。』
ローラ:『し、失礼いたしました!』
アン:『良いわよ、私達が言わなかったのが悪いんだし。』
ローラ:『あと、このお屋敷はいったい・・・』
ザック:『あぁ、これ商人ギルドから借りてる借家なんだよ。驚かせてごめんな。』
ローラ:『え!?これ借家なんですか!?』
アン:『意外よね。私も初めて来た時はパニックになったもの。』
少し馴染んだ所でサリーを呼んだ。
ザック:『サリー、この子はパーティーメンバーだが君達と同じく奴隷だ。部屋に案内するついでに例の事を色々教えてやってくれないか?』
サリー:『私がお話ししても宜しいのでしょうか?』
ザック:『サリーに教育係を頼みたい、俺が話すよりは良いだろう。』
サリー:『畏まりました。ではローラ、一緒に来て下さい。』
ローラの部屋にて。
サリー:『ローラ、今更聞くまでも無いとは思いますが、ザック様に忠誠を誓いますか?』
ローラ:『はい。誓います。』
サリー:『宜しい。ではこれから話す事を良くお聞きなさい。』
サリーは自分達3人がこの屋敷に来る事になったら経緯と、ザックが自分達に向けてくれた優しさ、ザックの人柄等を全て話した。
ローラ:『優しい方とは思いましたが、それほどまでに奴隷を思って下さるのですね。』
サリー:『あのお方は他の方とは違った価値観をお持ちなのです。何故ならばあのお方は私達の知らない世界の方だからです。』
ローラ:『私達の知らない世界?』
サリー:『そうです。良いですか?ここからは決して他言してはなりませんよ?』
サリーはザックが異世界から来た神の使徒である事、神から直接神託を受けて行動している事等を話して聞かせた。
ローラ:『何故そんな重要な事を秘密にされているのですか?神殿や女王陛下に知らせるべきでは無いのですか?』
サリー:『いいですか?万が一この事が公になった場合、ザック様を自分に都合の良い様に利用しようとする者が必ず居るでしょう。それに騒ぎになれば、自分に都合が悪いと思う者も出て来るはず。そうなればザック様の命を狙う者も居るのです。それをザック様御自身も解っていらっしゃるのです。』
ローラ:『それでは何故私の様な者にそんな重要な事を?』
サリー:『ザック様の助けになって欲しいからです。それにザック様はこう言ったのではないですか?【仲間】と。ザック様は私達を奴隷商で引き取られる際に、奴隷商が私達の処遇について話をすると奴隷商に怒って下さいました。私達を奴隷としてでは無く仲間だと思っていると。』
ローラ:『仲間・・・私が・・・仲間・・・。』
サリー:『私達は屋敷を任せられていますが、あなたの様に討伐や旅には同行出来ません。ですからあなたが主様を助けておあげなさい。それは私達がしたくても出来ない事なのです。ですからあなたに主様を託します!どうかお願いです!ザック様のお命を守って差し上げて下さい!』
サリーは泣きながら懇願した。
自分達も旅に出られれば。
自分達もパーティーとして同行出来れば。
その不甲斐無さを悔しく思って泣いた。
ローラ:『サリー様・・・。主様は私の命を懸けてお守りします!』
ローラは自分に課せられた責任の重さを実感した。
(神の使徒・・・そうだ、私は【使徒の一団】の一員なんだから。)
リビングにて。
アン:『サリー大丈夫かなぁ。』
ザック:『大丈夫だよ。』
メル:『アンさんは何で心配なんですか?』
アン:『だってサリーはザック信者だから話を盛ってそうな気がするのよねぇ・・・。』
ザック:『さすがにその辺は弁えてるだろ?』
メル:『仮にも使用人の中ではリーダーですからね。』
アン:『だと良いんだけど・・・。』
しばらくすると2人がリビングに戻って来た。
ローラがザックの前で立ち止まり、足下にひれ伏した。
ローラ:『サリー様より全てをお聞きしました。生涯私の命を懸けてザック様をお守りさせて頂きます。』
ザック:『・・・サリー、この子に何言った?』
サリー:『全てで御座います。』
アン:『・・・ほらね?』
ザック:『・・・ローラ、そこに座って。』
ローラ:『はい。』
ザック:『ローラ良く聞いてくれ。恐らくサリーが言った事の7割はその通りだ。だが俺は君を盾にする為に買ったんじゃ無いんだよ?俺は言ったはずだ。君を前衛にするつもりは無い。君には後衛で支援して欲しいんだ。俺のカードをみてごらん?スキル判定はノワールだ。君より俺の方が確実に強いと思う。だから俺を守ろうとはしないで欲しい。君自身の命を大切にして欲しいんだ。』
ローラ:『・・・それでも、それでも私は貴方を守りたい!貴方の力の一つとして貴方を助けたい!サリー様達の分も・・・。』
そこまで言うとローラは泣き出してしまった。
ザックはローラの頭を撫でなから優しい口調で話し出した。
ザック:『・・・サリー?俺はこの子に重荷を背負わせる為に君に話をさせたんじゃ無いよ?サリーの気持ちは解ってるつもりだ。とても嬉しいよ。でも自分の気持ちをこの子に負わせるのは感心しないよ?この子はこれからパーティーメンバーとして一緒にやっていく仲間なんだ。毎回の様に死の恐怖と戦いながら一緒にやっていくんだよ。サリーだって一緒に戦ってるんだ。俺は君達が待っているから戦える。君達だって俺の帰る場所を守る為に戦ってるんだよ?』
そう言うとサリーもその場に泣き崩れてしまった。
サリー:『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・私があんなこと言ったから、本当にごめんなさい!』
ザック:『有り難う。二人共そんなに俺を思ってくれて。俺はとても幸せ者だ。でも決して俺を守ろうとはしないで欲しい。俺が君達全員を守るんだから。ね?』
その光景を目に涙を浮かべてアンとメルは静かに見ていた。
とても奴隷に掛ける言葉とは思えないザックの言葉に、サリーとローラは身を震わせて泣いた。
数分の時が過ぎた頃。
ザック:『さっ!この話はこれで終わりだ!俺の話が解ったら誰か紅茶を煎れてくれないか?こんだけ喋ると喉かカラカラだ。』
その後しばらくしてからローラには改めて説明し納得させた。
そして料理人のジーナとメイドのフェルテにはまだ明かさない様に注意した。
ジーナが夕食の準備が出来たというので、全員で食堂に集まる。
ジーナの料理を初めて食べたローラは少し興奮気味だった。
食後にリビングで寛いでいるとサリーがやって来た。
サリーはザックの前に来ると床に両膝を着いて口を開いた。
サリー:『・・・本当に申し訳ありませんでした。』
ザック:『さっき謝ったじゃないか。』
サリー:『でも私のせいで彼女を・・・。』
ザック:『サリー、俺はサリーの気持ちは嬉しいんだ。でもサリーとローラでは俺に対する思いも、俺に対する感情も違うんだ。それだけは理解してあげないとね?』
そう言うとサリーを起こしてそっと抱き締めた。
ザック:『サリー、これで少しは元気出た?』
サリー:『・・・はい。』
ザック:『・・・良かった。』
サリーが落ち着いてリビングから出て行くと、入れ替わりでローラが入って来た。
ローラ:『ザック様、サリー様が何か顔赤かったんですが・・・。』
ザック:『ローラも赤くしたい?』
ローラ:『わ、私には・・・少し早いです。』
ザック:『真っ赤だよ?』
お読み頂き有り難う御座いました。