第十八話「ーー桜花作戦ーー」②
「……クルギ提督、報告します。伊413から入電、セカンドコリドールにてインセクターと現地軍の交戦が始まったようです」
「なんだと? 対応が早いな……敵の警戒プローブは欺瞞情報で無力化したはずでは? ……状況はどうなっているか」
「はい! どうやら、敵の哨戒艦が出ていたようで、巡洋艦と駆逐艦二隻の小艦隊がインセクターと接触。後退しているようですが、敵拠点から増援艦隊及び、航空隊が出撃……まもなく、インセクターの飛翔体群と戦闘開始の見込みのようです」
「……インセクターに奇襲された混乱を突くつもりだったが……そうは上手くいかんか。確か、敵の拠点はコリドール接続点の上流側と下流側の二箇所と言う話だったな……。迎撃はどちらの拠点から出ている? 編成は?」
「下流側の拠点から、大型空母含む迎撃艦隊が出撃中の模様……上流側拠点からも続々と艦隊が出てきているようです。上流側は、ニューメキシコ級が二隻、アイオワ級が一隻に旧ソ連のガングート級、それと巡洋戦艦フッドが確認されているようです。他は重巡クラスが五隻ほどいるようですが……うち二隻は異様な艦形をしているらしく、詳細不明との事です」
「まったく、国際色豊かな戦艦共だな……戦力的にもかなりの規模だな。どうやら、手ぐすね引いて待ち構えていたようだな……まったく、楽な戦いにはなりそうもないな。どのみち、奇襲なぞ望めなかったと言う事だ……参謀、突入は中止だ……ここは戦況を見守るべきだ。今、飛び込むと敵の挟撃に合う……敵は機動部隊と基地航空隊で足止めを図った上で、打撃艦隊が背後から突撃殲滅する構えだ……インセクター相手の殲滅戦としては、理想的な配置だな」
敵ながら、見事なまでの迎撃態勢だった。
無策で飛び込んでいたら、為す術無くこちらが殲滅されていただろう。
「はっ! 小官も全面的に賛同いたします……ここは待ちの一手かと。では、現時点を以って、全艦に突入中止を打電いたします……。それと伊413から続報……下流側敵拠点にて、伊400の艦体を確認したとのこと。鹵獲されている様子はなく、拠点の構造体の下に潜り込んで潜伏中の模様。加えて、敵の迎撃艦隊に我が方の特務駆逐艦初霜の艦影を確認ス……との報告が入っております」
「なんと! 伊400、無事だったのか……。そうなると敵拠点にて潜伏行動中。そう思って良さそうだな。灯台下暗し……示現体共鳴通信にて、両艦艇にこちらの攻勢に呼応するよう呼びかけろ。それにしても……特務駆逐艦の初霜と言えば、次元穿孔の内部調査中に消息不明になったはずなのだが、果たして味方と考えていいのか? 敵艦隊と行動を共にしているとなると……恭順した可能性も考えられるのか。……いずれにせよ、まずは確認だ……両艦にこちらの敵味方識別コードを全周波数で送信してみろ」
「かしこまりました! 伊400及び初霜へ、識別コード送信を下命します。」
「頼むぞ……そにしても、このような展開になると……突入タイミングが重要だな。ムガセ参謀……いつが妥当だと思う?」
「そうですな……現状としては、戦艦群に背後を突かれるのは避けたいところですので……。敵戦艦群がインセクターの殲滅のために突撃、交戦距離に入った辺りで我が艦隊を突入させては如何でしょうか? これならば、敵戦艦群の打撃力は封殺出来ますし、我が方が敵打撃艦隊の後背を突く形となります」
「参謀、相変わらずいい案を出すな……それで行こう。確かに現地の流速はかなり早いからな……戦艦の速力では反転遡上戦闘は出来まい……。では、伊勢、日向の艦長へ打電だ……諸君らに先陣を任せるとな。艦隊編成を変更する……突入の順番は、伊勢、日向、重巡高雄、足柄と陽炎型の精鋭駆逐艦を先陣として突入させる。第二陣として、長門、加賀、赤城、阿蘇、生駒を主力とした機動艦隊で航空戦力による決戦を挑むぞ!」
「かしこまりました……閣下の御英断、小官感服の極みです」
「世辞はいい……さすがに艦隊編成変更ともなると、突入までにしばらく時間がありそうだからな……私は少し休む。状況に変化があるようなら、報告しろ……他の連中も今のうちに交代で休ませろ、ムガセ大佐……貴様もだ」
「お気遣いありがとうございます……提督もここまで休み無しでしたからな。些事は我らに任せて、ごゆるりと英気を養っていただければと思います。」
ムガセ参謀が見事なまでの敬礼を送る。
