最終話「宇宙(そら)駆ける!」
あの戦いから三ヶ月ほどが経っていた。
桜蘭帝国派遣軍は、あの直後……富嶽による攻撃が失敗した時点で、帝国航宙艦隊総司令官クルギ大将の名に於いて、無条件降伏が宣言された。
あの重力爆弾の無制限開放による富嶽特攻作戦は、桜蘭帝国軍人の過激派による暴走と、重力爆弾の取扱を間違えると言う数々の不幸が重なった末の事故のようなもので、帝国派遣軍側が意図したものではなかったとの事だった。
事実を知ったクルギ提督は艦隊司令部全員、腹を切って詫びとするとか言い出して、大変だったらしい……。
そして、降伏したクルギ司令達から、向こう側の世界の危機的状況を知った未来人達の決断は、珍しく素早かった。
それは、向こう側の世界の人類への救援を行うというもの。
向こうの状況の悲惨さもさることながら、こちらの世界に現れる黒船の多くは、向こう側のエーテルロードを経由してきていた事が判明したからだ。
だからこそ、向こう側の世界へ乗り込んで黒船を殲滅する……それがこちらの世界への黒船の進出を止める最善の道でもある……そんな風に未来人達は言っていたけど。
その辺は建前で、助けたいと思ったから……それが未来人達の本音のようだった。
違う歴史を歩んだ異世界だろうが関係ない……純粋に、困っている人達を助けたい。
どこまでもお人好しな甘い考えなんだけど、そんな決断をした未来人たちをわたしは心から尊敬する。
けど、その決断を後押しした要素の一つに、自らを犠牲にして、富嶽の特攻を止めた雪風の事もあったのは疑いようがなかった。
雪風の死は……決して無駄じゃなかった……そう思う。
「それにしても、お前らと肩を並べて、黒船と戦うことになるなんてなぁ……」
久しぶりに会った磯風さんが感慨深げに言う。
「お久しぶりです……わたしも救援作戦には参加しますからね。第一陣は重巡以上の主力艦艇だけで50隻を超えて、補助艦艇や無人艦を合わせたら300隻は行くみたいです」
「ははっ! さすがこっちの連中はやる事のスケールが違うなぁ……その数だけで桜蘭帝国の残存艦艇数を超えとるんやけどな……」
「それとなんでも、数キロ規模の超大型拠点艦なんてのを建造したそうで、第二陣はその拠点艦と資源衛星を一個まるまるをそちらの世界に転送して、黒船への反撃の拠点とするそうですよ……って、どうしたんですか? 引きつった顔して……」
「……いや、つくづく無茶な相手に喧嘩売っとったんやなぁ……と思ってな。そういや、こっちの磯風と雪風に会ったで……特に磯風! ありゃ、もう一人の自分に会ったようなもんだったわ……ほんに、お互い驚いたわ!」
「こっちの磯風さんって……そこまで似てましたっけ?」
一応、こっちの二人については、データで見たんだけど……。
こっちの磯風は見た目は確かに似ているのだけど、もっとおとなしげな感じで、雪風もむしろ、ボーイッシュで活発な雰囲気で、わたしの知る雪風とは別人……そんな印象だったのだけど。
「髪型とか細かいとこは違うし、大戦の記憶なんかも大分違っとったけどな……。なんつうか、根底が一緒やって思った。こっちの磯風とは、お互いどう呼ぶかで揉めてもうたけど、なんかすっかり意気投合してもうたよ!」
「……わたし、こちらの雪風さんとは……交流ないんですよね。何か言ってましたか?」
「それがなぁ……妙なこと言っとったよ! 雪風は別の世界にいるとか何とか。なんか……理屈抜きでそう言うの解るんだとか……。それに本国の艦建師も雪風の再建を試みたらしいんやけどな……上手く行かんかったらしい。本来、艦体と示現体が破壊されても、あたしらの魂のようなもんは不滅で、記憶なんかはまっさらになるけど、戻ってこれるはずなんやけど。それが出来ないって言っとった」
「それって……ひょっとして!」
「せや、あの戦馬鹿……どっかで生きとるって事や……。良かったな……アイツ、化け物じみた強運やったから、簡単にくたばるとは思えんかったけど……そう言う事なら納得や。そのうち、ひょっこり帰ってくると思うで! こっちの雪風もそう言っとった」
「そう……そうなんですね……雪風が……」
それだけ言うと、不覚にも目頭が熱くなる……。
「ちょ、ちょっと待ってぇな! いきなり泣き出さんといてくれや! あたしが泣かせたみたいで困るわぁっ!」
そう言われても、どうしょうもない……。
磯風さんがとりあえず、ギュッと抱きしめてくれる……まぁ、胸を借りるっこう言うのを言うのかな。
「……え、えっと……これはどう言う状況なんだろう? なぁ、シホちゃん……私はこう言う時、どうすればいいと思う?」
「提督……それ、私に聞きますかね……」
「あっしは、ここは男らしく、黙って両手を広げて、こっちにおいでって言うべきだと思うっす!」
