第二十九話 『ロイス・ロイフェンという男』
最初に口を開いたのはココルルだった。
「つまり、メロディの召喚魔術は失敗していなかったって言うことなんだね!」
アキラがこことは違う世界から来ている事、メロディの召喚術でこちらの世界に召喚されてしまった事は皆把握している。そしてそれを話したのはメロディ自身だった。
彼女は自分の失敗を隠したり保身の為に嘘をついたりしない。真面目で素直な性格なのだ。
「そういうことになる。世界を超えるほどの召喚だ、魔法陣の場所とは別の座標に出現位置がずれてしまったんだろう」
そう仮設を立てるのはキール。神妙な面持ちでアキラの事を真剣に考えている。
ここでいろいろ耐えきれなくなったモミジがさすがにツッコミを入れることになった。
「で、そこでゴキカブリのようになっとるのはなんじゃ!くっつきすぎじゃろう!離れんか!」
あぐらをかいてソファの上に座るアキラに、まるで虫のように抱きついているのは他ならぬメロディである。桃色の長い髪を二本の三つ編みで結んでいる彼女は、アキラに向き合う形でしがみついているのだ。
「一番目は出会った順番的にあたし。それは揺るがないので」
首だけをモミジに向けてふふん!と自慢げに鼻を鳴らすメロディ。モミジは不服そうに一度だけ「ケッ!」と言ったが、すぐに笑顔になった。
「まあ良い、わしは二番目で構わぬ。アキラはきっとわしの分の愛もちゃんと持ち合わせておるじゃろうけぇのぉ!」
そう言ってカッカッカ!と笑うモミジ。すごい自信だなとキールが思っているとアキラの三人の精霊たちも口を挟む。
「じゃ……じゃあ…私は三番…目で…」
「あ!ずるーい!ならココルルは四番目だもんねー!」
「では吾輩は五番目をいただくとするか」
その様子にキールは「こいつらも随分と毒されてきたな」と思った。ちらとフェニクレインを見ると不思議そうな顔のままキールに耳打ちをしてきた。
「フェニーはキールの一番でありたいとは思いませんですが、フェニーの中でキールは一番なのですぅ…」
そしてニッコリ笑うフェニクレイン。その後すぐに顔を赤くして自分の発言を恥ずかしがる。
「はわわわわ……ぷしゅぅぅぅう……」
「火の精霊がオーバーヒート起こしてんじゃねーよ…」
そんなキールとフェニクレインのやりとりも、もはや日常の一端となりつつあった。
朝食を摂った後の時間をだらだらと過ごしていると、アキラたちの部屋の扉がノックされた。
「はいはーい!どちらさまでしょー?」
元気よくココルルが飛び出し、扉を開けるとそこにいたのは。
「アキラ・シモツキはご在宅だろうか」
紫色の長いローブを羽織った男だった。
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「いや、驚かせてしまって申し訳ない。先に名乗るべきだった」
そう言って深々と頭を下げた。灰色に近い長髪を後ろで一つにまとめている彼は、自身の名前をロイス・ロイフェンと名乗った。
「こんなに早くにロイロイが来るとは思わなかった」
そう漏らすのはメロディ。なんでも彼はノルデンミストの北西ルートの依頼の途中で出会った騎士であると言う。
「先日は助けていただきありがとうございました。お陰様で騎士団の仲間も回復しました」
「構わん。それで、ここへ来たのは感謝の為だけではないじゃろう?」
再び頭を下げたロイスにモミジが本題を話せと催促する。
「ええ。折り入ってお願いがありまして」
「話してみよ」
ロイスは整った顔を上げて目の前のモミジに向き合った。
「アキラ・シモツキの弟子にしていただきたい」
「はあ?」
抜けた返事をしたのはアキラだ。だがあくまで真面目にロイスは話を続ける。
「私は生まれつき目が見えない。だがそれを補ってか耳と鼻が常人の何倍も利く。それだけで今まではやってきたし、騎士団でもそれなりの地位を与えられていた。だが先日の毒花の魔獣の時に、強みである鼻と耳を潰された私は何もできなかった。それが情けない…」
