第十五話「眼下の敵を捕獲せよっ!」①
「……うーん、ジョニーさん達もなかなかの漢だねぇ……」
ジョニーさんの演説を聞き終わると、私も思わず感心してしまった。
未来人って皆、どことなくこの戦争を他人事みたいに思ってる感じだったんだけど……。
あんなふうに、ガクブルに震えてて、それでも最後まで踏みとどまる……か。
あれを勇気と言わず、なんと言う……ちょっと、尊敬しちゃったね。
「ああ、奴も漢だと言うことだ! 正直、見直したっ! やはり、男子たるものああでなくてはな……感心したぞ! 見事な覚悟なりっ! 認めよう、奴のような男こそ、男の中の男っ!」
なんか、武蔵姉様が目をキラッキラにしながら、力説している。
そういや、この手の熱い男が大好きとか言ってたもんね……確かに、今のはグッと来るものがあった!
「そうだね……こうなってくると、私らも俄然やる気出るね! 敵は潜行艦伊400と同じ潜水空母タイプ。となると、晴嵐が先に来るだろうね……って、やっぱ来た! どこで発艦したのか良く解かんないけど、彩雲が捕捉した! 島風の報告だと、エースパイロット級の戦闘ドライバ搭載だって……。それにしても、どこからどう見ても晴嵐だよねぇ……なんで、晴嵐なんだろ? けど、所詮たった2機の水上機……秋茜も12機ほど残ってるから総掛かりならなんとかなるっしょ。たぶん、本体はもうこの流域に入り込んでる……ハーダーが追撃してるはずだけど。あの娘、隠密戦闘のプロだから、隙を伺ってるのかも……。それにしても、私が指揮艦とかほんとに良かったの?」
「構わぬさ……我々は潜水艦への対抗手段が無い……。囮役と対空砲台役くらいにしか役に立たん。防空統制も対潜水艦戦も門外漢だ。お前の指示に黙って従うとするさ。フッドとビスクマルクには、観客船の直衛についてもらっているから、私がお前のお守りをしてやろうじゃないか。たまには姉らしい事をせねばな!」
配置としては、エーテルロードの両端を整列しながら退去する観客船団と、それぞれの最後尾に直衛としてフッドとビスマルク。
プロクスターの周辺流域には、特務の駆逐艦隊が展開しているようで、彼女達も対伊400戦に参戦すると申し出てくれていた。
対潜水艦戦闘の専門家駆逐艦、それも特務なんて言ったら精鋭中の精鋭!
そんなのが、参戦してくれるなんて、こころ強いなんてもんじゃなかったんだけど。
プロクスターからだと遡上戦となってしまうし、なにより10万人の観客船団の安全確保が最優先。
……なので、彼女達は最終防衛ライン受け持ちということで、観客船団の誘導とプロクスター周辺流域の安全確保を託すことにした。
腕利きの精鋭部隊が安全地帯を確保してくれる……そう言う事なら、銃後の守りは万全と言える。
「……いいだろう。民間人のお守りは、アタシら「白兎隊」が責任を持って引き受けよう。君らは後ろを気にせず、存分に戦って派手に散ると良いよ。全滅しても後があるって思えば、少しは気楽だろう? まぁ、満身創痍で退くべきところを、敢えて囮となるなんて、実に酔狂な話だと思うけど、ゴールキーパー役は任せてくれていい……。では、君らの健闘と幸運を祈るよ」
そう言って、通信を締めくくった……特務の提督さん。
なんと、若い女の子だった……。
長い黒髪の清楚で儚げな雰囲気のキレイな子。
けど、口を開けば、やたらと偉そうで苛烈な言葉の数々が並べられた……。
派手に散るとか……そりゃ、囮役なんて、むしろ轟沈される可能性が高いんだけどね……。
もうちょっと言い方ってもんはなかったのだろうか?
私も色んな再現体提督と会ってきたんだけど、こんな人もいるんだって、びっくりしてしまったよ。
まぁ、やたらと有能な提督らしいので、万が一私達が沈んでも、きっとなんとかしてくれるだろう。
そう言う意味では、信頼に足る……そう思っておく。
ちなみに、私達、信濃と武蔵は並んで流域のど真ん中に配置。
こちらは囮役、フッドとビスマルクは民間船団のいざという時の盾代わり。
本来なら護衛の駆逐艦や巡洋艦を周りに並べて、輪形陣を組みたいところだけど、護衛艦なんて居やしない。
カドワキさん達から小型戦闘艇を護衛につけるって話もあったけど、そっちはむしろ観客船団の方に回してもらった。
どっちみち、こっちは囮、護衛も居ない戦艦と空母なんて、潜水艦から見たら垂涎のカモ。
むしろ、狙ってこいってんだ!
なので、私の護衛といえるのは、満身創痍でボロボロになった武蔵だけが頼み。
こっちも相応にボロボロだけど、さすが最新技術を惜しみなく注ぎ込んだ重装甲空母、まだまだ艦体挙動、艤装稼働率も問題ないレベル……艦載機もまだまだ残ってるから、十分戦える!
