第七十八話 『発現・魔銃剣ベラニエール』
「アキラ…!アキラ!!」
フラールの大きな声で目が覚めた。窓から差す光は既に昼の太陽のものであり、随分と長い時間寝ていたのだなと言う事が分かった。
「どうした、フラール?今起きたよ」
「ハッ、起きた!!おーい!デープ、アンジェ!!アキラが目を覚ました!!」
「ぐぷー!!」
「お兄さん目覚ましたの!?」
大声を張り上げるフラールの周りには城内の召使が数人控えていた。彼女らはアキラの覚醒と共に慌ただしくし始め、鈍感なアキラにも何やらただならぬ状況を感じ取る事ができた。
「アキラさん、大丈夫ぐぷか!?ちゃんと意識はあるぐぷ?!」
「お兄さん!あたしの事わかる?ティア…じゃなくて、アンジェよアンジェ!!」
「なになに…どうしたの。俺なんか変な事になってんの?」
そう言って体を起こそうとするが何故か体に力が入らない。起き上がるのもままならないほどに体がだるいのだ。
「変だな、体が動かねぇ」
「それもそうだ。だって貴様は」
フラールはアキラが起き上がるのを手伝いながら衝撃的な言葉を続けた。
「一月の間眠り続けていたのだからな」
「はあ?一ヶ月?本当に??」
「嘘ではないぐぷ。我らが此処に入ったのが丁度一ヶ月前。朝になっても起きないアキラさんにフラールさんが気付いてから、その時からずっと眠り続けていたぐぷ」
神剣な顔のデープにさすがに嘘ではないのだろうと思うアキラ。
「あともう一つ、最初のうちはココルルたちがアキラを看ておったのだが、しばらくすると三人の姿を全く見なくなってしまったのだ。余にも何がなんだか…」
終始泣きそうな顔をしていたフラールがそんな事を言う。アキラはハッとして自分の胸の辺りに手を置いた。三人の気配、存在感を感じる。だが意識があるようには思えない。まるでここ一ヶ月間のアキラと同じように眠ってしまっているようだった。
「一体どうなって」
『どうなっているのかわからんだろう。俺は全部知っている、いや、識っているぞアキラ』
久々に聞くその声に無意識の内に顔が引きつる。訓練の為にイルシオン大森林の大樹の中で聞いて以来の声だった。
『よお、お二方、お三方、いやもっと居るか。俺はベラニエール、かつて十二の闘神の座に就いていた者だ』
驚愕するデープたちの前に燃えるような色の髪の男が現れた。ベラニエールは呆気にとられた顔をしているデープたちに軽く礼をしたのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『どうした?俺のこの素晴らしいビジュアルに見惚れているのか?』
そんな事を抜かすベラニエールに対して最初に口を開いたのはアンジェだった。
「ベッ、ベ、ベ…ベラニエールって闘神・魔眼のベラニエールの事ですか!?創造主と六女神の神話に出てくるあの!!?」
『おっ!お嬢ちゃんは聖職者か何かか?詳しいじゃねーか、凄いぞ』
「お、おお、恐れ入ります!!」
目をキラキラさせて答えるアンジェの様子を見ていると、ベラニエールが如何に神秘的な存在なのかが分かる。
『よーし、早速本題に入るぞアキラ。俺も長くは出てられんのだよ』
「唐突だな、まあいいや」
『うむ、まず、お前が長い間眠っていたのは女神たちの影響だ』
「それは何となく分かってた」
一月前の夜、女神空間に召喚されたアキラは女神たちとお茶を飲みながら最終的には“祝福”を受け取って戻ってきた。
『女神の祝福ってのは生身の人間が受けるもんじゃねえの。めちゃめちゃ体に負担がかかるわけよ。それを一気に六人分受け取ったんだから仕方ねぇよな。お前の大事な精霊たちが長い休眠に入ったのもそのせいだ』
「いずれ起きるのか?」
『起きないことは無いが、現状は無理だな。お前は短期間にいろいろな力を付けすぎた。それを制御し切る土台がちゃんとできてねぇんだわ。つまりはまた修行だ、覚悟しろ』
まじかよ…と、思わず気難しい顔になってしまったアキラにベラニエールは更に続ける。
『ま、精霊の力じゃなくてお前自身と俺の力のみで体を鍛えることだな。おっと、もう限界だ。俺みたいな格の低い神はこれ以上出られねえ』
燃えるような髪を揺らすベラニエールがだんだんと朧げに消えていく。
『アキラ、最後に助言をしてやるぜ、良く聞きな。俺の力はお前が一番大切にしているモノに宿るぜ。それを扱えるようになったら一人前だ。じゃあな、健闘を祈るぜ』
消える瞬間、ベラニエールは手を振っていた。そして彼の顔は、イルシオン大森林でアキラを最後に見送った時の顔と同じだった。
「と、突然の事すぎて頭の処理が追いつかないぐぷ…」
「自分でベラニエールって言ってたからな。本人なんだろうな…」