私も答礼すると、司令室に入り、備え付けのベッドに横になる。
戦闘の只中に昼寝など、ふざけた話だと思われるかも知れない。
だが、休める時に休む……兵士にとっては、それも仕事のひとつだ。
砲撃が休んだ隙に、飯を食い、敵が突撃準備を始め、払暁までの束の間の時間に惰眠をむさぼる。
人間は24時間機械のように戦えないのだから、当然だ。
一兵卒から叩き上げで大将にまで上り詰めた私にとって、その考えは変わりなかった。
それにしても……皆の前では、ああは言ったものの……やはり、気が重い任務である事には変わりなかった。
まどろんでいると、ムガセ参謀から報告。
……伊400、初霜……両艦とも敵味方識別コードに応答なし。
特務駆逐艦初霜……あれは示現体を稼働させた上での試験運用で大きな戦果をあげたと聞いていた。
帰還の見込みの薄い単独先行偵察任務に投入され、行方不明となったらしいが……。
自動応答の敵味方識別コードに応答しないとなると、非稼動状態か意図的に応答しないようにしているかのどちらかだろう。
敵艦隊と当たり前のように行動を共にしている様子から、後者であると考えられる。
敵味方識別装置の故障の可能性も考えられるが、この場合は、敵に迎合してしまったと判断してよいだろう。
何があったのかは解らないが、現時点では敵であると想定すべきだった。
伊400については、全く動きがないとの事なので、示現体のみが敵地に孤立しているか、初霜同様に敵に恭順したか。
いずれにせよ……あれらはもはや、味方と考えるのは危険。
私はそう判断する。
敵への恭順、裏切り……理由はなんとなく想像が付く……彼女達は、人間以上に人間らしい所がある。
お互い相争わず、総力を以って外敵と戦う体制……きっと豊かでいい世界なのだろう。
彼女の変節が、如何ような経緯だったのかは、私には伺い知る術はないのだが。
我々の世界は、銀河進出後も数百年に渡って戦争ばかりを繰り返し、挙句の果てに滅亡の危機にある。
政治家達は自分たちの保身ばかり考えて、軍人も勇敢で優秀なものほど早死してしまい、もはやまともな将官は残っていない。
民間人も無事な星系に多数の難民が流れてきて、地上世界の治安も悪化の一途……誰もが希望を失いつつある。
……この作戦も単なる悪あがきにすぎないと私自身、考えている。
きっと、我々の取るべき道は向こうの世界の住民たちに助けを求める事なのだろう。
だが……その結果、我々を待っているのは隷属化の道……。
だからこそ、我々は勝たなければらない……勝って力を示す事、それは我々にとって必要な事だった。
帝国議会はセカンドコリドールを侵略し、相手を屈服させるまで戦い抜くと息巻いていたが……総力戦ともなれば、我が桜蘭帝国は国力では圧倒的に劣る。
相手は、こちらと同様コリドールを使って全銀河にその勢力範囲を広げていると言う。
……恐らくインセクター侵攻前の4大勢力すべてを統合したレベルの国力はあると思っていいだろう。
対する我々は疲弊しすぎていた……人口もかつての最盛期の1/10しか生き残っておらず、航宙艦隊の戦力もほうぼうかき集めて、この侵攻艦隊20余隻を揃えるのが精一杯だった。
他国についても、潜行艦が命懸けでインセクターの領域を突破して、かろうじて連絡が取れるだけで、連携などとてもおぼつかなかった。
敵は次元穿孔の向こう側に着々と展開している艦隊ですら、氷山の一角に過ぎない。
……考えれば考えるほど、絶望的な気分になってくる。
いや、考えるのはよそう……。
せめて、この一瞬だけでも眠りの世界へ逃避したい……そう思いつつ、私は目を閉じた。
桜蘭帝国サイド……まぁ、悲壮感たっぷりです。
ドリフターズ的に言うと、メソメソと滅ぶ国って感じです。
ちなみに、桜蘭帝国以外の勢力としては、ブリタニア合衆国連合、シュバルツハーケン帝国、ウラル連邦の三国があります。
それぞれ、米英、ドイツ、ロシアの後継国家にあたります。
大戦後、4大勢力に別れたまま、延々600年も戦争状態のまま、黒船と戦いながらお互い足の引っ張りあいとか不毛な事をして、共倒れ街道まっしぐら……。
それにしても、ドキダンのノリが全体的にアホなんで、こっちとの温度差がすげー。(笑)
次回からは、いつものメンツです。
新参のハーマイオニーとフレンズ達が活躍しますよー!
こっちも並行して執筆してるから、エターにはならんよ!(笑)
せめて、第二部完までは持っていくのだ!