……カドワキさん達の仕事ぶりに感謝を覚える。
「頼りにしてるよん? お姉さま。さて、秋茜第一小隊がまもなく接敵! ……どんなもんか、直に見たいから、ちょっとあっちに意識飛ばす……反応なくなるけど、ガードよろしく!」
武蔵がボディーガードに着いてくれてるなら、安心。
それに不意打ちの一発くらいなら、余裕で持ちこたえる……大戦では魚雷一発で沈んだ私だけど、あんなの未完成状態で移送中だったんだから、どうしょうもない。
姉さま達の実例と、今の防御力ならダース単位でもらっても耐えきれると思うな! 大和型なめんな!
そして、私は秋茜の1号機に意識を飛ばす。
私の目は機体のメインカメラ……私の耳は機体各部のセンサーとなる。
手を動かす代わりにフラップを操り、足で地面を蹴る代わりにエンジンの出力を操る。
三機の僚機とのデータリンクも問題なし……私は私自身が飛行機になるこの感覚が嫌いじゃない。
360度の視界と、鋼鉄の翼で大空を自在に舞う……こればっかりは、私達空母系頭脳体の特権だ。
まずは一機……晴嵐が向かってくる。
どうやらエレメントを組むつもりもないようで、バラバラに分かれる!
……もう一機には第二小隊の4機を送り込む。
伊400の模造品のような相手だと聞いていたけど、艦載機までそっくりそのままとは芸の細かい奴だった。
けれども、模造品と言う事なら、話が早い……データベースから取り寄せた晴嵐の各種スペックデータから、敵機動予測のプリセットを組む……。
僚機にロケット砲による牽制射撃のコマンド送信し、こちらもロケット砲で先制攻撃ッ!
晴嵐の進行方向に立て続けの爆発と子弾による弾幕が広がる。
射程外の攻撃に不意を突かれたらしく、急降下による緊急回避!
……読み通り! 30mmガトリング砲の濃密な弾幕でその進行方向を薙ぎ払う!
確実に当たる……と思ったのだけど、敵機の動きが予想より早く銃撃を綺麗に避けていく!
……晴嵐の動きじゃないっ! 速度が倍くらい出てるっ!
続いて、一気に上昇しながら、すれ違いざまに旋回機銃からの掃射! 三番機から被弾報告!
上昇力も半端じゃないっ! 一瞬ですれ違い……はるか高みへと駆け上がる!
「ちょっと待てっ! 下駄履きの機動じゃないでしょ! 今の!」
急上昇……直後に鋭角的なターンを決めて急降下! 一瞬で編隊の背後を取ると三番機へ更なる銃撃を加えてくる!
回避行動を取るも、逃げる先に銃撃を加えられて、三番機はエンジンから火を噴く!
何こいつ? ガンポッドみたいなのを付けて、格闘戦も出来るようにしてるっ! しかも火力も尋常じゃない!
20mmどころか30mmクラスのハイパワーな奴! 秋茜の装甲があっさり撃ち抜かれていくっ!
「編隊ブレイクッ! 全機、三番機を囮に包囲! 集中攻撃!」
さすが秋茜……三番機は片肺になって火を吹きながらも、しぶとく飛び続ける……カウンタートルクで失速しないのは、二重反転ペラのおかげ……。
双発でそんなの意味が無いとも言われたけど、防御兵器たる戦闘機が簡単に落とされちゃ困る……!
とにかく防御っ! 防御重視! 冗長性を重視した故の選択! 落とされさえしなければ、戦力になる!
現に敵機は未だ落とせず、3番機相手に拘泥している!
執拗に銃撃を加えてくるのだけど、持ちこたえている……ここは3番機を犠牲にしてでも、確実に落とす!
プリセット値修正……先程の回避機動から、敵機の推定スペックデータに修正を加える。
修正値を加味した上で、敵機の背後に回らせた僚機が二機掛かりでの銃撃を加える……。
今度は回避機動を読み切った!
回避先に、打ち込んだ銃撃が、その特徴ある2つのフロートのひとつに直撃し、軽くもぎ取った!
流石にバランスを崩し、くるくると回転し始める。
更にトドメとばかりに、二機掛かりの十字砲火!
あまり連射しすぎると失速するくらいの速射性と大威力を誇る30mmガトリング機銃!
さしもの晴嵐も失速した所にそんなものを食らってはひとたまりもなかった!
主翼が破壊され、燃料タンクに被弾! 空中爆発を起こし木っ端微塵になる!
さすがに最初の機動にはびっくりしたけど……所詮は水上攻撃機、そもそも空戦なんて出来るような機体じゃない。
こっちはB-29クラスの大型機だろうが対抗出来るように設計した重戦闘機なんだから……晴嵐程度に負けるわけがない。
そろそろ、第二小隊も片付けた頃合いだろう……と思って、戦術マップを確認すると第二小隊の機影が全て消滅していた。
「えっ? どういう事!」
驚く暇もなくアラート……そして、被弾警告。
被害状況は極めて深刻……左翼消滅、左エンジン炎上停止……。
これはもう保たない……どこから何が撃ってきた? 極めて、異常な事態が進行していた。
もはや、復旧は不可能……ダイレクトリンクカット! ほとんど同時に秋茜一号機が爆散っ!
