外伝1「最終ブリーフィング」①
そして、いよいよセカンドへの突入作戦が実施される時がやってきた。
初霜の改装やら、利根さんの再改修など色々あって、作戦自体は結局一週間ほど順延。
途中で思わぬ休日をいただく……なんて事もありました。
けれど、朝から晩まで雪風やわたし相手に演習を続け、鍛え込まれた利根さんも、実戦で十分戦える程度には熟練し、シミュレーション上では、格上の戦艦クラスと互角に戦えるレベルにまでなっていた。
わたしも新兵器の電磁投射砲と、新式の防空管制システムと大量の対空機銃、高機動化スラスターなどを装備、それに伴った新素材での艦体強化など、様々な強化を施され……もはや、元の艦影の面影がなくなっていた。
操作系も一新され、わたし自身は艦橋に設置された棺桶のようなドライバ・コフィンと呼ばれるカプセルの中に収まっている。
示現体としての身体の感覚を捨て、文字通り艦と一体になるこの感覚は、まるで艦だった頃のよう。
けど、カプセルの内部は、感覚遮断のためのフルードと呼ばれる特殊な液体に満たされているので、搭乗時には服を脱がなくてはならない。
何というか……裸でいるのは、落ち着かないし、恥ずかしい……。
……いつの間にか、そんな人並な感覚が身についてしまったのだけど、今更ながら……と言った感じだった。
わたし達、示現体は元々非稼働状態では、これと同じようなものに入って、艦艇中枢ユニットとして機能していたのだ。
稼動状態の示現体が同じようにする事で、示現体共鳴通信を用いた遠隔操艦よりも、より高い反応速度や感知能力の向上などが確認され、それらの利点を踏まえた上で、本作戦に採用される事となった。
……利根さんあたりは、提督の前で服を脱ぐのが嫌なのと、出来るだけ側に居たいと言う……なんとも乙女チックな理由で、示現体共鳴通信方式で操艦する方法に拘っていた。
気持ちは解らないこともない。
それにしても、この裸でエーテル流体面を走り回っているような感覚……羞恥心と言う物を覚えてしまった身としては……ちょっと……いや、かなり抵抗感がある。
頭では、錯覚だと解っているのだけど……ふとした拍子にしゃがみ込みたいような衝動にかられる。
人と変わらぬ身体と言うものは……良い事もたくさんあるのだけど、こう言う欠点もある……。
けれど、数々の支援策や戦力増強の結果……シミュレーション上では、突破成功率は8割を超えるようになり、当初の突破も危ぶまれていた頃とは雲泥の差だった。
問題は……セカンド突入後のことだけど、そこから先は何が待ち受けているかも解らない。
文字通り未知の空間……異星文明の領域である可能性も否定できず、文字通り決死の作戦。
敵性文明の技術力などは、漂流物などから同等レベルが想定されており、わたしもそう言った未知の同レベルの文明を持つ外敵との戦いを想定していた。
セカンドからの撤収は、調査時間の72時間を経過時点で、撤収可能な状況ならば、まず情報プローブを次元穿孔に送り込み、それがこちらに届き次第、出迎えの艦隊がインセクターを蹴散らし、安全を確保、後詰めの主力艦隊による牽制で膠着状態を作り出し、その隙に撤収……作戦概要としてはこんなものだった。
……ここまでの大規模作戦となったのは、名実ともに本作戦の司令官となった柏木提督が、各方面で本作戦の重要性と、無人稼働艦の有用性を説き、頑張ってくれたからだと言う話だった。
当初は、上手く行ったら儲けもの程度の感覚で、帰りのことなど一切考慮されていなかった事を考えると……格段の進歩だった。
提督の話だと、桜蘭帝国の軍人にも、柏木提督のような考えを持つ者が、少しづつ増えているらしい。
……わたし達の未来も少しは明るいかもしれない。
「うん、いよいよ……本番だね。そっちはどうだい? 君に限って、緊張なんて無いだろうけどさ……。でも、自分で空を飛ぶなんて久しぶりだけど、これはこれで、なんともワクワクするね」
装甲パイロットスーツに身を固めた雪風がそんな軽口を叩く。
彼女はすでに利根より発艦しており、上空警戒の任に着いていた。
「……雪風も、あまり無理しないでくださいね……。瑞雲なんて、落とされる時は、あっさり落ちるんですから」
……雪風は、利根のオブザーバー役だったのに、無理を言って瑞雲の有人型に自ら搭乗し、ギリギリまでエアカバー支援をしてくれると言う事だった。
わざわざ自分のパーソナルカラーの白一色で染め上げた瑞雲に乗って、ご満悦のようだった。
皆、止めたのだけど……雪風は基本的に誰の言う事も聞かない。
柏木提督も再三説得しようとしていたのだけど、結局諦めたようだった。
「大丈夫、落とされたら最悪、泳いで帰るさ……お互い、その程度の経験はあるだろ?」
……考えてみれば、万が一撃墜されても、今回の戦場はエーテルの流れに逆らう遡上戦。
