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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第二幕 城塞都市ノルデンミスト
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幕間Ⅲ話  『シッフル平野防衛戦』

「帝国軍はどこまで進軍してきている!?」



壮年の犬獣人男が叫ぶ。泥にまみれた汚い顔で斥候部隊の者へ現状の確認をする。



「もう目と鼻の先と言っても良い。シッフルの陥落もまもなくだろうな…」



同じく壮年の猫獣人が帝国軍の状態を報告する。



「クソ…なぜここまで情報が遅れた?まさか裏切り者が…」



否、そうではなかった。疑心暗鬼に陥るほどにゼーカルマール帝国の作戦は精密且つ、戦略的であったのだ。



「だいたいあの冒険者たちはどこに行ったんだ!?まさかこの事態に逃げ出したんじゃ…」


「俺ならここだぞ」



二人の男だけではない。ここには二百人近くの兵が居る。だがその誰もが“その人物”の存在を認識できなかったのだ。



「そう変な顔をしないでくれるか?一応、国王様に頼まれて助けに来てるんだから」


「シグルド様が…?」



このシッフル国では今未曾有の事態が発生していた。急な帝国軍の攻撃。先に気づいたのは冒険者であるこの男であるのだが。



「ロゼッタとリーゼロッテは既に別の場所で交戦中だ。ここは俺が相手する。だから念の為本陣まで戻ってくれるかね。前衛は俺達で抑えるから、こぼれた兵だけなんとかしてくれるか?」


「む…国王の使いならば仕方ない…。退くぞ!本陣まで戻れ!」



隊長格である壮年の犬獣人が叫ぶと、皆がぞろぞろと本陣へ戻り始める。


それを見ながら冒険者であるヤクモはぼそりと呟く。



「やれやれ、皆が引いてくれないとこの術式じゃ巻き込んでしまうからな」



ヤクモは一定の場所に座ったまま動かず、マナを術式へと練り上げ続けた。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「焦熱…太陽の熱…ファロ・フォーユ」



ヤクモのいた場所より西の区画ではリーゼロッテ・グライヴが数千の帝国兵と戦っていた。



「ファロ・フォーユ……ファロ・フォーユ……」


「お、おい…あの魔術師様、火の上級魔法を無詠唱で連発しているぞ…」


「俺たち何のためにここに配備されたんだ…」



迫りくる帝国兵をリーゼロッテが無慈悲に一方的に焼き尽くしていた。



「差別はダメ…私許さないし……ファロ・フォーユ…」



リーゼロッテの持つ長杖の先に集まったマナが巨大な火の塊となって集まる。そしてそれをまるで流星群のように敵の頭上に降らせる。ただそれだけではない、マナによって完全に制御された火球は帝国兵の一人ひとりに確実に当たっていた。



「慈悲もなし…」


「こんにちは魔術師さん」



突然にリーゼロッテの火の魔術がかき消される。場にそぐわない挨拶と共に女が現れて無数の炎を消し去ったからだ。



「挨拶をしているのに返してくれないだなんてつまらないね」


「誰…」



リーゼロッテの困惑を前に、水の玉を手の上に浮かべる女はニンマリと笑みを浮かべた。



「帝国十二狂月、6番目水使いのジュア。これよりあなたの火は何の意味もなさなくなるわ!」



ジュアと名乗った女が水を操ってリーゼロッテの体を包み込む。魔術や人の力で干渉できない帝国十二狂月の異能力。知ってはいたがいざ目の当たりにすると、なるほど歪な能力である。



「可哀想……魔術のすばらしさを知らないなんて…」


「ええ?いいのよ、魔術なんて無くても。私たちは皇帝に選ばれた精鋭なのだから」



ジュアの操る水がリーゼロッテを窒息させんとする。リーゼロッテの体の自由が効かなくなった時の事だった。彼女から暗く、重い声が発せられた。



『なるほど、ヤクモもなかなかに考えたものだ。吾輩たちをうまく使いこなしおって』



瞬間、リーゼロッテを包み込んでいた大量の水が一気に消滅する。それはリーゼロッテの体から放たれた炎の影響であり、その炎を操るのは。



『大精霊・ルフニール。これよりリーゼロッテ・グライヴに力の一部を貸そう』


「よろしく……ルフニール…」



ルフニールの翼と角を体から生やしたリーゼロッテがそこに立っていた。



仮纏カリマトイ竜形態ドラゴーネ・フォルム…。これよりあなたの水は何の意味もなさなくなるわ…」



神竜の炎は森羅万象一切のモノを焼き尽くす。



「あなたの水も…存在も…全て消えるわ…」



リーゼロッテの右手から、全てを消し去る黒い炎が放たれたのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「貴様がロゼッタか」


