第五十二話 『久々の六人プラス四人の精霊』
ラケッソ村へ最初に着いたのはロイスとキクであった。ラケッソ村はルフニエル王国の中で一番ミスミティオン連合国家に近い場所にある。またリンデット邸がある首都からラケッソまでは歩いてでも行ける距離、その為誰よりも早く到着することができたのである。
「竜人の台所か…」
「ロイス様、あちらのようですよ」
ロイスの手を取ってキクが誘導する。最早長年連れ添った夫婦のようである。そして宿屋《竜人の台所》の玄関をくぐると、中にはシノノメ仕様の見事な装飾が施されていた。
「ごめんください。ロイス・ロイフェンとキク・ティシマだが……」
「うぉっほん!」
「ロ、ロイス・ロイフェンとキク・ロイフェンですが!!」
キクに「違うだろ」の意の咳払いと拳を脇腹に受けたロイスがそのように言い直した。すると奥からぱたぱたと竜人の女性が小走りでやってきた。
「はいはい~。あら、ロイス君とキクちゃんね?アキラがお世話になっております~。あんた、アキラのお友達が来たわよ~!」
竜人の女性が奥へ向けて言葉を投げかけると、奥からとてつもない足音で何かが迫ってくるのがわかった。
「うぉぉぉぉおおおおお!!孫よぉぉぉおおおおお!!」ズドドドドド!!
「な、なんだなんだ!?」
「ロイス様!何かが来ます!!」
廊下の角を曲がってこちらに向かって来た人物は、見たところ髭を生やした竜人の男性である。その人はロイスとキクの元へ到着すると大きな腕で二人を抱え上げたのだった。
「我が孫よぉぉおおお!!」
「ふぇぇあっ!?」
キクが小さく驚きの声を上げるも、当の竜人の男は気にしていない様子でぶっきらぼうに返した。
「俺の孫の友ならば、俺にとっては孫も同然だ!!ゆっくりしていくといいぞ!!」
竜人の男性はウワッハッハッハ!と大きく笑ってから抱き上げていたロイスとキクを下ろした。そして笑いながら奥へ戻っていってしまった。
「あら、ごめんなさいね。あの人いつもあんな感じだから…」
「お気になさらず…!」
アキラの父親の育ての親とは聞いていたが、あんなにキャラが濃いとは露程にも思っていなかった。
「ふふ…すごい変人でしょう?でも、あなたたちが来るのをとても楽しみにしていたのよ」
ロイスたちの胸中を察したのか女性がそんな事を言ってくる。どう返事をしようか考えていると「どうぞこちらへ~」と部屋へ通されてしまった。それからしばらくは二人で、残りの四人の到着を待つことになったのだった。
「たのもー!モミジとキールじゃ!」
「あらあら、いらっしゃい~」
「ふぉぉぉおおお!孫よぉぉぉおおお!!」
「ぐぇぇぇぇええ!」
どうやらキールとモミジも到着したようだが、例の通過儀礼を受けている様子であった。
「お部屋はとりあえずこちらへ。もうしばらくお待ちくださいね~」
アキラの祖母がキールとモミジをこの部屋に連れてくる。久々の顔合わせである。
「おぉー、ロイスとキク!久しぶりじゃのぅ……ん?ロイスはなんか痩せたのぅ?」
「ええ、少し細くなりましたね…」
ロイスが自分のお腹の辺りをさすりながら答える。
「ま、皆変わり無いようでよかったぜ。アキラとメロディはまだか」
「ですね、私たちが最初ですので。師匠たちはまだ来てないですね」
キールが辺りを見回しながらアキラとメロディが居ない事を口にする。そう、アキラとメロディは未だに到着していないのだ。
「全く、何をやっとるんじゃ!久々じゃと言うに…」
「まぁまぁ、アキラたちにもいろいろあるんだろうさ」
ぶつくさと言うモミジをキールがなだめる。
「気長に待とうぜ。ふぁあ…、俺はしばらく昼寝するわ」
キールの一言で皆が各々休憩を始める。適当にゆっくりぐだぐだとしながら、四人はアキラとメロディの到着を待ったのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じいちゃん、ばあちゃん久しぶり!」
「うぉぉぉおおおお!孫よぉぉぉおおお!」
「ヴェポラップ!!?」
「あ、あの…お祖父様、アキラの首が極まってます」
昼にかかろうかという頃になってから、アキラとメロディが宿屋へ着いた。そして例にも漏れず同じように四人がいる部屋へと入ってきた。
