第二十話「富嶽襲来ッ!」③
……駆け足で、ほとんど無人になってしまった市街地を走る。
途中でヒュルヒュルと言う甲高い音が聞こえてきたと思ったら、立て続けに爆発音が轟く。
とっさに伏せると、タシュケントさんも同じ様に耐爆姿勢を取っていた。
うん、実戦経験も豊富、相棒してはなかなかどうして頼もしい。
どうやら、富嶽の第一陣が到達……爆撃を開始したようだった。
「……クソッタレ! 結構派手にやってくれるな! 初霜! 敵機は見えるか?」
「さすがに13,000m上空ともなると、目視は難しいですね……」
上空を見上げても、霞んだような白い空が見えるばかり、プラズマ雲が少々濃いらしく、視程が悪い。
爆撃側もあまりいい条件とは言い難いが、迎撃サイドも同様……。
これで、本腰を入れられたら、かなり酷いことになりそうだった。
「初霜! アイツなんじゃないか? 少し高度を落としたのか……。どうも、旋回コースを取ってるな……手出ししないからって、挑発でもしてるのか? くそっ……舐めやがって! 誰か落とせねぇのか?」
タシュケントさんが、乱暴に私の肩をバンバン叩きながら、興奮している……あんな霞の中に居る敵をよく見つけられるものだと感心する。
「……大丈夫、信濃さんが迎撃機を出してたみたいですね」
富嶽に比べると小さな赤い機体が6機ほど追撃をかけているのがみえる。
重戦闘機秋茜……対重爆には打ってつけの機体だった。
挑発するように高度を下げていた3機編隊のうち一機が翼をもがれて、呆気なく撃墜される。
さすがに、100m級のドラゴンタイプを想定しただけに、火力が尋常じゃない……。
爆撃もほとんど逸れたようで、被害も軽微のようだった。
「やりやがった! 一機落ちるぞ! なんだ……うすらデカいだけの雑魚じゃねぇか……。この分だと本命もなんとかなるんじゃねぇのかな」
タシュケントさんが呟く。
けれど、爆撃の被害が軽微と言っても、ノーダメージの訳がなく直撃を受けた建物が崩壊したり、炎上していた。
民間人の避難は順調だったと言う話なので、人的被害は出ていないかもしれないけど……。
道路もあちこち、瓦礫などで寸断され、復旧工作部隊も爆撃の中の復旧なんて想定していないせいか、かなり混乱している様子だった。
更に撃墜された富嶽が地上に落ちてきて、盛大に爆発炎上……混乱に拍車が掛かる。
「どうでしょう……この爆撃だけで、味方はかなり混乱してるようなので、陽動としては十分です。雪風達がどこまで侵入したかも気になりますから、急ぎましょう」
通常空間へと続くゲート施設。
私もこの間、地上世界に行く時に使ったのだけど。
巨大なドーム状の構造物の中に、無重力化された真空ドックがあって、宇宙船がゲートを超えて行き来できるようになっている。
避難民が建物の外にまで溢れかえっていたとの話だったけれど、さすがにもう落ち着いたのか……爆撃対策で強引に建物に引き入れたのか……もはや閑散とした様子だった。
けれど、爆撃の流れ弾が近くに落ちたようで、こちらも相応に混乱しているのは確実だった。
警備体制は、かなり不安がある状況だった。
建物内に侵入されていたら、かなり厄介だ。
「なぁ、初霜……連中、どこを攻めると思う? 正直、この状態じゃ連中のやりたい放題だろ……民間人を人質に取られたりしたら、打つ手がねぇぞ」
考える……雪風達が自爆攻撃を仕掛けるとしたら、何処だろう……?
