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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第四幕 魔族の世界
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第九十一話 『デープの恩返し』

「いいぐぷか、少しの間耳を塞ぐぐぷよ」



デープの言葉でアキラたち三人は両手で耳をふさいだ。

それを確認すると、デープは体いっぱいに空気を吸い込んでから叫んだ。



「“我は次期獣魔王であるデープ・イーゼンフォン・ルクシオス。緊急特例1056を発令する。避難経路032、069、229、981を開放、全国民は例に漏れず皆この国から離れよ!!我らの故郷は既に邪蛇の手に落ちた、この国は既に安全ではない。繰り返す、全国民は例に漏れず皆この国から離れよ!!”」



地が振動するほどの声が獣魔の国の全域に響き渡った。

風魔術で声を拡声器のように大きくして遠くの者へ声を届けるものがあるがデープの場合は違う。デープ本来の肉声がここまで大きく聞こえているのだ。



「おかしいですね。デープ卿がこの国へ戻ってくるとは想定外、あなたは邪蛇様の手で亜人排斥の遠征に出ていたはずですが?よくも私の実験場を台無しにしてくれましたね」


「うるさいな。少し黙れよ」



黒衣の男に対して放った言葉は普段のデープからは想像できないほどに低く暗い声だった。

だがクルッとアキラたちの方へ向いた顔はいつものデープの顔であった。



「アキラさん、これを受け取って欲しいぐぷ」



そう言ってデープの手の平から放たれたのは淡い光の玉。

それはフラールから、そしてムガルからも受け取った魔族の力の一部と同じものであった。

デープは光がアキラの体の中へ沈んで行くのを確認すると再び黒衣の男の方を向いた。



「これを託せるという事は、最後の最後で我に王としての力が宿ったという事ぐぷ。その力は必ずアキラさんの助けになるぐぷ」


「おい、デープ。さっきと話が違うぞ!!」



必死にデープの方へ向かおうとするが男が放った黒い針の影響かアキラは上手く体が動かせないでいた。



「むぅさん、封邪石の力を吸い取ったらすぐに逃げて欲しいぐぷ。アンジェ、アキラさんをよろしく頼んだぐぷ。アキラさん」



デープは一呼吸だけ間を取って、最後の言葉を口にした。



「我の恩返しは、みんなをここから生きて逃がす事で勘弁して欲しいぐぷ」


「デープ!!!!!!」



デープに向かって叫ぶアキラをアンジェが無理やり引きずって行く。

霧夢はすぐさま封邪石に取り付くと封じられた邪蛇の力を吸い始めた。



「ルークとアリアも避難したぐぷね。では行こうか」


「待ちましたよ。まあ実験場は潰されましたが、また別の人々を使えば良い事ですし。先程の人族の少年と妖魔族の娘も興味深いですしね」



男の言葉でデープの額に青筋が浮かぶ。



「それは無理だ。我が獣魔の誇りにかけて止めるからな。グァアッ!!」



デープが獣のように咆哮すると瞳の色は赤く変わり体全体の筋肉が急激に盛り上がった姿となった。



『フシュー…フシュー……』


「なるほど、獣魔族の狂戦士化ですか。それも興味深いですね」



そんな様子の男に向かって、狂戦士と化したデープは強く地面を蹴り込んで突撃したのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「何で止めたんだよ、アンジェ」



獣魔の国から複数出発した蒸気機関車の一つに乗り込んだ後に、アキラはアンジェに向かって悪態をついていた。



「デープの希望だからよ」


「でも、まだ他の方法があったかもしれないだろう!!」



アンジェの肩を強く掴んで揺らしながら言う。

だがアンジェは毅然としたまま、アキラの目をしっかりと見つめ返した。



「それがデープの、希望だからよ」


「畜生…、俺が精霊術を使えていたら……。デープを救えたかもしれないのに」


「デープは言ってたよ。“我はアキラさんに救われたんだ”って」



項垂れるアキラに、アンジェは淡々と言葉を続けた。



「“だから我が死ぬことになっても、アキラさんだけは必ず救う”って。あたしも、フラールも、デープも、お兄さんに救われた。きっとあたしたちは三人とも同じ気持ちだったはずよ」



