第六十二話 『三英雄と仲間たち』
アキラたちが帝国へ向かった直後、ルフニエル領土内にあるアスカルデの町で歓声が上がっていた。それは他でもない、かつてシッフル・アスカルデ・ミスミティオンの戦いにおいて、帝国から三国を守り抜いた英雄に対してであった。
「そんな喜んでもいられないんだよな。敵さんはお構いなしにどんどんやってきてるぞ」
「パパ…じゃない、ヤクモ、どうする?」
「もうめんどくさいからパパママ呼びでいいわよ……」
二人のやり取りがめんどくさくなったリーゼロッテが悪態をつく。それに対してヤクモは手をひらひらさせておどけてみせた。
「よぉーし、ではまずリーゼは左方を、リンは右方を、俺は中央を担当しよう。オッケイ?」
「オッケイ」
「オッケー……」
大まかに作戦を言うとリンもリーゼロッテも頷いてそれぞれの位置についた。
「仲間を巻き込むなよ、では開始だ!!」
三英雄はそれぞれの戦場へと駆け出した。
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「鬼神像!!」
黒衣の女はその服と同じ漆黒の翼を広げて巨大なからくり兵器を操っていた。彼女の名前はキク・ティシマ、改めキク・ロイフェン。妖族、烏天狗一派の最後の生き残りである。
「クソォ!!ちょこまかと!!」
キクの操る巨大なからくりは敵軍の魔獣や魔族を一気に蹴散らしていた。その様子を見ていたルフニエル王国軍兵士は皆口々に「鬼だ…」「鬼がおる…」と言っていた。
そんなキクのもとに思いもよらない援軍が来ることになる。
「キックさぁーん!手こずってないですかー??」
「その声は!?」
飛行する謎の機械に乗って登場したのはメロディ・リンデットの妹にして世界一の機械技師。水色の髪と緑色の瞳がトレードマークの彼女の名前はリズム・リンデット。ミスミティオンは今回の戦いには参加しないという話のはずだったのだが、何故リズムがここにいるのだろうか。
「およおよ?キクさんてばリズムがここにいる理由がわからないって感じですねぇ?簡単なお話ですよぅ!リズムはたまたま旅行でアスカルデに来て、たまたまこの戦いに出くわして、たまたま戦うことになっただけです。はい、そういうことなんですねぇ!」
キクは一瞬思考が止まってしまった。そんなキクに畳み掛けるようにリズムは話し始めた。
「呆けてる暇はありませんよぉ!メロディお姉ちゃんの自動操人形の技術をお借りして今回はお助けしますよぅ!いっけぇー!リズムの人形兵!!」
リズムがマジックバッグをひっくり返すと中から大量の機械人形が出てきた。それらは地面に着地すると、自動的に戦闘を始めたのだった。
「はいはい、キクさん!アキラお兄ちゃんたちが帰ってくる場所を守るんですよぉ!」
「わかっています!ウォオオ!!」
キクが鬼神像に伸びる糸を大きく動かし、リズムが自動人形に指示を出す。この場の戦闘は二人の機械によって勝利へ向かっていたのだった。
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「くふっ…クックック……」
聖騎士ロゼッタ、改めパン屋の凄腕パート・リンは神剣を手に敵を倒していた。右手のシェラザハウィードは時間を操り、左手のミスティブルヘリアは空間を操る。これら神の剣を二振り手にしたリンを前に普通の魔獣など相手ではなかった。しかし。
「やはり討ち漏らしが出るか…」
相手の数が圧倒的に多い戦闘である為、倒しそこねる敵が出てしまう。もちろんそちらのリカバリーが出来ないリンではなかったが。
「リヴェルアルジーア!!」
ズドォォオオーーーン!!
