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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第四幕 魔族の世界
83/112

閑話    『霜月夫婦の活躍』

仕事が忙しい為、なかなか話が進められません…。

またちまちまと書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。

今回は本編とは別ですが、八雲と霖の昔の話をどうぞ。

 土曜日。今日は久々に霖と八雲が揃って休みの日であった。霖は当然二人でどこかに出かけない理由がないと思い、未だ眠っている八雲に声をかけた。



「八雲、遊びに行くぞ」


「んあ…?もうちょっとだけ寝させてくれ~」


「八雲、遊びに行くぞ」


「昨日遅かったんだよ、それにまだ朝だろ~?もうちょっとだけ…ぐはっ、ごはっ!」


「八雲」


「分かった!!起きるから腹を怒涛のラッシュで殴打するのをやめろ!!」



布団から飛び出した八雲はふらふらと洗面台へと向かう。歯ブラシを手に取るとそれに歯磨き粉を付けてボサボサの髪の自分が映る自分に聞いた。



「パートの掛け持ちよりボクサーになった方が良いよな、絶対」


「八雲」


「ひぃっ!?」


「着替えを置いておく」


「お、おう!」



身体ともに保たないな…と心の中で呟いてから、八雲は徐に歯ブラシを口に突っ込んだのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 妻はいつも唐突なのである。これを本人に言うと「お互い様だ」と言われるので、きっとその通りなのだろう。今日も特に遊びに行くなどという素振りを見せなかったのが、今日になって突然言うのだからたまったものではない。

だが、妻に振り回されるのも悪くない、



「そう思う、八雲であった」


「心の声が全部漏れているぞ」



隣で歩く妻が怪訝そうな顔、というよりも少し引いたような顔でこちらを見ていた。



「ちょ、ちょっとやめろよなー!そんな露骨に“引いてます”って顔はよー!!」


「いや、なんだ、その…。八雲は一人でも騒がしい奴だよな」


「なんじゃそりゃそりゃ…。馬鹿にしてるのか、そうだな?チクショー!」


「いや、馬鹿になどしていない。そういう八雲も悪くない…と私は思う」



そう言って頬を赤らめながら顔を背ける。未だに妻の“伴侶にグッとくるポイント”というのがわからない。



「見えてきたぞ」


「ん?おお…。この町にも遊園地ってあったんだな」


「まあこの辺では二番目の大きな町だしな。少し出れば何でもある」



都会過ぎず田舎過ぎない。それこそが、この日神町の利点だと言えるだろう。少し出ればだいたいの店は揃っているし、遊ぶところも色々ある。今まで何かと忙しく、町の事なんて頭の中に無かったが、こうして見るとなかなかに住み心地のいい所である。



「チケットは買ってある」


「Oh...実に用意が良いね霖さん」


「当たり前だ。この日をどれだけ待っていたか」



そう言ってスケジュールの書かれた手帳を見せてきた。几帳面に予定や計画が書かれた手帳の今日の日付の所だけ更に細かく予定が書いてあるようであった。



「え…これ今日一日で全部やるの…?」


「ああ、そうだ!さあ時間はないぞ!」


「うあっ!ちょちょ、そんな急がなくても…」



強引に腕を掴まれ、そのまま「ニュー日神アミューズワールド」へ入場。その際霖が首を掴んで引きずっていたのが原因だが、意識が飛んだ。

そして気付けばコーヒーカップの乗り物に乗せられていた。



「起きたか八雲」


「起きたか、八雲…じゃないよ!首極まってたからな!?」


「いや、ごめん…。だけど、五分で復活するあたりさすが」


「うるせー!いつの間にかコーヒーカップ乗ってるしよ…」



目の前で申し訳なさそうにもじもじしている霖を見て、少しイタズラ心が出てきた。ハンドルを早く回して、霖の目も回してやろうと企んだ。



「よっしゃあ、おらおらー!!」


「む…」



コーヒーカップのハンドルを強く早く回す。八雲が力を入れたら入れた分だけ二人の乗るカップは回転をしたのだった。



「おらおらどうだどうだ!目が回ってきたか!?」


「むむっ…」



霖は先程とは打って変わってじっと動かなくなった。やはり目が回ってきたか、ざまあみろ!と思う八雲だったが、突然に霖がハンドルを握った。



「私の目を回したくばこれぐらい回さないとな」ギュルル…


「ぐああああああああ!!」



八雲からハンドルの主導権を奪った霖は涼しい顔のままでハンドルを回す。八雲が回していた時よりも遥かに早くカップが回る。



「まだ甘いか」ギュルルル…


「何が!?この速度が甘いとかちょっとやばいんじゃないの!?ぎゃああああああああああ!!」



地獄のコーヒーカップ回しはもちろんこの乗り物が止まるまで続いたのだった。









「おえっ…おぼろろろろろ……」


「大丈夫か…、ほらジュースを飲め」



霖が差し出したペットボトルを奪い取ると、それを一気に胃まで流し込んだ。これで幾分か楽になったというものだ。



「お前…さては俺を殺す気だな?」


「そんな事はない。私はただ純粋に八雲と楽しみたいだけだ」



霖の言葉に嘘はない。それは長年一緒にいてわかるし、彼女の性格上嘘を吐くことができないのを知っているからわかる。なのに力ばかりが強い。なのでいろいろと、



「きついんだよな……」


「何がだ!」



一度、肺の中の空気を入れ替えて霖を見ると頬を膨らしていた。



「いや、なんでもない。それよりも次は何に乗るんだ?」


「次はあれだ!」



霖が指差す先、そこにはここニュー日神アミューズワールドの象徴とも言えるアトラクション「フライング・ハデス」があった。全長四キロメートル、最大高低差七十メートルのジェットコースターである。



