第十二話「戦闘空母信濃! 抜錨しますっ!」②
「そうだ……つまり、浪漫だ! 浪漫っ! 解ってるじゃあないか! 俺は嬉しい……君のような理解者が戦乙女の中に居たと言う僥倖に……。まぁ、とにかく……例のアレは想定通りの性能を発揮するはずだから、安心して戦に臨むと良いぞ」
「この勝負……私としては、デビュー戦のようなものですからね! 絶対負ける訳には参りません! けれど、武蔵もビスマルクも星間連合軍でも屈指の強敵……勝負を決めるとすれば、間違いなくアレです。そんな訳で、フッドさんも準備よろしいですか?」
「あっ! はいっ! じゃないんですよね……少々お待ちを……。」
そう言って、フッドさんがモニターからしばし、フェイドアウト。
「ああ、私は問題ないっ! ……このKnights of Britannia! 大巡洋戦艦フッド……いつでもやれる! 整備員の皆さんも早く退艦して下さーい! ……カドワキさんも早いとこ信濃ちゃんから、降りましょうねぇ! って……えっとですね……ええぃっ! 貴様ら、何をグズグズしている! さっさと退艦しろっ! さもなくば斬るっ!」
……フッドさん、無理して男勝りの英国騎士なんてキャラ作ってるせいか、早くもキャラ崩壊気味。
ちなみに普段はゆるふわウェーブロングヘアで、詩集なんかを片手に優雅に紅茶を嗜むのんびり屋さん。
彼女は、本来第610高速機動艦隊の旗艦なんだけど……今回は、新兵器開発の為に、アドモス商会に出向と言う形を取ってくれていた。
610は、私と違って企業支援艦隊じゃないんだけど、機材提供スポンサー契約を結んでいるので、艦本体を含めて、その艤装の殆どがアドモス商会開発の最新型装備となっている。
精鋭部隊と名高く、数々の戦果を挙げてくれており、言わばお得意様みたいなもの。
今日のフッドさんは、いつものゆるふわスタイルじゃなくて、なんだか中世騎士の胸甲みたいなのを着込んで、剣なんか持って、髪もポニーテール風に纏め上げた勇ましいスタイル。
なんでも、古代イギリスに伝わる英雄譚の主人公アーサー王をイメージしてるらしいけど、色々混ざったらしくて良くわかんない事になってる。
ちなみに、私も似たようなもんで、浅葱色と白のダンダラ模様に背中に誠の一文字の羽織と黒の馬乗袴。
長い黒髪を先端で纏め上げた赤いリボンで纏め髪にして、腰には日本刀。
……私的には、恥ずかしいどころか気合MAX、憧れの新撰組のコスなのだっ!
なんか最初は日本の武将の甲冑みたいなの着せられそうになったけど……私的には、新撰組が良いと駄々こねて、こっちにしてもらった。
けど、なんかウケは良かった……特にアドモス商会の女子社員には圧倒的な支持を受けた。
そうだろう、そうだろう、さもありなん!
ついでに、信濃の飛行甲板にも同じ模様と「誠」の一文字を描いてもらった! やったねっ!
江戸末期幕末のイケメン人斬り集団……時代の徒花として、戦場に散った漢達の浪漫!
「らんど☆すたー」先生作の「夢幻の志士、沖田総司の最期」は涙なくして見られない……。
絶賛オススメ中! 「らんど☆すたー」先生も私の勇姿……見てくれるといいなぁ……。
「おーい、信濃ぉ……お前ら、いつまで待たせる気だ……。まったく、こんな酔狂な実弾演習なんて、聞いていないぞ……これでは、まるで見世物ではないか」
なんとも面倒くさそうな口調で、回線に割り込んできたのは、武蔵……。
一応、姉に当たる艦……大和級二番艦。
ちなみに、彼女も赤い陣羽織に黒袴の侍スタイル、腰には二本の日本刀。
赤い髪をサイドテールに結い上げた和風美人な雰囲気。
イメージは伝説の剣豪、宮本武蔵……なんだそうな。
姉上、イケてますよ? 後で二人で並んで写真でも撮りましょう。
アドモスさんから、どっか対戦相手にツテはないかって言われたんで、主力の第二艦隊旗艦を務める身内とも言える姉上に声をかけたら、割とノリノリで引き受けてくれた。
……戦艦、空母組は、皆結構暇してるのよね……解る。
大和姉さまから、後日「なんで私に声をかけなかった!」って、文句が来たくらい……。
さすがに、星間連合艦隊第一艦隊総旗艦様がホイホイ、実弾演習なんかやっちゃダメでしょー!