後ろには頼れる親友が控えていた。
「ミュリエル。貴様、私を殺す気か」
「ロゼッタ、いやリン。オレの攻撃じゃお前は死なんだろ」
リンは剣聖ミュリエルの言葉に対してニヤリと笑った。
「その通りだ。誰の攻撃であっても私には当たらん」
「ふん、化物め。この戦いが終わったら、オレに旦那との甘い生活を赤裸々に話す準備をしておけよ!!」
そう言って再び剣を上段に構えるミュリエル。再び「リヴェルアルジーア」を打ち込もうとしているのだ。
「私からすれば、そんな大技を連続で打ち込めるお前の方が化物だがな」
ミュリエルから敵へ視線を移すと、リンは自身の周りの時間と空間を歪ませ始めた。
「全く、頼れる友達だよ」
リンは嬉しそうに片方だけの口の端を上げて、敵めがけて両手の剣を振るったのだった。
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「左方、って小さい敵ばっかりね。とても面倒…」
リーゼロッテは長杖の前に大量のマナの奔流を作り出していた。
「大魔導師として恥じない戦いをしないとね……」
ボソリと呟きながら火魔術と風魔術を併用した炎の渦を作り上げると、それを敵の集まる中へ移動させた。風魔術によって引き寄せられた魔獣たちはそのまま炎の渦で焼き尽くされる。リーゼロッテの名も無きオリジナル魔術によって左方は掃討されていったのだった。
「魔族ってこんなに弱かったかしら……」
否、魔族が弱いのではなくリーゼロッテが強すぎたのだ。数十年前の戦いの時の数倍、リーゼロッテは魔導師として力を付けていたのだった。
「あの子たちが心配ね……」
彼女は目の前の敵よりも、帝国内部へ潜入したアキラたちの心配をしていた。
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一方、中央部で戦うヤクモ。そこでは大きな竜が空から炎を吐き、巨狼が敵を蹴散らしながら走り回り、巨大な人魚が水を操って敵を蹂躙していた。それらに指示を与えているのは他ならぬヤクモであり、中央部の敵は精霊たちによって随分と数を減らされていた。
「でけぇのがなかなか倒れないなぁ。何か目潰しとかで動きを制限できたらいいんだけどな」
『お主がそんな事を言うもんじゃから、来たぞ。アキラの根回しが』
こちらに戻ってきたククルルがとある方向を顎でしゃくる。ヤクモがそちらに視線を向けると、遠くの空から数千、否数万の何かが飛んできていた。
「なんだあれは!」
『鳥の類だな。先頭の黒い奴が指示しておるようだ』
先頭を飛ぶ黒い大きめの鳥が右へ旋回すると、他の鳥たちも右へ旋回した。その様は圧巻で空を黒い霧が覆い隠しているかのようにも見えた。
「よォ!人間ども!アキラに頼まれたから来てやったってばよォ!!」
「おいククルル、あいつ喋るぞ!?」
『いや、今更驚く事でもなかろうて』
ヤクモの頭にククルルが尻尾でペシッとツッコミを入れた。件の鳥たちは敵軍の方へ飛ぶと、それぞれが持っていた何かを落とす準備をし始めた。
「よぉーし、今だ。爆撃開始ィ!!」
先頭の黒鳥が指示すると、数万もの鳥たちが敵軍の真ん中へ石のような何かを投下し始めた。それらは魔族、魔獣たちの頭上まで落ちると、炸裂して眩い光を放った。
「光魔石か!?すげえ貴重なんだぞ、アレ!!」
『まあちょうど良いだろう。目潰しにはなる』
閃光弾のように光り続ける魔石に敵軍が足を止めた。尚も鳥たちの攻撃は続いていた。
「どんどん投げろ!どんどん光らせろォ!」
「ピヨッ、ピヨピヨ!」
「何ィ!?魔石が無くなっただと?クソをひり出せ、クソを!!」
魔石を使い果たした鳥は、次々とフンを落とし始めたのだった。なんて戦法だ…。
「まあいい、足止め感謝するぞ!ククルル、スンスン、シンニール!デカイのも好きにやってやろうぜ!!」
ヤクモがククルルに乗って突撃する。それに追従する竜と人魚が残りの魔獣たちを次々に倒していく。
こうして、アスカルデの防衛戦も佳境を迎えようとしていたのだった。




