第三十一話 『収束、そして制裁』
宿《灰色狼の狩場》の一室。
「あいー…いたたたたたたっ!!!」
まだ町の職人たちが活動し始めたくらいの早い時間であるが、とある宿の一室からは女性の叫び声が聞こえていた。
「オラァ!昨日は夜だったから勘弁してあげたけど、朝はゆるさんぞコラァ!!」
メロディがキクに対して関節技を極めていた。
「メロディさん、お願いだから!もう許して!許してー!!」
「よぉーし、あたしのアキラを襲った事の重大さがまだわかっていないようだな。ウォラァ!!」
「ぎゃーー!!あいだだだだだだ!!」
更に上半身を締め上げるメロディ。それに対してモミジが口を挟んだ。
「もうええじゃろメロディ。終わりじゃ。反省したんじゃろ?のぅ、キクや?」
キクは床にペタリと座り込んで涙目でモミジを見る。私は女神を見たと言わんばかりの晴れやかな顔だった。
「も、モミジひゃん……」
「まぁそれはそうとして……」
するとモミジがキクの足を持って寝技で関節を極めにかかった。
「うぉあぁぁあああいだだだだだだ!なんで…今終わりじゃって言ってたじゃないですかぁぁいたたたたたたっ!!」
「上半身が終わりじゃと言っただけじゃ!下半身もガッタガタにしてやるけぇのぉ!!うぉりゃぁぁあああ!!」
「ぎゃああーー!!!」
昨日のキクのやったことに対する制裁が行われていた。
「止めなくて良いのか?お前の奥さんだぞ、ロイス」
極限まで乾燥させた干し肉をむしゃむしゃとしながらアキラが聞く。
「ええ、まあ。事が事ですからね。あれぐらいは致し方なしかと」
「俺も一度殺されてるしなあ」
ため息をつくロイスの後にキールが続けてそう言った。
モミジが足の関節を極めている後ろでは、フェニクレインが次の順番待ちをしていた。そしてその後ろにはココルルが並んでいる。
え、まだ続ける気なの、あの人たち…?
「これで勘弁してやろう。わしからは終わりじゃ!!」
「さあさあ次はボクの番ですぅ!キールの痛みを知るですよぉ!!」
「いやぁ!いやぁぁああ!」
手をわきわきさせながらキクの胸へ近づくフェニクレイン。それから逃れようとするキク。
「逃がさねぇぜ!!」ガチッ!
「アアアアアアアア!!肩が外れてしまいますからぁぁああ!!」
逃げないようにココルルが両肩の関節を極めた。すかさずフェニクレインがキクの胸を揉みしだく。
「これか!これがキールを苦しめたですかぁ!けしからんものぶら下げるなですぅ!!」モミモミモミモミ……
「いやぁあああ!!」
「おおん?ねえちゃん、いろっぺー声出しとるやんけぇ…これがたまらんのやろぉ…?」ペロペロペロ……
精霊フェニクレインとココルルの拷問が開始された。えっ、シンシンとルフニールも並んでんじゃん……。
主に女性陣からのこんな感じのリンチが午前中の長い間行われた。そして全てが終わった後のキクは。
「あ…ああ…あはは…、お花がキレイ……」
仰向けに倒れてしばらく現実逃避をすることになったのだった。
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「………と言うことでして、本当に幽霊でした。ですがここにいるロイスの破魔術と俺たちでなんとかしましたので、ご安心下さい」
アキラとキール、それからロイスは昼を回る前に、ノルデンミスト支部の魔獣ハンター協会へと足を運んでいた。
アキラの報告に対して支部長コーラル・フリズマンは少し訝しげな顔をした。
「ふむ、まあ大事なければ良いのですが。協会の者に現場を調べさせたら大量の血痕が見つかりました。あれは一体…」
「ああ、それは…死人が出たんですけど、生き返りましたんで……」
「そ、そうか…あまり詳しくは聞かないでおこう…」
コーラルに深く突っ込まれることもなく穏便に報告は終わったのだった。
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「で、この後はどうするんだ?」
宿までの帰り道でキールがアキラに聞いた。
「シッフル国に入るぞ?」
するとキールの獅子の尾が大きく振られた。耳もピクピクと動いている。
「む、そうか、それはいい!俺も帰るのは半年振りになるな…。是非案内するぞ」
キールが心底嬉しそうにしている。なんやかんやキールも故郷は好きなのだ。
「まあしばらくはノルデンミストでゆっくりしようと思うけどなぁ。短期間でいろいろありすぎてさすがに疲れたよ」
「申し訳ない、師匠…。私絡みでご迷惑を…」
町中で土下座を始めようとするロイスを慌てて止める。
「ばっか!町中でみっともない真似するなよ!今度から“土下座のロイス”って呼ぶぞ!?」
「ハッ!?いや、申し訳ない。つい癖で…」
癖で土下座をしてしまうロイスもなかなか大物である。
「とりあえず帰ったらキクの歓迎会とロイスの婚約パーティをやろうぜ」
キールの提案である。これにはアキラも賛成で帰りしなにパーティの為の食材を購入することにした。
「い、いや、流石にそこまでするのは…」
「いいからいいから、パーッとやろうぜ!」
遠慮がちなロイスをなだめて三人は昼食の食材を求めて市場に向かったのだった。




