第九話「出撃! 第610高速機動艦隊!」④
「……やっとお呼びがかかったな? 待ってたぜ……島風ちゃん。実は、なんか良い作戦とか提案してくれないかなとか思ってたとこだったんだが。やっとその気になってくれたな? 俺を呼んだってことは、戦略レベルで何かやって欲しい事があるってことだろ?」
そう言いながらグエン少将がニヤリといい笑顔で隣にどっかりと腰掛ける。
他の皆も、含みのある笑顔で手近なところに腰掛けていく。
なんだかんだで、理解のある人だから話が早い。
「まぁ、そう言う事ですね。……皆、それに雷電姉妹もとりあえず、状況整理するから聞いてね」
私がそう言うと、二人も真剣な顔で頷く。
「とりあえず、現時点での状況。ネスト級の出現とそれに続く、黒船の本格的な中継ステーションへの空襲。空襲自体は凌いだものの……状況はかなり深刻。ビッグクローラーなんて、大物が出てきてる時点で相当やばいってのは、皆も解ってると思う」
「そうだな……ブラックロード事件級の危機的状況だな」
「星間連合軍は、この事態を重く見て、緊急総動員指令を発令。準主力の第12艦隊と、近隣の中小独立艦隊が援軍として来援中。更に中央艦隊も動いてる……私達の所属する第6艦隊の主力も出撃準備中。ただ完全に後手に回ってるから、増援は最短で3日、恐らくなんだかんだ手間取って、現着は一週間はかかる……。たぶん、全部終わった後か……手に負えない状況になっての到着になる……。これはもう仕方がないですね」
「そうさな……俺達がここにいるのも、たまたまだからな。なぁ、おチビちゃん達……ネストのレベルとしてはどんなもんまで成長してるんだ? そもそも、たった二隻でなんとかなるレベルなのか?」
「あたしらが最後に強行偵察した時は、レベル2だったかな……大きさや形態から、そんなもんだったよね? 雷」
「ですね……電。まだ航行形態だったから、それくらいのはずです。時期的には、一週間ほど前の情報ですけど……」
「一週間前? ネスト級とか出てきた時点で、緊急対応しなきゃ駄目なのに……」
「しょうが無いよ……ケプラー20星系って入植し始めたばかりの辺境星系だし、次に近いエスクロンなんて、ずっと上流だからまるっきり他人事。そもそも、第一発見者も民間の輸送船からの通報……。一応、私達も含めて、手近な艦隊が対応しようとしたんだけどね……戦力不足でどうにもならなかったよ」
ああ、まったく……どうしょうもない。
私達はいつもこうやって、後手に回る羽目になるんだ……。
未来人は……どうも自分達の住んでる星系内が平和なら問題ないとか思ってる。
エーテルロードは、自分達が暮らしてる領域じゃないから。
星間旅行とか貿易をしてる人間達も、ただの通過点でしか無い。
だから、突然目に見える脅威が降り掛かってから、慌てふためく。
私達に話が回ってくるのは、いつも大事になってからなのだ……。
私達もこまめに巡回艦隊を出して、早め早めの対応を心がけているのだけど……エーテルロードは複雑な上に広い。
どうしても手が回らない部分が出てきてしまう……。
情報共有の体制がもう少し整ってればまだマシなのだろうけど……その辺もまだまだなのよね……。
とにかく、ネスト級の状況。
一週間前でレベル2なら、前例通りならせいぜい固着化してレベル3……この程度ならさしたる問題はないはず。
けど、ビッグクローラーなんて大物が確認されてるとなると、大規模なエーテルロードを掘れるレベル4相当にまで成長してる可能性がある。
……いや、それどころか、完全に拠点化されたレベル5を想定するべきかもしれない。
わずか一週間で、レベル二つすっとばしての急成長なんて、考えにくいのだけど。
……異例の事態が進行している……そう考えたほうが妥当と言える。
「提督……現在のネストの推定規模はレベル5と私は判断しています。出現した敵戦力から、それくらいの規模に達しているかと思います……異常なハイペースと言えますが……。前例にないからと言って、敵戦力を低く見積もるのは愚行といえます」
「おいおい……そいつはヤベェな……鳥肌モンだぜ。おい、お前ら話は聞いてたな……レベル5のネストだってよ……どうするよ? そこまで行ったらもう、ネスト・グランデって奴だな!」
提督が皆に話を振る……けど、レベル5のネスト級の話を聞いたにも関わらず、誰もが涼しい顔だった。
「ふふっ……逆境こそ、我らの力の見せ所じゃあないか……どうやら、我が右目を使うときが来たようだな。艦隊旗艦として、大いにやろうと宣言させてもらう!」
……安定の千歳。
たまには、その右目の秘めた力とやらを見せてくださいね。
「ふふん、面白いね……最強なあたしらの力を見せてやろうじゃないの」
「そうだな……我らなら委細問題ない……むしろ、陽炎ともども先陣を切らせてくれ」
そう言って、痴女スタイルで爽やかな感じで、タオルで額の汗を拭う陽炎と不知火は今日も平常運転。
