第八十四話 『いざ竜魔族の国へ』
邪蛇との遭遇から二日空けてアキラたちは竜魔族の国へ向けて出発した。鬼族の国から竜魔族の国へはそこまで遠くないとはフラール談。デープが御者台に座る獣車は大量の食糧を乗せて森の中を走った。
「一応フラールも一国の王だろうに、残らなくて大丈夫だったのか?」
「ん?ああ、良い良い。余が居らんでも赤の王がなんとかしてくれるだろう」
鬼族の国にある二つの城。それらは「黒の城」「赤の城」と呼ばれており、フラールは黒の王であった。どちらかが不在の場合はもう一方が国の管理をしているとのことだ。
「赤の王ってあの?」
「一瞬だけ見かけただろう。あれが赤の王だ」
とある日にフラールと街をふらふらしている時にやけに体の大きな鬼族に絡まれた事があった。確か名前はダルグスだったか。ダルグスはその時に実に豪快な態度で「お前が!噂の!フラールの!そうかそうか、ガッハッハ!!頑張れよ!!」と言ってアキラの背をその大きな手のひらで叩いたのだ。あの時の衝撃は忘れることができない。
「ねえねえお兄さん。ちょっと聞いていい?」
鬼族の国での出来事に思いを馳せているとアンジェが話しかけてきた。
「ん?どうしたんだアンジェ?」
「ずっと気になってたんだけどさ、お兄さんカバンの中に何入れてるの?凄い質量のマナを感じるんだけど」
もしかしなくてもメロディちゃん人形の事だろうか。確か貴重な魔石を使っているはずだからそれなりにマナは溜め込んでいるはずだ。
「メロディちゃん人形?出れるか?」
「はいはい、お呼びですか?」
アキラのカバンからゴソゴソとメロディちゃん人形が這い出してくる。その様子をアンジェとフラール、そして霧夢がじっくりと見ていた。
「お、お兄さん、これって…?」
「これとは失礼ね、このすっとこどっこい!あたしは魔石動力自動操人形のメロディちゃん人形2号機よふもがっ!」
「まあ、向こうの世界にこいつを作った奴がいてな、自分を似せて作った人形なんだよ」
いつかと同じ様に怒り始めるメロディちゃん人形の口を塞いだアキラが三人に紹介をした。すぐにメロディちゃん人形は暴れだし、アキラの拘束から逃れたのだった。
「そうよ!あたしこそがアキラの本妻、メロディ・リンデット……のコピー体よ!!」
「本妻だと!?」
メロディちゃん人形の言葉にフラールがガクッと項垂れる。
「ほ…ほ、ほ…本妻…だと…!?」
「そーよ、そこの黒鬼ちゃん!あなたにその気があるなら三番目になるわね!」
「さんばんめだと……」
最早そのやりとりにツッコむ気にもならなかったアキラは荷台へゴロンと寝転んだ。ふと前方を見るとデープがちらちらとこちらを見ていたがすぐに道の先へと視線を戻した。
そういえばデープはメロディちゃん人形と一度会ったことがあるんだったな。
「よし、三番目だ。余は三番目として努めるぞ、メロディちゃん人形先輩!」
「その意気よ黒鬼ちゃん!!」
フラールとメロディちゃん人形が腕を組み合っていた。何やってんだか…。
メロディちゃん人形を中心にわいわいやり始めた荷台から御者台へと移動したアキラはデープへと話しかける。
「デープ、疲れてないか?代わるぞ」
「ああ、大丈夫ぐぷよ。もう少ししたら一度休憩を挟むぐぷ」
「そうか。じゃあ頼むな」
そう言った後、アキラは目を閉じて仮眠の態勢になる。
それを察したデープは少しだけ獣車の速度を抑えて走った。
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魔族の世界における国は、自然との共生がとても上手くいっている印象がある。森の中で生活する妖魔族、山中で生活する鬼族等が良い例である。
そしてここ、竜魔族の国も例に漏れず自然の中に生活の拠点を置いていた。
海に面した大地に出来た亀裂の中に竜魔族の国はあった。崖を横に掘り進める形でそれぞれの家が造られており、亀裂の一番端に竜魔族の国を治める王の城が在る。関所の入り口に獣車を預けたアキラたちはすぐさま王の居城へと足を運んだのだった。
フラールが同行していたお陰か王への謁見は非常にスムーズだった。ほとんど顔パスのような感じで謁見の間へと入った。
