第九話「出撃! 第610高速機動艦隊!」①
私は、大日本帝国海軍の誇る最速最良と言われた駆逐艦、島風型重雷装駆逐艦一番艦の島風。
んー、自分でそれ言っちゃう? とか、姉妹艦なしのボッチ艦とか言わないでくださいね。
いわゆるワンオフの実験艦って奴だったんだから、スペック的には並外れてたのは事実なんですね。
それに、こう見えても割りと歴戦の武勲艦。
オルモック湾で347機の敵機と戦って沈むまで、戦線各地を渡り歩いて、激戦地を頑張って戦い抜いたんですよ?
島風最後の戦い……オルモック湾大空襲。
さすがに……あれは今思い出しても、無ー理っ! この一言に尽きる。
どっかの初春型や陽炎型は、400機とか無茶な数の敵機に襲われて、ほとんど無傷で生き延びたって話だけど。
あいつら絶対、おかしい……私だって、あの時雨あられのように次々と迫る爆弾、魚雷を全部避けたんだけど……。
至近弾や銃撃でじわじわダメージ受けて……削りきられて航行不能って感じだったもん! 私が弱かった訳じゃない……。
いわば、物量に押し潰されたようなもん……あんなん、どうにかなる訳がない。
空母だけでも13隻とか……アメリカ軍もやる事がめちゃくちゃ。
そんな壮絶な最期を遂げたんだけど、何だかんだ言って、私も結構有名な艦。
歴史にも名を残し、後代に続く艦名になったくらいなのだから、これは誇るべきだろう。
でも、戦後50年位経ってから軍艦擬人化ブームみたいなのが起こった時は、うさぎ耳みたいなヘアバンド付けたパンツ丸見えの女の子……なんてイメージにされてた。
私的には、なにこれ? って感じだったんですけどね。
どう見ても、痴女でした……。
……私、パンツ見せて喜ぶ趣味なんてありませんから。
今の私はと言うと……地味な黒髪に三つ編みお下げに、黒縁眼鏡にロングスカートのセーラー服。
詩集とかをこよなく愛するいわゆる文学少女風な感じ。
地味? いいじゃない……別に。
実際、私文学少女なんですよ? 文学少女って言えば、地味で大人しい……様式美は大切にしないといけません。
ちなみに、当たり前だけど眼鏡は伊達ね。
視力は、10倍望遠くらいデフォですから、私達。
文学と言えば、やはり文豪! 夏目漱石に太宰治……芥川龍之介……この世界でも、はるか古代の古典文学と言うことで、ちゃんと残ってた!
まったく、未来人も粋な計らいをしてくれたものだ。
この身体になって、何が嬉しかったって……本とかも読めるようになったって事なんですよね。
皆とお話……これもいい。
自由に歩けるって……最高っ!
残念ながら、お日様の光を浴びて、潮風に吹かれると言う艦の頃は当たり前だったことは叶わない願いのようなのだけど。
自動航法で進む自艦の甲板で、紅茶をチビチビ飲みながら、クッキー片手に本を読む。
私にとって、最高に贅沢な時間。
もちろん、戦いもすでに何度も経験している。
けど、戦うこと……それはまさに、本懐以外の何物でもない……。
まさか、太平洋の底に沈んだ挙句に、遠い未来でこんな風になるなんて……未来人には感謝してもしたらない。
それにしても、本はいい。
素晴らしい。
携帯情報端末って便利なものがあるんで、それで電子書籍を読む……それがこの時代の主流らしいのだけど。
私は昔ながらの印刷物の本に対してこだわりがあった。
この未来世界でも、紙をめくるというこの行為は捨てがたいものがあったらしく、書籍と言うものは健在だった。
私が気に入ってるのは、ラブストーリー……それも純愛モノ。
素敵な恋に憧れるってのは、女の子の身としてはむしろ当たり前だと思うの。
……ごめん、嘘言った。
一番好きなのは……男同士のアツい友情譚っ!
私達の間では、通称「詩集」と呼ばれるジャンル。
なんで詩集かって? 何故かこの時代では、その手の本の表紙は詩集っぽく地味な表紙になってるから。
未来人もそう呼んでた……真っ白な表紙に筆記体のアルファベットのタイトル……それを片手に優雅に紅茶を飲む……なかなか絵になると思う……様式美は重要。
けど……このこの男同士の耽美な世界……正直、たまらないですねぇ。
私達、スターシスターズの間でも、密かに書籍データの流通ネットワークが出来つつあるくらいなので、同志は多数存在する。
中には、かなりやっばいのもあるんだけど、その辺の取扱は慎重に……麻薬の密輸のように、顔も合わさず中継港のロッカー経由でやり取り……なんてこともある。
でも、未来人の女性の間でもそう言うのって、人気があるみたいなんだよねー。
女性作家の書いた小説とか物凄い量があるし、漫画もちょっとした一大ジャンル状態。
はっきり言おう……世の女性にとって、お耽美浪漫は必要不可欠。
その魅力の前には、時代も世代すらも、超越するものなのだ。
この文化交流のおかげで、未来人女性達との間にも私達への親近感のようなものが広がりつつあるらしい。
……耽美は世界を救うのですよ?
