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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第三幕 全面戦争
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閑話    『学園マギカアニマⅠ』

 四月、出会いの季節。教員として初めてクラスを受け持つことになったアキラ・シモツキは期待に胸を高鳴らせていた。今日が教師として最初の一歩目、生徒たちと熱く心に残る思い出を作るんだ。



ガララッ


教室の戸を開ける、そしてそのまま教壇へと登る。始めの言葉はもう決めてあった。



「おはよう!今日から担任になるアキラ・シモツキだ。君たちとは歳も近いので気軽に相談でも愚痴でもなんでも聞いていこうと思う、よろしく頼む!」



新米教師であるアキラが軽い自己紹介を終えると、生徒たちから拍手が上がる。なるほど、話がわからない類の生徒たちではないみたいだ。アキラはゆっくりと教室の中を見回してみた。



「せんせー、趣味はなんですかー?」


「趣味はなー、買い食いと昼寝だな!」


「せんせー、どこから来たんですか?」


「ヒカミ村って所からだ」


「先生、担当の授業は?」


「俺は攻撃魔術の担当になるなぁ」



トカゲ獣人の男子生徒が、人族の女子生徒が、竜人族の生徒が、他愛もない質問をしてくる。そのひとつひとつに丁寧に返しながら「教師っていいなぁ」と再確認する。


だがそのほんわかとした心は次の瞬間には見事に打ち砕かれる事になる。


ただ一人、新任教師のアキラを熱っぽく見つめる女子生徒が居た。



「アキラ先生、彼女はいますか?」

「いや、先生彼女は…」

「ではアキラ先生、好みのタイプは?」

「好みは…」

「アキラ先生の結婚相手に求める条件は?」

「え、あの……」

「アキラ先生、子供は何人欲しいですか?」

「ちょっ、君すごいグイグイ来るね!?」



えーっと、確かこの生徒は…リンデット。メロディ・リンデットだ。この周辺を治める連合国の貴族の娘であったはずだ。桃色の髪に緑色の瞳が特徴の女子生徒である。



「えーっと、Ms.リンデット?」

「メロディとお呼びください」


「わかった、メロディ。ちょっと落ち着こうか?」



この生徒、メロディ・リンデットの向けてくる視線は他の生徒のものとは明らかに違う。何か一種の猛禽類に獲物として見つめられているような、そんな恐怖さえ感じられた。


キーンコーンカーンコーン



(ホッ、とりあえず終わった…)



なんとも言えない空気をどうしようかと考え始めていたが、なんとか朝のHRの終了のチャイムが鳴った。



「で、では、これから宜しく頼むぞ!他に質問があれば、攻撃魔術演習教室にいるからそこまで来てくれ」



アキラは最後にそれだけ言うと、そそくさと教室を後にしたのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(やっと会えた……)



新任教師を見つめるその目は確かな想いを宿していた。



(アキラ先生…)



アキラが教室を後にしたその後も、彼女の瞳にだけは強く彼の姿が焼き付いていたのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




昼休憩、攻撃魔術演習教室。



「おぉぁぁあ……、移動だけでも割と疲れるもんだなぁ…」



この辺りでは一番大きな学校である為、教室間の移動もかなり遠い。端から端までとなると下手すれば授業に間に合わない可能性すらある。



「身体強化魔術を使うのが吉、か……」



そんな事を考えながら、家で作ってきた弁当を食べ終わりのんびりしていた時の事だった。部屋の扉がいきなり開け放たれたのだった。


「新任教師と聞いてきたんじゃが!」バァン


「おわっ!びっくりしたぁ…」



白い肌に時たま見える漆黒の表皮。頭には角を、背中には立派な翼を、腰からは大きな尻尾を生やしたその人は竜人族の女生徒で間違いなかった。

そしてその女生徒はそのままアキラへ拳を放ってきたのだった。



「ウオラァ!」


「うおおっ!あぶねえ!」



放たれた拳を最小限の動きで躱し、そして女生徒の腕を制した。竜人族の女生徒は驚きに目を見開いて、そのままわなわなと震えはじめた。



「わ、わしの攻撃を凌いだじゃと……!?」


「なんかよくわからんが、教師に手を出すのは良くないぞ?」



聞いたことがある。この学園にいる問題児の内の一人、竜人族のモミジ・クレハ。生徒でも教師でも関係なしに勝負を挑み、その尽くを一撃の拳のもとに沈めて来たという。



「お前、モミジ・クレハだな?一体何の目的で…」


「やっと見つけたわ!わしより強い男!!」



制していたはずの手がクルッと返されてそのまま抱きつかれた。突然のことにアキラは頭が回らないままでいた。



「ちょっと待て!どういう事だ!」


「わしゃあの、自分より強い男を探しとったんじゃ、婿にする為にのぅ。最初は決闘を申し込んでおったんじゃが誰も勝てんでのぉ。ハードルを下げて出会い頭の奇襲にしたんじゃ。それを初めて凌いだ、それがアキラ先生、おぬしじゃ!というわけで末永く宜しくのぅ!」



