第五十三話 『ジャパニーズソウルフード爆撃』
とても久しぶりに皆の顔を見た気がする。同じ場所で試練を受けていたメロディでさえも殆ど同じくらい顔を見ていなかったのだ。二ヶ月ぶりに眠る大樹の前で会った時は抱きつかれ…と言うよりも、全身を強く抱擁によって拘束されたのだった。
そこから紆余曲折を経てここ、ラケッソ村までやってきたのだった。
「イズモばあちゃん、手伝おうか?」
「ええよええよ、ゆっくりしとき。じいさんとばあさんに任せんさい」
料理を用意してくれている祖父母を手伝おうとするもやんわりと断られてしまった。頭をかきながら部屋に戻ると、皆が顔を向けて「おかえり」を言ってきた。なんとなく目頭の奥が熱くなる感覚を覚えながらも自分の席に着いた。
「あれ?ここ上座じゃね?」
「かみざ?」
意味がわからないのであろう、隣のメロディがオウム返しで疑問を向けてくる。
「おおー、なんじゃアキラ。シノノメ作法の心得があるようじゃの?」
「いや、まあ、俺の故郷でも似たようなものがあってだな…。で、なんで俺が上座なんだ?」
アキラの問いにはキールたちはさも当然といった顔で答えた。
「そりゃそうだろう、この場の全員はアキラのおかげで知り合えたんだ。リーダーはアキラだろ」
「その通りです。アキラ師匠が居なければ私もこの場に居なかったでしょうし」
「アキラさんがいなければ、私がロイス様に出会うこともなかったです」
アキラのおかげであると言われて頭の中で考えるも、実感が全くわかない。むしろ消極的な思考ばかりが頭に浮かぶ。今自分がいるポジションが自分以外の誰かであっても同じように事が進んだだろう、と思ってしまう。
「あたしはアキラじゃないと嫌だよ」
メロディが唐突に刺さる言葉を向けてきた。今のアキラの思考に対して非常に有効な一打である。
「あたしは、アキラがいいよ」
「え、何メロディ。心が読めるの?」
「なんとなく、そんな顔してたから」
「わしもアキラじゃないと嫌じゃし、アキラがいいぞ!本当じゃ!」
モミジまで会話に参加してくる始末である。二人共泣かせてくれるじゃねぇか…。
「私もアキラが良いもんねー!そいやっそいやっ!」
「右に同じく、吾輩もそう思う」
「私もアキラが良いです!」
精霊三人も便乗してきた。ぽ、ぽまえら……。
「はいはい、しんみりしとるとこごめんじゃけど、料理運ぶけぇね~」
「コォラ、孫よ!男は簡単に泣くものじゃあないぞ!!」
ヤシモとイズモが大小様々な更に盛られた料理を運んできた。その一つ一つがアキラにとっては思い入れのあるものであった。
「私たちも初めて作ったけぇね、上手くできとるかはわからんよ?」
「しかしアキラよ、お前は本当に不思議な料理ばかり知っておるのだなぁ!!」
フフフフフ・・・。ウワッハッハッハ!!とそれぞれ笑い散らしながら二人は行ってしまった。運ばれてきた料理、それは……。
「ア、アア、アキラ!コロッケがあるよ!コロッケが!その横は何?え、コロッケ??これもコロッケ?はうっ、コロッケコロッケ、ころころでしゅ!コロッケころころでしゅ!」
「大丈夫かよ…もう半分壊れてるだろメロディ…」
コロッケの存在に気付いて壊れるメロディ。確かに二ヶ月ぶりのまともな食物だと思うと尚愛おしいのだろう。
「まあこれとこれはコロッケだが、こっちのはメンチカツって言うんだよ」
「めんちかつ?なあにそれ?」
「まあ、肉を細かくすり潰した具が入ってるんだよ。コロッケの馬鈴薯が肉になった感じ」
「なるほど!コロッケの親戚ってわけね…!!」
違うっちゃ違うけど、詳しいツッコミはしない事にする。するとキールがとある肉料理に興味を持ったみたいでそれについて聞いてきた。