……このタイミングで永友提督がやってくるなんて……。
とりあえず、ゴシゴシと目元をこすって誤魔化すと、無理矢理に笑ってみせる。
見ると、提督の背後にはゾロゾロと仲間たちが揃っていた。
雷電姉妹に、祥鳳さん、疾風、ハーマイオニーさん達に信濃さん。
他にも見慣れないメンツが何人かいる。
「……疾風の馬鹿……これはそう言うんじゃないですよ。何と言うか嬉し泣き……ですかね?」
「あはは……初霜ちゃんに雪風の事話したら、泣かせてもうたんや……堪忍やで!」
そう言って、磯風さんが笑うと提督も事情を察したようで、苦笑する。
「そうか……雪風さんの件は聞いてるよ! 私も彼女の件はちょっと気にかけていてね……彼女のお陰で我々は救われたようなもんだ……。助けてやれなかった事を悔やんでたんだけど……どんな形であれ、生き延びてて、いずれ戻ってくるんであれば、その時は大手を振って迎えてあげればいい! 良かったじゃないか! 初霜っ!」
「……そうですね……。ありがとうございます!」
実を言うと、あの後わたしは……雪風を犠牲に生き延びてしまった事で、サバイバーズ・ギルトと呼ばれる状態になってしまったらしかった……。
色々あって、立ち直れたんだけど……提督の存在が大きかったのは、紛れもない事実だった。
「そうそう初霜、12時間後に我が艦隊は桜蘭帝国救援艦隊の第一陣として、出撃することになったんだ。だから、君を迎えに来た……もう、問題ないと聞いてるけど、大丈夫だよね?」
「はい! むしろ、喜んで拝命させていただきます!」
「いい返事だ! そうだ磯風君、君も悪いが我々と同道してもらうけど、聞いてるよね?」
「もちろんやで! イオン、伊勢、加賀、長門も一緒や! まったく、こっちは無条件降伏したのに艦体も直してくれて、拘束もせんで、物見遊山までさせてくれるとか……寛大すぎて皆、あきれとったよ。長門や伊勢なんかこれは罠だ! とか騒いどったくらいやで……。けど、12時間後に出発で、今から集めるとかちょっと気が早いんじゃないかな? 準備っても整備や補給はあたしらノータッチで、最終確認くらいしかやる事ないやろ……」
「ああ、君たち桜蘭帝国のメンバーとこっちの第一陣のメンバーを集めて、壮行会でも開こうかと思ってね。まぁ、平たく言うと皆で美味しいものでも食べて、仲良くしよう……そんな感じだ。悪いけど、そっちのメンツにも声かけてもらえないかな? 一応、クルギ提督も来てくれるそうだ……業務連絡ついでに酒瓶片手に一献やったら、すっかり意気投合してさ……壮行会には是非参加したいとか言ってたよ!」
「おお、そりゃマジですか……ええで、あたしはもちろん行く! 皆も、二つ返事でOKだと思うで……向こうじゃ、ろくなもん食わせてもらえなかったんで、こっち来て美味いもんもらえて、皆感動しとったで!」
「まったく……戦場の最前線で戦う者にこそ、美味いものをたらふく食べさせるべきだと、私は思ってるんだがね……。料理もスイーツも昨日から仕込んでたから、食べきれないくらいあるぞ!」
「……疾風知ってるっす……提督はこの手で何人も籠絡してるんす……。あっしもその一人なんで、偉そうな事は言えないっす!」
「疾風くん? 籠絡とか人聞き悪いよ? 皆、美味しいものを食べてニッコリ笑顔……。私にとっては、それだけで満足なんだけどね。別に籠絡してウニャウニャとか考えてないよ? そりゃあ、君たちみたいな可愛い女の子にちやほやされるのは悪い気分じゃないけどね! これは結果的にそうなったってやつだと思うんだけどなぁ……」
提督の何とも申し訳無さそうな言葉に皆、一斉に笑う。
わたしもこの三ヶ月は、色々あった……サバイバーズ・ギルトから立ち直った後、桜蘭帝国の事情を知るものとして、恭順の道を選んだ帝国艦隊の示現体の皆との橋渡し役として、忙しく駆け回っていた。
おまけに、唯一2つのエーテルロードの統合航路マップを持っている艦という事もあって、情報部やら作戦部やらあちこち呼び出されて、本当に大変だった。
考えてみれば、面と向かって、提督に会うのも……一ヶ月ぶりくらいのような……。
……少しくらいゆっくりお話したいな……なんて事を思うのだけど。
提督も星間連合軍でもトップクラスの武勲を誇るリビルダー将校の一人となってしまって、前のように気軽に側にいる訳にはいかなくなっていた。
「提督……確か、初霜ちゃんに最終ブリーフィングの助手を頼むって言ってましたよね? 資料とか先に渡してあげなくていいんですか?」
「シホちゃん? 私、そんな事言ったかな? 覚えないんだけど。」