そう言って再び抱きついてくるモミジ・クレハ。振り払おうにも力が強すぎて無理だ。



「ぐっ、お前どこからそんな力をッ!!」


「アッキラ先生~、おべんと一緒に食べましょ……」



ちょうどその場に居合わせた生徒がいた。朝のHRでグイグイと質問をぶつけてきた女生徒、メロディ・リンデットである。



「アキラ先生、何を……」


「いや、あの、これはだな。ちょっと違くて」


「ふふんっ!」



抱きついたままモミジが鼻を鳴らす。いや、お前は何を得意げになってんだよ。



「のぉ、メロディ。遅かったようじゃの。アキラ先生はわしのモノじゃ。つい今しがた決まったことじゃけぇの!」


「だめだめだめ!アキラ先生はあたしの運命の人なの!誰にも邪魔はさせない!!」



二人の女生徒が腕を組み合って押し相撲をしている。なんだこの光景…。

とりあえず落ち着かせる為に二人の頭の上に拳を作って、それを垂直に落とした。



ゴチン!


「あいたぁ!」


「うぎゃっ!」



アキラの一撃で二人は落ち着いた。というかとりあえず冷静になれたようで、しばらく頭にできたたんこぶを抑えてジタバタした後には二人並んで座っていた。



「あ、ああ、アキラ先生ひどい!あたしの頭が変形したらどうするの!責任取って!!」


「角が折れるかと思ったわ!ひどすぎじゃ!責任を取れ!」


「お前らまずは落ち着け。飯も食ってないだろう?ほら、ここ座っていいから二人共まずは昼飯を食え」



アキラがガタゴトと椅子を動かして場所を作る。そこに素直に座ったメロディとモミジは素直にそれぞれの椅子に座ったのだった。



「モミジ、お前の目的はわかった。とりあえずその話は置いておく事にしよう。で、メロディ、お前は一体何が目的なんだ?」



椅子に座った後もたんこぶをさすっていたメロディはアキラの言葉にゆっくりと話し始めた。



「まずアキラ先生。あたしの事は覚えてない?」


「え?メロディの事…?あれ?」



アキラの記憶の中で桃髪の少女が笑う。この女生徒、どこかで見た覚えがある。



「もしかして、ルフニエル学園保育部のメロちゃんか?俺が高等部の頃に研修で世話した??」


「そうですそうです。それで、アキラ先生はその時の約束覚えてますか?」


「えっ…約束…?確か…」



~回想~


「(ごめんねメロちゃん、アキラ先生今日でお別れなんだ)」

「(やだやだ!アキラ先生いなくならないで!)」

「(むぅ、参ったなぁ)」

「(じゃあアキラ先生、あたしが大きくなったらケッコンしてくれる?そしたらあたし頑張れる)」

「(大きくなったらな、わかった、約束な)」


~回想終了~



「あ……」


「思い出したでしょ?思い出したよね?はいケッコン~、大きくなりましたから~。残念だったねモミジ、あたしとアキラ先生の物語は運命の赤い糸で優しくそれでいてしっかりと紡がれていたのでした~!」


「ええい!男は二人以上妻を娶る事が法律上可能じゃ!メロディ、お主だけでなくわしも結婚できるわけじゃ、ざまあみろ!」



女子の醜い争いが目の前で行われている。不毛すぎる。そしてこんな時に限ってさらなる問題が舞い込んでくるものである。



「先生!学級委員のロイスです!中等部のフェニクレインが男に絡まれた事で狂犬キールが暴れています!助けてください!」


「アキラ先生はいらっしゃいますか?防護魔術担当教師のシンシンですが、明日の会議の資料を……」


「はーい!行っけ行けドンドーン!体術担当教師ココルルでっす!アキラ先生、一緒に食後の運動に行かないかーい??」


「アキラ先生、失礼します。ここにロイス様が来ませんでしたか?…あら、ロイス様ここにいらっしゃったんですね?」


「ぬあっ、キク!?やめないかっ、やめっ、ふぁぁああ!!」



もうひっちゃかめっちゃかである。新米教師アキラの脳内処理能力を遥かに超えるイベントが一気に発生したのだった。



「アキラ先生、ケッコン!」

「アキラ先生、わしの婿に!」


「先生!キールが!!」

「ロイス様、そんな事よりこちらへ…」

「やめっ、アッー!」


「先生、あの会議資料を……」

「そんな事より食後の運動いっけいけドンドーン!!」


「ああ、もう教師イヤァァァアアアアア!!」



そんなアキラの叫びは学園中に届いたのだった。そしてその様子を静かに見守る者の姿があった。



「初日からこれだとさすがに吾輩も心配になるな…」



この学園の理事長、ルフニールであった。



「まぁ良いか、この学園に新しい風が吹くのは良いことだ」



彼は優しく微笑みながら、誰にも聞こえない声でそう呟くと、フッとその場から姿を消したのだった。

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