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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第一幕 王都ルフニエル
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第五話   『メロディの魔術教室と英雄の軌跡』

 武器購入から出発までの展開は早かった。メロディが朝食を買いに行くついでに二人分の旅に必要なものも店で買っておくという優秀すぎる動きをしたからだ。更にルフニエル王都までの馬車の手配まで済ませるという徹底ぶりである。



「随分と動きが良いけど、旅慣れしてるのか?」


「うん。昔はお婆ちゃんと放浪に近い旅をしていたから」


「なるほど」



なんとなくそれ以上は踏み込んではいけない気がして、流石のアキラもここで話題を切り上げた。


ここプリフィロの町からルフニエル王都までは丸一日かかる。

そこでアキラは移動時間を無駄にせずメロディに魔術の教えを乞うことにしたのだ。

なにより馬車に揺られて景色を見るだけは何かと辛いものがあるし、どうせならば今後役立つことを無駄なく吸収したいという思惑がアキラにはある。



「というわけで、よろしくお願いしますメロディ先生」


「よろしい。まずはマナの流れを知る。マナの流れを知るというのは魔術行使への第一歩になる。ちゃんと魔術が扱えるかどうかは別としてね。はい、手を出して」



マナとはすなわち魔力や生命力など様々な力の源となるもので魔素とも呼ばれるものである。そしてマナの制御ができないと魔術を発動することはできないのだという。


メロディが手のひらを上に向けて差し出してきた。細く白い手は握ってしまえば折れてしまいそうである。

この細腕が今朝アキラの全身を締め上げて気絶させたのだと思うと背筋に寒いものが走った。


一瞬だけ出すのに躊躇した手を、改めてメロディの手と重ねる。

ひんやりとして冷たいメロディの手はずっと触れていたいと思うほどに心地よい。



「あ、ひんやりして気持ちい……ん!?」


「何ばかなこと言ってんの。わかった?これがマナの流れ」



か細いメロディの腕を通じて力の奔流を感じることができる。ぴりぴりするようなぞわぞわするような、今までに感じたことのない何かがアキラの腕に流れ込んできた。



「いまはあたしがマナをアキラの手に流したんだけど、まずはマナの流れを作ることからやっていこう。マナの流れをイメージして力を込める感じで」



メロディに言われたとおりにマナの流れをイメージして、力の込め方もなんとなくでやってみる。すると先程メロディから流れてきたマナのエネルギーと同じものが自分の体から生じるのをアキラは感じ取った。



「これを、メロディに流し込む」


『その言い方だといやらしさを感じるよアキラ』



アキラの横で普通犬サイズになり伏せの姿勢で寝ていたココルルがあくびをしながら言う。



『でも思ったより全然いい感じ。そのまま流し込んじゃって』



ココルルに言われマナの流れをイメージしてメロディに送る。

うまくメロディにマナが行っているみたいで次第にメロディの両耳にある耳飾りが強く光り始めた。



「もっ、もういい、もういいよアキラ!来てる来てる、マナちゃんと来てるから!!」



メロディの耳飾りはメロディの体内のマナの量で輝きが変わると昨夜聞かされた。

耳飾りが光るという事は一定量のマナがメロディへと流れている、つまりアキラのマナ制御がうまくいった証拠だろう。これにはココルルも少し驚いた顔をしている。



『精霊術師ってマナの貯蔵はあまりできないはずなんだけど、アキラの体どうなってんの?』


「えっ、どういうこと」


『精霊術師って常に精霊に体内のマナを消費されてる状態なのよね。だから魔術に使うマナが追いつかなくて、精霊の力に頼ることになるの。それに私もシンシンもルフニールも大精霊だから消費量は通常の比じゃない。正直マナ制御もままならないんだろうなーって感じで見てたんだけど、アキラが規格外すぎてびっくりしちゃった』



精霊術師になると強力な精霊の力を使う事ができるようになるが契約の維持にマナを持っていかれて魔術を使う分まで賄えないという。だがアキラの体内に貯めれるマナの量は大精霊三匹との契約を維持しつつ、魔術を使ってもまだ有り余るほどのようだ。

簡単に言うと常人よりも体内のマナの貯蔵タンクが大きいという事になる。



「へー、異世界召喚でステータスにスキルポイント振ったりできないと思ったらこういう特典付きか」


「何を言ってるかわからないけど、雰囲気でだいたいわかった」



とりあえずは魔術への第一歩であるマナの制御ができた。魔術が上達するかどうかは日々のマナ制御の鍛錬次第だとメロディが言っていたので、暇があればマナの制御を独自にやっていくのもいいだろう。

