第六十話 『三英雄の帰還』
ルフニエル王国における戦力と言えばルフニエル王国軍に他ならない。だがそれとは別に緊急時に出動する事になる特殊な機関があった。それが王宮騎士団と王宮魔術師団である。
団長マルクス・コルケスが率いる騎士団は近接戦闘の精鋭を揃えた組織。使う武器は剣、槍、弓など各々違うが、皆が皆それぞれの武器に秀でた者である。
対してリーゼロッテ・グライヴが団長を務める王宮魔術師団は魔術に秀でた者たちの集まりである。所属する魔術師のほぼ全員が、リーゼロッテが教鞭を振るうルフニエル王立学院魔術専攻科の卒業生であり、王国の魔術師は皆魔術師団へ入ることを目標に魔術を学ぶと言う。
騎士団長マルクスは謎の状況に気づき始めていた。先程から帝国側の敵を御しながら戦場を駆け回っているのだが、妙に魔術師団の攻撃がこちらに来る気がする。魔術は全て当たらぬように立ち回っているが、あまりにもマルクスに的確に向かってくるのだ。
マルクスは注意深く魔術師団を観察した。どうやら今回の戦闘では魔術師団員は魔法を打つだけ、狙いをつけて当てるマナ制御は団長のリーゼロッテが行っているようであった。
「やはり貴様か、リーゼェ!!」
「あ、やばい、バレた……」
マルクスが茶色の髭を揺らしてリーゼロッテめがけて走り抜ける。その移動速度は凄まじいもので、若き頃に付けられた“閃光のマルクス”の名前も伊達ではないと周りに思い知らした。
「ちぃぇぇぇぇええい!!」ガキィィィン!!
「くっ!」
跳躍したマルクスが剣をリーゼロッテへ振りかざした。それを長杖で受け止めるリーゼロッテ。
「何のつもりだリーゼ!!」
「いや、この場でどさくさに紛れてマル君を潰しておけば騎士団を潰せるかなと……」
「要らぬ策を練るな!!あとその呼び名はやめろ!!」
剣を引き、再び戦場へ戻るマルクス。それを見ていたリーゼロッテは「ふぅ」とため息をついた。
「マル君も変わらないわね」
かつての友の背が遠ざかっていくのを見届けながら、小さく呟いたのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「キク!状況を教えてくれ!!」
「あまり芳しくありません。数で押されている状況です!!」
ロイスは戦場の真ん中でキクと背を合わせて敵と向かい合っていた。ロイスの使う槍も既に三本目、残りは一本。キクの操る百鬼兵も半数が使えない状況になっていた。
「なるほど、万事休すか…」
この槍はまだ使えない。最後の一つを指先でなぞり、ロイスは考えた。ルフニエル王国の精鋭が集まっているとは言え、数で圧倒されてはどうしようもない。なんとかしなければ。
「どうすれば……」
「おどりゃぁぁぁぁぁああああああ!!」
思考の海へ深いダイブをしていたロイスが一気に現実に戻される。その声はロイスたちの頭上から発せられており、その声の主はロイスの知る最強の竜人族・モミジのモノであった。
そして当のモミジは普段殆ど使わない翼を使って空を飛んでいたのだった。
「くるくるくるくる回る傘、唐傘独楽とおどりゃんせッ!」
謎の言葉と共にモミジが唐傘を回転させながら投げる。それが地面に突き刺さると唐傘がバッと広がりコマの様に回転を始めた。ロイスたちの周りを回転しながら移動する唐傘は帝国兵や魔獣を巻き込んでその全てを蹴散らした。
「遅うなってすまんのぅ!アキラとメロディ、それにキールも来とる!まだまだこれからじゃ!!」
「ありがとう!助かる!!」
ロイスはくるりと振り返りキクの肩を掴んだ。
「キク、当初の作戦通り、私はアキラたちと帝国へ入る。鬼神像を使え!」
「ですが…ロイス様、あれは…」
「できる、お前ならできる!そしてルイスは私が必ず討つ、約束しよう」
それは唐突に行われた。ロイスはキクの肩を自身に引き寄せるとそのまま口づけをしたのである。当のキクはさしてうろたえることもなく静かに言った。
「こんな場所で不謹慎ですよ、ロイス様」
「これが最後になるかもしれんからな」
「そんな事私が許しません。必ず帰ってきて下さい!」
「あのー…二人共のぅ…」
その状況に痺れを切らしたモミジが口を挟んだ。
「お熱い所すまんじゃが、そろそろ時間じゃけぇ行かんといけん。よいなロイス?」
「うむ、行こうか。ではキク!」
ロイスが片手を上げる。それをキクはじっと見つめていた。
「行ってくる」
「お帰りをお待ちしております」
モミジと抱えられたロイスが飛んでいくのを見届けて、キクは自分の頬を両手でパチンと叩いた。
「やってやりましょう!鬼神像!!」
キクは烏天狗一族の証である背中の黒い翼を広げて飛び上がる。それと共に地面に魔法陣が現れそこから大型のからくり兵器が現れた。リズムと共に制作したミティオン鉱製の大型からくり兵器“鬼神像”である。
