第二十話「富嶽襲来ッ!」①
「なんだこれは……プロペラが六つもある超大型機? それに高度13,000mなんて……エーテル空間と真空の境界線スレスレじゃないか。……シホちゃん、カドワキ氏……これが何か解るか?」
「私の持つ機体データベースにはない機体ですね。海外系の機体? すみません、解りません」
「そうさなぁ……六発のレシプロ機となると、アメリカ軍のB-36ってのがあるが……。あれは確かエンジンの後ろにペラが付く、プッシャータイプのはず。こいつはペラが前にあるトラクタータイプだな……。それで日本機となると……富嶽かもしれんな」
「富嶽……ですか? 確か……夢の超兵器みたいなノリで、色々盛り込みまくって計画倒れで終わった機体でしたっけ?」
「そうっ! 計画だけで終わった日本軍の幻の超重爆撃機「富嶽」! アメリカ本土への戦略爆撃を目標に作られるはずだった機体……航続距離2万キロ……ちょっとした化物だ」
「そんな計画だけに終わった機体……建造なんて出来るものなんですか?」
「出来る出来ないって、聞かれたら、出来るって答えるぜ。でも、そんなもん何に使うのかって聞かれたら、さすがに困るな……戦略爆撃機なんて、黒船相手にどう使うって話だな」
「……敵は、初めから対人類想定で兵器開発をしてるって訳ですか……なるほど:
「だが、だとすればかなり不味いぞ。……あの高度の敵は、俺達も想定してない。施設の対空砲もいいとこ一万メートルくらいまでだ。迎撃機もやはり一万メートルくらいまでしか上がれん。そもそも……エーテル空間自体が上空一万メートルを超えると極端にエーテル気体濃度が薄くなるからな。それ以上の高度を飛ばすのは、レシプロだけじゃ無理がある……宇宙機用のロケットエンジンを積むとかハイブリッドタイプにでもしてるのか……まぁ、どのみち、これだけでは良く解らんな」
「そうですね……。秋茜にロケットブースターを増設すれば、13,000くらいならギリギリなんとか行けると思いますが……。さすがに今すぐは無理です! 永友提督、それにカドワキさん! このコースだと、敵はプロクスター目掛けてまっすぐ飛んできてます。……どうしましょうか? 正直、打つ手がありません……」
信濃さんからの追加報告。
重戦闘機の秋茜なら或いはと思ったのだけど、改造が前提……という事なら、現状では無理ってことだ。
そうなると……結論として、迎撃は間に合わない。
「提督。敵の攻撃目標は、生産拠点か亜空間ゲート維持施設……このいずれかだと思われます。と言うよりも、戦略的に意義のある目標ってそれくらいじゃないですかね……。居住施設とか民間人は、避難済みなんで居住ブロックはいくらやられても問題ないですし、建て直しも一瞬で出来るんですよね? けど、あの程度の数の爆撃機で、重要施設に有効な打撃を与えられるとは思えません。正直、敵の意図がいまいち解らないですね」
眉間にしわを寄せながら、シホちゃんが呟く。
確かに敵の攻撃の意図が解らない……いくら超大型戦略爆撃機とは言え……。
たった三機では、余程ピンポイントに集中爆撃でもしない限り、嫌がらせ程度の効果しかないだろう。
「艦隊狙いの可能性はどうだろうか?」
「……高高度爆撃で、動き回る艦船を狙ってもまず当たりませんね。爆弾を落としたのを見てから、増速するなり転舵するなりで、余裕で避けられますからね。ですので、艦隊狙いの可能性は無視して良さそうです」
「そうさなぁ……。嫌がらせ程度と言っても、ゲート維持施設も生産施設も爆撃なんぞされたら、たまらんぞ? ゲート維持施設は、今も避難中の非戦闘員でごった返している上に、攻撃を受けるなんて、全く想定されてねぇんだ。破壊は、さすがに無理があると思うが……。爆撃で緊急安全装置が作動して、通常空間との接続を絶たれてしまうと、この拠点は完全に孤立してしまう……。それに生産施設をやられると、一時的にだろうが、生産ラインが止まっちまう……。そうなると、再起動の上で、今の生産効率に追いつくまで復旧ってなると、半日はかかる……ちょっと、マズイかもしれんぞ?」
カドワキ氏がそう言うのなら、そう言うことなのだろう……。
ここに来ての戦略爆撃……。
正面から戦いの挑むのではなく、搦め手を使ってこちらを弱体化させた上で確実に勝ちを狙ってくる。
黒船とは違う……人間相手の戦争そのものに手慣れているそんな風に感じる。
