第五十四話 『それぞれの成果』
アキラの粋なはからいで皆がジャパニーズソウルフードをつつく中、アキラはようやく本題へと切り出した。
「では食いながらで悪いが、互いに成果を報告し合おうか。まずはキール」
「んふぁ?俺か?」
和風おろしハンバーグを頬張ったキールが間の抜けた返事をする。
「俺が修行で得たものは、まあフェニーとのマトイや精霊術の強化だな」
そう言って左腕を肩と水平に上げるキール。すると彼の腕がメラメラと音を立てて炎を上げたのだった。その様子にアキラたちが驚くが、キールは尚もハンバーグを頬張りながら話す。
「これで最低限の精霊術でフェニーの力を思いっきり使えると言うわけだ」
「なるほどさすがキールだ。じゃあ次はロイス」
「うむ、師匠、これを見て下さい」
そう言ってロイスが右の手の平を上に向けてマナを組み上げる。マナは全ての術式を無効化する魔術へと変化していった。
「ここに、魔術を打ち込んでみて下さい」
「あたしがやるね?ヴィント!」
ロイスが組み上げた球体の光の中にメロディが風魔術を打ち込んだ。だが風魔術はロイスの光の球に触れると、吸い込まれるようにマナへと分解されてしまった。
「あらゆる魔術を、詠唱の必要なく分解することができる。破魔術が術式を消滅させるのに対して、これだとマナへと分解して取り込むことが可能になった。私はこれを吸魔術と名付けた」
「わしらの魔吸収みたいじゃのぅ」
モミジがうんうんと頷いている。つまりあらゆるマナによる術式を全て取り込んで自分の力へ変化させる事ができるらしい。素晴らしい能力である。
「すげぇじゃねぇか…。ではキクは?」
「はい、あの、既に皆さんの横に配置させて頂いたのですが。新たな人形繰りの技術、そしてミティオン鉱製のからくり人形でしょうかね」
アキラたちの気付かない内に、それぞれの肩へ小さな人形が乗っていた。これは、カエルの人形だろうか。それらが肩の上でワイワイと踊っているのだ。
「一度にこれほどの人形を動かせるのか…」
「はい、最小限の力で大きな動きをさせているんです」
なんとキクは片手の指だけで十体近くのからくり人形を動かしていたのだ。しかもこの人形たちはまだ一部であると言う。
「それで、モミジは?」
「わしはコレじゃ」
竜人の剣士、モミジが取り出したのは唐傘と扇子。全員の顔に?が浮かんだ。
「ん?どういうこっちゃ?」
「なんじゃ、アキラは鈍いのぅ。ハナノハとジャノメに加えて、わしの武器が増えたって事じゃのぅ」
「それは、どうやって戦うんだ?」
アキラに続いてキールがそんな疑問をぶつけた。
「それは見てもらわんとわからんのぉ。どうじゃアキラ、久々に手合わせするか?」
「いいだろう、あとで裏の広場でやるか」
そう言って食事を再開するアキラ。それに対してツッコミが入る。
「あのー、アキラさん?」
「はいはいアキラです。どうしましたかメロディさん?」
「あたしの成果は?聞いてくれてないよね?」
「おっ、この天ぷらすげえうめぇな!」
「なんで無視するの!お願いだからあたしの成果も見てよぉおお!!」
「いや、まあ別に後でもいたたたた!腕が折れそう!?」
メロディを華麗にスルーしようと思っていたら鋭い関節技を極められてしまった。一体どこにこんな力を秘めてるんだろうか。
「あぁ、それで、メロディはどうなったん?」
「ふっふっふ…、よくぞ聞いてくださいました。あたしの成果はこれよ!」
メロディが手元にマナを込めると、メロディの手の中でマナが形を成して小さなナイフへと変化した。
「マナによる武器の召喚!?凄い…!」
驚いていたのはキクだった。そして彼女は続けて補足を加えてくれた。
「武器召喚魔術は妖族特有の魔術、一般的には妖術と呼ばれる物です。妖族でも一部のみ、ましてや普通の魔術師では使うこともできない固有魔術です。一体どうやって……」
「そこは天才メロディちゃんなので問題ありませーん。あたしにできない事はないのでーす。と言うのは冗談で、試練の報酬が特殊な魔術の知識と能力だったのよ。本当セイラスにはとんでもなくしごかれたわ……」
