外伝1「重巡洋艦利根」①
翌日……。
わたしと雪風は、重巡洋艦利根の艦橋へやって来ていた。
昨夜のうちに、重巡利根の改装も終わり、その示現体の自律稼働も無事、成功したとのことで……わたし達も彼女と初めて、会うのだけど……。
その第一印象は……緑色。
黄緑色のエプロンドレスを着て、緩いウェーブの掛かった肩の辺りで切りそろえた亜麻色の髪と緑の瞳。
ドレスと同じ黄緑色の帽子と何故か日傘……これもやっぱり同じ色。
そして、面白く無さそうにへの字に結ばれた口。
けど、背はそんなに高くない……雪風より、少し大きい程度。
うーん、巡洋艦クラスの示現体は駆逐艦と違って、大きめって聞いてたんだけど、意外とちっちゃい。
「初めまして……あ、あの……わたし、駆逐艦初霜です。こっちは雪風……」
わたしが自己紹介をすると、利根さんはツカツカと無言で、わたしの前に歩み寄ると、遠慮なしに上から下まで、ジロジロと見る。
髪の毛を触ってみたり、セーラー服を摘んでみたり……ひとしきり、わたしを観察すると、今度は雪風に近づいていって、同じようにする。
「あ、あの……なにか?」
恐る恐る声をかけると、おもむろに向き直ると、フンッと鼻で笑われた。
「お仲間に直接会うのは初めてだけど、わたくしよりおチビさんなのね! わたくしは、重巡洋艦利根! 航空巡洋艦化改装もさせてもらってますので、あなた方なんて敵じゃないの! お解り?」
「……君、僕らに喧嘩売ってる?」
雪風が目を見開いて、ムッとした顔で前に出る。
雪風のこれは、危険信号……どうも、雪風は気が短くていけない。
「まぁまぁ……そうですね……。敵じゃないのは、確かですね。お仲間として、今後共、よろしくお願いしますね」
そう言って、雪風を押しのけながら、わたしが前に出る。
たぶん、言ってることは間違ってないと思う。
「……あら、皮肉も通じないのね。まぁ、いいわ……。明日の作戦では、あなたの護衛を努めろって命令を受けてるわ……けど、昨夜生命維持カプセルから出たばかりのわたくしに、一体どうしろと言うのかしら? まったく」
「ははは……偉そうに言う癖に、要はヒヨッコって事じゃないか……確かに僕らの敵じゃないね!」
「なんですって! おチビの駆逐艦の癖に生意気よっ! わたくしは帝国海軍最強最後の重巡洋艦……まさに完成形とも言える艦なのよ! ……あなた方のような駆逐艦とは格が違いますのよ! 格が!」
「確かに格が違うね……。僕らは幾多の激戦をくぐり抜けた言わば古参兵だ……新兵同然の君とは別格だろうさ」
お互い軍と言うものをよく知る者同士……これ以上解りやすい例えはないほど、適切な例えに利根さんも言葉を失う。
「ぐ、ぐぬぬ……! た、確かに……そう言われれば、その通りよ! 今はヒヨッコよっ! 認めざるをえないわ! でも、なんか凄く悔しいわっ! キィーッ!」
なんか……ハンカチを咥えて、引き裂かんばかり……怒っているらしかった。
重巡利根の示現体……一体、どんな示現体なのかと思ったら、予想外……としか言いようがなかった。
重巡洋艦利根……。
太平洋戦争でも真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、レイテと名だたる海戦に参戦し、数々の武勲を挙げ、沈むこと無く幾多の戦いを戦い抜き……最後は呉の大空襲にて、燃料もなく身動きもできない状態にも関わらず最後まで奮戦し……大破着底。
その後の第二次日本海海戦にも浮揚後、応急修理を受け参戦。
わたし達、最前衛艦隊の旗艦として、幾つもの直撃弾を受けながらも沈むこと無く戦い抜いて……満身創痍で日本に帰還。
その後、横須賀で全ての乗員を下ろしたあと、力尽きるように、人知れず着底……その生涯を終えたと聞く。
武勲艦と呼んで差し支えない程度の武勲を持つ……そんな艦だった。
「大丈夫ですよ……利根さんなら、すぐに強くなれますよ。共に佐渡ヶ島沖海戦を生き延びた武勲艦じゃないですか」
「そうね……確かにあなた達の事も覚えてるわ……白い死神雪風と黒の守護者初霜。こっちでも、真っ先に示現体自律稼働艦として、ファーストフェイズとして抜擢……。まったく、無茶な戦いばかりに付き合わされて……同情しないでもないわ……」
