第九十二話 『妖魔の国を守れ』
ここは鬼族の国の外れ。
獣魔の国を脱出した四本の蒸気機関車は鬼族の国の外れにある湿地帯付近へとたどり着いた。
そして獣魔の国からの避難を察知したのだろうか、鬼族赤の王であるダルグスが鬼族の兵たちを連れて湿地帯へと現れた。
「おう、どうした人族の青年よ。こんなに大勢引き連れて」
「話せば長くなるんだが…」
アキラはダルグスへ竜魔の国と獣魔の国で起こったこと、そしてフラールの死を伝えた。
「ふぅむ、そうか、フラールについては…残念だ……。だが、フラールはどうやらお前に力を託したみたいだな?それなら良い、あいつの意思はお前の中で生き続ける。あいつの死は決して無駄ではない」
大きな手でアキラの胸のあたりを指さしたダルグスは心なしか穏やかな顔をしていた。
およそ家族と言える存在がいなかったフラールが誰かに力を託した事は鬼族にとっては大きな意味を持つ。その事がきっと純粋に嬉しいのだろう。
「そう言えばだが、邪蛇の出現を受けて封邪石の警備を強化したが特に問題は無かったぞ」
鬼族の国にも封邪石があった。だが邪蛇の出現の少し前には既に霧夢が力を吸い取ってしまっていた。
念の為の警戒であったがその後特に何もなかったようだ。
「それは良かった。ところで獣魔の国の人達なんだけど…」
「みなまで言うな。皆、鬼族の国で引き取ろう」
ダルグスの了承を得たところで、デープの弟ルークへとそれを伝えた。
「助かります。避難だけで先のことまで準備出来ませんでしたから…」
「ルークたちはしばらくここに滞在してくれ。ダルグスさん、俺たちは妖魔の国と幽魔の国にある封邪石を破壊しにいきます」
「ふむ、今はそれが最善…」
「ダルグス様!申し上げます!!」
鬼族の若い兵が割って入ってくる。滝のように汗を流し、息も切れ切れであった。
「どうした。言うてみよ」
「はい!たった今妖魔の国から伝令が。正体不明の敵に攻撃を受けている為援護の要請が…」
「ダルグスさん、俺行ってきます」
直後にアキラとアンジェが駆け出した。アキラは走りながら右手を円状に動かし、マナで術式を組み上げた。
竜人族の秘術、ゲートの魔術である。
「アンジェ、俺の後に」
「わかったわお兄さん」
黒い円形ゲートの中へ入った二人の気配が消えると、逆にゲートの中から一人誰かが出てくる。
唖然としていたダルグスたち鬼族の兵の前にはシノノメ服を着崩した女ルフニールが立っていた。
「ここから妖魔の国まで早馬でも半日はかかる。妖魔の国の援護へ向かうものは吾輩に言うと良い。ゲートに入れば一瞬で妖魔の国に行ける」
ルフニールはそう言うとゲートを大きく広げて見せた。
その光景にダルグスはもはや驚くこともなく兵たちへ向けて声を上げる。
「救いを求める声あらば赴き助けるが鬼の民ぞ!!覚悟ができた者から妖魔の国へ向かえ!!」
「「「ウォォォォオオオオオオオ!!!」」」
鬼族の兵たちが一斉にゲートへ入っていく。
その様子を眺めていた獣魔の国の兵たちが武器を手に取り立ち上がった。
「我らも向かうぞ!ルーク様、お許しを」
「いえ、あの、僕はそんな立場では……。まあいいや、兄さんの代理として許可します。半分は残って鬼族の国の警護にあたってください」
「ルーク様のお許しが出たぞ!!希望する者は後に続けェ!!」
鬼族の兵の後に獣魔の兵が続いて入っていく。
その様子を見ていたルフニールは魔族の結束力に感心している所であった。
そしてふとした疑問をダルグスに聞いてみた。
「ダルグス、この国の軍は全て出払ったみたいだが問題はないのか?」
「ん?ああ、何も問題はない。この国くらいならわし一人でも守りきれる」
そう言って懐からこぶし大の赤色の宝珠を取り出した。
「なるほど、鬼本来の力を引き出す宝珠か」
「ああそうだ。おっと、そう言えばこれを少年に渡しておいてくれ」
そう言いながらダルグスがルフニールに渡したのは先程の宝珠と同じ大きさの黒い玉であった。
「フラールの宝珠だ。あの少年に渡してくれ」
「いいのか?」
「ああ、フラールが選んだ黒の王後任はあの少年だからな、それを渡してやってくれ。わしの宝珠とは能力が違うが、きっと助けになる」