示現体ならば、流体面上に不時着しても、身体一つでエーテルの上で浮いていれば、勝手に帝国軍の領域に流されて、帰還できるだろう……どのみち、心配しても仕方がない。
雪風の言うように、わたしも何度かあのエーテル流体面上での漂流を経験しているけれど。
案外なんとなるものなのだ……実際、艦が轟沈しても、示現体の生還率は極めて高い。
元々、そう言う想定もしていたのだから、当然といえば当然なのだけど……。
もっとも、あの裸での漂流は、心細いこと極まりない。
あまり何度もやりたいものではなかった。
「こちらは、柏木提督……艦隊各員に告ぐ。作戦開始予定時刻まであと15分を切った。これより、最終ブリーフィングを開始する。現在地は目的地「甲06号次元穿孔」より、距離300kmまで接近している。すでに強行偵察機の彩雲四機と、軽巡由良以下突入支援艦隊が先行している。現時点で得られている最新情報を各艦各機の戦術モニターに転送するので、再確認するように……」
言われて、感覚を切り替えると、艦外を映した視界の端に、戦術モニターの内容が表示される。
これら各種情報処理系は、プラグイン実装と言う形で、ソフトウェア的に実現されている。
要は、わたし自身持つ機能を使って、外部情報の戦術モニターを視界内情報として見ている訳。
すで無人制御の彩雲4機による事前強行偵察が行われており、その偵察結果に基づいた敵の配置が表示されていた。
1機が敵艦隊に近寄りすぎて、対空砲火で撃墜されてしまったようだなのだけど、最新情報はきっちり入手できたようなので、問題なかった。
今回の作戦では索敵機母艦と言うことで、500km後方にて軽空母龍驤も作戦に参加している。
龍驤については、示現体は非稼動状態ながらも、航空機の無人制御実験艦でもあった為、柏木提督が開発チームや航空隊ごと、引っ張ってきたらしい。
だから、彩雲についても無人制御の上で、かなり近づいた上での強行偵察が行なえ、詳細な事前情報が入手できていた。
撃墜されても人的被害が一切出ない無人機の使い方としては、まさに最適な用途と言えた。
それに加えて、龍驤には敵機の襲来に備えてゼロ22型を20機ほどと、97式艦攻12機を搭載していた。
本来、桜蘭帝国航宙軍の制式採用エーテル空間戦闘機は「暁07式」と呼ばれるロケット推進機なのだけど。
龍驤自身がロケット推進機を扱えない為に、過去データを元にゼロを再現し運用しているらしい。
数的には悪くない戦力なのだけど、龍驤自身の航空管制ドライバの能力不足で、同時並列制御は4機しか出来ないのが実情。
これで示現体が稼動状態になれば、もう少し高度な事も出来るのだけど、結局許可が降りなかったらしい。
……空母系の無人運用には、セカンドフェイズ……利根さんの実績がまるで足りていないから、時期尚早と判断されたようだった。
現時点では、無人戦闘機より有人戦闘機の方が運用の柔軟性、戦闘力などで分がある以上、無人化にはとても踏み切れないとの事で、まだまだこれからと言ったところ……。
その為、彩雲以外のゼロと艦攻には、人間のパイロット達が搭乗している……。
実は、彼らによる航空支援を実施すると言う話もあったのだけど、わたし達示現体全員で、龍驤の有人機部隊は極力使わないで欲しいと、作戦参謀部の人たちに嘆願を送り、それが受け入れられた。
パイロット達は、自分達は死を恐れない、侮辱するなと、わたし達に食って掛かったのだけど。
雪風が「自殺志願者は、僕が先に殺してあげるよ」……なんて凄んだせいで、皆大人しくなった。
……正直、褒められたやり方じゃないけど、わたしのせいで人死が出るなんてごめんだったから、これでいい。
そして、コリドールの正面中心にある次元穿孔。
見た目は渦潮のような感じなのだけど、突入時にはその渦潮に飛び込むようになる。
シミュレーターでは、流れに逆らわないようにすれば、なんとかなった。
中心部付近の重力偏差は生身の人間の堪えられるものでは無い程のものなのだけど……わたし達示現体でも、瞬間最大100Gと言うのは、なかなかに堪えそうだった……さすがに、スペック上の耐用Gギリギリ。
けれども、このドライバ・コフィンも時空転移の際の重力偏差対策も兼ねているとの事で……その加重はかなり低減されるという話だった。
……なんでも、重力操作技術が使われている次世代型らしい。
帝国軍も提督の働きかけで、わたし達示現体の戦力や将来性に着目し、生還に向けて、最大限の努力を行う方針になったのだとかで、割と最新鋭の技術が惜しみなく投入されていた。
まぁ、片道切符の特攻任務では、ろくにデータも持ち帰れないからと言う至極まっとうな理由もあるとおもうのだけど。
以前、アップしていた分の再アップ分です。
巻きます。(笑)




