第二話「軽空母祥鳳の憂鬱」②
「それで……レックスさんは何でまたこんな辺境に? 確か所属が決まったって聞いてましたけど」
ひと心地ついたので、レックスさんに改めて聞いてみる。
疾風ちゃんは、締めのお茶漬けを美味しそうに食べてる……眼の前には茶碗やらどんぶりが山積み。
でも、そのうちの半分は私のだから、少しは遠慮しろとか偉そうなことは言えない。
だって、お腹空いてたんだもん……。
レックスさんは、CV-2のナンバーを持つUSNでも最古参の空母……なのだけど、はっきり言って強豪のひとり。
私達、IJNの加賀さんとか赤城さんに匹敵する最強空母の一角。
不幸艦だろうが、こちらの世界ではあまり関係ない……本来なら一桁ナンバーの中央主力艦隊にいたっておかしくないくらい。
「んー、私、ロバート提督の艦隊でお世話になってるんですけどね……ここに来たのも一応任務でお手伝いってとこです。ご存知ありませんか? 新鋭の永友提督の艦隊って……。」
「疾風知ってるっす……こないだの暴走駆逐艦騒ぎで頭脳体同士のガチンコ勝負に割り込んだって……無茶な提督さん率いる新鋭艦隊っす! 確かここケプラー20星系の常駐艦隊の司令官って聞いてるっす!」
その話は私も知ってた……私達頭脳体は、本体が爆沈しても軽く生還するくらいには頑丈……そんなのが殴り合ってる所に割り込むとか、良くミンチにならなかったなぁ……って感じ。
でも、永友提督も無茶だけど、その旗艦の初霜って娘もむちゃくちゃだった。
詳しい経緯は知らないけど、模擬戦以外での史上初のスターシスターズ同士の戦いになって、駆逐艦3隻を軽く蹴散らして、軽巡を沈めかけたって話。
私は軽空母だから、直接戦力比較するもんじゃないってのは解ってるけど。
私の艦載機、28機を総動員して沈められるかと言えば、あまり自信がなかった。
なんか、あっさり艦載機抜かれて、殴り込み食らってボッコボコにされるのがオチって気がする。
「……その永友提督が先日、ネスト攻略にたった3隻の駆逐艦で挑んで返り討ちにあったそうで……。さすがに無茶が過ぎると言うことで、誰か手伝ってやれって話になりましてね……それで新参の私が援軍として派遣されたと言うわけです」
あれー? そうなるとこないだ……あの反対側から仕掛けてたのって永友提督さんだったんだ。
と言うか……あんな飛翔体100機も繰り出してくるような相手に、駆逐艦3隻とか無茶が過ぎるよ?
まぁ、私らも無茶だけどね! まさか、総勢10隻程度で、指揮官も援軍すら無いなんて思ってなかったのさ! ありえん。
でも、これって……取り入るチャンスなのかもしれない。
「あ、あの……永友提督って、軽空母と駆逐艦所望とかしてたりしませんかね?」
「おお、しほちゃんレジ打ちは止めて、売りですか! ダイタンッ!」
疾風うるさい……こっちだって、真剣なのだ……人聞き悪いこと言うな。
と言うか……売りって何を売るの? しほちゃん解らないでーす。
とにかく、どこかスポンサー見つけるなり、誰でも良いから、提督さんに拾ってもらわないと、私らこの調子だとフリーター街道まっしぐらなのだ。
もし、冷酷な人とかに当たっちゃったら、噛ませとか捨て駒に使われるかも……それはそれでいやだから、仕える提督さんは選びたい所。
でも、私らの為に身体張っちゃうような人なら、きっと大事にしてくれるよね?
うん、ここは熱烈売り込みを仕掛けるべきだと思う!
「ああ、考えてみたら、そうですね……丁度いいじゃないですか。そう言う事なら、ぜひご一緒しましょうよ……永友提督なら、きっと歓迎してくれますよ」
「いよっしゃあ! じゃあ、善は急げって事でさっそく行きましょ!」
ご飯も食べたし、行く当ても出来た……なら、やる事なんて一つだっ!
なんか、テンション上がってきたぁーっ!
「おっと、この疾風ちゃんも忘れないでくだせぇ……と言うか、見捨てないで、しほちゃん! あっしら友達っすよねっ!」
「この祥鳳……戦友を見捨てるほど、薄情じゃないよ……もちろん、疾風ちゃんも一緒だよっ!」
そう言って、疾風ちゃんに抱きつく……小柄な疾風ちゃんに私だと、抱きつくというより持ち上げるって感じになるけど、まいっかー!