「ええ…死人が出てもおかしくない構造だな」


「死人など出てないから、行くぞ!」



霖に腕を掴まれ、そのままフライング・ハデスへと向かったのだった。









「おええええええええええええ」


「絶叫系は苦手か八雲?」


「だいたい吐く!絶対吐く!」



なんと八雲はたった一日で絶叫マシンが無理になってしまったのだ。



「私に乗るのは上手いのにな」ポッ…


「下ネタぶっ込んでんじゃねーぞ!もう吐くってレベルじゃねーからな!オエッ!」



八雲がゼェゼェ言いながら息を整えている、その時だった。



「圭ちゃん!?圭ちゃん!!」


「圭!どこだ圭!!」



夫婦であろう二人の男女が叫んでいた。叫んでいるのは子供の名前だろうか。



「圭ちゃんどこなの!?」


「ママ助けて!!」



子供の叫ぶ声がする。八雲と霖、そして周りの人が声のした方へ顔を向ける。

すると顔全体をマスクで隠した二人組の男が、男の子を抱えて走り去っていくのが見えた。



「ああああ…圭ちゃん!」


「誰か!その男を止めてくれ!」



二人の叫びも虚しく、男の子を抱えたまま二人の男は遊園地のゲートを乗り越え車に乗り込んでしまう。



「ママ--!!」



最後に子供の泣き声だけがすると、黒いバン型の車は走り去っていった。



「ただ事じゃないな。行くぞ霖!」


「分かっている」



八雲と霖は走り去った車を追っていく。

だが遊園地の人混みを抜け、車を追う体勢に入ったときには既にその姿はなかった。



「くそっ!」


「流石に場所がわからないと私の足でも追えんな」


「まあ待て霖さんよ。ここは動植物に聞くのが一番いい。俺が聞いて回るから霖さんはなるべく高い所で待機していてくれ。あとコレ持っていって」



そう言うと八雲は手に持っていたそれを手渡す。



「何かあったら使ってくれ」


「わかった」



そう言うと霖は近くの建物の上へたった一歩で飛び上がってしまった。



「さて、さっさと見つけないとな」



八雲は霖を見送ると、近くの店先で眠っていた猫に声をかけたのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




その後しばらくしてから、とある車の中。



「少々強引だったが、上手く行ったな」


「ええ、これで身代金の要求ができるな」



黒い服に身を包んだ男たちが怪しげに笑う。



「神在グループの跡取りだ。たんまり金を出してくれるに違いないぜ」


「金が入ったらすぐにこの国を出るぞ。その後は自由気ままに暮らすのさ!」



男たちが更に笑っていると、ドガンと言う大きな音と共に車体が大きく揺れた。



「なんだ!?何があった!?」


「わからん!タイヤに異常があったみたいだ」



男たちが狼狽えていると“第二波”が飛んできた。

バキィ!と言う音と共に車体の上から突き刺さった物、それは誰もが見たことがあるであろう、何の変哲も無い「傘」であった。



「か、かかか…傘ァ!?」


「一体何がどうなって…」


「止まれ。でないと痛い目に遭うぞ」



後ろから声がしたのに驚き振り向くと、見知らぬ褐色肌の女が座っていた。その隣には既に縄を解かれた男の子も座っている。女の横を見ると、窓が割られているのが分かった。そこから侵入したのだろう。



「なんだお前は!!」


「止まれと言っているのが聞こえなかったか?」


「うるせぇ!しゃおらっ!!」



助手席の男が身を乗り出してナイフを突き立てる。だがそれは霖に届く事無く、男は霖の張り手で気絶させられた。



「な…なんだお前は…!なんなんだァ!!?」


「止まれないか。なら痛い目に遭ってもらうしかないな」



運転席にいた男の目の前に霖の手の平が向けられた。

その後の事は何も覚えていないと後に男は聴取で語ったと言う。









「いやー、しかし、渡した傘を投げ槍の様に使うとは恐れ入ったわ。ハッハッハ!」



無事男の子を両親に返した後、直ぐにその場を立ち去った。後々警察等と関わるのは面倒だと考えたからだ。男の子は酷く怯えていたが、霖に保護されてからはすっかり元気になっていたと言う。



「八雲が動植物に車の場所を聞いてくれたから出来たことだ」


「こういう時に“言霊の加護”は役立つからいいよな~。英雄やってた甲斐があるってもんだ」



今回、八雲は動物や植物、果ては虫にまで聞いて回り、逃走した黒い車の場所を知った。その連絡を受けた霖は車を見つけると髪留めを投げてタイヤをパンクさせた。そして傘を使って相手の動きを制限し男の子を救出したのだった。



「あまり遊園地で遊べなかったな」


「遊びより、男の子の方が大事だ。致し方ない」


「だから、また行こうな?」


「む?」



そう言って八雲は霖と手を繋いだ。急な事に霖は一瞬驚いたが、掴まれたその手を強く握り返したのだった。



「今夜は激しいぞ。覚悟しておけ」


「それ女性が言うセリフじゃないよ霖さん」



八雲がツッコむと霖が微笑んだ。

ちょうど店先に出てその様子を見ていたとあるラーメン屋の店主がいた。



「おーい、八雲。今日は寄って行かねぇ……って待てよ…」



二人の姿を見た店主は上げていた手を下ろした。



「流石にあの雰囲気の二人に声はかけられねえな。いつまでも仲良くやれよ」



息をフッと吐いて店主は店の中へ戻っていく。

そんな事は露知らず、八雲と霖は手を繋いだまま夏に入る前の日神町をそれは仲睦まじく歩いたのだった。






翌年、二人の間に元気な男の子が生まれたのはまた別の話である。

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