第十五話 『モミジの秘剣・アキラの覚醒』
アキラが放つマナの量は異常だった。それはこの場において誰よりもマナに対して適正のあるメロディが一番感じている。
元より精霊術師は莫大なマナを扱う。アキラの元のマナの許容量もかなり多い。
だが今回は異常だ。精霊と心も体も結びついた精霊術師はあれほどまでにおぞましい量のマナを放つのか。
そして、アキラの体は大丈夫なのか…。
「アキラ…」
「どうした?メロディ」
メロディは驚いた。一瞬前まで遠くでモミジと対峙していたはずのその声がすぐ横からするのだから。
「そんな驚く事ないだろ。声が聞こえたから返事しにここまで来ただけだよ」
「えっ、それって」
メロディの口を肉球の付いた銀色の毛並みの手が塞ぐ。見た目こそ違えどそれは幾度と触れてきたアキラの手で間違いなかった。
「規格外の竜人族相手だけど、なんだかやれそうな気がするんだ。もし怪我したら治療だけお願いな」
「わかった。今のアキラも十分規格外だけど、気をつけて」
メロディの言葉にアキラは笑ってまたモミジの元へと戻っていく。
キール奪還の戦いの第二幕を始めるために。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一瞬の出来事にモミジは驚愕していた。
砂塵から先ほどとは違う姿で現れたアキラが一瞬にして消える。そして数秒後にはまた元の場所へと戻ってくる。
亜人種でもない、ただの人が何故それほどに早い移動ができるのかと。
そして同時に嬉しくもある。久々に楽しい戦いができると確信した。
「刀は抜きとぉ無かったがのぉ。相手が本気なんじゃけぇ、わしも本気で行かんといかんじゃろなぁ」
そう言って腰にある二本の刀、「ジャノメ」と「ハナノハ」を抜いた。
「アキラ・シモツキ。しっかり覚えとかにゃあいかんのぉ」
今一度対峙している相手を見据え、そうつぶやいた。
「っしゃ、行くぜココルル!」
『あいさ!』
先に動き出したのはアキラだった。モミジに対してまっすぐに突進をする。モミジはハナノハとジャノメを持ち直し、必殺の構えへと体を動かした。
「秘剣・ハナノマイ」
モミジの愛刀「ハナノハ」は桜のような花が刀身に描かれており、振るたびに溢れたマナが散る桜の花弁の様にひらりと舞う。実はその一つ一つがマナによって作られた刃であり、触れれば多数の斬り傷を負う。
もう一つの愛刀「ジャノメ」は刀身に円形の模様が描かれた刀である。マナを流すと怪しく光り、円形の模様で相手の距離感を狂わせる惑わしの剣である。
そしてモミジの秘剣・ハナノマイ。ハナノハで作られた無数のマナによる刃をまとい、ジャノメの能力で距離感を狂わせる。距離感を惑わされた者は、気付いた時には無数の刃に、そしてモミジの持つ二本の刀に切り裂かれ絶命する。
モミジの持つ秘剣のうちの一つであり、今だ誰にも破られたことがない技である。
「さぁさぁどう動くんじゃ、アキラ・シモツ……」
言葉は最後まで続かなかった。
正面に突っ込んできて数秒後にはズタズタになっていたはずのアキラがすぐ目の前に立っていたからである。
「はっ?桜刃は…」
ハナノハで作られた無数のマナの刃・桜刃がなくなっている事に気付く。
アキラはそれらを何らかの方法で消し去ったというのだ。
「すまねえが全部ここにあるんだ。空中にいる蚊を片手で掴む感覚思い出したわ」
アキラの手の平には多数の桜刃が握られていた。
それを見てモミジが次の攻撃へと転じようとしたその時。
「ルーヴ・クーゲル・インパクト!!」
昨日オークキング戦で使った張り手と全く同じ技である。だがマトイ状態のアキラの放つそれはオークキングを屠った時よりも遥かに高い威力であった。
「ぐっ、ふぅぅうぁぁあああ!!」
それを全力で受け流そうとするモミジ。だが一瞬の油断の隙を突かれた為反応が随分と遅れてしまった。アキラの攻撃によるダメージはモミジの腹部を的確に打ち抜いた。
「カハッ……」
血を吐くことはなかった。威力は凄まじいがアキラが真に打ち抜いたのはこの場におけるモミジの戦意だけ。モミジの膝が胸が頭が地面に付く、よりも先にその体をアキラが受け止めた。
「キール奪還戦、敵将討ち取ったり」
アキラの勝利に野次馬たちの歓声が上がる。
「すげーぜ、アキラ・シモツキ!!」
「だぁ!くそ~、竜人族じゃなくてこっちに賭けておけばよかった…」
「シモツキ!シモツキ!」