あっぶなっ! ダイレクトリンク中に機体爆散とか、一瞬意識が飛ぶから、超やばいっ!
「おいっ! お前の戦闘機隊……あっさり蹴散らされてるじゃないか! 相手は下駄履きじゃないのか!」
戻るなり、武蔵からのコール。
「……下駄履きだけど、あれとんだ化物よ……と言うか、今、何でやられたのか解らなかった……ちょっと調べる!」
状況は最悪……第二小隊の4機は全滅、第一小隊も3番機とダイレクトコントロールしていた1番機が撃破。
敵機を一機撃ち落としたものの一瞬で6機も失った……早く状況分析しないと……。
戦場監視中の彩雲からの映像データによると、どうも私を撃ったのはエーテル流体面下に潜んでいた潜行艦の対空荷電粒子砲の一撃らしかった。
どうやら第二小隊の方も、同じ手口でやられたようだった。
そんなモノを使ってくるなんて……完全に想定外。
この調子では残った二機も時間の問題でやられる……そう判断したので撤退コマンドを送る。
速力では秋茜の方が上だから、振り切れる……こうなったら、直掩の4機も合わせて、犠牲前提でタコ殴りにして落とすしか無い……。
「カドワキさん! 敵艦、潜行艦のくせに荷電粒子砲装備みたいよ! しかも、フッドに積んでるのと同じく螺旋状の直進性の高いやつ! おかげでこっちは6機も落とされた。それにどうなってんの! あれ! あんな動き……水上機の動きじゃないよ? それに……空艦連動による高精度射撃なんて……あれ? この戦術、どっかで聞いたような……」
「ああ、例の初霜が実践した航空隊との連携戦術だな。航空隊が囮になって、艦艇の銃撃で仕留める。或いは艦艇側の射撃で注意を引いて航空機が仕留める。極めて高度な相互連携と艦艇側の高精度射撃能力があって成り立つ……それを使いこなすとなると。……真っ当な空戦を挑んでちゃ秋茜でも分が悪い。その上、エーテル流体面下から撃てる荷電粒子砲かよ。こりゃ、恐ろしく厄介な相手だな。ここは一旦引け……」
「ええっ! 逃げろって! 逃げてどうにかなる相手じゃないでしょ!」
「話は最後まできけ! 武蔵と信濃、二艦連携の弾幕射撃網に引き込んで連携飽和攻撃で叩き落とすんだ! あの動き……高精度の未来予測ってとこか? だが、それをもってしても飽和攻撃には対応できまい……。武蔵! そっちは対空射撃を信濃とダイレクトリンクで連動した上で、飽和攻撃を仕掛けろ! 信濃の対空火器は充実してる上に、ほとんど無傷だ……! それに荷電粒子砲相手なら、お前さんにゃ強電磁界シールドがあるから、撃たれても何とかなるから、信濃の盾になってやるんだ!」
……すっごい。
この場の残存装備、彼我の戦力を加味した上での最適解の提示。
カドワキさんって、技術者だから、戦争の素人だと思ってたのに……なんか凄い!
「あはは……カドワキさん、何か提督さんみたい……」
率直な感想……なかなか悪くないじゃないの。
「ああ、しかも何とも的確な指示じゃないか……いいとも、やってやろう!」
「あったりめぇだろ! 技術者だって、戦場ってもんを理解してこそ、いい兵器が作れるってもんだ。俺達だって、日夜お前らと黒船の戦闘記録のチェックや戦術研究とかやってんだ! 素人扱いすんじゃねぇ! ああ、俺も一緒に戦ってやらぁ! 元よりこちとらそのつもりだっての! うちの整備スタッフも叩き起こして、リアルタイムで戦闘データ分析させてるからな……。もう少しで敵機の機動パターンの解析も出来る! どうせ後一機だ! 力押しで叩き潰せ!」
カドワキさんの言葉に何とも胸が熱くなる。
私達だけが戦ってる訳じゃない……後ろのカドワキさん達も敵情を分析し、可能な限りの援護をしてくれようとしている。
それに私が倒れても、あとがある! その事が私を勇気づける!
サブタイがなんか適当。
第一ラウンドは、信濃ちゃん側完敗です……と言うか、未知の敵の新兵器相手じゃ厳しい。
それに秋茜自体も双発大型機なので、小型超高機動の晴嵐は相性良くない相手です。
と言うか、そもそも敵機は……晴嵐の形をしてるだけのチート機なので、完全に油断に付け込まれた形になってます……慢心よくないっ!
追記。
外伝の関係で、この戦場に「白兎隊」がいたって設定が増えましたんで、本編に出番追加しました。(笑)