それから……港湾ステーション内を三人連れ立って、歩く。
この港湾ステーションは、エーテル潮流の淀みに設置された半固定施設に設置された大きな建物で……超巨大な浮き桟橋にビルがどーんと建ってる感じ。
ステーション施設の裏側には、通常空間へと続くゲート施設があって、通常空間航行船用の無重力ドックが並んでいるらしい。
らしいと言うのは、私達はこのエーテル空間から出ることはまず無いから。
地上世界……青い海は見てみたいけど、別にわざわざ降りていく用事もないからね。
ステーションの建物から出ると、桟橋に接舷したひときわ大きいレックスさんの艦体が視界に入ってくる。
せいぜい200m程度の私に比べると二回りは大きい250m級の船体だから、やっぱり目立つ。
「うわっ……レックス姉さんの船……相変わらずデカいっすねぇ……」
似たような感想を抱いたらしく疾風が感心したような声をあげる。
少し離れた所に私の艦体が係留されている……こないだの戦いでものの見事に撃沈されてしまったのだけど。
うん、大分直ってる……この分だと、明日には出港可能だいっ!
頭脳体の私さえ健在で、材料になるデブリとか適当にかき集めとけば、港湾施設側で勝手に再建してくれる……ものの三日程度でスクラップ状態から元通りになるのだから、未来テクノロジー半端じゃない。
けどまぁ……あのエーテルの海を裸で漂うのは、なんとも心細くてあまり何度も経験したくない……。
と言うか、黒船共! あいつら絶対許さん……次はお前らをまとめてエーテルの海に沈めてやるんだからね!
「でも、大きければいいってもんじゃないですからねぇ……。こないだもデブリ避け損なって、船体に大穴が空くところでしたよ……。狭いエーテルロードにはそもそも入れないし……何かと小回りがきく駆逐艦の皆さんが羨ましいです」
……私の場合、船体も細長いし、軽めの船体だからあんまり取り回しで苦労した覚えはない……。
でもまぁ……装甲紙だったり、艦載機少ないわで小さいなりに苦労はある……世の中、ままならないのよね。
やがて、浮き桟橋の隅っこの方……3隻の駆逐艦が並んでるのが見えてくる。
駆逐艦は横に名前が書いてあるから解りやすい……雷、電、一番奥が初霜。
それにしても、初霜の方は……なんだか、対空機銃が山盛りでハリネズミみたいになってる。
なんか、装甲も増設してるような感じで……やたらと物々しい……なんだこりゃ。
しかも、後ろにロケットブースターみたいなのを付けてる……これもう駆逐艦じゃないよっ! なにこれっ!
……ちなみに、ここに来るまでに、こないだの永友艦隊の戦闘記録を見たんだけど、初霜一人で20機は落としたらしい。
私の航空隊がそんなにやられたら、事実上全滅だよ?
……やっぱり、私の想像は正しかった。
「友永提督……初めまして、ロバート艦隊より増援と言うことでやってきましたレキシントンです。レックスと呼んでくださいね!」
レックスさんが、初霜を見上げていた黒いIJNの軍服姿の人に敬礼をして、声をかける。
「おお、君がレックスさんか! 待ってたよ……ロバート提督から話は聞いてる。実にありがたい話だ……ところで、そこのお二人は?」
がっしりした体格のなんだか、えらく穏やかな笑顔の細目で丸顔のお兄さん。
何と言うか……髪の毛フサフサのお地蔵さんみたいな感じだ……。
30過ぎくらいに見えるから、おじさんなんだろうけど……ここは、お兄さんにしとく。
けど、なんか心なしか甘ーい香りがするのはなんでなんだろー? なんか、美味しそう……じゃなくてっ!
この人が噂の永友提督なのだろう……とにかく、挨拶、挨拶!
「初めまして……私は、軽空母祥鳳……あそこのレックスさんの隣りにいる小さな軽空母です。あと、こっちは神風型七番艦の疾風! どちらも行く当てがないフリーターなんで、雇って下さい!」
まぁ、四の五の遠回しに言ってもしょうが無い……ここは疾風を見習って、単刀直入ド直球だ! えいっ!
「ああ、こないだのネスト攻略戦で敵性飛翔体を半分くらい削ってくれた軽空母って君だったのか! せっかく君達が作ってくれたチャンスを生かせず申し訳なかった……。フリーってことは無所属なのか……それはまさに渡りに船だな……。レックスさん、こう言うのって問題ないのかい? 実は、前々から、君らのことは気にはなってたんだが……。なんだ、無所属艦だったのか……だったら、もっと早くこっちから声かければよかったよ」
お? 意外と好反応……それどころか向こうは採用する気満々っぽい!
……それに、私ら不名誉な意味で有名なのに、気にしてないのかな?
「そうですね……一応、永友提督はケプラー20星系の正式な防衛艦隊指揮官でもありますからね。たぶん、思ってる以上に権限はありますよ? だから、当人達同士で合意があるなら、特に問題ないはずです。その代わり、ちゃんと面倒見てあげて下さいね」
「ああ、それは当然だ……なにせ、私は自他共に認める紳士だからな! 初霜……それに、雷電ズ……ちょっとこっち来てくれ! 新しい仲間を紹介しようっ!」
永友提督が呼びかけると、ぞろぞろと三人のちっちゃい娘達がやってくる。
なんか、可愛いーっ!