そんな野次にうんざりしながらアキラは、駆け寄ったメロディにこそっと耳打ちする。
「キールを連れてここから離脱する。認識阻害魔術を使ってそのまま宿まで行くぞ」
メロディはアキラの言葉には頷くだけアクションしてキールの拘束を解いた。
そしてルフニールの認識阻害魔術で4人はその場から一瞬で姿を消したのだった。
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アキラとメロディが泊まっていた宿《グリフォンの巣》の一室。
大部屋をフェルゼーに頼んで借りてもらい、三つ並んだベッドの二つを、キールとモミジが寝ていた。
「すまないなアキラ。迷惑をかけた」
「いやまあ迷惑云々は友達なんだからいいとして。とりあえず休んどけよキール。とどのつまりは、まあ…この人か」
先程アキラと一線交え、それ以降目を覚まさないモミジ・クレハという名前の剣士。ここルフニエル王国でも名前が上がるほどの世界的に有名な剣士であり、強い者と戦うことに喜びを見出している生粋の戦闘狂である。
先程、マトイ状態のアキラの一撃を受けた時に気を失った為、アキラたちの手でここへ運んだのだが。
「起きないな」
「起きないね」
メロディと顔を合わせて確認する。
アキラのルーヴ・クーゲル・インパクトの威力は絶大だ。ココルルの肉球を使った圧縮空気による衝撃波は、普通の人が受ければ体の一部が吹き飛んでもおかしくない程のものである。
多少加減したとは言え、キレイにみぞおちを打ち抜かれたモミジのダメージは計り知れない。
きっと、今はいろいろと消耗して眠っているだけなのだろうが。
「シンシンの体液治療を行ったからきっとすぐ良くなるさ」
『うきゅっ!』
シンシンの能力である体液治療は、シンシンの扱う特殊な液体を用いて行われる。
その特殊な液体を怪我人へと侵入させ内側から操作、体組織を活性化させて損傷箇所の復元を促進させるという仕組みらしい。
「まー、なんやかんや飯も食えてなかったし。この辺で昼食でも…」
「おい、アキラ」
いきなり名前を呼ばれてビクッとする。それはつい先程まで昏睡状態にあったはずの者の声であり、なによりアキラが対峙した相手であり。
「失礼な事をしたけぇ、謝りとうてのぉ。すまんじゃった!!」
竜人剣士、モミジ・クレハはベッドから飛び降りると深々とスライディング土下座をしたのだった。
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「あちち、あちっ!」
スライディング土下座の摩擦による火傷を負ったモミジが膝を両手でパンパンしている。
ひょっとしてコイツももしかするとバカなのだろうか…。
「いや、別にいいけど。体はもう大丈夫なのか?」
「おかげさまで、ぴんぴんしとる。アキラ、お前はわしに何をしたんじゃ?」
「まあそれはかくがくしかじかで……」
「なるほどのぉ。まぁそれより…」
モミジは再びアキラに向き合って正座で座り、三つ指をついて言った。
「わしは今までにあそこまではっきりと負けた事はなかった。きっとこれからもわしより強い者は現れんじゃろう。折り入って頼む、わしの婿になってくれ」
「は?」
「お断り致します」
驚きの発言にアキラとメロディがそれぞれ返事をする。
「それよりも、モミジって女だったのか」
「そうじゃ、性別についてはあまり言っておらんからのぉ。じゃが竜人族の女は速い、強い、えろいの三拍子揃い。お前にもしっかり尽くすけぇの。どうか頼む」
「いや牛丼屋じゃないんだから。あと最後の要素なんだよ」
「謹んでお断りいたします」
アキラのツッコミとメロディの反論が入る。
「独り占めはようないぞ!妻を二人娶るくらい別におかしな事でもないじゃろ!」
「おかしくなくてもダメなの!!」
もはやアキラの気持ちなど二の次であった。
「モテる男は大変だなアキラ」
「変わってやってもいいぞキール」
「いや、俺には許嫁がいるからな」
「は?聞いてねぇぞ!!キール!その話詳しく聞かせろ!!」
「ああッ!!いででで!!アキラ、やめろぉ!!」
こちらでも争いが起こり始め。
『だーかーらー!わ・た・し・と!アキラの修行で!マトイが発動できるようになったの!!』
『吾輩がヒントを与えてやったからだろう。自惚れるな』
『うきゅきゅう!きゅう!』
ここでも争いが起こり、もはや誰にも止めることはできなかった。




