第七十三話 『呪いのペンダント』
翌朝。デープとフラール、そしてアンジェを連れたアキラは妖魔城の正門前へ来ていた。
城と言っても巨大な木をくり抜いて城としているので見た目は巨木である。
ここでは城に入る者の身分と持ち物を検査し、中に入れるか入れないかを決める仕事をする者が二人いた。
「何者だ」
門兵の一人が声を上げた。それに反応するかのようにアンジェがハッと息を飲む。
「人族の旅人アキラ、こちらは獣魔族の国の貴族デープ・ルクシオスと鬼族の王フラール・ニブルゲイン」
「ふむ。カルアから話があった者たちだな。武器も持ってないみたいだな、よし通れ」
カルアとは、この国へ入る時に会った植物魔族の女性の名前だろうか。
カルアは言っていたことをちゃんと実行してくれていたようだった。
「ありがとう。行こうか二人共」
「ぐぷ」
「くるしゅうないぞ」
そんな三人のすぐ後ろをアンジェが付いて門を通る。この時アンジェはアキラの認識阻害魔術で隠れていたので門兵には見つからずに城内へと入ることができたのだ。
「さて、アンジェはこの後どうするんだ?」
「あたしはこのままペンダントを探す。アキラたちは怪しまれないように妖魔女王に会ってきて」
「わかった。気をつけろよ」
大きな彫刻のあるホールでアンジェと別れた。その後は例のカルアに連れられて妖魔城の奥へと進んだのだった。
城内は至って普通。木製の家具を主に落ち着いた色で統一されていた。
城内を見回しながらアキラはフラールへそっと耳打ちをする。
「ところでフラール、お前鬼族の王だろ?妖魔族の王族のいざこざとか聞いたりしてないか?」
「んん?いざこざ?そういえば少し前に女王が変わったとかなんとかあった気がするの」
首をかしげるフラールもそれ以上の情報は知らないらしい。アキラがフラールから離れるとカルアがとある扉の前で立ち止まった。
「こちらで女王がお待ちだ」
カルアが指差す扉は大きく、ここが女王の居る間であるのだと殊更強調している。
カルアが扉を開け放つと、奥の玉座には一人の女性の姿があった。
「ようこそ妖魔城、女王の間へ」
「どうもお会いできて光栄です」
アキラが恭しく礼をすると件の女性、妖魔女王は途端にニコニコとし始めた。
「久々の客人で私は嬉しい。それに君は人族と聞いた、いろいろ話を聞かせてくれ」
そう言った直後、妖魔女王は玉座から立つとアキラたちの前であぐらをかいて座ったのだった。
「女王!もう少し女王としての威厳を…」
「堅苦しいことを言うなカルア。私は偉そうにするのが一番嫌いなんだ」
カルアの注意を片手で制した女王は、再びアキラたちの方を見ると床を指差して言った。
「ささっ、掃除はしてるから綺麗だよ。君たちも座りたまえ」
言われるがままにアキラたち三人は女王の向かいへと座ったのだった。
「さてさて、何から話してもらおうかな!」
女王の何とも言えない雰囲気に押されるも、アキラたちはひとまず会話に花を咲かせたのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど、それでフラールは小さくなっていたのか。実にバカよのぉ」
「やかましい!貴様、余を馬鹿にすると許さんぞ!」
この部屋に入って数十分後には女王とフラールがじゃれあっていた。
そしていろいろと情報を仕入れる事ができた。女王の名前はリアラ・トーレ。年齢はアキラよりも少し上らしい。
「はー、久々に話した…。なるほどいろいろとあったのだなアキラは。そういうことであれば、幽魔族の王への紹介状を手配しようじゃないか」
「ありがとうございます」
「こらこら、畏まるな。リアラと呼んで友のように思ってくれ。この国では私を友のように扱ってくれる者がおらんのだ」
そう言ったリアラは笑みを浮かべる。なんとなくアンジェと似ているなと思った所で、アキラはこの度のアンジェの事を訪ねることにした。
「リアラさんは、アンジェの事は知っていますか?」
「アンジェ?はて、どちらさまだろうか?」
リアラの返事は何の含みもないものであった。恐らくアンジェの事は本当に知らないのだろう。
「いや、知らないならいいんですが」
「ううむ、力になれなくて申し訳ない」
その時だった。部屋の扉が突然に開かれると、カルア率いる数名の兵士が飛び込んできたのだった。
「何事だ」
「ハッ、リアラ様。何者かが宝物庫に侵入した模様です。トーレ家のペンダントが盗まれました」
「なんだと!?」
カルアの報告を聞き終えたリアラは大きく目を見開くと、その場で立ち上がった。
「直ぐにペンダントの捜索を…」
「その必要はないわ」
リアラの言葉に被せるようによく通る声が響いた。それは他でもないアンジェの物であり、彼女はペンダントを握りしめたまま部屋の入り口に立っていたのだった。
「母様のペンダントは返してもらう」
「ティア、ティアなのか!?いや、待て、話を聞け!そのペンダントは…」
「聞く耳持たん!!」
リアラの言葉を遮るようにアンジェが叫ぶと右手のペンダントが禍々しく光り出した。
「母様を、家族を奪った貴様を許さんぞリアラ!!」
「ぐっ!!」
アンジェから突然に吹き出した風に飛ばされそうになったリアラの腕をアキラが掴んだ。フラールもデープも突然の展開で頭がついていかないといった様子だったが、アキラは酷く冷静だった。
「なあアンジェ、とりあえず落ち着かないか?いきなり殺気立てて飛び込んでくるってのは良くないぞ?」
「リアラは母様の仇だ、それは聞けん!」
そう言ったアンジェはマナを周囲に集め、それを体へと蓄え始めた。何か魔術を撃ち込むつもりなのだろうか。
「ティア、そのペンダントを捨てろ!全てを話す!だから捨ててくれ!そうしないと…」
アキラと共にその場で踏ん張っていたリアラは苦しそうな顔のまま次の言葉を放った。
「国が滅びる」
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そのペンダントには強い呪いがかけられている。このままではティア、お前がお前じゃなくなってしまう!!」
リアラはマナを凝縮させるアンジェへと叫んでいた。アキラにはペンダントに呪い云々があるのかどうかはわからなかったが、ペンダントからは嫌なマナが漏れ出しているのはよくわかった。
「あの日何があったのか聞いてくれ。私たちに、トーレ家に何があったのか…」
「だそうだアンジェ。俺達はもしかしたら大きな勘違いをしているのかもしれない。ちょっとペンダントを手放してみないか?」
リアラに続けてアキラが説得を試みる。だがアンジェは依然としてマナを集めるのを止めなかった。アキラはいざとなれば絶対防御を使う気でいたのだが、周りには城の衛兵などもいて全てを守りきることはできない。
「うるさいうるさいうるさい!!皆まとめて吹き飛べぇええ!!」
アンジェがマナを込めた、次の瞬間だった。
ペンダントから黒いマナが溢れ出し、それがアンジェを覆った。
「うああっ!!」
「アンジェ!クソッ!」
リアラをその場に置いたアキラがアンジェの元へ走り出した。その時のアキラの両目はいつもの空色ではなく赤い光を放っていた。
「ルフニールは絶対防御展開、維持してくれ。ココルルはルフニールをサポート。シンシンは俺と来てくれ!」
「承知した」
「はいよー!」
「分かった」
赤い閃光を放つアキラの目がより一層光る。
「魔眼ベラニエール!!」
アキラ以外の全ての時が、スロー再生のようにゆっくりになった。