メロディによる魔術とマナの講習はこうして簡単に終わった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




その後は魔術だけでなくこの世界の国の地理歴史を教わった。

今アキラたちがいるのはルフニエル王国で、海を挟んで西にあるのがシノノメの国。

北方サイハテの地と呼ばれている獣人族の住むシッフル国。

南方暗黒大陸と呼ばれる魔人族と魚人族から成るミスミティオン連合国家。

そして他国との一切の外交をしていない謎に包まれた軍事国家・ゼーカルマール帝国はルフニエル王国の東方にある。

これらは五大大国と呼ばれ、これら五つの国からこの世界は成り立っている。

また種族は人族、獣人族、魔人族、竜人族、魚人族の五種に分けられる。その他少数ではあるが巨人族や多椀族などもいるらしい。


歴史的に大きな出来事としては四十年以上前に起こった亜人戦争がある。これはゼーカルマール帝国がミスミティオン連合国家へ何の前触れもなく進軍。目的は人族以外の種族の排斥である。それに反発したシッフル国も参加し、世界を巻き込んだ戦争へと発展した。


もちろんルフニエル王国も無事では済まなかった。帝国の近隣にある村や町は焼き払われ多くの人が命を落とす。ミスミティオン連合国家やシッフル国も、ゼーカルマール帝国の軍事力に圧倒され防戦に徹する他なかった。

10年続いた戦争はおさまる気配もなく人々は帝国の襲来に恐れる日々だった。



だが後にこの戦争を鎮めることになる三人の英雄が現れる。


大賢者シーヤ、聖騎士ロゼッタ、大魔導師リーゼロッテである。


大賢者シーヤはルフニエル王国内でも名の通った精霊術師で、強力な大精霊を三体従えていた。精霊だけでなくシーヤ一人の戦闘力も高く、シノノメの国に伝わる体術と謎の術式を込めた道具を使う。


聖騎士ロゼッタ・クルールォは獣人族と人族の間の子、半人半獣のサイハテの地の出身。元は傭兵を生業としていたが、シーヤと出会い冒険者になる。獣人族の一部にのみ伝わる戦闘歩法「一心十歩」を駆使し、携えた「煌輝剣・シェラザハウィード」で斬りつける様は流麗にして豪快。褐色の肌に銀色の髪を揺らす、美しく強い戦士だったと言われる。


大魔導師リーゼロッテ・グライヴは元王宮魔術師で、王宮に訪れたシーヤとロゼッタに同行し共に帝国と戦った。元々王国内でも名の知れた魔術師ではあったが二人との旅で魔術師として更に力を付ける事となる。


彼らは突然現れてシッフル国で帝国軍を撃退、アスカルデの戦いでは帝国軍人幹部を次々と撃破、最後のルフニエル王国・ゼーカルマール帝国の国境で帝国軍を壊滅状態にして撤退させたと言う。


この話はリーゼロッテの手記から書籍化されており、題を「騎士は静かに頭を垂れる」として老若男女全ての世代から愛される英雄譚として語り継がれている。


ただし、とメロディの説明が入った。



「最後の国境での戦いの後、大魔導師リーゼロッテを残して大賢者シーヤと聖騎士ロゼッタは姿を消したのよ。跡形もなく、ただ王国と近隣の二国を救って」


「なるほど、三英雄か…ん?その、大魔導師リーゼロッテってどこいったんだ?」


「今は王都にある魔術学院の学院長をしてるよ。私はその魔術学院を卒業したの」


「ほおー、いつか会ってみたいね」



三英雄の一人とも聞くと胸がわくわくしてくるものである。会えるものならば会ってみたいと思うのは人の常だろう。



「ちょうどこの道は、シーヤとロゼッタが出会った場所だと言われてるよ」



この道はちょうど山と山に挟まれた盆地にある。

三英雄のうちの二人の軌跡をたどる形になって感慨深いなと思ったところで、何か頭のなかに引っかかった気がした。



「そう言えば、うちのオヤジが言ってたっけな。母さんとは森の中で出会って、悪漢に絡まれているところを助けた……あ?」



何故か頭のなかで今は別世界にいる母親と聖騎士ロゼッタが重なる。

褐色の肌、銀色の髪、一心十歩と呼ばれる歩法。


アキラの母親・霜月霖は褐色の肌で、銀色と呼べるかはわからないが根本から毛先まで見事な白い髪であった。

それにおよそ人とは思えないとんでもない運動神経を見せる事もあった。


ここまで考えた所で一つの結論に至る。



「いや、まさかウチの母親が異世界の英雄とかそんな事。ちょっと考え過ぎだよなー!」


「考え込んだり叫んだり、どうしたのアキラ?」



心配そうにメロディが顔を見てくる。



「いや、なんでもない。俺も英雄の子供に生まれてたらなとちょっと妄想膨らませてただけだよ」



いらぬ考えはエネルギーの無駄である。

そう納得させてアキラは目を閉じてしばしの休息に入った。



『存外その妄想も外れてないかもしれないけどね』



そしていつものように誰にも聞こえない声でココルルが一鳴きしたのだった。

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