ロイスの目は閉じられたままだが、その悔しさが表情ににじみ出ているのがよく分かる。きっとメロディとモミジが魔獣討伐で彼の自信やプライドを崩してしまったのだろう。
「傲っていた今までの自分が許せなくてね。それで、話を聞くとそこの竜人の女性よりアキラ、君のほうが強いと聞いた。ならば弟子入りせねばと思い立ったわけだ。騎士団ももう抜けてきたんだ」
「思い立ちすぎだろ…血迷ってるぞそれ…」
アキラがやんわりとツッコミを入れるがロイスは依然として真面目な態度だった。
「まあ良いではないか、と吾輩は思うがな。弟子として認めてやってもいいんじゃないか?」
「私も賛成―!!旅は道連れ、世は情けー!!」
「いいん…じゃ…ないかな…、断る理由…もない…し?」
ここまでこそこそしていた精霊三人が出てきた。
「アキラは吾輩たちが教えなくても戦闘の心得がある。それをこのロイスに教えてやったら良い。あと吾輩の言うことももちろん聞く事だ。アキラの弟子ということは吾輩の弟子でもあるからな」
女ルフニールが威圧的にそう言ってのけた。
「私は感覚と直感で動いているので何も言いませーん!わっしょい、わっしょい!!」
と言いながら少し前にアキラに教えてもらった、アキラの故郷の祭りの「神輿担ぎ」の動きをするココルル。なぜこのタイミングで神輿担ぎ…。
「わた…しも、口下手なの…で……、遠慮…します…けど…」
シンシンはそれだけ言うといつものようにアキラの肩に収まってしまう。
「ま、まあ、俺の知っている事で良ければそりゃ教えるけども…」
「本当か!かたじけない!!よろしく頼むぞ!!」
ロイスの表情が晴れやかになり、アキラの手をとってブンブンと振る。
ともあれ仲間が一人増えたアキラ一行であった。
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王都魔獣ハンター協会ノルデンミスト支部。
王都の北部に位置するこのノルデンミストの魔獣ハンター協会は、王国の北部地域をメインに仕事の場にしている。そしてお隣の友好国であるシッフル国でのトラブルも、ノルデンミスト支部からハンターが派遣されて討伐に当たっているらしい。
そして今はノルデンミスト支部の支部長であるコーラル・フリズマンを前に、アキラ
、メロディ、キール、モミジ、ロイスの五人が座っている。
「よくぞ来てくださいました。アリアーネから話は聞いておりますぞ。おや、お一人増えましたかな?」
「ええ、まあ、いろいろありまして…」
アキラが曖昧に返事をした。コーラルの反応は当然である。ロイスは当初の予定にはなかった飛び入り参加ハンターなのだから。
「この度アキラ、いや師匠と同行させていただく事になったロイス・ロイフェンです。以後お見知りおきを」
「まあAランクハンターじゃから、別にええじゃろ?」
モミジがコーラルに向けて手をひらひらとさせる。
犬系の獣人族であるコーラルは長く垂れた耳をさわりながら答える。
「ええ、何も問題はありません。モミジさんもおりますし。オホン、さて、この度は魔獣とは違うのですが、少し変な依頼がありましてな」
咳払いを挟んで本題へと移ったコーラルの顔が少し影を帯びる。
「実は今、幽霊騒ぎが起こっておりましてな。なんでも狙われるのは魔獣ハンターだけだとか。町の中の至る所で起こっているのですが、正体が掴めないままでして。これを解決していただきたいのです」
「ゆ、幽霊ですか…」
メロディの顔がこわばった。お化けが苦手なのかもしれない。
「わかりました。今夜あたり調べに行ってみます」
代表して答えたアキラを見てコーラルは深呼吸をした。
「よかったです。こんなしょうもない依頼だと断られるかもと思っておりました。ですが件の幽霊、まだ大きな被害は出ていませんが油断は禁物です。お気をつけて」
コーラルの言葉に全員が頷くと、その場はお開きとなり、すぐに協会支部を出た。
一行は一度宿に戻って夕食を終えたら、準備をして二手に分かれ、夜の調査に行くことにしたのだった。




