第十七話「始動! 第26独立機動艦隊!」①
新たに入港した伊400の頭脳体が、見慣れない一般人とスキンシップに励んでいる様子を、私は祥鳳の艦橋でぼんやり見ていた。
……同じような顔が並んでいて、嬉しそうに笑い合いながら、抱き合ってるとか不思議な光景だった。
奇妙な偶然もあるのだな……とそんな風な感想を抱く。
「提督、どうかされましたか?」
隣に来たシホちゃんが尋ねてくる。
「ん? ああ、あの二人、髪型と髪の色が違うだけで、顔は同一人物にしか見えないんだけど、どう思う?」
思わず、率直な感想が漏れる……しほちゃんならどう思うだろう?
私一人がそう思うのであれば、気の所為という事で流すところなのだけど……。
「い、いわれてみれば……そ、そうですね? って言うか、なんですか! あれっ! 伊400はともかく、パーカーの彼女は一般人ですよね? 髪型とか違うだけで、背格好はほぼ同一人物ですよ! あれ! 一体何がどうなって……本人達は気付いてない? ちょっと待ってくださいね……疾風がセキュリティ確認した際の記録だと、イオン・セレナーデさん……。エスクロンの福利厚生部の方のようですね。……一ヶ月ほど前から、ここプロクスター中継港で、コンビニの店員として働いてるそうです。うーん? 生き別れの双子? んな、ワケないか……」
「一ヶ月前か……ちょうど、初霜が大佐に拉致されて、例の伊400もどきと一戦交えた時だな。結局、あれは敵艦が自爆……鹵獲にも失敗して、その正体も目的も不明のまま……なんだよな」
一ヶ月前に起こった敵性伊400の襲撃事件。
島風ちゃん達が交戦して、その後観客の大勢いる実弾演習の会場へ乱入して、武蔵と信濃なんて言うビッグネームと戦い、最終的に大佐と初霜による大捕り物になったと言う話だった。
事後承諾という形で、初霜を大佐に連れ去られてしまって、余程抗議のひとつもしようと思ったのだけど。
結果的に、初霜を連れて行ったのは正解だったと聞き、何も言えなくなった。
状況を聞き、初霜の能力を見抜いた上で、必要になると判断した大佐の直感的判断力……やはり、私などは遠く及ばないと痛感させられたものだ。
結局、謎の陸戦隊との交戦の末、艦砲射撃で何もかも吹き飛ばしてしまって、何も解らずじまい。
そして、同じタイミングでこの中継港に現れた伊400の頭脳体と瓜二つの謎の少女。
これで関連性を見出さないほうがどうかしている。
「……あの娘、例の敵性艦と関係あるとお思いですか? 彼女の身分証も本物で、正規のIDによる社員登録もされてるみたいですし、身分としては一般人みたいなんで、正直なんとも言えないんですけど……」
「シホちゃん、私は心配性なんだ。……と言うか、未来人ってセキュリティの感覚が、私に言わせれば、おっそろしくザルなんだよなぁ……。ここの中継ステーションだって、普通は軍港って一般人立入禁止にするはずなんだけど……。施設関係者は無条件でフリーパス状態だし、民間船が戦闘艦のすぐ隣に入ってきたりだってザラだからね。一般人だって、その気になればこの祥鳳にだって、入り込めてしまうのが実情だろ? 実際、前も客船と間違えたお婆ちゃんが乗り込んできちゃって大変だったじゃないか……。正規のIDっても、君らの演算力ならハッキングして改ざんとかだってやろうと思えば不可能じゃないじゃないのかな? 敵性工作員の潜入とか、その辺は考えてるんだろうか?」
「黒船はそもそも、工作員なんて送ってきませんからね……。未来人の防諜意識はお察しと言ったところですよ。一応、企業間の産業スパイや星間国家間の諜報関係者とかはいるみたいですけど……。21世紀の頃とかと比べると、お粗末なものだと思います。私達エーテル空間戦闘艦関連については、ライバル社同士が呉越同舟で研究チーム作ったりとか、当たり前にやってるくらいなんで、かなりオープンなような様子ですね。良く知らないんですけど、私達頭脳体の娘達の写真集とか出版されてるくらいみたいですよ」
「なにせ、エーテル空間以外は至って平和な世界だものな……。それに皆、基本的にお人好しなもんだから、きっとスパイ天国だろうさ。なぁ、シホちゃん……一つ尋ねるんだけど、頭脳体単独でどれくらいの事が出来ると思う? 敵対者として、この中継ステーションへ潜入し孤立……支援、応援の当てはいずれもなし……この想定の場合でだ」
「つまり頭脳体単独でどこまで出来るかって事ですよね? そりゃ、私だってその気になれば、それなりの破壊活動とかも出来るかもしれませんけど……。爆発物での破壊工作とか銃撃戦とか……そんな知識も経験もないですよ。そもそも、同等レベルの頭脳体が一人でも出てきたら、正直どうにもなりませんね……。特に私みたいな空母は、近接格闘戦闘とか想定してないんで、そんな状況に陥ったら、逃げの一手か一般人にでも紛れ込みます……。諜報戦となると……やったことはないですけど、電子セキュリティ突破なんかは、ダイレクトリンクで接続した上なら、演算力の力技でなんとでもなりそうですね……」
