第十三話 『Fランクからの昇格』
王都までの間に小さな村がある。東の森へ向かう途中で一度寄った所であり、オークの被害を受けていた村でもあった。アキラたちが村に入った途端に、白い髭で禿頭の腰の曲がった老人が話しかけてきた。
「おおハンターさんや、戻られましたか。して……成果の方は…?」
おずおずといった様子で老人が訪ねてきた。もしかすると彼がこの村を取り仕切る立場にあるのかもしれない。
「ああ、首尾は上々。巨大なオークの集落は我々で殲滅した」
代表してキールが老人に報告をする。
すると老人の細かった目がカッ!と開かれて、とたんにテンションを上げた。
「ウッソ、マジで?ヒャホーイ!!皆の衆!!脅威は去ったゾーイ!!」
「なんだって!?ヒャホーイ!」
「オークはいなくなったの?ヒャホーイ!」
「Just do it!!ヒャホーイ!」
「本当にありがとう!ヒャホーイ!」
次々と村人たちが家から出てきてアキラたち三人に握手を求めた。
え、何この村ヒャホーイ流行ってんの?後、Just do it言ってるヤツいただろ。
「す、すみませんが、我々は組合に報告がありますのでこの辺で」
わちゃわちゃなりかけた所でキールが老人に言う。ナイスタイミングだぜキール!
「うむ、このヒャホイ村を救っていただき本当にありがとう。この辺を通られるときは是非お寄りください。見ての通り小さな村ですが歓迎しますのでな」
長っぽい老人に深々と感謝の意を示される。てか、この村ヒャホイ村って言うんだな…。
その後、村から王都まではヒャホイ村の人が馬車で送ってくれた。王都の東大門でヒャホイ村の人に別れを告げて、王都へ入るためのチェックを受ける。
「うむ、身分証を提示願おう」
「ほい、まずは俺のだ」
「ふむ、キール・ラグスト。よろしい。次の方」
続いてメロディが身分証を提示する。
「メロディ・リンデット。確認っと、はい次」
尚も衛兵は淡々と王都へ入るための手続きを続ける。
「オナシャス」
「うむ、アキラ・シモツキ……。アキラ・シモツキ!?」
衛兵の言葉が強くなった。既に門を通り抜けたメロディとキールもぎょっとした顔でこちらを見ている。
「あの…何か問題でも…?」
「いやいや、すまない。君の事はもう騎士団では有名でね。我々の部署でも竜を使役する精霊術師が現れたという噂で持ちっきりだ。名前だけが独り歩きしている状態というわけだ」
そんな事になっているとは露知らず。これからは慎重な行動が必要になるかもしれない。
「まああくまで騎士団内部だけの話だ。民衆には知られてないから安心すると良い」
そう言って衛兵はアキラの身分証をチェックした。少しドキッとしたが何の問題もなく王都へと帰ってくる事ができた。
「びっくりするでしょ、もう」
「本当だ、もう今日はオークキングだけでいっぱいいっぱいだぞ」
そんなメロディとキールの小言には軽く「すまん」とだけ言っておいた。
なんやかんやで王都に帰ってくるのが夜になってしまった。だが魔獣ハンター協会はどの時間でも受付をしてくれるので、すぐに向かうことにした。
王都のハンター協会はちょうどこの東門の近くの区画にある。大通りを少し歩いて角を曲がればもう目と鼻の先であった。
そのハンター協会の入り口を見ると、背の高い長い金髪の女性がこちらに向けて手を振っていた。間違いかなと思い後方を見るがアキラたち以外に通りに人はいない。
「あれは俺たちに振ってるのか?」
「そうみたいね」
メロディも長い金髪の女性には気付いていたようだ。とりあえず近づいていくと、女性はアキラたちに声をかけてきた。
「やあやあ!君たちを待っていたよ!」
軽装の鎧で腰に剣を差した金髪の女性がそんな事を言った。
待っていた?どういうことだろうか。
「フェルゼー老師から話は聞いているよ。キール・ラグスト君、メロディ・リンデット君、そして」
