第二話「軽空母祥鳳の憂鬱」④
「しほちゃん、敵飛翔体の編成って解りますか?」
レックスさん。
うん、やっぱそこ気になるよね?
「敵機はいわゆる戦爆タイプが主力だったよ……ボクスター級……これは説明不要かな。あとは一撃離脱型のトライデント級がいたよ! 結局あんにゃろーにやられちゃったし……」
ボクスター級は菱餅に尻尾付けたみたいな形の飛翔種で一番よく見かけるタイプ。
液化爆薬嚢……要するに爆弾を装備……それと対空機銃みたいなの撃ってくる。
対艦攻撃と対空戦闘を両立してるから、柔軟性が高いんだけど……。
どっち付かずな上に、装甲が紙なのではっきり言って弱いっ! 爆弾の投下前なら爆薬嚢狙いであっさり吹っ飛ぶ。
前の戦いでは先制奇襲出来たおかげで、爆弾投棄もままならない状態で一方的に10機くらい落とせた。
でも、同じ失敗はしないよなぁ……普通に考えて。
トライデント級は、大型の高速爆撃機……名前の通り三角形の流線型をしたスマートな奴。
エーテル流体層に潜りながら近づいて、いきなり飛び上がって奇襲爆撃を仕掛けてくる厄介な奴。
通称空母キラー……皆、それで結構やられてる。
対策自体は、上から見れば潜ってんのがバレバレだから、対潜哨戒ちゃんとやってれば対応は出来る。
潜ってる間は鈍くさいから、むしろ潜ってる時を狙うのが楽……飛ばれちゃうとゼロだと追っつかない位には早いから、そうなる前になんとかしないとマジで危ない。
こっちの戦力については……まず初霜ちゃんは間違いなくエース格。
……戦力的には、軽巡とタメ張ったって話から、最低でも駆逐艦3隻分くらいかな……。
もっとありそうだけど、低く見積もっといた方がこう言う場合は正解。
レックスさんも空母組のエース格……艦載機数だけでも私、三人分だ……すげぇ。
この二枚のワイルドカードをどう使うか……それが本作戦のキモだね。
「レックスさんの航空隊編成はどんなもんです? 私は、ゼロが20機に99艦爆8機の編成にしてますけど」
「あら……考えることは似たようなものなのね。私も90機中50機がF4Fです。……F6の方が確かに強いんですけど……とにかく、扱いやすくて……。あとはSBDとTBDが20機づつですよ……対ネスト戦って聞いてたから、戦闘機偏重の編成にしました。防空って、大事大事よねぇ……」
やっぱ、考える事は一緒だった……どっちも飛行機相手に痛い目見てるだけに、対空防御重視……なんとも、気が合いますなぁ……。
意外と皆、解ってないんだけど、戦闘機ってのは実は防御兵器なのだ……。
SBDドーントレスとTBDデバステイター……嫌ぁな名前だけど、この際気にしない。
レックスさんも、99艦爆見て嫌そうな顔してたから、これはお互い様だねー。
「そうなると、戦闘機だけで70機! これなら航空戦は圧倒できますね!」
航空戦力では、ひとまず優位性を確保できそう……となると、どんな戦術で行くか?
エーテル支流の形としては、くの字型で途中から折れ曲がってるような感じで、ネスト級が居座ってるのは、くの字の真ん中のやや下……ちょうどエーテル潮流に淀みが出来てる辺りだと推定される。
連中も流れの中を定位するのはホネらしく、停泊する時は決まって、そんな感じの場所に集まる習性がある。
そうなると、この場合の戦術プランの最適解は……ひとつだね。
「作戦としては……下流側から空母二隻が囮となって攻め上がって、敵機と敵艦隊を誘引……上流側から一気に駆逐艦で近接戦を挑む……こんな感じでどうですか? 問題は……二手に別れることになるので戦力をどう振り分けるか……なんですけど」
確実に仕留めるとなると、駆逐艦全員で上流から突撃……航空機はエーテル潮流なんか関係ないから、空母は下流から攻撃ってのが順当なんだけど。
潜行艦とかいたら、あっさりこっちがやられる……敵の艦隊群も航空隊だけで全滅させるなんて、さすがに無理……。
あの規模の艦隊相手に囮役を務めるとなると、護衛艦が三隻、いや最低でも四隻は欲しいところ。
それだって、最低限だ……効果的な輪形陣を形成するとなると、前後左右を固めて、盾役となる重巡か軽巡クラスを含めて6隻は欲しい。
まぁ、そこまで望むのは贅沢だよねぇ……やっぱり。
「なるほど……しほちゃんもなかなかどうしていい戦術眼をしてるじゃないか。……悪くない作戦だ。我々も前回は敵飛翔体群に阻まれて、ネスト級に近づくこともままならなかったんだ。それに、上流からだけの攻撃だと敵艦隊に下流側に逃げられると言う懸念点もあってね。下流側に行かれると、今度はこの中継ステーションが危うくなるから、それだけは避けたい。でもその作戦プランなら、敵の退路も塞げるから悪くない案だ……レックスさん、初霜……二人はどう思う?」
確かに単純に考えると上流側からの、全戦力での攻撃がベストなんだけど……。
提督の言うように、下流へ全力で逃げを打たれたら、手に負えないことになってしまう。
かと言って、下流から攻め上るのは敵に逃げられる心配はなくなるものの、兵力で劣るこちらの不利は否めない。
だからこそ、上流と下流から挟撃するこの作戦案がベスト……だと思う。
「私も……しほちゃんと同じような事を考えてましたね……しほちゃん、優秀~。でも、確かに護衛なしだと、航空隊抜かれたり、潜行艦の奇襲でこっちが沈められちゃいますね。それに私達、どちらも戦闘機偏重編成なので、対艦戦力が足りない……。艦が沈むと、艦載機も総崩れになりますから……やはり防空と対潜を担う護衛艦は必須ですね……」
「そうなると、要するにわたしが護衛に回るか……攻撃に回るかってことですよね。なら、わたしはどちらかと言うと守りの戦いのほうが得意なので、護衛に回りますよ。攻撃役は……雷、電、疾風ちゃんの三人でってところでしょうか」
おおお……初霜ちゃんそう来たか。
この娘……確か400機の空襲から無傷で帰ってきたとか言う逸話持ちだし、護衛についた船は沈まない……なんて言われた程の護衛戦のスペシャリストなんだよね。
こっちでの実績からも、対艦、対空戦闘に関しては半端じゃないのは解ってるから、超頼もしい!