「あいわかった」
ルフニールは黒い宝珠を仕舞うとゲートへと入って行った。
「獣魔の民を頼む」
「少年の大事な客人たちだ。丁重にもてなすぜ」
片手を上げたダルグスに背を向けたまま手を振りルフニールはゲートへと入っていった。
それを見届けたダルグスは「さてと」と口から息を漏らした。
「獣魔のお客人たち、まずは我が国のゲストハウスへ来てもらう!少し歩くが我慢してくれ!!」
ガッハッハ!!と笑うダルグスに連れられ、ルークたち獣魔の人々は全員無事に鬼族の国へ入ったのだった。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゲートを抜けた先は妖魔の国の王城の前だった。
いきなり出てきたアキラたちに妖魔の国の門番、カルアが駆け寄った。
「お前、それにティア様も!一体どこから来たのだ!?」
「そんな事はどうでもいい!リアラはどこだ?」
「リアラ様は今最前線に出ておられる…わぁ!なんだなんだ!?」
カルアが驚きの声を上げた。
カルアの見ている方、アキラとアンジェが後ろを振り返ると大きく広がったゲートから鬼族と獣魔族の兵たちがなだれ出て来たのだった。
「我ら鬼の民が全力で敵を止めます!」
「獣魔も協力するぞ!!」
ウォォォォオオオオオオオ!!と唸り声を上げる男たちの後ろからは未だに新たな兵たちが出てきており、王城前の広場は鬼族と獣魔族の兵たちでいっぱいになった。
そして最後にルフニールが出てくるとゲートは所々にほころびを生じながら消えてしまった。
「アキラ、ダルグスからこれを預かってきた。フラールの物らしい、困ったら使え」
「わかった、ありがとうルフニール。よっしゃ、皆で妖魔の国を守るぞ!!」
再びウォォォォオオオオオオオ!!と声を上げた男たちは戦闘音のする区域へと移動を始めた。
「リアラ!リアラはどこだ!!」
移動の最中もアキラはリアラを探す。
そして最前線の森の中で件のリアラを見つけることができた。
「リアラ!」
「あ、アキラさん!それにティアも!」
アンジェと同じように、羽の生えた妖精の類の妖魔族であるリアラは地面に向かってマナを放ち続けていた。
リアラが放つマナが地面へ溶け込むと地中から強固な樹木がメキメキと音を立てて生え続けていた。
「これは魔族の中で一番守りの強い妖魔族の力さ。私じゃないと使えない力だけどね。しかし、これを国の周り全てに張り巡らせるのは中々に骨が折れる…」
「そのままでは長くは保たんだろう。一体敵は何なんだ?」
リアラは尚もマナを放ち続けて巨大な樹木の守りを維持する。
「わからない。何か黒い影に覆われたような魔獣の類なんだが…」
「邪蛇絡みなのは間違いないだろうな。アンジェ、リアラを手伝えるか?」
「できるよ!」
「鬼兵と獣魔兵は影の魔獣の対処をしてくれ!」
「「「ウォォォォオオオオオオオ!!!」」」
アキラの指示に皆が動き始めた。
「待って、お兄さんはどうするの!?」
「俺は霧夢と封邪石の破壊に行く。霧夢、行けるか?」
「うん、大丈夫なの」
「わかった、お兄さん、これを持っていって」
アンジェの手のひらから光の玉が放たれ、アキラの胸に沈み込んだ。
「あたしも王族だからお兄さんの役に立ちたいの。あたしの力は“マナ探知”と“言霊の加護”よ、持っていって」
「ありがとう。やれそうか?」
「リアラお姉さんと一緒だから、あたしは大丈夫。早く行って!」
アンジェの言葉に押されてアキラと霧夢は再び王城の方角へと向かう。
マナを送り続けているリアラをアンジェが支える形で、アンジェがマナを供給し始めた。
「やはり王の器はティアにあったんだね」
「そんなの関係ないわ、この国の王様はリアラよ。さあ、あたしが制御するからお姉さんは樹木へ力を。あたしたち姉妹揃えば何の問題もないわ!」
リアラが力を使い、制御をアンジェが行う。二人の姉妹の息はピッタリだった。
アンジェの卓越したマナ制御で分厚い樹木の壁に出口が作られる。鬼族と獣魔族の兵たちはそこから外部へ向かいそれぞれ魔獣との戦闘に入った。
一方アキラと霧夢は王城の地下、封邪石のある場所へ急いでいた。
そこに潜む何者かの存在も知らぬままに。