「そうだが?」



シッフル国の兵と帝国の兵がぶつかり合う平野の東側では、ロゼッタと帝国の異能力者が対峙していた。



「念の為、名乗っておきましょうか」


「いや結構。興味がない」



帝国十二狂月の一人である男の言葉をロゼッタが妨げる。



「貴様ァ!この私、帝国十二狂月の11番目氷使いのノヴァンヴルを…あ…」


「五月蝿いな。興味がないと言っているだろう」



いつの間にかノヴァンヴルの背後へ回っていたロゼッタが低い声で答える。



「貴様なんだその速さは…」


「一心十歩だ。それ以上は言わん」



ロゼッタはそれだけ言うとノヴァンヴルを剣の一振りで絶命させた。

帝国十二狂月が現れて萎縮気味だったシッフル兵士も士気が上がる。



「帝国は強敵に非ず!!進めェエ!!!」


「「「ウオオオオオオオオ!!」」」



ロゼッタの一声でシッフルの兵士全てが駆け出す。この場での戦闘も最終局面を迎えていた。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




シッフル平野を進む帝国兵士たちは困惑していた。シッフル兵とぶつかる予定であった場所まで進軍すると、そこに居たのは灰色のフード付きローブを羽織った男。その男がただ座っているだけだったのだ。



「何者だ貴様。そこを退け!」


「退かしてみろ。できるものならな」



帝国の指揮官の言葉に対し、あくまで威圧的に返すヤクモ。



「退かぬのなら斬る!!」


「だからやってみろって言ってるんだよ」



指揮官は即座に両刃の大剣を抜いてヤクモに振り下ろした。だがそれがヤクモに届くことはない。ヤクモに当たる直前に、大剣の刃がキレイに折れてしまったのだ。



「な…何が…」


「知る必要はない」



座ったままの状態でヤクモが手を合わせる。



「恨みは無いがやり方が気に入らねぇ。秘術で消えてもらうぞ」



帝国の兵士たちを包み込む形で巨大な魔法陣が展開される。急な魔法陣の展開に敵兵の全員が驚きを隠せない様子であった。



「封滅鎖縛!!」



ヤクモの詠唱で魔法陣が怪しく光り始める。魔法陣に包まれた敵兵たちは動くことも出来ず術式へ巻き込まれる。光はどんどん強くなって空に光の柱を立てた。



「死体を残すのも惜しいから消させてもらう」



光の柱が一層、輝いた。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、報告を聞こうか」



シッフル王宮で鎧を身につけていつでも戦闘に行ける準備をしていたシグルド・ラグスト国王が報告に来た軍指揮官の者に言った。



「ハッ!まず我軍ですが、怪我人はいるものの死者は出ておりません。そして敵軍ですが…」



変に口ごもる指揮官。シグルドは次の言葉を静かに待った。



「半数以上が消滅。存在の痕跡すら消え去っています。一体何があったのかと現在調査中です」


「ふむ…」



シグルドは視線を巡らせて考える。



「あのー、すみません。俺たちが消しました」



思考の海へ意識を向けていたシグルドは部屋の入口を見る。そこに現れたのは灰色のフードの男、軽装に身を包んだ銀髪の女半獣人、そしてルフニエル王国の王宮魔術師のローブを羽織った女だった。



「やってくれたのか…ありがとう。間違っても君たちを敵にはしたくないものだな…」


「あー、その点は安心してください。シッフル国は俺にとっては第二の故郷ですから」



シグルドは腰に下げていた剣を解いて、やっと座りなおす。



「本当にありがとう。お前たちはシッフルの英雄だ」


「光栄ですシグルド国王」



そう返したのはロゼッタ。



「少し落ち着いたらまた王国に戻ります。何かあれば連絡をください。すぐに飛んできますので」



文字通り飛んでくる事のできるヤクモにとっては、王国からシッフル国への移動は簡単なものである。



「ありがとう。ヤクモ、君たちは恩人だ。シッフルはいつでも君たちを歓迎しよう」



シグルド国王は三人に深く礼をした。




このシッフル国及びシッフル平野防衛戦は、三英雄の最初の偉業であった。

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