ついでに、そう言う事ならと、互角に戦えそうな対戦相手探しに難航してたライバル社のエスクロン社が、ちゃっかり第二艦隊とスポンサー契約を交わして……なし崩し的に星間連合軍公認みたいな感じになってしまったんだけどね。
戦闘艦艇頭脳体同士の対抗実弾演習……これ自体は、実際に何度か行われてはいる。
もっとも、本気で実弾を交わし合う以上、艦も相応に破壊されたりと、お互い無傷では済まない。
人を載せてなんてやってたら、死傷者続出となるのは間違いないのだけど。
基本的に、私達は無人運用艦……乗員も頭脳体のみで、ちょっとやそっとじゃ破壊されないし、艦体の損傷も大破レベルの損傷でも、早ければ数日で修復できてしまう。
何より、実戦形式でないと解らない事なんて、数多くある。
被弾時の装甲防御力や被害状況、ダメージコントロールの実戦での有効性、火砲や艦載機の火力評価など。
中破、大破レベルのダメージ状態での各種艤装の稼働率や艦の挙動特性なども、極めて有用な情報なんだけど、実際そうなってみないと解らない。
装甲空母大鳳やレキシントンの最期の致命的要因となった密閉式格納庫の被弾時脆弱性も、やられてから解ったような事だからね。
実弾形式での演習で得られることは、非常に大きい……。
VR演習もあれって、なかなかの再現度なんだけど……。
実戦データが揃ってないと、至っていい加減なものにしかならない。
実戦の機会にあんまり恵まれない大型艦にとっては、むしろ積極的に実弾演習をやらせろという声も大きいと言う話だったんだけど、実弾演習ともなるとコストが馬鹿にならない。
だから、星間連合軍もそうそう許可なんて出さない。
その辺、アドモスさんやエスクロンさんは、どうしたかと言うと……。
本来は、実弾演習ともなると、流域閉鎖の上で秘密裏に行っていたものだったのだけど。
双方の意向で、マスコミが入り、一般人にチケットを売って観戦させるという、限りなくエンターテイメント化してしまった事でコストの問題を解決してしまった。
すでに、この流域では、観客で一杯の観戦客船やら、マスコミの無人中継機やらが飛び交っていて、もう完全にお祭り騒ぎ。
なんでも、この一戦……元々はエスクロン社とアドモス商会とで、惑星一つの開発利権がかかっていたそうなのだけど……。
一大エンターテイメントイベント化した事で、双方かなりの興行収入があり、もはや勝ち負けはどっちでも良くなってるらしい。
どっちも商売人だから、こそこそ演習なんてやるよりも、ド派手にやって、お金儲けに活用って発想みたいなんだけど。
……何というか、平和だね……。
「いいじゃない……武蔵。今回は、我々は胸を貸す側なんでしょ? ……私は、こう言うお祭りごとは嫌いじゃないからね。精々派手にやって、戦争に縁のない人々に、戦場の空気を体験してもらう……うん、悪くない! それにしても、本当にハンデは要らないのかな? こちらは武蔵と私、世界有数の超弩級大戦艦が二隻、そちらは巡洋戦艦と装甲空母。普通にやったら勝負はやる前から見えていると思うんだけど……。なんなら、先制攻撃の権利はそちらに譲ってもかまわないよ。一発もらったくらいでちょうどいいハンデでしょ?」
……もう一人の対戦相手、ビスマルクさんがなんとも心配そうな様子で訪ねてくる。
ナチスドイツの軍服風の勇ましい姿でシルバーアッシュのロングヘアの凛とした軍人と言った雰囲気なのだけど。
その重厚な雰囲気の割に、案外調子は軽い。
……彼女は無類の猫好きとしても知られている。
だから、大真面目な顔をしながら、その頭には猫耳カチューシャなんてものを付けている。
もはや、ギャグでやってるとしか思えない……おかげで、武人然とした美人が色々台無し状態。
フッドさんからすると仇敵のはずなのだけど。
彼女も猫好きなので、実は猫愛好家仲間らしい……つまり、実は結構お友達。
彼女は……と言うと、フッドさんの声掛けで対戦相手を引き受けてくれていた。
やっぱり、ノリノリだったらしい。
本来は、ドイツ系艦を主力とする第五艦隊の指揮艦……実は結構なビッグネームなんだけどね。
やっぱり、艦隊ごとエスクロン社とスポンサー契約済み。
元々主力艦隊は、企業利権とか各国の思惑が関わらないようにって、星間連合軍が仕切ってたんだけど。
星間連合軍自体、意思決定がクッソ遅いし、装備更新もままならないわで、現場からは不満の声が上がってたんですね。
なにせ、スポンサー支援を受けている企業支援艦隊とか、辺境警備艦隊の方がいい装備使ってたり、実戦経験積みまくってるもんだから、最新データを使ったVR演習で、軽空母が正規空母を圧倒したり、巡洋艦が戦艦を圧倒とかそんな実例が出てきてたくらいだったんだよねー。
武蔵お姉さまも、ビスマルクさんも、その辺は深刻な問題だって解ってたんで、今回の件は率先して提督を拝み倒して説得して前例をぶち破ったとかなんとか。
うーむ、私……実は流れ変えちゃったのかな? なんか、中央予備艦隊の他の子達も私を見習ったのか、あっちこっちの星系防衛艦隊とか、企業支援艦隊に移籍しちゃって、もう誰も残ってないって話だし……。
まぁ、あそこ待遇悪すぎだったしね……。
私のせいじゃないもんっ!