そう言って自身の肩を抱いて震えるメロディ。さぞ辛い試練だったのだろう。
「で、アキラは何を得たんだ?」
そう聞いてきたのはキールだった。それに対してアキラは不敵な笑みを浮かべた。
「それは見てからのお楽しみってことで」
エビを咥えたままニヤニヤするアキラは大層不気味であったと後に語られている。
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「良いかアキラ、手加減はするな。わしも本気で行く」
「そんなこと言ってると後で後悔するぞ」
竜人の台所裏にある広場でアキラとモミジは向き合っていた。それを見守るメロディ、キール、フェニクレイン、ロイス、キク。そしてココルル、シンシン、ルフニールもその様子を見ていた。
「ココルルたちはこっちに居ても大丈夫なの?」
このメロディの疑問も当然のものである。
「うーん、私たちが居たらもっと凄いんだけど。今のアキラは一人でも強いんじゃないかな?」
メロディの心配とは反対にココルルがのほほんとしているので、余計に不安になってしまった。
「あー、では、模擬戦闘始めっ!」
キールの掛け声でモミジがアキラに突進する。いつもの動きである。力こそパワーなモミジの戦闘法である。
「ウラァ!」
モミジの動きに身構えるアキラであったが、直後にはモミジが視界から消えていたのだった。
「しゃらん…しゃらん…」
唐傘を持ったモミジは低く遠くへ跳躍、ステップを踏む。
「前と違って緩急のある動きだな」
「そこに気付くとはさすがはアキラじゃ!」
モミジは唐傘を使ってアキラに攻撃をする。それもとんでもない猛攻であった。
「そぉれ!傘だけではないぞ!」
「――ッ!!?」
モミジの投げた扇子がブーメランのように弧を描いてアキラを襲う。だがその扇子も、モミジの唐傘攻撃でさえもアキラに当たることはなかった。
「じゃあそろそろ本気出すか」
「なんじゃと!?」
クルッとその場で回転するとアキラは両の手の平をモミジに向けて突き出した。
「ダウ・ルーシェ」
放たれたそれは上級の光魔術。光で作られた龍がモミジへと迫った。
「当たらぬ!」
ダウ・ルーシェは上級光魔術で、光属性の光線を放つ攻撃であり、威力はあるが外すと意味のない魔術である。それを分かっていたモミジはアキラの魔術を避けると次の攻撃へと入る。しかし、この時モミジはアキラの攻撃の異常さに全く気づけていなかったのだった。
「曲がるぜ」
「はっ!?」
モミジの脇を通り抜けた光線は、あり得ない屈折を見せながら再びモミジへ向かっていったのだ。
「身体強化魔術、索敵魔術、全部マナ制御の成せる技って事ね。基礎から鍛えられてる感じ」
「ちょっと待てよ?攻撃魔術を生身で撃ったよな?アキラは人間やめたのか?」
メロディとキールがそんな感想を述べる。その間にも光線はモミジへ向かっていく。
「くっ、絶対防御!」
それを秘術・絶対防御で防ぎきったモミジ。だがその間にアキラはモミジの懐へ潜り込んだ。
「これで終わりだモミジ」
アキラがモミジのデコを指ではじいた。所謂デコピンである。
「ぐはぁ!!」
アキラのデコピンを受けたモミジが吹っ飛び、地面に叩きつかれ倒れた。
「もうわしゃダメじゃ。アキラ、看病してくれ…」
「絶対ウソだろ。仕方ねえな…」
恐らくほぼ無傷であろうモミジを背負って連れていくアキラ。一応これで決着が着いたようだ。
「まあ元からアキラは化物だからね。戦闘力が一段回上がったみたいな感じでしょうね。ってか、あたしもおぶって!モミモミだけずるいよ!!」
二人の戦闘を冷静に分析していたメロディがアキラを追って行ってしまう。
キールはその様子を見て「やれやれ」と思いながらも、なんとも言えない安堵感を感じていた。
「やっと日常が戻ったって感じだな。これがずっと続くといいんだがな」
そう言ってロイス、キク、四人の精霊たちを連れ宿へと戻っていくキールであった。