けど、艦隊護衛ってどうしても一人ってのは無理がある……となると、この場合の最適案としては……。
「いや、ここはあたしら二人が特攻役に志願させてもらうよ。あん時は、初霜にいいようにやられたけど、今度はあたしらの番だ……そうだろ? 雷」
「なぁんだ、先に言われちゃったか……考える事はやっぱ同じだね……電。疾風ちゃんは護衛に回って……どのみち急造チームなんて、上手くやれる気がしないです。その点、私達二人は永遠の姉妹だからね……もうコンビネーションはバッチリですよ」
うん、なんか言い出しにくかったけど……たぶん、現有戦力ではこれが最適解。
暁型は対空戦闘能力は劣るものの、対艦攻撃力に優れ、速力もあるから突撃には向いてる。
彼女達も黒船戦では、そのコンビネーションで常に二隻で当たることで非常に優れた戦績を出している。
二人に賭けると言うのはまんざら分の悪い賭けじゃない。
航空隊の全戦力と初霜ちゃんがいるなら、敵の全力が相手でもたぶん、抑えきれる。
疾風ちゃんを直衛に回せば、万が一初霜ちゃんが抜かれても対応できるし、私だって高角砲とか持ってるから、対艦戦闘力が皆無って訳じゃない。
レックスさんに至っては、8インチ砲8門とか装備してるから、砲戦力と装甲は重巡並……さすが元巡洋戦艦。
対潜哨戒も……哨戒機を出せば対処できる……護衛戦力の薄さは気になるけど、この際、贅沢なんて言ってらんない。
特攻を仕掛ける雷ちゃん達には……頑張ってもらうしか無いけど、ここは二人を信じよう!
「ごめんね……二人には結構無茶してもらう事になる……そこは正直、気が進まないけど。戦力的にはそれが一番いいって思う。提督さん、ひとまずこんな感じだけど、どうかな? 皆、一応これで納得してるみたいだけど。正直、これ以上のいい案は思いつかないなぁ……」
「ああ、そう言う事ならそれでいい……。空母の護衛戦力が足りないのは解ったから、何とか都合が付かないか未来人と交渉してみるよ。しかし、そうなると、私はしほちゃんに乗った方がいいな……初霜も私が一緒だと、本気出せなかったようだからね。正直、あの戦闘機動は身体がバラバラになるかと思った……」
「そんななんですか? 私は別に構いませんけど……いきなり、そんな重用していただき……なんか嬉しい……かな? でも、大丈夫かなぁ……私、ついこないだ艦沈めたばかりですよ……? それこそ、旗艦役ならレックスさんの方がいいような……」
「私は、あくまで助っ人ですからね……今後の事を考えても、旗艦はしほちゃんが務めるべきですよ。それに今の作戦案のまとめ方……いい感じの副官みたいでしたよ」
「そだね……なんか自然に皆の役割も割り振ってくれたし、説明も解りやすかった……やるじゃん! しほちゃん! ……そう思わない? 電」
「うんうん、ぶっちゃけ提督なんかより、よほど指揮官してたよね……雷」
「私も……ちょっと感心しました。提督がそちらに乗られるのなら、私は心置きなく全力で戦えます……。ご安心を……この私が守りに付く以上、絶対沈めさせません」
皆から、なんか褒められちゃったよ?
……なんかこそばゆい……。
でも、なんだろこれ? ……なんかすっごく嬉しい。
やばい、なんか……ウルって来た……目頭が熱い。
「しほちゃんは、頑張りやさんですからね。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」
レックスさんがそう言って、背中から抱きしめてくれる。
……ありがと、皆。
私……がんばるからねっ!
さて……しほちゃん編でした。
彼女は、自分の非力さを解ってるので、そのぶん努力するって感じの娘です……こう言うキャラ、私は好きです。
戦姫初霜、二人で一人みたいな雷電姉妹、飄々とした疾風ちゃん。
なんとも、個性的なメンツですねー。
さて、次回……黒船戦開戦……と思いきや、別の艦にスポットを移します。
次回、第三話「私の彼はスツーカ乗り」
はい、まさかのあの人登場です。(笑)
艦これ二次でも絶対なかったこのシチェーション……熱いっ!