さすがに、シホちゃんも何かに気付いたように、考え込むような仕草をする。
電子セキュリティが彼女達にとって、無いも同然なら、記録情報の改ざんなどもお手の物だろう。
あの敵性伊400との戦闘記録からも、相手はこちらと同等ないし、それ以上の技術力を持つことが判明している。
ならば、相手の頭脳体も、こちらと同レベルと思っていいはずだった。
……にも関わらず、相変わらず未来人の危機意識は皆無に等しいのが現状だった。
「……私の言いたい事はわかっただろ? けど、どうなんだろうか。彼女が仮にあの敵性艦の頭脳体だったとして、こんな堂々と姿を見せる意図が解らない。あまりに不用心に過ぎる……現に、我々に見られて、思い切り怪しまれている始末だ」
「余程、こちらを舐めてるのか、或いは諜報に関しては、私と同じくド素人でバレてないつもりなのかも。通報でもしときますか? 一応、保安部ってのがあるらしいんで、対処はそっちに任せていいと思いますけど」
……対応としては、それで間違ってはいないだろう。
どちらにせよ、一般市民として登録されている者をどうこうする権限は、私にはないのだから。
「そうだねぇ……敵対する意志があるなら、もうちょっとやりようがあるだろうし……。むしろ、彼女が敵対勢力の手のものだとしても、むしろこれは、向こうの情報引き出せるチャンスじゃないかな? 黒船だけでも厄介なのに、謎の第三勢力とかまで敵に回すとなると、はっきり言って泥沼だからね。黒船と違って、話し合いの出来るような相手なのだとすれば、むしろやりやすいんじゃないかな。ひとまず、刺激するのは逆にマズイ……エリコさん達にもご協力いただいて、なるべく穏便に対応してみるのも手だと思うんだ」
「私は……提督の仰せのままにします……イエス、マイロード」
真面目な話をしてるのに、変な挨拶と胸に拳を当てる変なポーズで締めくくるシホちゃん。
「なにそれ? シホちゃん、また変なアニメでも見た?」
「な、何ことでしょうか? あはっ、この台詞、一度言ってみたかったんです。私は提督に個人的に忠誠を誓ってますからね……ご要望にはなんでもお応えします! うん、なんでもっ! なんでもですからね! 求められたら、なんでもしますよ! とにかく……あの様子だと、今すぐに敵対行動を取るつもりはなさそうですからね。一応、エスクロンの保安部とエリコさんに、敵性工作員の可能性ありって事は、伝えておきます。各艦については……侵入者対策のセキュリティを強化するように通達しましょう」
さすが、シホちゃん……私の意を汲んで、手早くまとめてくれた。
ホント、いい副官してる……。
……シホちゃんが意味深に「なんでも」と強調してた件は……。
そこは敢えて聞こえないふりをする……たぶん、彼女は私の要望なら、文字通りなんでも応えてくれるだろう。
だがしかし、私は紳士なので、邪な欲望は抱いたりはしないのだっ!
「悪いけど、任せるよ……。一応、手出し無用って付け加えといてね。いざとなれば、初霜辺りに頼めば、軽く抑えられると思うけど……ひとまず、荒事はなしの方向で行こう。ところで……初霜、こっちで技術協力とかしてるはずなんだけど、我々が来たのに、出迎えにも来ないなんて、何かあったのかな?」
……実は、初霜とは大佐に連れて行かれて以来、顔を合わせてない。
私は、その出自がいまいちよく解っていない彼女の取扱責任者という事になっている。
こんな風に長い間、引き離されてしまっては、責任も何も無いと思うのだけど……とりあえず、問題も起こさなかったようだし、定期的に通信連絡は取っていたので、さほど心配はしていない。
「えっと……どうも、プロクスター星系の地上世界に信濃さんと一緒に降りてるみたいですね。一応、初霜の艦体も持ってきた事は伝えてるんで、早めに顔を出すって言ってましたけど。それにしても……よもやケプラー20星系で、一ヶ月近くも引き止められるとは思いませんでしたね」
「仕方ないさ……黒船の残党が結構散ってて、潜伏してたりしてて、周辺流域の安全確認がなかなか取れなかったからね。まぁ、初霜なら放っといても、そのうちやってくるだろうから、ここの司令部……港湾統括部とか呼んでるんだったかな。皆を集めて、そこに挨拶でも行くとしよう」
そう言って、私が艦橋を出て行くと……当然のようにシホちゃんが隣に並んで、何を思ったのか上着の袖をギュッと掴む。
なんというか……すっごく可愛いじゃないか!
まぁ、至ってごきげんだし、私も悪い気はしないから、好きなようにさせるとしよう……。
そんな訳で、ひとまずあるぶんアップで更新です!
久々に登場の永友中佐と祥鳳ちゃんです。
ちなみに、提督の艦隊は昇格して「第26独立機動艦隊」となりました。
ついでに、なにげに階級も中佐に昇格してます。
思い切り、最前線となることが予想されてる流域なので、増援も続々と到着中。
次回は、新メンバー加入話かなー。




