第四十話 『ラグスト家の人たち』
食事は粛々と行われた。シグルド国王がいると言っても、他のメンバーはいつもの六人であったので緊張はしていなかった。静かに食器の鳴る音だけがする空間でふいにシグルドが話し始める。
「き、キール。お前たちはいつもこんな静かな中で食事をするのか?」
「いや、親父がいるからみんな遠慮してるんだと思うよ」
「そうなのか…?皆、キールの友人ということだし遠慮はいらんぞ。家族だと思って自由にしてくれ」
その言葉で皆が正していた姿勢を崩す。ある一定の緊張が解れた瞬間だった。
「ふああ……ちょっと気が楽になった…」
「そうじゃな…さすがのわしでも気を張ってしもうた」
メロディとモミジがそう漏らす。シグルドはその様子を見て静かに微笑んだ。元来彼はこのような仲睦まじい雰囲気が好きなのかもしれない。
「む、それはそうとアキラ君。君は精霊術師と言ったね。精霊の子たちは呼ばなくていいのか?」
「んー、いつも呼ばなくても勝手に出てきますからね。遠慮してるんだと思います」
「そうか。せっかくだから一緒に食べたらいい。うちの専属シェフのとっておきだからね」
シグルドにそう言われたアキラは三人の精霊を呼ぶことにした。
「ココルル」
『あい、ココルルでやんす』
「シンシン」
『うきゅ、きゅきゅう!』
「ルフニール」
『がう』
アキラの懐、肩、頭の上にそれぞれ小さく精霊たちが顕現した。いつぞやの“あーん”の時の“食べさせろ体勢”である。その様子を見たシグルドが喜びの表情を浮かべる。
「おお!ヤクモと同じ精霊たちではないか!やはり親が親なら子は子だな!」
「なんかそれ褒められてる気がしません」
アキラの返しにがっはっはと大きく笑ったシグルドは、精霊たちの分の食事を出すように専属シェフへと声をかける。
「アイナス、彼らの分も出してもらえるかな?」
「ウィ、国王陛下。かしこまァーりました」
アイナスと呼ばれた独特の訛りの獣人はペコっとお辞儀をしてから二度手を叩いた。するとどこからか同じ格好をした二人の料理人が料理の乗った皿を持って現れた。
「精ィー霊が何を食ァーべるかわかりませんが、皆様と同ァーじ物をお出しいィーたしました」
「おっと、すまねえ親父。もう一人分お願いしていいか」
出された料理を精霊たちに“あーん”しているとキールがそんな事を言い出す。言わずもがなフェニクレインの分であるのだが。
「おや?アキラ君はまだ精霊を連れているのか?凄いな」
「いや親父、俺のパートナーなんだ」
キールの返しに目を見開いて驚くキール。そこまで驚くことだろうか。
「なんだと!?キールお前いつから精霊術師に!?」
「いろいろあってな。フェニクレイン、出てきていいぞ」
すると体の大きなキールの後ろから赤い塊がちょこんと顔を出す。フェニクレインが顔だけを覗かせてシグルドを見ていた。
「あ、あの…どーもです…」
「き、君がキールの契約精霊なのか…?」
「フェニクレインと申します、よろしくですぅ」
フェニクレインがおずおずと出した手を取って握手の形にするシグルド。直後ハッと何かを思い出したような顔になって席から立ち上がった。
「い、いい、いかん!!イオンと母上にキールが帰ってきた事を伝えていない!!こうしてはおれん!!」
血相を変えて部屋を飛び出すシグルド、これにはアキラ一行もキールでさえもビックリしていた。
「イオンと母上って誰ぞな?」
「俺の母ちゃんとばあちゃんの事だな。まあ見とけって」
キールは深くため息をついてから再び食物を口に運んだのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あなた?キールが帰ってきたと言うのに、何故すぐ伝えなかったのかしら?」
「い、いえ…特に理由はございません…」
「だいたいあなたはですね、いつもいつもガミガミガミガミ……」
数分後に二人の女性を連れて帰ってきたシグルドは、首根っこを掴まれた猫のようになっていた。名前は母親がイオン、祖母がルシアだと言う。二人ともシグルドやキールと同じ獅子系の獣人であった。
「それより、キールが精霊術師になっておると聞いた。よく見せておくれ」
静かな怒りを表すイオンとは反対にルシアは優しい口調であった。
「おう!フェニクレイン、俺の母さんとばあちゃんだ」
「フェニ…クレインです…よろしく、です」
フェニクレインを見たルシアの顔がぱあっと明るくなる。そしてフェニクレインに抱きついた。
「よくやったよキール!あんたはシッフルの誇りさ!こんな可愛い子連れてきて!」
「あ、あうー…お祖母様苦しいですぅ…」
ルシアの腕の中でふにゃふにゃになるフェニクレイン。その様子を見ていたイオンがキールに言った。
「ところでキール。あなたはまた旅に出るつもり?」
「あ、ああ。そのつもりだ」
厳しい母親の顔であった。だがキールも引かずにイオンを見つめる。
しばしの沈黙の後に、目を閉じたイオンが静かに言った。
「そう、わかったわ。体には気をつけるのよ」
「ありがとう母さん」
それだけ交わすとイオンがキールを抱きしめた。詳しい事はわからないが、キールは母親の反対を押し切って飛び出したとかそういうことなのだろうか。
そうこうしていると遠くからキールを呼ぶ声が聞こえてきた
「キール様ぁぁぁああああ!!」
「ゲッ!来やがった!!」
つい先程の血相を変えたシグルドと同じ顔をするキール。なるほどさすが親子である。
「マイーシャだ!アキラ、俺を隠してくれ!!」
「え、いや、無理っしょ」
認識阻害の魔術を使いたかったのだろうが、当のルフニールはアキラの頭の上でたれどらごんと化しているのでダメだ。キールがあたふたしていると先程の声の主がキールに飛びついた。
「キール様!帰ってきたのならマイーシャのところへ来てくださらないと、分からないではないですか!」
件のマイーシャ・オルクスは背の小さな猫獣人であった。フェニクレインと同じかそれよりも小さいくらいの彼女を見たアキラとメロディが同時に叫ぶ。
「「やっぱりロリコンだァーー!!」」
「ばっか、そんなんじゃねえって!!」
キールにひっついたまま頬ずりをするマイーシャを振り払おうとしながらキールが反論をする。
「ロリコンじゃな」
「ロリコンですな」
「ロリコンですね」
「本当に違うから!なんなのそれ?ええ?何いじりなの?」
モミジ、ロイス、キクの順でキールをいじる。
『ロリコンだ』
『うきゅきゅう』
『がうがう』
「ロリコンですぅ」
「え、何?今日は俺が皆にいじられる日なのか??そうなのか!?うがぁ!!」
精霊たちにまでいじられたキールが少しじたばたした後頭に手を当て天井を仰いだ。そしてそのまま動かなくなる。
「おい、キール!キール…?うわあっ!!」
キールの様子を見たアキラが驚き飛び退いた。
「ん?どうしたの?わあ!」
メロディがキールの顔を覗き込むとアキラと同じように飛び退いてこう言った。
「し、死んでる…。じゃなくて、気絶してる…!」
過度にロリコンいじりをすると気絶する。キールの生態に一項目、情報が追加されたのだった。