ゲートフィールドジェネレーターも、頑強な施設内の厳重なエアロックの向こう側……重力爆弾と言えど、携行が可能な程度の大きさでは、ゲートフィールドジェネレーターの重力フィールドに相殺されるから、外部からの破壊工作は不可能だろう。
人質を取って内部に潜入される可能性……。
いや、雪風達はそこまで卑劣な真似はしないだろう。
汚名にまみれて、敵地で罪のない民間人を盾にした挙句に道連れにする……そんな最期は雪風だって嫌だろう。
桜蘭帝国も殲滅戦を挑むつもりがない以上、ある程度の節度はあるはずだった。
やはり、狙いがいまいち良く解らない。
「タシュケントさん、正面からあれを破壊できると思いますか?」
「まぁ、無理だろうな……。あの重力制御とか言う超技術で守りを固めてるらしいからな。けど、技術的なことって詳しくないんだけど、あれの動力ってどこから引き込んでるんだ?」
タシュケントさんの疑問に、私もある可能性に思い当たる。
取り急ぎ、提督へ連絡を取る。
「提督……現在、私達はゲート前に来ています! 大至急相談したいことがあるんですが……。技術的な話になるかもしれないので、誰か解る人いませんか?」
「初霜か? ああ、状況はこっちでもモニターしてる……。そうだな、技術的な話って事ならカドワキさんが良いだろう。すぐに繋ぐから待っててくれ!」
無線機に小さなノイズが混ざって、回線が切り替わる。
「……おう、俺だ! どうした! まったく、民間人って立場は厳しいねぇ……。君らと直接連絡が取れれば話が早いんだが……なんだ? 提督から技術的な相談があるって聞いたんだが……」
「カドワキさん! 時間がありませんから、手短に言います! ゲートフィールドジェネレーターへの電力供給源についてと、それが遮断された場合どうなりますか? それと敵の装備が判明しました! 携行式の小型重力爆弾とのことです!」
私がそう告げると、カドワキさんが絶句する。
しばしの沈黙の後、乱暴に何かを叩く音が聞こえた。
「クソッタレッ! そいつは盲点だった! いいか? フィールドジェネレーター自体は小型核融合炉内蔵で、半永久機関化してるんだが……周辺設備や制御系は外部からの電力供給を受けている。具体的には、隣接してるパワープラント施設からだ。これも相応に防御は硬いが……ゲートほどじゃねぇ! 携行式とは言え重力爆弾なんぞ使われたら、確実に吹き飛ばされる! 当然ながら、制御系がダウンしたら、ゲートは即時緊急停止モードになっちまう……その状態で精密集中爆撃なんぞ食らったら、下手すりゃ暴走するぞ! 連中の狙いは……それか!」
「はい、恐らくそう言う事だと思います……。何か対応策はありますか? それと……富嶽の後続は捕捉できましたか? 迎撃は可能でしょうか?」
「富嶽第二陣は、信濃ちゃんの出した索敵機がすでに捕捉している。12機編隊が高度13,000mで接近中だ。一応、ロケットブースター装備の秋茜を迎撃にあげてはいるが、全機撃墜は無理だろう。直ぐにできるような対応策か……くそっ! 今は思いつかんな。どのみち、今からじゃ対策を施そうにも、時間がねぇっ!」
流石に、この期に及んで対策をと言うのは無理があるようだった。
ならば、わたしがなんとかするしか無い……大丈夫、もとよりそのつもりだから。
「ごめんなさい……もっと早くに気付いていれば……。カドワキさん、提督にお伝え下さい……我が命に変えても止めてみせると。そして、武運長久を祈る……それだけお伝えください……」
それだけ告げると、無線を切る。
本当は、提督と直接話をしたかったけど、それをすると覚悟が鈍りそうだし、止められそうだったから。
相手は雪風……敵に回すとなると、非常に厄介な相手。
勝ち目があるかと、言われるとあまり自信がない。
戦うとなると、良くて相打ち……。
その上、この状況では生還など始めから臨んでいない捨て身だろう。
こちらも、相応の覚悟の上で臨むべき相手だった。
「すみません、タシュケントさん……相手は、自爆覚悟の捨て身の相手です。最悪、刺し違えとなる可能性があります……なので、ここから先は私が一人で行きます。ここまでありがとうございました」
さすがに、タシュケントさんを道連れにするのは、気が進まない……毅然として、彼女にそう告げる。
「あん? ここまで来て帰れとかふざけんなよ……お前! 捨て身の相手? それがどうした……連中を仕留められるかどうかで、この戦いの勝敗が決まる! 言わば、頂上決戦じゃねぇか……。最ッ高に燃えるッ! 一世一代の大舞台じゃねぇか……。なぁに、私も奴らに借りはきっちり返したいからな……むしろ、最後まで付き合わせろッ!」
タシュケントさんが、凶暴そのものと言った笑顔で、そう告げると肩に腕を回してくる。
この分だと、何を言っても無駄……ここは心強い味方とでも思っておくしかないか。
さて、次回からは、いよいよ雪風との決戦!
あと一万か二万文字分くらいで終わらせるつもりです。
ちなみに、雪風戦が終わったら完結とする予定でしたが……。
一応、外伝、後日談など、不定期更新でダラダラ続けようかと思ってます。
※ちょっとした捕捉。
超空間ゲートの外観ですけど、無重力ドックの床にドーナツ型の輪っかがあって、輪っかの中に宇宙空間へ続く大穴が空いてるような感じです。