「駄目です! 先陣は、私達がいただきます! 世界最速ル・ファンタスクシスターズ頑張ります!」
テリブルは今日も平常運転。
マランもコクコクと頷いている……まぁ、問題なし。
こいつら、みんな馬鹿だけど、臆するとか、そんな言葉には縁がない……。
ちゃんと背中を守ってやれば、皆、ちゃんといい働きをする。
「千歳姉様が行くなら、当然あたしも行くよ! 戦闘空母としての本気見せちゃうよっ!」
千代田も問題なし。
案の定、全員一致だった。
「さて……私達、第610高速機動艦隊全員一致で、レベル5のネスト級に喧嘩売る事に決定! グエン提督、艦隊司令部にその旨、ご連絡をお願いします。世も末とはかなむ前に心せよ、義を見てせざるは勇無きなり……そんな感じで一喝しちゃってください。……ゴリ押しは得意でしょうから、お任せします。……雷電姉妹、そっちはどうします?」
「て、手伝ってくれるってこと? ありがとうっ!」
「えへへ……なんだよ……お前ら。たまに会って挨拶する程度の仲なのによぉ……。正直、捨て身の片道切符とか覚悟してたんだけど……雷、良かったなぁ」
あーあ、電の奴泣いちゃったよ……可愛いとこあるじゃん。
見ると、雷も似たようなもん。
そんな怖かったんなら、無理なんかしなけれりゃいいのに……。
千代田が二人のところへ走っていくと、まとめてぎゅっと抱きしめる。
こいつ、こう見えて面倒見は悪くないのよね。
他の五人もぞろぞろと二人のところに行って、任せとけとかなんとか言い合ってる。
馬鹿なんだけど、イイ奴らなんですよね……うちの娘達って。
ふと視線を感じて、横を見るとグエン提督と目が合って、いい笑顔を見せられる。
なんとなく、気恥ずかしくなったので慌てて目を逸らす。
「グエン提督……司令部から了承取り付けたら、作戦参加可能な艦隊指揮官各位へ連絡の上で、緊急合同作戦会議の開催をお願いします。いつも通り、私が作戦プランを提示するから、提督は隣で頷いてればいいです。悪いけど、例によって提督の階級を傘に着させてもらいますから」
「了解だ……うんうん、俺は島風ちゃんを心から信頼してるからな。大いに結構! 存分に傘に着てくれ!」
心から信頼とかさらっと言っちゃうかね? この人は……ったくもー。
……幸い、グエン提督は、参戦可能な艦隊の諸提督の中でも最上位にあたる少将様。
数々の戦功のお陰で、階級だけは高い……こう言うときは実に便利だった。
こうなったら、この戦い……この私が仕切るっ!
レベル5ネスト……ネスト・グランデを相手取っての大戦。
この島風……誰一人犠牲も出さず、完璧な勝利ってやつを飾ってやりますよ。
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「委細承知した……ああ、任せてくれたまえ。」
そう言って大佐は電子会議システムをオフにした。
小一時間ほど前だっただろうか。
グエン少将と言う第6艦隊の分艦隊司令から、私達が向かっているケプラー20星系防衛作戦の協力要請があった。
もとより、あちらさんの事情など関係なしに、大佐は参戦する気満々だったのだけど。
こんな風に、連携作戦の提案を持ちかけてくると言うのは珍しい事だった。
ずいぶん長く話していたようだったが、話がまとまったらしく、大佐がテーブルの反対側から、作戦プランの表示された情報端末を投げよこす。
「大佐……お話はまとまりましたか?」
そう言いながら、その作戦プランを流し読みする。
「ああ……ほとんど、島風君と祥鳳君と言う参謀格の頭脳体同士が話していたようなものだったがね。いやはや、我々の役目は大戦艦狩りだそうだ。結構、結構、実によろしい! それにしても、まだ戦場には到着しないのかね? そろそろ付いても良い頃だと思うのだが」
「まぁまぁ、落ち着きましょう。作戦自体は、4段階に分かれているようですね。フェイズ1は、戦闘機隊による制空権の奪取……これはすでに前哨戦で敵航空戦力を壊滅させているので、問題なさそうですね。次に駆逐隊による護衛艦の排除……ザカーガーディアンは対艦戦力は皆無なので、これもさほど問題ないでしょう」
「戦力的には、貧弱にも関わらず、前線の部隊はよくやっているな……制空権下での戦いとはこれまた楽で良いな」
「そうですね……本来はそうあるべきなんですよ? 大佐。本来、非制空権下では、爆撃機なんてお呼びじゃありませんからね」
「そうだな……東部戦線とは訳が違うと言うことか。まぁいい……続け給え」
「はい、その後、駆逐艦と雷撃機によるビッグクローラーの片舷への統制雷撃により、航行不能状態へ追い込むようです……。なお、フェイズ2の段階で、先行させたタシュケント達も参戦予定です。続くフェイズ3が大佐の出番ですね……。向こうの爆撃隊と連動しての急降下爆撃でトドメを刺す。良かったですね……今回は単独急降下じゃなさそうですね」
