第四十六話 『全員が揃う最後の夜』
大男の重い攻撃を凌ぎ切るのでキールは精一杯だった。相手はキールと同じパワータイプ。だが力の差は歴然であった。
「ああっ、くそっ!ソル・エールデ!!」
「だからそれは効かねェってよォ」
それにキールの得意の土属性の魔術を無効化してしまうと言う謎の能力を使われているのだ。防戦一方に徹する他なかった。
「そろそろ飽きて来たしよォ。終わりにするぜェ?」
大男が左手でキールを掴み上げた。そして土をまとった巨大な槌と化した右腕をキールに向かって振り下ろした。
首から撃ち込まれた攻撃でキールは潰れ、大男の左手から血が流れた。
「あがいてくれるかと思ったんだがなァ。最後はあっけないもんだねェ」
もう人の姿ではなくなったキールを投げ捨てると、大男は眼下のシッフル国を見下ろした。
「クックック、皇帝陛下。これからシッフルの地を貴方様の物へ致しますのでねェ」
「そうは問屋が卸さねえんだわ」
大男がゆっくり振り返ると、キールを投げ捨てた場所で大きく炎が上がっていた。そしてその中から炎をまとったキールが現れる。
「おいおい、なんだそれはァ?情報にはない能力だなァ…」
「知らなくていい」
まだ完全に形成されていない体でキールが大男に突っ込む。大男は余裕の表情でそれを受けようとする。
「ハッ!火が相手なら土でもみ消せば…あァ?」
大男は余裕の表情から一変、気味の悪い物を見たといった顔をしていた。
「なんだお前、それはァ…?」
「さあ、なんだろうな」
キールが掴んだ大男の腕が、それを払おうとしたもう片方の手が完全に凍りついてしまったのである。だが直ぐに大男は笑みを浮かべる。
「いくら俺の体を壊してもなァ、土がありゃいくらでも再生できんだよォ!」
大男の笑みに対してキールも笑みを浮かべた。その光景だけ見ればとても不気味なものであるが。
「あいにくと、その土とやらもここら一体ご覧の通りでね」
キールの目配せに釣られて大男も周りを見る。するとこの辺一体の大地は全て氷漬けになっており、大男が土を使って何か行動を起こすのは無理である事が分かった。
「なんだこれはァ!?」
「お前の方が終わりって事だよ!ウラァ!!」
キールが手甲による攻撃を当てようとした時だった。
「そこまでだよ!」
「……!??」
怪しげな女の声と共にキールの体が動かなくなったのだ。いつの間にかキールと大男の頭上に現れた女の後ろでは紫色の闇が空間を歪めて漂っていた。
「その男にはここで死なれちゃ困るんだよ。帰るよディケル」
「あァ、くそ!お前キールとか言ったな、覚えてやがれェ。次はこうは行かねェからな!」
動けないままのキールを残して怪しげな女と大男が作り出された闇の中に消えていく。二人の気配が完全に消えてから、キールの体の自由が戻ったのだった。
「なんだ、あいつら…」
『あまり良くない力を感じたですね』
鳥の姿のフェニクレインがキールの頭の上でそう呟く。そしてその直後にはとある二人がキールの元へと走ってきた。
「おーい、キール大丈夫か?ってなんだ、このスケートリンクは!」
「キール、怪我はない?」
アキラとメロディであった。二人はキールの無事を確かめると、キールがつい先程遭遇したモノについて聞いてきた。
「それはそうとキール。さっきすげえ気持ち悪いマナを感じだんだけど、何かいたか?」
「ああ、土を操る馬鹿力のある土人間と、怪しい術を使う女がいたな。二人共アキラのゲートの魔術の要領で消えていったよ。どうやらあいつらは帝国の者のようだった」
それを聞くとアキラは手を顎に当てて考え込む。そして一つの結論を出した。
「とりあえずシグルドさんに伝えよう。あとフェル爺……、ルフニエル国王にもな」
メロディとキールは静かに頷くと、アキラと一緒にゲートの魔術でシッフル国へと戻っていった。
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「話は分かった。あまり良くない傾向だな」
シグルドはアキラたちの報告に短く答えた。少しずつ顕著になってきた帝国の影に対して、何か対策を練らないといけない、そう考えていたのだ。
「相手が国ともなると、魔獣ハンターを出すわけには行かない。ルフニエル王国にも協力をして頂きたい所だな」
「それには全面的に協力じゃよ」
シグルドの言葉に小汚い服を着た老人が答えた。老人を見ると皆が同時に驚いた。それもそのはず、老人が発言するその瞬間までアキラ以外の全員が彼の存在を認識できていなかったのだから。