「永友提督……とりあえず、こいつは完全にこっちも想定外の奇襲ってヤツだ……初撃をもらっちまうのはもうしょうがねぇ。ゲートの方は、民間人を総員退避させた上で、重力フィールドの出力強化で対応する。安全装置もひとまず手動に切り替えれば、余程の事がない限り、接続を維持できる。生産施設の方は、もうある程度の被害は許容するしかないだろう。なんとか、生産効率の低下を最小限に押さえるように、今から手配する。もっとも敵の事前偵察が来た形跡もねぇから、案外それっぽい施設を当てずっぽうで狙うつもりなのかもしれんな。いや……これ自体が威力偵察かもしれんのか……? なんとも迷うところだな」
「威力偵察……ですか?」
「ああ……実際、軽く爆撃してみて、俺達がどの施設を優先して復旧に取り掛かるかとか、防空網の優先度とか、それだけでも施設の重要度の当たりは付けられるはずだからな。ゲートについては解りやすい上に、敵も同じテクノロジーを持ってるなら、一目瞭然で解るだろう。生産設備は、似たような倉庫なんかも山ほどあるから、上空から見分けられるとは思えねぇ。案外、本当に小手調べのつもりなのかもしれんな……敵の戦力も相当なもんだからな。あれが偵察で、次の本命で100機単位で富嶽が来ても俺は驚かん。まぁ、この爆撃はそんなに神経質にならんでいいと思う……軽くあしらってやればいい」
「そうですね……。ただ、潜入工作員がいて、誘導なんかされてたら、初手からの精密爆撃の可能性は、あります。提督、初霜ちゃん達に生産施設近辺の捜索と警備行動を命じられては? 敵艦の頭脳体が入り込んだ可能性は否定できません……。それに、例のシオンさんが動いている可能性もあります。初霜ちゃんの報告だと、敵には通常の通信手段とは別の、相互通信能力があるらしいですからね」
「初霜か……。あいつを使うくらいなら、むしろ未来人の地上警備隊に任せてもいいと思うんだけど。我々の仕事はあくまで艦隊戦であって、港湾施設に上陸した敵への対応はむしろ、越権行為になるんだ。恐らく、上層部やエスクロンの許可が降りないと色々問題になる」
「提督……申し上げにくいのですが……。警備隊の兵隊や無人機では、私達頭脳体には絶対勝てません。特に駆逐艦勢は白兵戦を想定してるから、皆強いです……その辺は提督さんの方が肌で実感してると思います」
確かに、アトランタの艦内防衛システムはおろか、アトランタ本人ですら初霜一人に勝てなかったのだ。
もし、あのままだったら、間違いなくアトランタは初霜一人に制圧されていた。
島風ちゃんは、何やら余興で一戦交えて初霜に勝ったそうなのだけど。
泥酔状態だったから、勝てただけの話で、普通にやったら勝てなかったと言っていた。
初霜が向こう側の平均だとすれば、たった一体の頭脳体でこちらの陸戦隊程度なら壊滅出来る……。
こちらの防御態勢も、敵性工作員の上陸を防げるかと言えば、正直厳しい。
なにせこの拠点はエーテル流体面に浮かんだ浮島のようなものなのだ……外周部には無人の区画も多くあるし、人間サイズの敵性破壊工作員の上陸など全く想定していない為、警備体制は相変わらずザル。
敵の部隊単位での上陸時対応すら、具体的に決まっていなかったのが実情なのだ……。
この辺は……敵対勢力が施設に上陸してきたりしたケースが一切ないから、仕方がない。
この間の伊400から出てきた敵歩兵の戦闘だって、ハーダー君と初霜が上手くやってくれたから、対応できたようなもの……。
それを教訓にして、地上戦闘なんてものを用意したエスクロンは、十分よくやっていると言えるだろう。
「カドワキさん、すみませんが……敵性工作員の上陸可能性とこちらで対応する旨、エスクロン側にお伝え願えないですか? エスクロンから作戦行動許可をいただければ、名目は立ちますから、後々問題になることもないでしょう。それと、爆撃への対応準備も合わせてお願いします」
「任せろ……うちは、エスクロン側と無制限相互協力条約を締結してるからな。さすがに、プロクスター陥落の危険があるって言えば、多少のゴリ押しも利くだろうよ……。すまんが、地上戦のノウハウなんかも、さっぱりだからな。そっちの初霜ちゃん達を当てにさせてもらうぜ! 装備のたぐいも、必要なら用意させる」
「重ね重ねご協力に感謝します!」
「そいつはお互い様だ……。まぁ、お互いうまくやろうじゃないか。そんじゃまぁ、またのちほど!」
カドワキ氏との通信を切ると、今度は初霜との回線を開く。
まったく……忙しくなってきたな!
新作の方にリソース割いてて、こっちがおざなりになってる……と言う訳じゃないんですよね。
こっちの執筆が行き詰まってきたんで、気分転換に新作始めたってのが実情です。(汗)
そろそろ、こっちも本腰入れます!