「提督! 空気を読むっす! 提督はそう言った! そう言う事なんすよ! 壮行会の準備なんてあっしらに任せて、ひとまず久しぶりに会えて、色々超頑張ってた初霜ちゃんを労ってやるっす! もう、このムッツリ親父はホント気が利かないっすね!」
……疾風、思い切り聞こえてるんだけど。
そう言う変な気の使い方……止めて欲しい……でも、色々話したいのも確かな訳で……。
チラッと、提督の目を見ると困ったように苦笑される。
「ほな、あたしも手伝ったろ! こっち来て、密かに料理とか覚えたんや……ええやろ!」
「あら……この祥鳳さんに対する挑戦かしら? それ」
「シホちゃんは、大人しくしてるっすー! むしろ、戦う前から負けてるっす!」
「ちょっ! それどういう意味よーっ! って、待ちなさい! 疾風っ!」
一人さっさと逃げていく疾風と追い掛ける祥鳳さん。
二人を追うように、皆めいめいに騒ぎながら、離れていき……わたしと提督だけが何となく取り残される。
「まったく、あいつらも……好き勝手言ってくれちゃって……。とりあえず、初霜……どうしようか?」
「うーん……せっかくだから、ちょっとだけ……わがまま言ってもいいですか?」
「……お、初霜のわがままなんて、滅多に無いからね! 私に出来ることなら、聞くよ?」
「じゃあ……まず、抱っこしてください」
そう言って、わたしは両手を広げてバンザイをする。
提督はちらりと辺りをキョロキョロして、誰も見ていないのを確認するとそっと脇に手を回して、ギュッと抱きしめてくれる……そのまま、持ち上げられてお姫様抱っこの体勢になる。
誰もいないよね? ……そう思いながら、あたりを見渡す。
よし、誰もいない……頑張れ! わたし!
「て、提督……ちょっとだけ目を瞑っててください。」
「あ、ああ……解った……」
提督が目を瞑ったのを確認すると、首に腕を回して、軽くそのほっぺたにキスをする。
……子供みたいなキスだけど、これでもわたしの精一杯。
目を開けて照れくさそうに笑う提督と目が合う。
美味しいものを食べて、楽しくやってこその人生……そんな事を言ってた事を思い出す。
ちょっとしたいたずらが成功して、思わずウキウキしてしまう……。
でも、同時に視界の端の廊下の向こう側から、誰かがドサドサと倒れ込むのが見えた……。
さっき別れたばかりのはずの皆……ふくれっ面で一番下で押しつぶされてる祥鳳さん、ニヤニヤと同じ顔を並べてる雷電姉妹と折り重なって、にやけてる疾風。
無表情で佇みながら、メモ帳に『はーちゃん、大人じゃ~ん!』とかデカデカと書いてるハーマイオニーさん。
……やっぱり見られてた……まぁ、いいか……今だけ、独り占めしちゃおう!
改めて、ギュッと抱きしめてから、もう一回キスをすると皆が嬌声をあげた……!
――これからも戦争は続くのだろう。
向こうの世界での黒船との戦いは、こっちの世界とは比較にならないほど、苛烈な戦いになるだろう……。
でも、わたし達は負けない。
いつの日にか……エーテルロードを人の手に取り戻すために。
ふたつの世界の為に、わたしは、戦う。
いつか戻ってくるであろう戦友に胸を張って、おかえりなさいと言えるように。
そして、隣で共に戦うかけがえの無い仲間たちのために。
生きとし生けるすべてのものの為に……わたし達は戦い続ける。
……わたし達は、戦う艦なのだから。
------Fin-------
本作品は、これにて一旦完結とさせていだきます。
2月7日から開始したこの連載。
型破りなこんな小説に長らくお付き合い頂きありがとうございました。
個人的には、こんな風に800P近くまで行ったのは快挙でした。
SF宇宙でも、なかなかの高評価だったようで、四半期ランキングの5位に登録されてたりします。
まぁ、頑張ったほうかな……ご支持いただいた皆様に、改めてお礼を申し上げたいと思います。
現在連載中の「すすめッ! ダンジョンデストロイヤーズ! 私、迷宮守護者のはずが、ダンジョンぶっ潰して、世界平和目指してます!」については、こちらの幕引きの為にリソース集中した関係で連載止まってますが。
そのうち、再開します……こっちは評価が微妙なんで、打ち切りエンドになりそうですけどね。
なお、新作については、二作ほど連載準備進行中です。
どちらもファンタジーなんですが、詳細は割烹でも読んでください。(笑)
それと、本作については敢えて完結とはしません。
今後は、外伝とか後日談とか、語られなかったエピソードとか、不定期に更新していこうかと思ってます。
ラストまで読み終わって、何か感想とかあれば、いただければなーなんて思ってます。
いるかどうか解りませんが、二次創作的なのを書きたいという方がいれば、遠慮なくどうぞ!
それでは……また別の作品なり、本作の続きなりでお会いしましょう!




