第二話「軽空母祥鳳の憂鬱」①
「はうわー、疾風ちゃん……私達……明日からどうしよう……お腹減ったよぉ」
そう言って、私は、食堂の机の上に突っ伏す。
勢い良すぎてゴッツンコしたオデコが痛い。
二つのお下げ髪がぷらーんぷらーんと視界の端を揺れている。
すこし顔を上げて、意味もなく机をかじったりしてみるけど、美味しくない。
と言うか、お行儀悪いぞ……私。
「しほちゃん、やっぱり、二人で黒船のネスト攻略とか無謀だったっす。無事帰って来れただけでも、良しとするっす……。とりあえず、あっしらフリーの身っす……身請け先が決まるまで……無茶しないで、一緒にコンビニバイトでもやるっす! あれ、いいっすよ……賞味期限切れのお弁当とか、こっそり持って帰れば、食いっぱぐれはしねぇっす!」
テーブルの向かい側に座って、お茶をすする緑がかったおかっぱ頭に、うぐいす色のセーラー服の少女……疾風ちゃん。
……何とも言えないドドメ色な未来の展望を力説中……でも、それも手かなーとか考えたりもする。
ここは、ケプラー20星系エーテルロード中継ステーションに併設された休憩施設兼食堂みたいなとこ。
私達二人は、この星系に繋がるエーテルロード支流のひとつに突如現れ、居座ってしまった黒船の母艦……通称ネスト級の攻略作戦に志願して参加したのだけど。
似たような境遇の娘や小規模艦隊の寄せ集めで、まともな作戦もないまま流れ出撃とか、グッダグダな感じで……。
結果、良いようにやられて、攻略艦隊は壊滅。
私も艦を失い……疾風ちゃんに拾ってもらって、辛うじて無事生還。
超頑張ったんだけどね……。
飛翔体の母艦、ネスト級相手するのに、航空戦力持ちの空母が私一人とか、それでどないせいと。
元々私達二人は、銀河連合辺境方面軍の準主力第18艦隊所属だったのだけど……。
黒船の大規模艦隊との戦いに敗れ、私達の提督は旗艦プリンス・オブ・ウェールズ爆沈で名誉の戦死を遂げられてしまった……。
艦隊の他の皆は、貰い手があったのだけど……私達二人はものの見事に余り物!
その理由は……私達二人は太平洋戦争でロクに戦果も出せないまま、真っ先に沈められた不名誉艦のワンツートップだから。
神風型駆逐艦7番艦の疾風ちゃんは……太平洋戦争における日本軍最初の戦没艦……。
私は……と言うと、一番最初に撃沈された帝国海軍主力艦艇と言うことで、歴史にその名を残した艦……軽空母祥鳳。
皆、ゲンを担ぎたいのは共通らしく……私らのような不幸艦は避けられる……と言う訳。
第18艦隊の提督もプリンス・オブ・ウェールズなんて、世界初の航空機に沈められた戦艦を旗艦にしてたくらいで、要するに不幸艦マニアみたいな奇特な人だったんだけどね。
けど、そんなジンクス勝って吹きとばせ! とかいつも言ってて、何と言うか……いい人だった。
……惜しい人を亡くしてしまった……正直、すごく悲しい……。
とにかく……幸運、不運とか良く言うけどさ。
別にこっちじゃそんなの関係ないし、私が沈んだのだって運用側の不手際であって、私自身は目一杯戦って、戦艦だって沈むだろー位に爆弾やら魚雷やら食らって……だし。
なぁんで、正規空母の翔鶴と瑞鶴が後方支援役で、軽空母の私が矢面に立って、正規空母二隻分の相手をしなきゃいけなかったんだよ……そんなもん……幸運も不運も何もないだろ……って思うんだけどさー。
まぁ、はるか数百年も前に終わったことを愚痴っててもしょうが無い。
とりあえず、そんな訳で路頭に迷ったバッドラックな余り物二人でコンビを結成。
たまたま、ネスト級攻略隊の編成って話を聞きつけて、ひとつ名誉挽回! と思っていたのだけど。
はっきり言って敵が強すぎた……100機にも及ぶ敵機の猛襲の前に私の航空隊はあっさり全滅。
他の艦隊もあっさり逃げ出しちゃって……逃げそびれて、取り残された私達ピンチ! だったのだけど。
エーテルロード支流の反対側、上流側から仕掛けた艦隊があったらしく、その娘達のおかげで敵の戦列が乱れて、戦線離脱には成功した。
どうやら私達も最悪の中の幸運……いわゆる悪運だけはあったみたいだ。
「疾風ちゃんはいつも前向きだねぇ……。そだね……一緒にいらっしゃいませーって言って、レジ打ちでもしようか……。でも、なんとも惨めだよねぇ……それって」
そう言ってため息一つ。
揃って、ズーンと暗くなる。
「あらあら……しほちゃんに疾風ちゃん、二人共お久しぶりね……どうしたの? 揃って暗い顔しちゃって……」
……なんとも間延びした声。
顔をあげると、懐かしい顔……USN正規空母のレキシントン……通称レックスさんだった。
腰まである長いブロンドにすらっと背の高いモデル体型の素敵な女性。
灰色のアメリカ海軍の礼服みたいな感じの制服がキマってる!
