第六十五話 『久々の女神空間』
ゼーカルマール城の二階層。アキラとメロディが先へ行ったのを確認したキールはフェニクレインの力で極大の炎を謎の女へ撃ち込む。だが炎に包まれた女は宙に浮かぶ紫色の球体を動かして炎をかき消していた。
「やっぱ効かねえか、ならッ!」
キールはステップを踏み込んで女へ突進、そのまま右手を突き出す。女はそれをひらりと躱すと宙返りをして空中に飛び上がった。そしてそのまま何もない空中に着地をしたのだった。
「なんだそりゃ、聞いてねえわ」
「言ってないんだから知るはずも無いさ。さて、坊やにはお灸を据えてやらないとね。のらりくらりと舞う妖族の力を見せてやろうじゃないか」
「妖族!?」
妖族烏天狗一派は既に帝国によって滅んでいる。とすれば、キクとは違う妖族ということになるだろう。烏天狗は人形繰りの一族で、特殊な糸とからくり人形を武器にしていたが。この女の紫色の球体は、一体何の能力なのだろうか。
そんな事を考えていると、突然にキールの視界が白い光に包まれてしまった。
「ぐあっ、なんだ!!」
『身を委ねよ、キール・ラグスト。少し話をしよう』
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「カッカッカ!久しぶりだなキール」
「え…?誰…?」
白い空間に金色の獣と水色の女が立っていた。
「覚えてないだなんてひどいじゃないか。髪と着物の色が違うだけでわからなくなるもんかね?」
「えーっとー……」
キールは自身の記憶の中から、目の前の人物の情報を引き出す。そういえば以前、スルグ村の魔獣騒動でもこの空間に来たことがあった。となるとこの人は。
「火女神フォーユ様か…?」
「あー、合ってるけど違うね。いやいや、意地悪な事を言ってしまった。すまないねえ」
フォーユ(仮)が両手をひらひらさせながら謝ってきた。
「アタシは氷女神アイシャ。火女神フォーユでもある。ほら、火は氷に転ず、と言うだろう?創造主も何故そうしたかは知らないがアタシには二つの人格、いや神格があるわけだ。ま、そんなことはどうでもいいんだ。ちょっと話をしようぜ?」
氷女神アイシャはキールの目の前にどかっと男座りをする。釣られてキールも同じようにその場に座り込んだ。
「あんたも出てきな、フェニクレイン。キールの中に隠れてんじゃないよ!」
「あうっ…、ごめんなさいですぅ…」
アイシャがキールの左肩を叩くと、フェニクレインがキールの右側へ倒れながら現れた。
「よしよし、フェニクレイン。元気そうだね。幸せかい?」
「は、はいです!キールは優しいですし、暖かいですし、おいしいものも食べさせてくれるです」
「そうかい。お前が幸せそうでアタシは嬉しい。キールに任せて良かったよ。で、キール。お前さんアキラにアタシの事を宜しく伝えてくれたかい?」
フェニクレインに向けるものとは違う鋭い視線をキールに向けてくるアイシャ。
「い、いや、ちゃんと伝えてはいるんだが…何かあった感じですかね?」
「逆だよ、何もない!そろそろ会いに来るかなと毎日待ってたアタシの気持ちがわかるかい!?そのくせ、他の女神の所には行ったらしいじゃないか。信じられないねぇ!」
どこからか取り出した手ぬぐいを噛み締めてムキーッ!と言う女神。
「誰よりも先にアタシがあの子に目を付けたと言うに!ルフニールは何してんだい!?焼きドラゴンにして食ってやろうか!?」
「ま、まあまあ落ち着いてください!!」
フーッ、フーッ!と息を荒げる女神様をキールが必死になだめる。この人大丈夫だろうか。
「まあいい、いずれ来るだろう。それはそうとして本題に入ろうか。この度アタシはお前にあの女に勝てる力を授けようと思う」
「よっ、良いのですかアイシャ様!!」
反応したのはフェニクレインだった。
