第十六話「遠い世界(くに)から来た彼女」⑤
――伊400系潜行艦。
伊400系は私達の世界でも航空戦力による偵察に、奇襲攻撃から輸送任務まで、マルチに使える潜行艦と言うことで、非常に重宝されており、伊417までの全部で18隻もの同型艦がいる。
艦載機についても、縮退フィールドに包むことで本来の1/10程度の大きさに縮小した状態で、搭載しているため、最大で30機とちょっとした軽空母並の戦力を誇る。
こちらの世界では、伊400系は402までの三隻しか完成しなかったようなのだけど。
私達の世界では、日独米ソ4強態勢の冷戦下で、沈黙の戦争と呼ばれる潜行艦同士の戦いが繰り広げられる事となり、予定通り18隻が生産された。
潜水空母や強襲揚陸艦タイプなどに発展していった20世紀後半の多目的潜水艦の祖とも言える艦……それが伊400系潜行艦なのだ。
さて、いったいどの艦か……と思っていたら、識別ナンバーが垣間見えた……よりにもよって、伊400だった!
もちろん、私の艦体じゃない……私と違って、限りなくオリジナルの伊400に近い。
……つまり、こっちの世界の伊400って事。
向こうも同じような艦がいるってのは知ってたけど、まさか、こんなに早く同一艦艇と出くわすことになるとは……。
伊400が疾風の反対側の桟橋に横付けすると、上部ハッチが開いて、中から青いTシャツとミニスカートみたいな水着を着たショートカットの女の子が出てくる。
更に追いかけるように3機の晴嵐が舞い降りてきて伊400の横に着水し並んでいく。
「お、潜水空母の伊400さんのご到着っすね! ようこそプロクスターに! 歓迎するっすよ!」
そう言って、疾風が女の子に手を振る。
「わぉ、わざわざお出迎えとか嬉しいじゃない! 新編の第26機動艦隊って、君らのこと? あたしは第9潜水艦隊の伊400……でも、ヨーコって呼んでね!」
水着の女の子が気楽そうにそう返す。
まるで、水に飛び込んだように全身ずぶ濡れなのだけど……なんとなく理由は解る。
私自身は、ずっとカプセルに収納されてたから、あまり実感ないんだけど、潜行艦って、普通に艦内気温が50度とか行く上に、冷却水の水蒸気が艦内に充満するから、湿度もアホみたいに上がって、サウナ状態になるんだよね。
身体が濡れるのは、結露と同じ理屈……だから、水着なのね……と我が事のように解ってしまう。
……サウナとかどんなのか知ってるだけで、実際、どんなかは良く解かんないけど。
と言うか、このヨーコとか言う娘……。
黒髪のショートカットでちょっと肌が日焼けしてたりと微妙に違うけど、顔立ちとかよく見ると私そっくり!
な、なんでーっ?!
一応、変装として伊達メガネとかしてきてるけど、こっちがピンときたように、向こうだってきっと一緒! いくらなんでも、すぐに気づかれるに決まってる!
どう誤魔化せば……ううっ……さっさと逃げればよかった……。
とりあえず、羽織ってたパーカーのフードを被って、誤魔化してみる。
「伊400のヨーコさんっすね! 噂は聞いてるっす! あっしは護衛駆逐艦の疾風っす! こないだは、そっくりさんとか出てきて、思い切り名前騙られたみたいになって大変だったみたいっすね!」
それ、私のことかーっ! 誰も騙ってないよっ! 私は正真正銘、伊400!
勝手に勘違いしたのはそっちだろう!
……と叫び出したいのをかろうじて耐えきる。
「そーよぉ! あたしの名を騙るとか絶対許せん! って思ったんだけどさ。ちょうどオーバーホール中で動けなかったのよね。おかげで、疑いはすぐ晴れたし、ハーダーちゃんがきっちりカタ付けてくれたから、いいんだけどね! でも、なんかそのパチモノの晴嵐鹵獲して、潜水空母用艦載機の新型実験機が出来たって話じゃないの! だから、あたしがテストヘッド役として派遣されたんだ! それになんかこの辺キナ臭くなってるって話だし……。あたしもとりあえずここの駐留艦隊として、登録されてるから、しばらくお仲間って事でよろしく!」
がーんっ! 私の晴嵐……鹵獲された上にパクられたのか!
確かに艦載機の性能はこっちが上だったみたいだけどさっ!
戦術ドライバも実戦で組み上げていったスペシャルな奴だし、こっちだって色々創意工夫の末の成果なんだっての!
その長年の成果をまるごと横取りされるなんて……なんか……なんかっ! 悔しーいっ!
って言うか、誰がパチもんだ! うがーっ!