アンジェと同じく、デープとフラールも口をあんぐりと開けたまま突っ立っていた。
「俺が、一番大切にしているもの…」
ポカン顔の三人を他所にアキラはベラニエールが最後に放った言葉を反芻していた。そして徐に動かない腕を無理やり動かして、ベッド脇に置いてあった私物の中からマジックバッグを取り出した。
「どうしたどうした!何か入用なら余が聞くぞ!」
「お兄さん何かほしいの?あたしが探そか?」
「ぐぷぐぷ、アキラさんどうしちゃったぐぷ!?」
「いや、すまん、大丈夫。今解決した」
マジックバッグから腕を引き抜いたアキラは、取り出したそれを自身の膝の上へと置いた。
「なるほど確かに、大切にしてたっちゃ大切にしてたが」
それは元々黒い鞘の美麗な刀と金色の装飾の施された銃であった。魔獣ハンターとして活動するための武器として最初に購入したもので、他でもないメロディが立て替えてくれたものだった。
「なんとなくもったいなくて、殆ど使ってなかったよな」
アキラが形の変わった刀を鞘から抜くと、回転式に銃弾を装填する機構が備わった紅い刀身が顕になった。刃渡りの長さは以前よりも短く横長になっており、柄の部分は曲線を描いている。また装填した銃弾を撃ち出すための撃鉄や引き金も見える。
「ガンブレード?ガンソード?銃剣?何なんだこれは…?」
「闘神ベラニエールの力が宿っているんだろう?ならばその名は魔銃剣ベラニエールに決まっているだろう!」
アキラの手の中の銃剣を見てフラールが胸を張りながらそう言った。
「どうだ?名案だろう?余えらい?えらいだろう~?」
「あーえらいえらい、フラールはえらいなー」
「火に油注ぐ反応ぐぷ」
「お兄さんって学習しないわよね」
「なんだアキラ、その適当な扱いは!!」
デープとアンジェの言った通りの状況になった。アキラの適当な態度にフラールが腕を振り回しながら抗議する。アキラはそれをなんとか制しながら膝の上の魔銃剣を見つめた。
「やれることをやるしかないか。よし、フラール」
「このこのこのー!んっ??どうした…?」
しばらくじゃれていたフラールもアキラの冷静な雰囲気に気付き、腕を振り回すのを止めて大人しくなった。
「フラール、お前向こうの世界に居た時の事。覚えているか?」
「へっ?そんなの決まっておろう!余は人族を全て排除する為に……?待て、余はそんなことは望んでいない。そんなことはしたくない…」
フラールは一気に血の気の引いた顔になり、その場で震え始めた。
「余は…何をしていたのだ…?思い出せない…」
「そういえば我も記憶が無いというか、何かを忘れている感覚があるぐぷ…」
「デープの行動も邪蛇の影響だと思うな。どこかで接触した覚えは?」
「ない……余は邪蛇になど……」
「邪蛇がどうかしましたかな?」
アキラとフラールの会話に入ってきたのはこの城の召使いの統括をしているエンブリーだった。以前会った時と同じく、髭をわしゃわしゃと触りながら部屋へと入ってきたのだった。
「アキラ殿がお目覚めと聞きましてな。様子を見に来たのですが、邪蛇がどうのこうのと?」
「いえ、特に何も。俺はこの通り元気ですのでご心配なく」
「ならば良いのです。お困りの事があればいつでもお声掛けくだされ」
エンブリーはそのまま部屋を後にした。その後姿が廊下の奥へ消えたのを見計らってアキラはフラールの頭の上に手を乗せた。
「辛いなら無理に思い出そうとするな。でも何か気づいた事があったら相談するように。この先俺がお前を見捨てる事は絶対にないから、なっ?」
「なんだアキラ、余の心が読めるのか……?」
「なわけあるかよ。俺が言ってもらえたら嬉しい言葉を言っただけだ」
先程まで蒼白だったフラールの顔が一気に明るくなった。
「うん、うん、そうか、そうだな。余もアキラの相談は聞くし、見捨てたりなんかしないぞ!」
「それはありがたい。困ったときはお互い様って事でよろしくな」
そんな二人の様子にしびれを切らしたアンジェたちが口を挟んだ。
「そんな事よりお兄さん!急に闘神ベラニエールが出てきたり、邪蛇があーだこーだ言ったり、何かあるんでしょ?説明を求めるわ!」
「そうぐぷ。我にも説明するぐぷ!」
それもそうだ。フラールにもまともな説明をしていないのだ。眠っている間に起こった事を話す必要があるだろう。
「わかった。えーっと、じゃあ晩飯の時にゆっくり話そうか。それまで解散ッてことで。俺も風呂に入ったりしたいしさ」
一ヶ月のブランクはとても大きい。体調面の調整もしないといけない。眠っていた時の夢のような出来事の説明を夕食時へ回してアキラたちは解散したのだった。