女性の流れる金髪が風に揺られると、先の尖った長耳族特有の耳が見えた。
「アキラ・シモツキ君」
女性はニコニコ顔を崩さないまま、まるで劇の演者のようにそう言ったのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルフニエル王都魔獣ハンター協会東門支店。この四階建ての最上階にある部屋にアキラたち三人は通された。
大きな机を挟んで三人並んで椅子に座り、その正面には先程の女性が座っている。
「いやあ急にすまないね。お疲れの所申し訳ないがいろいろと聞きたくてね。おっとお茶を淹れさせよう。誰か、お茶を!」
女性が手をパンパンと叩くとどこからともなく二人の女性がお茶を持ってきてそれぞれのカップに淹れる。
「おっと、そう言えば。私としたことが自己紹介を忘れていたね。これは失礼にあたるね?うん失礼にあたる…」
女性の言動は大げさで振る舞いも演技臭いものがある。
「私はアリアーネ・エメリッヒ。王都魔獣ハンター協会東門支店の支店長を努めている者だよ。年齢はもう少しで300に届くかなといったところだ。ああ、遠慮しないで。どうぞどうぞ、お茶飲んでね」
さあさあと言うアリアーネに押されて三人がお茶に口をつけた。
それを見てうんうんと頷いてアリアーネは尚も話す。
「すまないね、君たちは疲れているだろうから一方的に話すことにするよ。質問にだけ答えてほしい。まず君たちを待っていたと言うのはフェルゼー老師から話を聞いていたからだ。精霊術師と魔術師が会いに来たとね。で、少し調べさせてもらったところそこの獣の戦士と仲良くなっているじゃないか?んでそんな中君たちが請け負ったのは難易度の高いオーク集落の殲滅。そうだね?」
「間違いないですよ」
無表情そのままにキールが答える。これまでのまくし立てるようなアリアーネの言葉にはさすがのメロディもげんなりしていた。
「ふむ、では皆さんの登録証を拝見してもよろしいかな?」
アリアーネに言われ三人が魔獣ハンター登録証を出す。この登録証には今日のオークたちの討伐数が記録されている。
「ふむふむ、オークが百体強に、オークリーダーも数体、それにオークキング!??」
アリアーネはぐわっ!と目を開けて登録証に見入っている。
この人のオーバーなアクションはどうやら素のものらしい。
「君たちだけで倒したというのかい?」
「ええ、なんとか…」
これにはメロディが答えた。アリアーネは椅子に座ったまま大きく体をのけぞらせた。
「すっ、すばっ、スバラシイィ……」
この人やばいんじゃないかな…。
それを確信した後、アリアーネがとんでもない事を言った。
「いやあ、素晴らしい!よって君たちのランクをFからCまで上げることにするよ!」
「は?」
変な返事をしたのはキールだ。メロディもぽかんと口を開けている。この場でハンターのランク制度がどんなものかわかっていないのはアキラだけだった。
「しかし、それはあまりにも…」
「極端だって?そんなことはない、そもそもFランクがオークキングを倒すなんて前例がないんだからね。前例のない偉業に対しては前例のない報酬が必要さ!それに近隣の村や町の人は助かっている。それは揺るぎない事実さ」
話を進めていたキールにそっと耳打ちをする。
「キール、ランクが急に三つ上がるのってどれくらい凄いんだ?」
「そうだな。空が急に海になるくらいありえないことだな」
「すげーわかりやすいな。そりゃ大変だ」
キールのわかりやすい説明に感心しているとアリアーネは嬉しそうに話を再開する。
「君たちのような実力者を低ランクに燻らせて置くのは申し訳ないからね。協会としても、もっと上を目指してほしいんだよ。だからこれくらい受け取ってくれ」
しばらく三人で相談したが、結局は受ける事にした。
というわけで、依頼を一つ達成してランクが三つ上がってCランクになりました。




