第二話「軽空母祥鳳の憂鬱」③
「まとめて呼ぶなって言ってんじゃん……ったくー。」
「そうですよっ! まとめられるとどっかの戦闘機みたいじゃないですかー! がぉーっ!」
抗議の声をあげる黄色いボブ・ショートの二人は……おお、双子ちゃんだ!
この子らが雷電姉妹だねっ! でも、どっちがどっちだか解らんっ!
違いとしては、リボンの色? それないと本気で解かんないよ……これ。
でも、後ろの黒髪ロングに白いカチューシャの娘は……なんか露骨に雰囲気が違う……。
なにこの娘? なんか、オーラみたいなの漂ってない?
鋭い目つきに、凛とした表情……ピシッとした姿勢。
黒一色のセーラー服に赤いスカーフが映える……。
細身で背も全然小さいんだけど、一目でなんか強そうって……。
「えっと、初めまして……ですね。あっちに見える軽空母の方……ですよね? その巫女さんみたいなカッコ可愛いですね」
そう言って、にこやかに笑うと一気に雰囲気がガラリと変わる。
私ら日本の空母系の艦は……名前がおめでたい感じのが多いのだけど、そのせいか皆、紅白の和服みたいなのを着てるコが多い……かくいう私も白無垢の上着て、小豆色の袴風スカートの和装……いわゆる巫女さんスタイル。
でも、神事とかの知識なんて無いけどね! かしこみかしこみーって言うんだっけ?
無知で悪かったね……私が知ってるのは戦うための知識だけだいっ!
もうこのカッコも慣れちゃったけど、お休みのときなんかはジャージか下着姿。
だって、楽なんだもん! 人には見せらんないね……だから、これは私の細やかな秘密。
「えへへ……ありがとー! そっちは噂の初霜ちゃん?」
「そうですけど……私、そんな有名なんですか?」
「有名っすよ! 何と言っても武闘派メリケン軽巡のアトランタとガチ勝負して、圧倒したって話。あっしら駆逐艦日本勢としては、むしろ鼻が高いっす!」
何故かドヤ顔の疾風ちゃん……駆逐艦ってどっちかと言うと頭数勝負で、あんまり強くもないんだよね……。
軽巡と駆逐艦だと、戦力比は1:3くらいのはずなんだけど……初霜ちゃん、意味わかんない。
私としては、駆逐艦の娘達は護衛についてくれたり、着艦失敗した飛行機の回収……トンボ釣りとかで散々お世話になってるから、頭が上がらない……。
まぁ、こっちだと飛行機って基本無人機、要は使い捨て感覚なんで、トンボ釣りってあんまやってもらった事ないんだけどね。
ちなみに、疾風ちゃんは第18艦隊でも、なんか私専属の護衛艦みたいな感じだったから、割りと付き合いも長い。
でも、駆逐艦のうち何人かは、カタログスペックとかガン無視してるようなのがいる。
目の前のこの初霜って娘もたぶんその一人……会う前は眉唾って思ってたけど、実物見てガチだと実感した。
「模擬戦やって二人がかりでも、初霜には勝てないんだよなー。何が違うんだろね……疾風とは初めてだけど……同じ日本の駆逐艦同士、仲良くしよっぜ! あ、あたしが電でこっちが雷ね……このリボンが目印だから間違えんなよー」
「おいっす! 疾風ちゃんをよろしくっす!」
「えっと、青いリボンの方が電ちゃんで、赤いリボンが雷ちゃんね。良かった……ちゃんと目印あるのね……あ、私、軽空母の祥鳳。皆、しほちゃんって呼んでいいからねー。」
と言うか……私って甲板にも上空識別用に「しほ」って書いてあるんだよね。
だから、自然と皆そう呼んでくれる……まぁ、なんか可愛いから自分でも気に入ってる。
「なるほど、しほちゃんか……いいな、それ。私もそう呼ばせてもらうよ……あと、これはお近づきの印だ。私の手作りなんだが……味は悪くないと思うよ」
そう言って、友永提督が可愛らしいリボンでラッピングされたクッキーの袋を懐から取り出して、私と疾風に渡してくれる。
割りと、豪快そうな人なのに、何このキュートなハート型のクッキーは!
「可愛いぃ……ありがとうございま~す!」
「ははは……こう見えて、私はお菓子作りのプロなのだ。そのうち、もっと素敵なスイーツをご馳走しようじゃないか……!」
マジすか……。
なんか、この人いいな……何かと気の利かない上に、空気を読めない未来人達と違って、女の子の扱いってもんを解ってる。
なるほど……私らの上官として、わざわざ過去の人物を再現したって話だけど、こう言う人達の為って事なら、こっちも俄然やる気が出る……未来人、上手いな……。
ヤバイな……今ちょっと私、キュンと来たよ?