「そう皆で見るでない。恥ずかしいじゃろうが」
「フェル爺―!」
メロディがフェルゼーの手を取ってぶんぶんと振って再会を喜ぶ。フェルゼーはなされるがままで「ほっ、ほっ、メロディちゃんは元気じゃなあ」と言いながら振り回されていた。
「フェルゼーさん、お久しぶりです」
「うむ、シグルド。お前も元気そうじゃな」
シグルドが深々と頭を下げると、フェルゼーは「よい、よい」と言って握手をしていた。
「ところで、元騎士団のロイス・ロイフェンと、その嫁のキクはどこじゃ?確かおったじゃろう?」
「よくご存知ですね」
アキラが答えるとフェルゼーは「精霊たちの噂じゃ」と言って舌をぺろっと出した。
「二人もキールと同じく帝国の者と遭遇したみたいで、どちらも大怪我で今は眠っているんだ。シンシンの治療で大事には至ってない状態だ」
『うきゅ!』
アキラがシンシンの頭を撫でながら答えた。ロイスとキクだが、アキラが見つけた時には二人共全身大火傷の状態で見つかった。直ぐにシンシンの体液治療を行ったので傷ひとつない状態まで回復しているのだが、体力を消耗しているようでずっと眠っている。
「芳しくないようじゃのぉ。うむ、わかった。わしから提案がある」
フェルゼーは以前のへらへらした雰囲気とは一転、とても鋭い目つきをしていた。
「お主らの魔獣ハンターとしての腕は超一流、今や一軍隊とも渡り合えるほどじゃ。若いお主らに重荷を背負わせてしまうのは心苦しいが、帝国と戦ってほしい。そこでじゃ」
フェルゼーがびしっと人差し指を天井に向けて変なポーズを取った。今までのシリアスな雰囲気が台無しである。
「お主ら、修行をせい」
「意外と普通の事言うんだなフェル爺」
アキラのツッコミに対して「やかましぃ!」と返すとフェルゼーは補足を加え始めた。
「まあやってもらうことはいままでと同じじゃ。キール、お主はシノノメの国で。モミジ、お主はここ、シッフルの地で。そしてこの場には居らんがキクとロイスはミスミティオン連合国家で。そしてアキラとメロディ、お主らはイルシオン大森林でそれぞれ修行をせよ」
あまりにも準備し尽くされた計画に、アキラが疑問を持った。
「待ってくれフェル爺。用意が周到すぎないか?なんでそこまで」
「シーヤとロゼッタが少し前に訪ねて来たんじゃ」
その言葉にその場の全員が驚愕する。亜人戦争を終結させ、帝国を退けた後に存在を消した二人の英雄。そしてアキラの両親でもある。その二人がフェルゼーへ顔を出したというのだから。
「ロゼッタの持つ煌輝剣シェラザハウィードと冥滅剣ミスティブルヘリアはそれぞれ時間と空間に干渉する神の剣じゃ。その二つがどうも最近世界の時空の綻びを感じ取っておるらしい。わしにもようわからんが、帝国を止めねばこの世界も危うい…とな」
フェルゼーの言葉は抽象的だ。だがアキラは、現状帝国に立ち向かう事が両親に会う近道であるのではないかと、そう思ってしまった。
「わかった、俺は行くよ。イルシオン大森林に」
「あたしも!」
アキラに続いてメロディが答えた。
「俺はシノノメの国だったな、強くなってやるぜ!」
「わしはシッフルかのぅ。しばし世話になるぞ!」
キールが力強く、モミジは胸に手を当てて答える。
「私も…ミスミティオンへ行こう……」
「ロイス様、あまり無理をしては…」
隣の部屋で寝かされていたはずのロイスが、キクに肩を担がれた状態でその場に現れた。二人もある程度話を聞いたようで修行の意志があった。
「うむ、わしらは国の軍を強化せねばならぬ。のう、シグルド?」
「ええ、もちろんです」
「ミスミティオンにはわしから話を通しておく。それでなんとかなるじゃろう」
トントン拍子で話が進んでいくが、アキラにはもう一つだけ疑問があった。
「フェル爺。俺たちは現地で何をしたらいいんだ?」
「良い質問じゃ!フェルゼー印一枚進呈!!…はいいとして、それぞれ現地に師匠となるべき人物を配置しておる。しばらくは周辺の魔獣狩りをしながら師に付いて修行をすれば良い」
なるほどなと全員が納得する。つまり当面は魔獣ハンターとして活動しながら師匠に教えを請う、という事だろう。
「よし、話が進みすぎて俺もわけわからねぇが。また会おう。次会う時は帝国と戦う時だ」
アキラが手を出す。そこへ重ねるように五人が、そして精霊の四人までもが手を差し出してきた。
「打倒、帝国、頑張るぞォ!!」
「「「「「「オオォーーー!!!」」」」」」
こうして全員が打倒帝国を心にした一日は終わっていったのだった。