ところで、今回はフッドさんとビスマルクさんは、仇敵同士と言う設定で、戦闘前の口上でここで会ったが百年目! とかやるって話になってる。
私や武蔵お姉さまも、向き合ったら、共に剣に生きるもの……とか演る予定。
四人で事前打ち合わせついでに、演出用の台本渡されて、リハーサルとかやったけど、むっちゃ楽しかったです!
でも、先制攻撃権を譲るってのは、ちょっと舐められすぎだなー。
ここは強気でガツンと言ってやりましょうっ!
「いやいや、こっちが先制攻撃なんてしちゃったら、ワンサイドゲーム確定なんでご遠慮させていただきます。今回、私達はどちらもアドモス商会開発の新兵器を使わせてもらいますからね。それがハンデ代わりと言うことで……」
私がそう言うと、さすがに二人も驚いた顔をする。
「ほ、ほほぅ、信濃……貴様、言うようになったじゃないか。面白い……どんな小細工を用意しているのか知らんが……いい度胸だ! ビスマルク……手加減は無用だそうだ! どのみち、実弾演習は本気でやってこそ、意味があるのだ。ここはひとつお互い、本気で存分にやってやろうじゃないか」
「わぁお……武蔵ちゃん、マジモードですな。ごめんね……私もそこまで言われちゃ、手加減とか出来ないわ……。フッドさんも、いつぞやみたいにワンパンで沈めちゃったらごめんなさいねー! それじゃ、二人共戦場で会いましょう! Viel Glück!」
口調は軽いけど、少しも笑ってない感じで、二人の通信が切れる。
思わず、売り言葉に買い言葉……怒らせちゃったかもしれないけど。
そうこなくては話にならない。
どのみち、実弾演習なんだから、本気と書いてマジと読むくらいでないと。
もちろん、お互い頭脳体直撃狙いとか酷いことはしないけど……。
それ以外なら、勝つためなら何でもあり……その辺は、打ち合わせの時点でお互い決めてたことなのだ。
身内みたいなものだからって、手加減なんかしない!
「さぁ、フッドさん……ここはいっちょ派手にやりましょう!」
「はわわ……信濃さん、なんて事を……二人共、あれは本気で来るつもりですよ!」
「フッドさん、ダメダメ……そこはキャラになりきろう。いかに敵が強大だとて、我こそは大英帝国の誇りを担うもの! とかカマしちゃえ!」
「ううっ……解りました……ムニャムニャムニャ……。くくくっ……このフッドも舐められたものだ……信濃、往くぞ! 打倒ビスマルク! そして、武蔵もついで切ってやろう! 今宵こそ、あやつらを我が剣のサビとしてくれよう!」
なんかスイッチが入ったらしく、どことなくぽや~んとしたいつも調子から、鋭い武人の雰囲気へ変貌すると、物騒な台詞を残して、フッドさんが通信を切る。
と言うか切っちゃダメだし、切れないと思うよ?
ちなみに、私もだけど、フッドさんの持つ剣はぶっちゃけ飾り。
刃もついてない……これで殴られたら、それなりに痛いかもだけど、剣術とか知らないし。
抜いて云々とか言う話になったら、さぞ無様なものが見れると思う。
……まぁ、気分ですよ気分っ!
「戦闘空母信濃! 抜錨せよっ!」
カッコよく刀を抜きながら、勢い良く振り下ろす。
……決まった! 我ながら超カッコイイ! 気分は沖田様! すってきー!
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