第八十五話 『封邪石』
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竜魔族の国は基本的にジメジメとしている。大地に出来た大きな亀裂には絶えず海から風が流れ込み、竜魔の国の家々に陽の光が当たることは殆ど無い。だが気候は暑すぎず寒すぎずと言った感じで、日本で言う秋の気候が好きなアキラにとっては湿度も含め過ごしやすい環境であった。
ゲストハウスを出て街へ出ると昨日気付かなかったこの国の特徴が見て取れた。竜魔の国は崖に作った空間をそれぞれ橋で渡して道としている。それは何とも形容し難い秘境感があって良い雰囲気を出していた。
露店に並ぶ品々も妖魔の国や鬼の国には無いものが多い。その一つ一つに毎度足が止まっているのはフラールだった。
ちなみにアンジェはデープと霧夢を連れて別の所へ行っている。
「見てみろアキラ!これはあまり取れない貴重な鉱石を使った装飾品だぞ!」
「なるほど、国造りの掘削作業で鉱物がよく採れるってことかね」
アキラも店先に並んだ見事な装飾品を眺めた。どれも素晴らしい出来で感心させられる。
フラールがその内の一つを手に取り、光を放つランプの魔道具に翳して見ていた。
「あ、あー、これなんて、実に余にぴったりな指輪ではないかー!左の薬指に付けたら丁度いい感じがするなぁー!」(チラチラッ)
「棒読みになってんぞ」
そんなフラールを無視してアキラは歩き始めてしまう。フラールは慌てて指輪を置くとその背中を追って小走りになった。
「なんだなんだなんだ、ちくしょー!余では不満かー!余はこんなにもアキラを好いておると言うのに!」
「いや別にそういうわけでは無いけど…、ってか好きとか初めて聞いたし…」
フラールは目をそらすアキラの左腕に抱きつき、自分の角をアキラの頬へと押し付ける。
「何だとッ!?余のアプローチが分かっていないとは…。アキラ、お前はもはや鈍感を通り越して鈍だな、鈍!!」
「う、うるへー!角をほっぺたに押し付けんな!!」
角を押し付けるフラールに対抗し、アキラがフラールの脇腹をくすぐった。
「鈍ちんにはこれくらいあひゃっ、しないと分からないあひゃひゃ…。くそぅ、脇は卑怯なのだァ!!」
「俺の地獄の鬼も震え上がるくすぐりを喰らえ!!」
いててて、あひゃひゃひゃ、と謎の声を発する二人は竜魔の国では浮きに浮いていた。そんな二人が道草を食いながらも向かっている場所は街の外れのとある場所だ。
「ここがそうか」
「ムガルの言っていた封邪石に違いないだろう」
黒いマナが微かに漂う空間にその石はあった。ムガルによれば、三十年以上前にこちらの世界に来たアキラの両親、ヤクモとリンによって邪蛇の力の一部が封じられたのだという。これと同じ様に各所に邪蛇の力を封じたモノがあり、人目のつかない場所に保管されている。
「今まで全く疑問に思ってなかったけど、俺の親はこっちの世界にも来てたんだな」
恐らくは亜人戦争の後、姿を消したと言われていた二人は戦争のそもそもの元凶を探しこちらの世界へと足を踏み入れたのだろう。だがヤクモとリンをもってしても力を封じるのが精一杯だった邪蛇の強さとは、一体どれほど強大なものなのだろうか。
「いつかご両親にも挨拶をしないとだな!」
「はぁー…」
アキラの手を取って鼻歌を歌うフラールの言葉には大きなため息で返事をする。
そうこうしているとちょうどいい時間になったので、適当に食糧を買い込んで昼食を作りに戻る事にした。
城の離れの一軒家に入ると先にデープたちが戻っており荷物を仕舞ったりしていた。
「おおー、アキラさん。ちょうどいい所に戻ってきたぐぷね。つい今しがたムガル王とも話がついたぐぷよ。我々への協力に関してムガル王は二つ返事で了承してくれたぐぷ」