「そりゃ、お互い様だね……。君もセカンドフェイズとは言え、自律稼働艦として選ばれた以上、相当無茶やらされるよ……覚悟しとくんだね……元旗艦殿」
雪風がそう言うと、利根さんは少し考え込むような仕草を見せる。
ああ、データベースにアクセス中なのね……ホント、わたし達と同じなんだ……。
「元旗艦って……あらやだっ! あの時の麾下の艦隊にあなた達の艦名があるじゃない……と言うことは、あなた達……わたくしの元部下だったのね! 外なんて出るんじゃなかったって思ってたけど……そう言う事なら元上官として、あなた達の手伝いをする……悪くないわね……。うちの艦長だって、なかなかいい男だし!」
「柏木中佐とは、もう会われましたか?」
「そりゃあ、カプセルに篭ってた頃からのお付き合いですもの……時々文字メッセージで、お話くらいしてたわ……。あの方、色々変わり者らしいけど、いい男なのは認めるわ……。言っとくけど、あの方はわたくしの艦長様なの! 色目なんか使ったら、承知しないわよっ!」
思わず、雪風と目を合わせると揃って苦笑する。
あの武勲艦重巡利根が……こんなだったなんて……お互い、示現体になってみないと解らない事もある。
雪風だって、最初会った時はあの雪風がこんな姿に……って思ったもの。
でも、名前と同じように雪のような白い髪とか、どこか儚げな雰囲気とか。
何となくひと目で納得してしまったのも事実だ。
「どうしたんだい? 初霜?」
「えっと……雪風と会った時の事思い出してました……。雪風はわたしと出会った時どう思いました?」
「そ、そりゃあ……嬉しかったよ! すごく……でも、あの時の事は忘れて欲しい」
……あの時の雪風。
会った直後に泣き出された挙句に、思い切り抱きつかれたんだっけ……。
「まぁ、お互い……こんな姿になって……色々思うところはあるわよね……って、柏木艦長様ぁああっ!!」
利根さんが唐突に黄色い歓声を上げると、物凄い勢いで駆けていって、ちょうどそこへやってきた柏木中佐に全身全霊の体当たり……にしか見えないのだけど、抱き付きに行ったようだった。
けれども、すんでのところで避けられて、利根さんは壁に激突!
……とっても痛そうだった。
「どぅわったぁ! 利根っ! お前のタックルなんて、まともに食らったらこっちが死ぬ! 勘弁してくれ!」
「酷いですわ! 柏木艦長……とっても痛かったです! 避けるなんて、あんまりですわっ!」
思い切りぶつけたおでこを押さえながら、利根さんが喚き散らす。
よく見ると壁の構造材の方がヘコんでる……まぁ、当然の結果。
……わたしでも、加減を間違えるとああなる。
利根さんには、その辺からまず教育しないと駄目だなーなんて事を思う。
「初霜ちゃんに、雪風……すまんが、力加減についてやら、その辺から教えてやってくれないか? この調子じゃ命がいくつあっても足りない」
「そうですね……利根さん、人間はわたし達より脆弱なんで、今みたいな勢いだと中佐が死んじゃいますよ?」
「そ、それは嫌です! と言うか、そうなんですか?」
「……ああ、お前が本気で殴ったら、そこの壁だってあっさり穴が開く……。実際、ぶつかっただけで艦橋の壁の方がへこんでるじゃねぇか。俺達人間は壁よりもか弱いんだ……俺が避けなかったら、今頃は……」
「あらやだ……艦橋の壁って案外脆いんですね……。あとで構造強化しないと……ですわっ!」
「そうじゃないだろうっ!」
利根の頓珍漢な答えに、さすがの柏木提督も苦笑い。
……先が思いやられるようだった。
久々な気もする新キャラ重巡利根ちゃん登場!
ビジュアル的には、ローゼンの金糸雀とゆゆゆの樹ちゃんを足して二で割って、モノクルかけさせた感じです。
割りとイメージが固まってるんで、イラスト化も考えてます。
今んとこ、要望が二件ほど来てるんで、もうちょっと押されたら、その気になるかも?
見てみたいって人がいたら、感想なり割烹にコメントで、「利根ちゃんイラスト化希望」とリクエストください。
また他のキャラで希望ありましたら、どうぞ。
あと、ブクマや評価も面白いって思ったら、お願いします。
外伝終了後、反響いかんによっては、本編再開という展開もあり得るんで……ね?