キクは鬼神像と百鬼兵から伸びる糸を手に、更に高く飛び上がったのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帝国側の本陣では余裕の雰囲気が漂っていた。目に見えて減っていく王国軍。そして今更出現した大型兵器。この状況で大型兵器を投入してくると言うことは、きっとあれがルフニエル王国の「切り札」に違いない。
もう少し押せばルフニエル王国は落ちる。それが叶えばミスミティオンやシッフルを手に入れるのも容易い。
帝国の誰もが勝利を確信していた、そんな時だった。
「申し上げます!!」
伝達の兵が本陣へ駆け込んできた。急ぎの伝達のようだ。
「申してみよ」
「ハッ!敵残存兵力は当初の四分の一までとなりました。ですが問題が…」
「どうした!早く言え!!」
本陣の司令官は苛立ちを見せた。少し躊躇うも伝令兵は次の通りに報告した。
「敵軍の中にとんでもない戦闘力の者が居ます!おそらく、かつての三英雄以上かと!」
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この辺も随分と人が多くなったんだな」
~その人は白い竜に乗って異国の服と前掛けを身に付けていました~
「あの時もこうやって空から来たんだったな」
~その人は両の手に神の剣を携えていました~
「アキラには負担をかけてしまうが致し方ない、今だけ踏ん張れ。私も此度だけは戦場を駆ける悪魔となろう!」
~その人は名をロゼッタと言いました~
「我が名はロゼッタ・クルールォ、今の名前はリン・シモツキ!いざ参る!!」
~その人は皆の希望の光の生みの親でした~
「子供向け新・英雄譚」の一節より抜粋
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「風が…吹いているわ…」
リーゼロッテが空を見上げた。すると遥か上空に白い竜が飛んでいるのが見えた。
「来たのね…」
そしてそのまま見上げていると、上空の白い竜から飛び降りる人の影が見えた。他ならぬリン・シモツキである。頭を下にして落ちてくる様はさながら隕石のようである。
ある程度降下すると、リンは剣を持ったまま手を広げて回転を始めた。プロペラのように高速回転して、自身と大地の間で竜巻を生み出している。
そしてその竜巻の風を受けて最後はゆっくりと着地したのだった。
「大事ないか、リーゼ」
「ないけど…普通に降りてこられないの…?」
人間離れした荒業に驚く者も多いがそれより別の事に皆は驚いていた。
「三英雄の…?」
「ロゼッタ・クルールォか!」
「信じられん…」
「ああん、聖騎士様、素敵です…」
皆口々に英雄の帰還に驚いていた。
「ロゼッタ…いや、今はリンだったわね。ヤクモはどうしたの?」
「んん?そろそろ来ると思うんだがな…」
ドガァーーァアン!!!
そんなことを話していると遠くの敵軍の真ん中で大爆発が起こった。何事かとそちらの方を見ると白く大きな狼が戦場を走り回っており、それが通った場所で続けて小さな爆発が起きているようだった。
「え…もしかしてあれ…?」
「背に乗っているのがウチの夫だ。そしてククルル。さすがは古狼、凄まじい力だ。」
白い巨狼は敵軍の魔獣よりも大きく、それらを蹴散らしながら風魔術と火魔術の併用で爆発を起こしているようであった。
『ハーーッハッハッハッハ!!わしの力を見よヤクモ!久々に暴れておるわ!!』
「あまりはしゃぎすぎるとぎっくり腰になるぞ」
ククルルはひとしきり敵軍をふっとばすと進行方向を変えてリーゼロッテとリンの元へ走った。ククルルの巨体が走ってくるのを見てルフニエル王国軍の兵たちは随分とビックリしていた。
そしてヤクモがククルルからひょいと降りるが着地に失敗してドテッと転けたのだった。
「あいってーっ!うっそだろ、前は着地できてたのに!」
「それだけ私たちも老い衰えたわけだ。あまり無理するな。まだあちらの世界でも救う命があるのだから(動物たちの)」
「それもそうだな。ささっと終わらせて帰らないとな。俺の助けを待ってる子たち(動物病院の患者の動物たち)がいるからな!」
それを聞いた周りの人は「別世界を救っているのか…!」「さすがは英雄だぜ!」とちょっと違う勘違いをしていた。
「よぉーし、じゃあ可愛い息子たちの為にダディ頑張っちゃおうかね!」
「マミィも頑張ろうかね」
「久々の三人衆ね…」
三英雄の再集結、アキラたちの到着によって帝国を根本から潰しにかかるフェルゼーの作戦が、今まさに本格始動したのだった。