「良くぞ参られた。名前をムガルと言い、不肖の身ながらこの竜魔の国を治めております。フラール氏とデープ氏は存じておるが、そちらのお三方は?」
そう言って彼はアキラ、アンジェ、霧夢の方へ大きな目をゾロリと動かした。
竜魔族の王ムガルは体の大きな竜魔人であった。その姿はモミジ等の竜人族の様に人っぽさはなく、もっと竜に寄ったものであった。イメージ的には、竜が二足歩行をして人の言葉を話している、というのが一番わかり易いだろうか。
「あたしはティア・トーレ、でも今はアンジェって名前なのよ」
「トーレと言うと妖魔の国の王族ではなかろうか?ふむ、いろいろと事情がお有りなようだ。ムガルは君の境遇を察するよ」
「私は霧、霧の夢。名前はないけどみんなはむぅちゃんって呼ぶわ…」
霧夢の言葉にはさすがのムガルも頭の上に?を浮かべていた。「むぅちゃん」と言うのはメロディちゃん人形が呼び始めた霧夢の愛称で、その後アンジェやアキラもその様に呼びだして定着したものである。ただし、デープだけは何故か「むぅさん」と呼んでいるのだが。
「こいつは、まぁ、三大厄の霧夢に違いないんですけど、今は無害なので安心してください」
「ふむ…、ムガルは驚きを隠せないがフラール氏のご友人という事で納得しよう。してお主は?」
「俺はアキラ、アキラ・シモツキです。訳あって旅をしてます」
アキラが自身の名前を述べたところでムガルの目が大きく開かれた。
「なんと、君はつまり獣人の戦士のご子息だろうか。名は何と言っただろうか」
「リン・シモツキか、ロゼッタ・クルールォなら俺の母親です」
「そうだ、あの時はリンと名乗っていたな。ムガルの記憶の中で美しく舞う戦士が甦った。リンには伴侶が居たはずだ、確かヤクモだったかな…?彼は元気だろうか?」
「ピンピンしてますよ。もうだいぶオッサンになったけど…」
アキラがそこまで話した所でココルルたち三精霊が急に人の姿で顕現した。
「ムガル爺、久しぶりぃ~!」
「まだ生きていたか。吾輩より歳だったはずだが?」
「………………」
「おお、お前たち。今度はヤクモの子を護っておったのか。長生きするのも悪くないとムガルは感慨深くなったぞ」
三人がそれぞれの言葉を放つ。ただ一人シンシンだけは黙り込んでいたが、その理由も直後に判明することとなる。
「むおっ、シンシンちゃん!!」
「ぎゃー!こっちに来ないでください!!」
老齢であろうムガルからは先程までのゆったりとした雰囲気は消え失せた。急に椅子から立ち上がるとシンシンを追いかけ始めたのだった。
「吾輩はそっとしておいてやれと言ったのだ」
「へへー、だってこっちのほうが面白いじゃん??」
どうやらココルルの仕業らしかった。そんなムガルとシンシンの追いかけっこはしばらく続いたのだった。
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「それではゆるりと過ごすと良い。ムガルは君たちを歓迎する」
シンシンに相当ボコボコにされたのだろう、ムガルの顔面には無数の腫れやタンコブができていた。当のシンシンは事が終わってアキラの右肩に戻るも大層ご立腹の様子だった。
顔中ボコボコのムガルに案内されて城の離れのゲストハウスのような所へ連れてこられた。本当はもっと込み入った話がしたかったのだがそれは明日以降へと持ち越されることとなった。
「まあ、ムガルもああ言っておるし。焦らずゆっくりこなせばいいだろう」
ふかふかのベッドへ飛び込みながらフラールが言った。それを聞きながらアキラも別のベッドへと飛び込んだ。
「ぐぷ、ムガル王へは我がそれとなく話をしておくぐぷ」
そう言ってデープは椅子へ腰を下ろして本を広げる。アンジェも部屋の隅に設置されていたハンモックをいつの間にか確保しており、そこに寝そべって本を読み始めている。
霧夢に至っては部屋の真ん中にぺたんと座り込んでぼーっとしている。
「頼んだわデープ。俺はちょっと寝るでな…」
ベッドへ体を沈み込ませたアキラはそのまますうっと、眠りの世界へと旅立ったのだった。