「その辺はちゃんと聞いてるっすよ! ここはエスクロン社の社有星系なんで、他にも新型装備のテスト付き合ってもらうと思うっすよ! エリコさん、なんか超張り切ってたっす! それと、潜水艦は居住性とか良くないらしいっすけど……シホちゃんとこいけば、お風呂借りれるっすよ! 広くて豪華なんで、お勧めっすよ! ついでに言うと、うちの提督のお手製ご飯とスイーツは最高っす!」
「知ってるよ! ゼロ戦も新型改良機……アサルト・ゼロとバスター・ゼロとか言う変なの作ったんだって? 他にも対潜行艦用の新型装備とかも作ってるらしいし……ちょっと楽しみ! でも、お風呂もいいけど、美味しいご飯とスイーツはいいなぁ……。そりゃ、是非ご相伴させていただかないとね! ところで、そっちのパーカーの娘は潜水艦乗りかなんか?」
空気に徹しようと思ってたんだけど、そうはいかないらしい。
目ざとく声をかけられてしまった。
「は、はい? 私は……た、ただのコンビニ店員ですよ。潜水艦とか縁もゆかりもないですから……でもまぁ、この伊400がカッコイイ事は認めますけどね! うん、いい艦です……シルエットもキレイだし、きっと世界一の潜水艦です」
思わず、主観入りまくりの自画自賛コメントをしてしまった。
けど、大失敗!
ヨーコとか言うのが、感動したような面持ちでこっち見てる……。
「君、最高っ! この伊400の造形美……わかっちゃうー? なんか、お仲間みたいな感じがしたから、勘違いしちゃったけど、そっか一般人か……。でも、潜水艦とかあんま表立って役に立ったりとかあんま無くって地味な存在なんだけどさ! 未来人の人でもちゃんと潜水艦なんかも見てくれてるんだね! あたし、感動しちゃったよ! なんなら、艦内見学とかする? あ、でも……しばらく換気しないと普通の人はぶっ倒れちゃうか……」
「そ、そうですか……残念ですね……でも、機会があったら、ぜひ!」
艦内見学とか、こっちのテクノロジーを見れる絶好のチャンスなのだけど。
確かに、この服装で今の今まで潜行してた潜水艦の艦内に入ると……暑さは多分平気だろうけど、逆を言えば、それだけで常人じゃないってバレてしまう……。
「なんか……君って、見てると妙に親近感湧くなぁ……なんでだろ? すっごく見覚えあるような気がするんだ! ところで、コンビニってどこの?」
ヨーコが駆け寄ってくると、興味深げにしげしげと眺められる。
……うん、私が髪の毛バッサリ切って、髪の色を真っ黒にしたら、こんな感じだ……。
そりゃあ、見覚えあるでしょうよ……毎朝、鏡の前とかで。
けど、気付かれてない? もしかして……ならば、トコトン誤魔化すのみっ!
「えっと、第18ブロックの007ってコンビニです。今日はお休みですけど、普段はそこでレジ打ってますよ」
「そかそかー! じゃあ、今度遊びに行こっと! なんか君のこと、すっごく気に入っちゃった! ねぇねぇ! お名前は? あたしはヨーコ! ホントは伊400なんだけど、女の子の名前としちゃないよねー」
激しく同感……日本海軍も潜水艦にもちゃんとした情緒ある素敵な名前つけてほしかった。
元々固有名なんかなかったけど、私は私で名乗れる名前があるんだ。
「えっと……イオン……イオン・セレナーデ……」
「イオンちゃん! あたし、ヨーコだよっ! よろしくねっ!」
そう言って、ガバッと抱きしめられる……。
抱きつかれてわかったのは、背丈とか肩幅なんかもほぼ一緒……触れた髪の毛の感触や匂いだって一緒。
解った……彼女はもう一人の私なんだ。
……そりゃあ、嫌いになんてなれる訳がない……そう思ったら自然に肩の力が抜けた。
彼女と戦わずに済んだのは、お互いにとって幸運だったのかもしれない。
2つの世界の同じルーツを持つ者同士……たぶん、私が持つこの伊400としての記憶だって同じだろう。
そう……私達は戦っちゃいけないんだ。
共通の敵を持つ同士……むしろ共に肩を並べて、戦うべきなのだ。
……私はそう確信する。
二人の伊400との邂逅。
彼女達の出会いは、2つの世界の架け橋になるかもしれません。
ちなみに、アサルト・ゼロとバスター・ゼロとかまた珍奇な改造機の名前が出てますが。
アサルトは近接戦闘重視で追加装甲、機銃増設の上、使い捨てロケットブースター装備の緊急展開インターセプター機で、バスターの方はレールガン搭載型のロングレンジ攻撃機です。
エスクロンとアドモスの共同制作で、保守的なシホちゃんもゼロならオッケーとコロッと騙されて、試験運用中です。(笑)
裏コードネームは零式艦上戦闘機V型。(笑)
更にV2型へと発展予定。
いいとこどりした、決戦仕様のV2アサルトバスターとか考えてませんよ?(笑)