って、食べ物につられるとか動物か何かか……私はっ!
「はいはーい! この疾風、提督に一生ついていくっす!」
疾風……君、チョロすぎ。
「あらあら、二人共……良かったわねぇ」
レックスさんに笑われてるし……なんだかなーもう。
そんな調子で永友艦隊こと、第201独立遊撃艦隊の司令部と称する掘っ立て小屋みたいな所に案内される。
「おお、見事なまでになんもねぇっす!」
疾風ちゃん……そろそろ自重しよっか。
君の美点はその直球さだけど、度が過ぎると嫌われるよ?
「すまんねぇ……ぼろ小屋で……。ケプラー20星系府の方からも、もっと良い司令部を用意するとは言われてるんだがな。あまり使わんので、この物置小屋で構わんと言ってしまってなぁ……。とにかく……我が艦隊にようこそ! 心から歓迎しよう!」
そう言って、敬礼をすると実にいい笑顔を浮かべる提督。
他の三人も揃って敬礼……当然、私らも右へ倣えだ。
「えっと、そうなると……このメンバーでネスト級の攻略って事でいいんでしょうか? 航空戦力なしで挑むのは少々厳しい相手とは思ってましたが……。さすが提督です……ちゃんと根回ししてたんですね」
「ああ、初霜……しほちゃん達は、正直僥倖なんだがね……レックスさんもロバート提督の好意による来援だ。まぁ、私は……何もしてないな……恥ずかしながらね」
いやいや、渡りに船って感じで頼みもしないのに、その時々で望んだモノが集まってくるってのは、それは何か持ってるって事だよ?
うん、私も……この人に着いていこう! きーめたっ!
「例によって、作戦案は君達で決めてもらっていいぞ。どうせ私は戦争の素人だ……何か必要なものがあれば、私が未来人達と掛け合ってくるさ。実際、向こうさんもかなり困ってるらしい……なんせ、独自に賞金賭けて、戦力集めてたくらいだからな。初めから我々に相談してくれれば、こっちも統一作戦行動とか出来たと言うのに……。ものの見事にてんでバラバラに攻撃してグッダグダだ……まったく呆れ果ててモノも言えんよ」
「確かにあれは酷かったね……敵の戦力も解らないまま、バラバラで突撃! ……だもん。私なんか普段から航空隊の戦術指揮とかやってるから、少しくらい相談してくれれば、作戦案とか何とかしたのにさ……」
思わず、愚痴が溢れる……言わないとやってらんない。
まぁ、未来人さん達って黒船が現れるまで、戦争ともほとんど縁がなかったらしいんだよね。
戦争根絶か……私たちが戦争してた時代からすると、考えられない話なんだけど……人の世も進歩するのだね。
「そうか……空母さん達は、航空隊の指揮統制は普通にやってるのか……なら、丁度いいな。しほちゃん、君ならこの戦力でどう攻める? 単刀直入な意見を聞きたい」
はい? なんかいきなり、無茶振られた……でも、ここは私の売り込みどころ。
イエスウーマンじゃ、売りにならないもんね!
これでも、少ない航空戦力の有効活用って事で戦術については、色々勉強したし、同じ空母さん達とVRシミュレーションとかで実戦並みの訓練だって重ねてるんだ……そこそこ実戦経験だってあるんだし、ここは、ひとつ腕の見せ所!
とにかく、こっちの戦力は駆逐艦が4隻に、空母2隻……私とレックスさんを合わせれば航空戦力が100機以上。
そうなると……戦力比的にはどんなもんだろ?
とにかく、敵の陣容が良く解かんないんだよね……これ超重要なんだけど。
「うーん……まずは敵の情報が欲しいなぁ。少なくとも敵も空母タイプで航空戦力は100機前後……。 レックスさんいるなら、キルレシオではこっちが優勢だから、航空戦力は互角以上……そこは有利だけど、艦隊戦力となると……なんとも。私が知ってる情報なんてこんなもんだよ。護衛の駆逐系がいっぱい居たのは知ってるけど、数は結局、よく解かんなかったよ……」
「敵の総勢ですか? 先の強襲の際、確認出来た限りなので掴みってところですが……。ネスト級が一隻、後は中型……巡洋艦タイプが2隻……それに駆逐艦クラスが10隻くらいです。ネスト級へ接近さえ出来れば、突入して中央コアを叩き潰してご覧に入れます。なので、問題はあの飛翔体と護衛艦隊をどう攻略するか……ですね」
サラッと言ったよ、この娘……でも、やれるって言う以上はやってのけるんだろうね……この娘。
けど、あの時……この娘達、敵中強行突破して来たんだ……やるなぁ……。
まずは、威力偵察かなって思ってたけど、そう言う事なら、手間が省けた。