外伝1「幕間:彼女達の休日」⑤
「……初霜、そろそろ……機嫌を直してくれないかな? 僕が悪かったよ」
あの後、初霜さんがマジギレしそうになりましたので、わたくし頑張って、身体を張って止めましたの。
……臨戦モードになった初霜さん、本気で猛獣みたいでした。
駆逐艦系の示現体の方々って、白兵戦も想定してると言うことで、重力ブレードとかも使えるようになってるらしいのですけど。
そんなものをこんな所で展開しようとする初霜さんも、どうかと思います。はい。
洗い場の壁に人型のヘコみが出来てますけど、こんな自分の型取り……残されても嫌なので、後で謝っておきます。
部下の尻拭いも上官の役割なんですのーっ!
「もういいですけどね……。わたしもついカッとなって……ごめんなさい。利根さん、大丈夫でしたか?」
「そうだね……僕らの間に割って入るなんて、ちょっと無茶が過ぎたんじゃないかな……」
蛮勇でしたの……まさか、裏拳一発で壁まで飛ばされて、めり込むとは……。
人間だったら、即死でしたわ! 恐ろしすぎますのーっ!
「わたくし一人の犠牲で、お二人の仲裁が出来たのであれば、それは何よりの事だと思いますわ」
そう言ってニッコリと微笑みますの。
実際、壁が壊れてもわたくしは、何ともありませんでしたしね。
確実に弁償モノですけど、その辺は帝国軍が何とかしてくれますわ……きっと。
むしろ、出禁とかならないことを祈ります……わたくしは悪くないと思いますけど。
「よ、良く見れば、なんだか大変な事に……ご、ごめんなさいっ!」
今更、壁の人型に気づいたのか、初霜さんがお風呂の中で正座しつつ、ペコリと頭を下げる。
……当然、ブクブクと顔が沈んで、ざばりと顔を上げて、苦しそうに息継ぎ。
さすがに、これは笑ってしまいますの。
「うふふ……だから、気にしてませんって……もうっ! ……それにしても、この風景も今はもう失われてしまった光景……なのですよね」
話題と気分を切り替えるべく、そう感慨深く呟いてみる……。
実際、この風景は……もう二度と見れないであろう、過ぎ去りし日の風景なのだから。
「そうだね……富士山どころか、日本も……地球すらも無くなってるって……」
「わたしも、その話を聞いた時……衝撃でした。わたし達は、あの国を守るために戦い……沈んでいったのに」
わたくしにとって最後の戦い……佐渡ヶ島沖海戦の記憶。
満身創痍でいつ沈んでもおかしくない状態で、横須賀港に帰還し、総員退艦した上での着底。
……安らかなる最期。
そう言えば、こんな風に駿河湾沖で富士山も見た記憶があります。
生き残った乗員や便乗していた他艦の生き残りの乗員……わたくしの甲板上で、1000人以上の人々が、涙しながら万歳三唱をしていたあの光景。
……初霜さんは、日本への帰途の途中で沈んでしまいましたけど。
共に戦い、その最期を見届けたと言う意味では、全く無縁と言うわけではありませんでしたの。
それに、わたくしも少し遅かっただけの話で……。
でも、最期に日本の風景を記憶に刻めただけ……恵まれてたのかもしれません。
あの戦いで沈んだ艦は、50隻以上にも及んで……あの戦いでかろうじて、ソ連艦隊を壊滅させたものの……。
事実上、大日本帝国海軍は壊滅……帝国海軍最後の戦いとも言われていたそうです。
雪風さんは、それから30年くらい台湾国で、中国軍やソ連軍相手に延々戦ってたそうですけど……。
「けどさ……例え、日本がなくなってても、その魂はルーツとして人々に受け継がれている……そうは思わないかい? この国は……誰がなんと言おうと、僕達の愛した日本を祖とする国なのは間違いないよ」
そう言って、雪風さんは改めて、目の前に映し出された立体映像を指し示しました。
「そうですわね。わたくし達のような……過去の軍艦の魂を受け継いだ存在を作り出したり……。例え偽物と解っていても……こんな風に、過去の日本の風景を再現したり……。あの時代と今のわたくし達はmちゃんと繋がってるって……強く、実感出来ますわ」
「あの……お二人とも、お願いがあります」
初霜さんが真剣な顔でわたし達を見つめていますの。
わたくしも思わず姿勢を正すと、彼女の次の言葉を待ちます。
「もし、わたしが……帰れなかったとしても、この国を……世界を守ってください。わたしの分まで……」
わたくしも無言で頷きます。
「……実に君らしい。僕はそこまでこの国の人々に義理立てなんてしちゃいないんだ……。でも、君の願いという事ならその言葉……承ろう。けど、僕は君の心配なんてしてないよ? 君は不沈の異名を取るような桜蘭帝国軍最強の駆逐艦だ。君に限ってそれはないさ」
「わたくしもそう思いますわよ……。そうそう、この慰問船一ヶ月くらいはこの斑鳩基地に滞在するそうですよ。作戦が無事に完了すれば、休暇ももらえるそうですし……。この三人でまたあちこち巡って、こんな風にまた温泉でも浸かって、初霜さんの労苦をねぎらって差し上げますわ」
「そうだね……そう言う事なら、次は僕がエスコートしよう……パンフ見てたんだけど、お酒が出るような所も結構あったからさ。次は飲み歩き……なんてのはどうだい?」
「飲ん兵衛と飲み歩きなんて、嫌ですわ……そんな事より、次こそビッグくまさんを……」
「いや、だからあれ……売り物じゃないって言われたじゃないか……」
……わたくしが目をつけていたあの人間大のくまさん……あくまで客寄せディスプレイで、売り物じゃなかったと言うんですの……。
「でも、きっと次こそは……何とか手に入れてみせますわっ!」
「あはは……まだ諦めてなかったんですね! じゃあ、今度はわたしも一緒に頼み込んであげますね」
……三人の笑い声が……木霊した。
こう言うのって、雨降って地固まる……でしたっけ?
わたくしも、がんばってエスコートしたり、身体を張って根性を見せたことで、この二人にも一目置かれた……そんな気がしますの。
……そんな訳で、わたくし達のささやかな休日は過ぎていったのでした。
わたくし達三人は色んな意味で、本当の仲間になれたような気がしますの。
決めました!
……わたくしは初霜さんを無事に送り出して差し上げますの!
送り出してしまったら……もう会えないかもしれない。
そんな風に思ったりもしますけど……。
わたくしは、この日の出来事は忘れませんし、雪風さんや初霜さんだって同じでしょう。
例え、それが失われてしまっても……誰かが覚えていてくれて、記憶として受け継いでいってくれたのならば……。
それは、永遠に残るものとなるのです……この富士山のように。
そして、彼女が無事に戻ってきたならば、こんな風に三人でまた……笑い合えたらなって……。
心から……そう思いますの。
外伝と言えば、日常パートだろ! と挟み込んだ日常回、如何でしたか?
例によって、長くなってしまいました。
次回は、未投稿ぶんまで一気に連続投稿予定です。
今日あと二回、明日も二回を予定。(笑)