むー、大人だなぁ……何か知らないけど、私ら頭脳体の見た目年齢って……排水量だかなんだかに比例するみたいで、駆逐艦みたいに小さい船は疾風ちゃんみたいにちびっ子揃い……私みたいな一万トン級軽空母でも、十代後半くらい?
ちなみに、私は何か知らないけど、他の軽空母の娘に比べてチビっちゃい……胸もペッタンコ。
……なんでだ?
でも、ぶっちゃけ正規空母や戦艦くらいなんだけどね……大人って見かけの娘って。
なんでも、未来人が最新テクノロジーで過去の艦船を再現したってのが私達らしいんだけど。
この未来世界の宇宙航行艦とかって、艦体を統括する頭脳体ってのがあって、それが私達の場合、女の子の姿になっちゃったんだって……。
おまけに、本来人格とかも持たないはずなんだけど、皆船の頃の記憶がありながら、メンタル的には普通の女の子って良く解かんない状態になっちゃった……。
宇宙航行艦にかぎらず、この未来世界では古代人の借り物テクノロジーを多用してて、未知の部分も多くて、たまに意図しない事が起こるとかなんとか……使うなよ……そんな怪しげなの。
……と言いたいのだけど、今、私がこの世界で人間と同じような身体を持って、人間のように物を考えることが出来るのは、未来人のその適当さ加減故なのだ。
要らない苦労もあるけど……皆とお話ができて、ご飯食べて、お散歩も出来る……うん、素敵だ。
まぁ、この姿になった理由があるとしたら、皆……人に憧れってのがあったんだと思うよ?
人の為に生まれ、人の為に戦い、人の為に沈んだ……それが私達。
多くの人の想いを載せて、時空を超えて、人の姿を形取る……なんだか、素敵な話じゃないの。
なんで、女の子の姿なのかは……船と言えば昔から女の子なんだから、むしろ、こうなったのがあったりまえなんじゃないかなー?
レックスさんとは、大戦時はお互い珊瑚海海戦で敵同士として戦って、揃って撃沈されたと言うなんとも複雑な関係。
私の航空隊とレックスさんの航空隊は普通に真っ向から戦ってるし、私を沈めたのはレックスさんとヨークタウンさんの航空隊……。
空母二隻分の90機もの大編隊の集中攻撃とか、あんまりといえばあんまり……つまり、本来なら仇敵って訳。
……なんだけど、その辺はお互い様……。
レックスさんも翔鶴瑞鶴の猛反撃で、私に続いて、敢え無く爆沈。
いわば、似たような境遇なのと、このポヤポヤした人柄は何となく憎めない。
元々第18艦隊でも一緒だったから、まんざら知らない間柄じゃない。
向こうも何か負い目でもあるみたいで、何かと色々親身になってくれたんだよね。
……何と言うかお姉さんってこんなかなーって感じの人だ。
だから、別にいがみ合ったりなんかしないよ? 私も根に持ってないし……。
昨日の敵は今日の友ってね……。
何の因果かこっちでは皆、お仲間みたいなもんだし……昔のことなんか脇において、仲良くやればいいんだよ。
「あはは……私ら黒船のネストに喧嘩売って、揃って返り討ちにあいました……。おまけに相変わらずのフリー状態、明日の御飯にも困るような有様なので、ここの宇宙港でコンビニバイトでもしようかって話してました」
「はい、お腹減りましたっす! レックス姉さん、お久しぶり! あっしらお金もないのでご飯、おごって下さいっす!」
疾風ちゃん、ド直球のご飯要求。
おいおい……。
でも、今の私達は食堂にお茶と水だけで、すでに半日くらい粘ってる迷惑客状態……。
どっちも船は修理中だから、行き場がないんだよ……それに確かにお腹は空いたよ……みじめだよぅ。
お金がないと、ご飯も食べられない……。
ご飯は美味しいけど。
燃料と弾薬さえあれば、不眠不休で戦い続けれたお船の頃とは違うのだー。
徹夜続きだと眠くもなるし、お腹だって空くのさー!
と言うか……保護者とも言うべき提督が居ないと野良犬みたいになるこの体制……未来人さん、一考の余地ありなのでは?
と言うか、未来人さん仕事し無さ過ぎ……なんか平和主義だかなんだかで、あんまり戦争に関わりたくないみたいなんだけど。
宇宙の平和を守ってるのが、過去の人物の再現体と過去の兵器のリサイクルって……何かちがくね?
「あらあら……それは大変ですね。じゃあ、まずは一緒にご飯でも食べましょうか」
そう言って、微笑むレックスさんが女神に見えた。
ありがたや、ありがたや……。
さて……第二話っす。
一応、予告はしてましたが。
今回は、視点が変わって軽空母祥鳳さんが主人公です。
何かと不遇な頑張り屋さんですが、彼女視点で書いてたら、何か無性に可愛く思えてきたから不思議。(笑)
後書きに色々わさっと書くのはあれなんで、登場人物(艦)については活動報告で補足します。
疾風ちゃんって誰? 人も多そうですが……詳細はあっちで。(笑)
追伸
あと、感想にて海外勢もっと出してー的なリクエスト頂きました。
なんか面白い逸話持ちの海外艦があるようなら、感想なりメッセージなりで、教えてくださいね。
がんばってエピソード化してみます。