「皆久しぶり…うおっ!ロイス痩せすぎじゃね!?キールは逞しくなってるし、モミジは…なんだか落ち着いたな?キクは目の下のクマがすげぇけど、ちゃんと寝てるか?」
入ってきたアキラが部屋の中の四人を見渡してそう言った。彼自身も随分と逞しくなった印象があるがそれと同じくキールたちも二ヶ月前よりも成長しているようであった。
「みんなお久しブリッツ!」
アキラの後ろからメロディがちょこんと顔を出した。そして彼女の変化に対して四人が驚く。
「メ、メロディ…髪はどうしたんじゃ……?」
「え?あー、これ?いや、ちょっと整える暇がなくてですね…」
普段のメロディは三つ編みを二つにして後ろにする、所謂三つ編みツインテールの髪型をしていたのだが、今は腰ほどまで伸びた癖っ毛を結ばずにだらしなく流してある。
「後で俺が結んでやる。自分でも三つ編みできるようになれよー」
「アキラがやったほうが絶対キレイになるもん。だからこれからもお願い」
その会話でキールがとある疑問を抱く。
「んー?ちょっと待てよ。メロディの三つ編みツインテールって、メロディが自分でセットしてるんじゃあないのか?」
「いや、自分でやる時は後ろで一つにくくる程度。三つ編みはあたしがやると下手だから全部アキラにやってもらってるよ?」
「なんだと……」
キールは驚愕した。もちろんキールだけではなくモミジやロイス、キクも驚いていたのだが。メロディのトレードマークとも言える三つ編みツインテールは、なんとアキラがずっとセットしていたと言うのだ。
「わ、わしもそれは知らんじゃった……」
「そりゃそうだよ。モミジが知らない所でこそこそやってもらってたし」
こりゃ完全に本妻確定だなとキールが思考を巡らせていると、ドタドタと音を立てて三人の人物が部屋に流れ込んできた。
「ピッチャービビってる!?ヘイヘイヘイ!!」
「久しぶりだな皆の衆。吾輩は嬉しいぞ」
「皆さんお久しぶりです……」
ココルル、ルフニール(男)、シンシンの三人であった。
「ん?あれ?ココルルたちもなんか雰囲気変わった?」
「そこに気付くとはさすがはキール…褒めてつかわす!カッカッカ!」
人の姿の三人の精霊の姿が少しずつではあるが変化している。ココルルは以前より髪が伸びた為か後ろに三つ編みでまとめており、そして以前の灰色の毛皮の軽装が漆黒の毛皮の鎧へと変わっている。ルフニールはシノノメ着物からシノノメの鎧へと装備を変えているし、シンシンは体のラインがわかるほどにフィットしたスーツを着ているのだ。
「アキラが精霊術師として成長した為か、吾輩たちの姿も多少変化があったみたいだ」
「そうですね、私たちも随分と力を取り戻したみたいです…」
「ん?シンシンはいつからそんなハキハキと話すようになったんじゃ?」
モミジの疑問にシンシンは照れながら答えた。
「そ、それも…アキラの影響だと思います、はい…」
「なるほどのぅ…。おお、そういえばフェニクレインも随分と変化しておったのぉ!ほれキール」
「ああ、フェニー、出て来いよ!」
ココルルと話して盛り上がっていたキールがフェニクレインを呼ぶ。
するとキールの後ろからすすっと現れたのは小さな赤髪の少女。
「お、おっす!ボク、フェニクレインっす、うっす!」
「うわ!でかくなってる!!」
そう声を上げたのはアキラ。メロディたちも口々に「おおきくなったねー!」と言っている。その中心で照れくさそうにフェニクレインは笑っていた。その見た目は以前の少女のものではなくすっかり大人の女性の姿になっていたのだった。
「まあ体はでかくなったが、他はあまり変わっていないんだよな」
「え、そうなの?」
「うわぁあ、キール!それは言わない約束だったはずですぅぅ…!!」
キールがあっさりとアキラに漏らすと、フェニクレインが腕をブンブン回しながらこちらへ向かってきた。
「うわあ!体が大きくなってんだからそれはもうシャレにならねえよ!」
「約束を破ったキールへのささやかな仕返しですぅ!!」
逃げるキールとそれを追うフェニクレイン。それを見て他の五人と三人の精霊が笑い合う。こうしてラケッソ村のとある宿屋にて、久々に皆が集まったのだった。
「キール!ボクの拳を受けるですぅ!」
「うあああ!いててて!やめろフェニー!!」
二人の追いかけっこはしばらく、続いたのだった。




