外伝1「たびだち」
……世界は、残酷に出来ている。
僕は……また置いて行かれてしまった。
……あれから、三ヶ月ほどが経ち。
次は、僕が初霜の後を追うことになる……そう思っていたのだけど。
実際、回ってきたのは無人稼働駆逐艦隊の嚮導艦として任務だった。
初期メンバーは、磯風と天津風、時津風。
僕を含めて、たった4人……一応、同じ陽炎型。
つまり、人間で言うところの姉妹にあたるようなのだけど。
懐かしいと言う感情が無いと言えばウソになるけれど、初霜のような同類って感じはしない。
一応、初顔合わせになるので、一同集まった上で嚮導艦としての挨拶をしろと言われていた。
「ああ、僕が嚮導艦の雪風だ……どれくらいの付き合いになるか解らないけど、よろしく」
そう言って、言葉を切るのだけど、それと言った反応も無い。
続きは? とでも言いたげな様子が3人から見て取れた。
……僕に何を期待していたのだか。
残念ながら、僕が用意していた言葉はこれでおしまい。
僕が押し黙ったままにしてると、困ったように、お互いの顔を見合う磯風達。
「一応、今ので僕からの挨拶は終わり……解散していいよ」
とりあえず、はっきり言わないと駄目そうだったので、解散するように命じた……つもりだった。
「なんや、それで終わりなんか? あたしらは訳も解らず、割りと問答無用で覚醒させられたばかり……要するに、何も解らん若葉マークなんや、もう少し心構えとか、あんさんの武勇伝とか語ってくれへんかな? 一応、あんさんはあたしらの先輩、リーダーなんやで! だから、もうちょっと気の利いた話、聞かせてくれへんかな?」
磯風……なかなかどうして、ざっくばらんな性格のようだった。
他の二人が気を付けの姿勢のままなのに、一人だけ早々に両手を頭の後ろで組んでだらけたような姿勢になっている。
「僕から、君達に伝えるような事なんてないさ。僕の過去の戦闘データが欲しければ、データベースにでもアクセスするなり、シミュレーターを使えばいい」
「まぁ、そうツンケンせんといてや……話が終わりって事なら、皆で食事とかどうや? 聞いたで! あたしら駆逐艦の示現体は少佐扱いらしいから、士官用食堂でタダ飯食えるそうやないけ……そないな訳で決定やな! 天津、時津! 我に続けーって奴や!」
馴れ馴れしく肩を組まれて、半ば無理やり連行される。
時津風も天津風も苦笑しながら、後に続く……。
余程、振り払おうとも思ったのだけど……初霜が居たらきっと窘められる……。
そう思ったら、大人しく従ってもいいかな……という気になってきた。
……まったく、僕らしくもない。
もう一つのコリードールへの侵攻。
これはもう確定事項だと聞いた……なら、僕は僕なりの方法で、彼女を迎えに行く。
これもまた確定事項だ。
初霜の安否については、柏木提督や利根は諦めてるみたいだけど……。
あの初霜が沈むわけがない……敵地だろうが、平然と生き延びているに違いなかった。
……場合によっては、帝国を裏切ることになるかもしれないけれど、僕にとっては些細な事だ。
けど、それまで、僕は任務に忠実な番犬を演じなければならない。
この新しい仲間たちも、いずれ僕の前から居なくなってしまうかもしれないけれど……。
せいぜい、利用させてもらう事にしよう。
「なんや、雪風? こう言うのは嫌いか? 生真面目なんもいいけどな……。あたしらにとっては、あんさんは姉貴分みたいなもんなんやで? 人間の間でも、お兄ちゃん、お姉ちゃんは弟、妹の面倒を見ないといけないってルールがあるんやって……! こうやって、同型姉妹艦が4人も揃ったんやから、ここは一つ、あたしら全員まとめて面倒みてくれへんかな?」
肩を組んだままの磯風が戯けたようにそんな言葉を口にする。
物凄く勝手な理屈なんだけど……そんな理由で、死神なんて呼ばれた奴を平然と受け入れるこいつらも大概だった。
「君達は……僕と一緒で怖くないのかい? 僕と一緒にいると皆、沈む……そう言われてるし、また一つそのジンクスを証明したばかりだ……」
「そりゃ、運が悪かっただけなんやないかな? その辺の事情は良くわからんけど、運の良し悪しなんて、人のせいにするもんじゃないやろ。あたしらとしては、あんさんと仲良うしたいんや……何かこうしてても、やたらしっくり来るしな! それに……あたしとあんさんは、駆逐艦やってた頃……坊ノ岬からの付き合いなんやで! またよろしくって奴やな!」
天津風と時津風とも同意するように頷いている。
本当に物好きな奴らだ……。
「君達がそれでいいなら……そうだね。それも悪くないか」
そう答えたら、少しだけ……胸の奥が暖かくなったような気がした。
君がいない世界は、少し寂しいけれど。
僕も少しは前向きにならないといけない。
――立ち止まる。
三人が訝しげな顔で振り返るから、僕は無理矢理に微笑んで見る。
「じゃあ、まずは僕の最初の命令……聞いてくれるかな?」
そう言うと、磯風も真面目な顔になると、天津風と時津風と並ぶ。
全員、気を付けの姿勢を取る。
「僕がここにいるのも、君達が自律稼働示現体として、この場に居られるのも……。君達の先輩に当たる僕の友人のおかげなんだ。彼女はもうこの世界のどこにも居ないんだけど……。いつの日か僕は彼女を迎えに行きたいと思う。その時には、君達にも手伝ってもらうことになるかもしれないけれど、それでも僕に着いてきてくれるかな?」
返事の代わりに揃った敬礼。
「ありがとう……じゃあ、少しだけ……僕は友達の無事を祈るから、出来れば君達も祈って欲しい」
僕も答礼で返すと、瞑目する。
僕達がいるこのエーテルの海からは……本当の夜空の星なんて、見えないのだけれど。
僕たちは、今、星の世界にいる。
これだけ近ければ、届くかもしれない。
星に願いを……遠い世界の君へ。
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『System All Green』
『示現体再構成プロセス、最終段階……終了』
視界に流れるシステムログ。
真っ暗だった世界に光が戻り始める。
「ここは……?」
ゆっくりと棺桶のようなカプセルから起き上がる。
……見慣れた駆逐艦初霜の艦橋。
意識が酷く混濁している……何かあったはずなんだけど、思い出せない。
わたしは、初霜……敵と戦い、人を守る……そのための存在。
記憶を探ると……太平洋戦争の頃の記憶が蘇る。
共に過ごした乗組員や艦長達の思い出。
戦って戦って、戦い抜いて暗い海の底へ沈んでいった記憶。
全てやり遂げたような……満ち足りた思い。
そして、いくつもの温かい記憶の欠片達。
でも、それ以上思い出せない。
今に至るまでの記憶がまるでない……。
アーカイブ照会……。
『Archives Access Disconnect』
データベースとの接続不可。
『Alert Unknown Fleet』
所属不明艦隊の接近警報。
敵味方識別に応答なし。
駆逐艦が二隻、いや三隻……軽巡、それもUSNアトランタ級と確認。
これより、駆逐艦初霜は、迎撃行動に移行する。
---外伝1「出撃前夜」 完---
ひとまず、宇宙駆け外伝「出撃前夜」は、これにて完結です。
宇宙駆けの新章は、まだまだ序盤執筆中なので、公開はもう少し先になる予定です。
新章の開始は、新章開始のお知らせの投稿の上で本編完結とする予定です。
それでは、また。