「大丈夫なのですかアイシャ様!!」
「良いんだよ。その代わり、お前たち六人とお付きの四精霊には、世界のバランサーとして働いてもらうよ」
「バランサー?」
初めて聞く言葉であった。キールは思わず言葉を聞き返してしまう。
「詳しいことはまた話そう。今回はアタシの加護だけ持っていきな」
白の空間により強い光が生じた。あまりにも眩しくて目を抑えるとアイシャの声が頭の中に響いた。
『お前たちに世界を委ねる。頼んだよ』
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戻ってきた、という感覚が分かった。そして先程から時間が全く経過していないことに気付く。キールは目の前の女に視線を向けた。
「加護ってなんだろうな。まあ行くか!」
キールは炎をまとった状態で突進からの突き攻撃を放った。もちろん女はそれをひらりと躱すが。
「ん??消えた!?」
女の前からキールの姿が消える。キールはその瞬間に手甲と足甲を外して女の後ろへ回り込んだ。
「一心十歩って知らねえか?」
「情報にはない力ね」
キールの動きに付いてきた女がくるりと振り返りながらキールの拳を受け流す。だが明らかにキールの動きに翻弄されているようであった。
「仕方ないわね、使う予定は無かったけど」
女は紫のもやをまとうと、その場から姿を消す。そしてキールの背後へ転移したのだった。シッフルで使っていた謎の転移術であった。
「なるほどめんどくせえ力だ」
「くふふっ…予測不能な転移にはさすがに……んん…??」
女が数回転移を繰り返した後に、紫の球体で攻撃をしてくる。キールはそれを防御すると反撃に入る。そうして何度か女が転移をしていると、途中で何かが邪魔をした。それは土の壁であり、更に女の足元から膝までを床から出てきた土が固定していたのだった。
「ディケル、生きてたのかい!それよりも、あんた何のつもりだい!?」
「すまねえなァ姐さん。俺はキールに負けてそのまま仲間になったんだわァ。その質問には答えられねェし、お前の手助けはできねェ」
女がキッとキールを睨みつける。仁王立ちで腕を組んだキールの後ろでは、巨大な炎が鳥の形を作りながらどんどん大きくなっていた。巨大な炎の鳥を作り出しているのはフェニクレインであり、彼女は尚もぶつぶつと口だけを動かして詠唱を続けていた。
「宿、纏に続く精霊術の三段階目、伴か。フェニクレインの力も増してるし、女神さまさまだな」
「キール、行けますですよ!」
「よっしゃ、行けフェニクレイン!!」
フェニクレインはキールが戦闘中の間、こっそり詠唱を続けていたのだ。彼女は作り出した炎の鳥を背に、そのまま突進の体勢に入った。
「やめっ、やめろぉぉおお!!」
「不死鳥炎獄!!!」
女の言葉は巨大な炎鳥には届かず、フェニクレインは翼を広げた炎鳥と一緒に女へ突っ込んでいった。その時に生じた炎の爆発にキールが巻き込まれる。だが、さすがは火女神の加護。キール自身炎の影響は全く受けること無くその場に変わらず立っていた。
「ブハッ!くっそ、殺すつもりかよあのガキはよォ!!」
「こんなんじゃお前は死なんだろ」
土の球体で身を守ったディケルが文句を垂れながら這い出てきた。部屋全体を焼き尽くした炎の爆発の中心部では黒焦げになった何かとフェニクレインだけが残っていた。
「帝国十二狂月の最後の一人も、ああなったんじゃどうしようもねぇなァ」
ディケルは炭の塊に手を合わせた後、蹴り崩して女を粉微塵にしてしまった。それを見たキールにフェニクレインが静かに話した。
「ボクは致し方ない事だと割り切っているのです」
「俺もそうだ。あとは優しすぎるメロディとアキラがどうなったかだな」
そしてキールとフェニクレイン、ディケルは上の階の二人の元へ、急ぎ走ったのだった。