「そうかそうか、それなら良かった」
アキラが食事の準備へかかるとデープとフラール、アンジェと霧夢の全員がアキラの手元へと視線を集めた。
「なんでそんなジロジロ見るかね」
「だ、だってお兄さんって凄い料理作るじゃない?気になるのよね」
「デープも右に同じぐぷ」
「むぅちゃんも右に同じ…」
「余は貴様の近くに居たいだけだけどな!アッハッハ!!」
正直アキラはこの世界の食文化は知らない。なので必然的に自分の知っている料理しか作れないのでこちらの世界からすると“異世界の料理”ということになる。
アキラの作る料理は非常にウケが良く、魔界に来てからの食事の殆どをアキラが作っていた。
「アキラが一人になっても生きていけるように料理家事は全て叩き込んでおく」と言っていろいろと教えてくれた母親に心の中で感謝をしながら、マジックバッグから食材と調理器具を取り出した。
「余も手伝うぞ!何をすれば良いのだ?」
「んー、じゃあこの卵を割ってかき混ぜてくれ。デープとアンジェも手伝ってくれるか?」
「もちろんぐぷ!」
「手伝うわよ!」
「アキラ、むぅは…むぅは…?」
「じゃあむぅちゃんは野菜を洗ってくれるか?」
全員でやればいくらか時間も短縮できるだろう。普段アキラを手伝っているココルルたち三精霊は、今日に限っては部屋でくつろいでいた。
しばらくすると丸い低めの机を挟んで三人が座り、なにやら話し始めたのだった。
「でもさ三人目が鬼族の嫁だなんて、本当アキラって節操ないよね!」
「吾輩としてはもっと娶ってもいいと思うんだがな」
「私はこれ以上増えるのは気乗りしませんね…」
三精霊が勝手なことを言っているのを横目にアキラは頭の中で手順を整理していた。
今日作ろうとしているのはオムライスだ。オムライスはトマトベースのご飯と卵があれば誰にでも作れる簡単な料理だ。
「しかしマジックバッグは便利だな。食い物の保存状態が殆ど変わらない」
「うーん、恐らく中身が時間劣化しないような魔術が…、ん?なにこれ!?空間が、無い!?」
アキラのマジックバッグへ手を突っ込んだアンジェが目を見開いて腕を更に突っ込んだ。
「大型のものでも底や壁面に手がつくはずなのに、このカバンは果てがない。一体誰がこんなとんでもないものを作ったって言うの!?」
「それは、まぁ、とある女の子が作った特注品でな。いつか紹介するからさ…」
興奮で鼻息を荒くするアンジェをなだめてオムライス作りへと戻る。
四人は指示通りに大変良く動いてくれた。そのおかげで思ったよりも随分早く料理を終えることが出来た。
「美味いのだーッ!!!」
「うまいぐぷーッ!!!」
フラールとデープが早速オムライスを口へと運びそう言った。
続いてアンジェも木匙を動かしてオムライスを口に含んだ。
「たまごはふわふわのとろとろで中のご飯と上のソースは酸味があっておいしいわね。これは何なの?」
アンジェがオムライスの上にかけてある赤いソースを指して言った。
「それはトミトの実を煮詰めてソースにしたものだな。俺の世界でも似たような野菜があってな、雰囲気で作ってみたが上手くできて良かったよ」
トミトの実とは、トマトによく似た赤い実の野菜の事である。それをミンチ状にして鍋で煮詰め、香辛料や他の野菜と合わせる。すると完全再現とまではいかないが、かなりケチャップに似た味の調味料が出来上がったのだ。
「「うまい!もう一杯!!」」
「お前ら本当よく食うよな」
フラールとデープが勢いよく突き出した皿にオムライスを盛ってやろうとしたその時だった。
とてつもない轟音と共に大地が揺らいだ。
「なんだ!?」
「封邪石の方向…!!」
フラールはそう言うと外へと駆け出した。それを追ってアキラも、続いてアンジェとアンジェに抱えられたデープが封邪石の方角へと急いだ。