「ふむ……対空砲火さえ黙らせてくれれば、むしろ私一人で十分なのだがね……あの二人の参謀……随分、慎重だな。それと、エスクロン社から頂いた新型のアトミックバスターとか言う爆弾……使えそうかね?」
「そうですね……収束核融合弾とか言うやたら強力な爆弾らしいので、直撃後に最低でも半径10km以上退避の上で起爆と言うのが使用時の注意事項だそうです。これは時限装置を組み込むことで対応済みです……。物自体は本艦にも積んでもらった発電用小型熱核融合炉を暴走させるようなものらしいです。いつもみたいに400フィートからのリリースとかはむしろ禁止ですからね?」
「最終兵器……核融合兵器か……私も知っているよ。軍機だったが、研究資料を目にする機会があってね。未来人はアレを制御する術を持っているのだな……」
「なんでも、周辺に重力フィールドを展開して、爆風の広がりを抑える仕組みなんだそうです。核融合弾は、そのまま使うと危害半径が広すぎるので、本来エーテル空間ではとても使えないらしいんですけど、創意工夫したとかなんとか。けど、シミュレーションだけで、実地試験もしてないそうなんですが……本当にやるんですか? 未来人も別の手段を講じるべきだと言ってましたから、安全確実に私の主砲で仕留めません?」
「マラート君、聞けば相当に厄介な相手のようだ……確実に仕留める方法があるなら、迷う事はない。目標は700mもあるようなデカブツらしいからな……そこまでの大物を仕留めるとなると腕がなるよ。……だが、その様子だと巨大戦艦種を仕留めたら終わりと言う訳ではないようだな」
「そうですね……その後が本番と言ってもいいかもしれません。最終フェイズ、敵の本丸……ネスト級を沈めないと……なんでも、レベル5を想定しているそうです……。この短期間でここまで成長した前例はないそうですが。言わば、要塞を相手にするようなものでしょうね。このレベルのものには、ネスト・グランデと言う特別呼称が付くそうです」
「ネスト・グランデ……要塞か。だが、動かない的など、如何に大きくとも、さしたる脅威でもないのだよ。解っておらんな黒船共も」
「そんなものですか……ひとまず、続けますね。ネスト・グランデの攻略自体はグエン提督率いる高速艦隊による奇襲で、こちらは敵戦力の誘引役ですから……。大佐は私の艦橋でホットミルクでも飲みながら、寛いでいていただいて構いませんよ? どのみち、あそこのエーテル潮流は流速が早すぎて、高速艦でもないと逆走しようにもまともに進めませんからね。私は大人しく後方待機とするつもりですし、スツーカの航続距離では片道キップになってしまいます。たまには、指揮官として後方で大人しくしててくださいな」
……私が今回、気楽でいられる理由はまさにそれ。
正直なところ、ビッグクローラーへの爆撃自体もロケットブースターによる誘導装置が付いてるので、高空からの水平爆撃で十分当たる。
無人機でも十分対応できるので、大佐の出番も本来無いくらいなのだ。
「なんだと? うむむ……それは仕方ないな。……いや、待てよ? 向こうは高速空母のレキシントンがいるという話だったな……。なら、私のスツーカを着艦させてもらえば、委細問題ないではないか……! よし、マラート君! 先方にその旨伝えろ! 出撃だっ!」
……私の思いは大佐には通じなかったらしい。
頼むから、大人しくしてて欲しいのだけど……そうなのよね……大佐ってば、こう言う人。
誰か、この人を大人しくさせる方法……教えてください。
「ん? 何か言ったかね? マラート君。」
考えが口に出てたかもしれない……。
どのみち、そんな方法があったら、誰も苦労しない……かのナチスドイツの国家元首でも、彼を止めることは出来なかったのだから……。
「……いえ、なんでもないです」
「ハッハッハ! 私のことは心配無用だ! そうだな……。マラート君は皆の食事の支度でもしているといい。君の手料理も最近はなかなかのものだからな! ザウアークラウトもちゃんとしたのを作れるようになったではないか」
はぁ……また置いてけぼりなのね……。
待つ身の辛さが嘆かわしい……なんで、こんな人の乗艦になっちゃったんでしょうね。
結局、いつもどおりの私だった。
そんな訳で、ケプラー20星系防衛戦。
結構な戦力が揃い踏みです。
敵のビッグクローラーも相当やばいんですが……。
島風先生やる気です。
そして、大佐がアップ始めました!(笑)
マラートさんもたまには、大佐座乗の上で砲撃戦とかやりたいなーって思ってるんですが。
大佐が出ると敵は駆逐されてしまうので、主砲なんて飾りなんですよ!
ちなみに、収束核融合弾ってのは1t爆弾クラスの大きさの水爆です。
重力フィールドにより、爆風の広がりを抑えて危害半径を5km程度までに留めると言う代物です。
対ビッグクローラー級として作ったのは良いけど……当てる手段が無く、放置されてたんですけど、大佐がこれ幸いとかっさらっていきました。
もちろん、未来人も止めたんですけど、無理でした。