「アキラ、こっちの円形の肉料理はなんだ?」
「さすがキール、それに目をつけるとはお目が高い。そりゃハンバーグって言うんだよ。しかも聞いて驚け、そいつはチーズinだ」
「ちーずいん?」
「二つに切ってみな」
「お、おう…」
キールがナイフを手にとってハンバーグに切れ目を入れる。すると肉汁と共にトロっととろけるチーズが溢れ出した。
「うおー!!なんだこれ!!チーズがイン、って事か!!」
「その通り、すげーうめぇぞ?」
その料理一つ一つに目を輝かせていたフェニクレインも何かを見つけたようだ。珍しくアキラの裾を引いて聞いてきた。
「アキラ、アキラ!あのコロッケやメンチカツによく似た平べったいのは何ですぅ?」
「ありゃ豚カツだな。切っていいぞ」
「はわっ!本当ですか?では僭越ながらこのフェニクレインめが切らせていただくですぅ…!」
フェニクレインが豚カツを切っていく。その度にサクサクと音を鳴らしながら豚カツは一口大に切られていった。
「うあぁあ!サクサクの中にどでかい肉があるですぅ!!」
「あれがまた格別なんだよ」
この世界にも牛豚鶏などの動物がいるようでとても助かった。こうやって懐かしい料理を口にすることができるのだから。
「アキラ、あれはなんじゃ?」
そう言いながらモミジが指差したのはポテトサラダである。ちなみにマヨネーズは卵、菜種油、胡椒、酢が手に入ったので簡単に作ることができた。
「あれはな…モミジ…」
「う、うむ…なんなんじゃ…?」
「トロピカル馬鈴薯マウンテンだ」
「ト、トロピカル馬鈴薯マウンテン…!!!????」
適当に思いついた言葉を並べただけだったが、モミジは大きく反応したのだった。
「トロピカル馬鈴薯マウンテンとはなんじゃ!?い、一体あれは…!!」
「馬鈴薯を奇跡の調味料“マヨネーズ”で味付けした最高にクールでナイスな奴だぜ?」
「まよねーず……?」
やはりピンと来ないようだ。この世界にはマヨネーズがないのだから致し方ないと言えば仕方ない。
「そう思って味見用マヨを用意してあるぜ。皆ぺろっとしてみなされ」
「うむ!いただき…あむっ……!!????」
モミジはマヨを口に含むと、目を見開いて立ち上がった。
「あ……あがっ、うっ…ぐ…あぁ………」
「モミモミ、どうしたの!苦しいの…!?」
苦しみあえぐ様子のモミジに声をかけるメロディ。だが当のモミジは直後には天を仰ぎ、とても大きな声で叫んだ。
「うがぁ…あぁああ、うましッ!!!!」
その言葉を聞いて全員がマヨを口にかき込む。
「どっひゃー!こいつはうめぇ!!」
「病みつきになるですぅ!」
「師匠!これは何なのですか!?」
「んっ…粘っこい…」
そして三人の精霊たちも。
「あぁ~、口の中がお祭りなんじゃぁ~!」
「これはうまい!ルフニール印一枚進呈!!」
「酸っぱいけど癖になる不思議な味…」
素晴らしい評価であった。最後に乗り遅れたメロディが、あたふたしながらマヨを口に突っ込んだ。
「マ…マ……まほらばッ!!?」
「ちなみにコロッケに付けたらクドいからやめとけよ?」
その他にも、チキン南蛮、ラーメン、刺し身、唐揚げ、天ぷら、親子丼、餃子、肉じゃがなどなるべく再現して出してもらった。やはりある程度シノノメの国の食文化に通ずるものがあるみたいで、イメージを伝えるとヤシモもイズモもいい感じに仕上げてくれた。
兎にも角にも、アキラの“ジャパニーズソウルフード爆撃”は成功したのだ。
「さてさて、料理も揃ったことだし、募る話でもしていこうか」
アキラの一声で皆が席に着く。そして食事をしながら互いの修行の成果の報告を始めたのだった。