アンジェの言葉の直後。獣魔の国の方角から大爆発の音が上がる。



「あの爆発はなんだよ……」


「あれは我が国の自爆機能が上手く動いた証拠ですよアキラさん」



崩壊していく獣魔の国を見ながらアキラが言葉を漏らすと、隣に居た獣魔の青年が答えた。



「ルーク、デープは…」


「助からないでしょうね。ですが兄は自分のことより獣魔の国の民が、あなたたちが生きることを選んだんです。兄が自身を犠牲にしてまで選んだその選択を僕は否定したくありません。王として当然、と言えば冷酷に聞こえるかもしれませんが、僕も悲しいですよ。両親を失って数年、兄さんは親のような存在でしたから」



そんなルークの腕の中では幼い猪獣魔の女の子が眠っていた。彼女がデープの妹のアリアだろう。



「兄が帰ってきた事を誰よりも喜んでいたアリアに何と説明したらいいのか…。全く昔からやってくれますね兄さんは」



そんなルークの瞳から一筋涙が流れる。

それが妹の額に落ち、アリアが目を覚ましてしまった。



「ルークお兄様どこか痛いの?デープお兄様は?」


「ううん、どこも痛くない、僕は大丈夫だよアリア。デープ兄さんはまた旅に出てしまったよ。次はいつ会えるかわからない」


「えー、やだやだ!デープお兄様と遊びたい!」



立ち尽くすアキラにアンジェは椅子に座るよう促した。

椅子に座った後もアキラは、ぐずるアリアをあやすルークを見てなんとも言えない気持ちになる。


悲しいはずなのに、アキラは涙を流して泣くことができなかったのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




大爆発のすこし前。


ピレニオ地区は壊滅しており、後に残ったのは細かく散らばった黒い塊と、無数の黒い針に貫かれたデープだけであった。



「ハァッ…ハァッ……」



既に満身創痍のデープは仰向けのまま言葉を発する事ができず、ただ呼吸を行うことに専念していた。

そんなデープに封邪石の力を吸い終えた霧夢が駆け寄った。



「でーぷ、歩ける?」


「む、むぅさん……ハァ…、もう我はダメぐぷ、我の体はもう手遅れに…なっているぐぷ……」



邪蛇の力の一端を有する男の攻撃を受けたことで、デープの体の各所が黒い液体へと変わっていっているのだ。



「ごめん、むぅは何もできない…」


「構わんぐぷ…もうじき爆発が起こるぐぷから、むぅさんはアキラさんたちの所へ行くぐぷ……ごぷっ……」



デープの口から黒い液体が溢れ出る。デープの命の期限もあと僅かとなっていた。



「早く、行くぐぷ……早く行かないとアキラさんに言ってご飯抜きにするぐぷよ…!」



それを聞いた霧夢は慌ててデープから離れた。

そして少し遠い所まで言ってから「またね」と言い、アキラたちの乗る蒸気機関車の方へ飛んで行った。

それを見届けてからふぅ、と深く息を吐いた。



「またね、か。我もまた会いたいぐぷね。アンジェはきっと悲しむだろうし、アキラさんは救えなかったと嘆くだろうし。でも………」



デープは液化が進んでいない左腕を空に伸ばす。

獣魔の国の夜の空は、ちょうど吹雪も止んで天体観測をするには絶好の条件であった。



「我は既に救われていたぐぷ。だから…きっと、またすぐに会えるぐぷね。それまで…フラールと向こう…でゆっくり待っ…ておく…ぐぷ…よ………」



デープの体に流れるマナの動きが完全に止まる。

その瞬間、獣魔の国の機械じかけの自爆装置が作動、獣魔の国は地盤が崩れて地下へと沈んで行く。


獣魔の王、デープ・イーゼンフォン・ルクシオスは他の大勢の命の為に。

そして何よりも、恩人への恩返しの為に散ったのだった。

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