それはさておき、今回……私はと言うと……。
第610高速機動艦隊の一員として、α725補給ステーションに来ていた。
他のメンツとしては、口先倒れの異名を取りながら、全く気にしない自称「最強無敵」突撃バカ姉妹陽炎と不知火。
見た感じは……赤毛ポニーテールの陽炎と青い髪を無造作に束ねた不知火。
どっちもなんか知んないけど、年中ジャージ……おまけにテンション上がると脱ぎだして、ランニングシャツとブルマと言う痴女みたいなカッコになる……。
理由? 知るわけないよ……だって、こいつら馬鹿なんだもん。
体を動かしてないと落ち着かないらしく、今もこの補給ステーションの施設内を痴女スタイルで走り回ってる。
幸い……施設運営スタッフくらいしか、普通の人はいないので、身内の恥さらしにはなってない。
とりあえず、お腹はしまおうよ……とか思うんだけど……もう勝手にしてくれ。
それと、世界最速駆逐艦ル・ファンタスク級の「ル・テリブル」「ル・マラン」の双子姉妹。
なお、こいつらも突撃バカ双子。
ブルーの瞳に薄い金色の髪の色……サイドテールの右がテリブル、左がマラン。
黒くてでっかいリボンと黒いエプロン……なんでも、フランスの民族衣装の一種なんだって……。
文字通りのギネス級の最速駆逐艦姉妹。
……私も大日本帝国海軍最速の称号持ちなんだけど、こいつらには敵わない。
でも何故か……この二人、何度もお互い同士で接触事故を起こす……仲いいのも程々にしろと言いたい。
皆、こいつらと艦列を組む時は、なるべく離れるのがお約束。
面舵、取舵ーってお互い違う方向へ舵取り宣言してるのに、何故かお互いの方へ舵を切ってゴッツンコ。
おバカさ加減もギネス級って思う時もあるけど、根はいい娘達だし、他の娘にぶつかった事は無いので、何とも憎めない。
護衛艦としては、私も入れて以上5隻。
……馬鹿揃いだけど、皆それなりに腕は良い……むしろ、精鋭を名乗っていい。
そして……我が艦隊の主力艦艇の二隻の軽空母と巡洋戦艦が一人。
千歳型航空母艦の千歳と千代田。
こいつらがとにかく、問題だった。
どちらも緊急展開用に高速空母化改装したまではいいのだけど。
ついでに火力を追求! とか言いだして、重武装化改良を施し、艦載機の搭載数が煽り食らって半減。
二人合わせて40機程度とかなんか間違った方向に突き進んでるやっぱり、突撃バカ。
容姿? 黒髪ロングが千歳、茶髪ツインテールの方が千代田。
千歳のほうは年中指切りの黒革手袋とかしてて、長めのロングスカートのセーラー服。
片目を髪で隠してて、両目を使うのは本気になった時……とか言う設定らしい。
つまり、なかなかの厨二馬鹿……なんだけど、一応我が艦隊の旗艦でもある。
千代田の方は、割りと常識人で……姉よりも全然まともなんだけど。
馬鹿の姉にひたすら従順……つまり、やっぱり馬鹿二号。
むしろ、お姉さんの手綱ちゃんと握っててください……お願いします千代田さん。
うちの艦隊、常識人枠が私一人とか死んでしまいます。
ちなみに艦体の方は、甲板が裏返って、重巡用の20cm砲が出てくるとかバカギミック搭載……やっぱり、絶対バカだ……こいつら。
こんなもんを真面目に専用設計した未来人もどうかしている……。
なんでも、空母としての能力と重火力を両立する為のアイデアとか言って、宇宙戦艦なんとかとか言う20世紀の古典アニメから拝借してきたらしい。
……もうどこからツッコめば良いのか解らないよ?
でもまぁ……これは正規空母連中が悪いと言えなくもない。
主に赤城と加賀。
レキシントンとサラトガも同罪。
あいつら、演習でかち合って艦載機同士の戦いじゃなくて、空母同士で砲撃戦をおっぱじめるとか馬鹿やらかした。
本人達曰く……一度やってみたかったから!
曲がりなりにも、正規空母の最古参同士がそんな珍妙な勝負やらかしたもんだから、要らない影響を受けたバカが少なからず出て……。
この二人もそんな馬鹿の一角。
巡洋戦艦の方は……フッドさんって言うんだけど、今回は大改装中なんで、お休み。
また変な未来人の兵装とか搭載するんだろうな……。
そして、我が艦隊の提督……グエン・ヴァン・ラオ少将……通称「疾風怒濤のグエン」
そんな異名を取る突撃バカの猛将だから、割りと自然な流れで突撃バカが集められたらしい……。
一応、言っときますけど……私は、突撃バカじゃないですから。
攻めて良し、守ってよしの万能型……その上、速力も最速クラス。
指揮管制の心得もあって、日々戦術研究にも余念はない。
自分で言うのもなんだけど、私は強い!
あの雪風との演習戦闘も下馬評を覆して互角以上に渡り合った。
魔窟と言われる坊ノ岬沖海戦組の連中とだって、負けなかった。
最近、噂になってる初霜……相当な使い手らしいけど、私ならきっと互角に戦える。
……私はそんな風に思ってる。
慢心してるとろくな事にならないって?
解ってますよ……そんな事。
自信を持つことと慢心は違いますから。
私は自分を卑下する趣味はない……それだけのこと。
それにうちの艦隊って……基本的に突撃バカだらけだから。
私はそんな愛すべき馬鹿達の背中を護る事を自らの役目として課していた。
これでも艦隊の頭脳、良識派を自称してるのですよ。
ちなみに私達、第610高速機動艦隊は銀河連合主力艦隊の第6艦隊の分艦隊と言う位置づけ。
最大相対ノット数35を超える高速艦ばかりなので、巡航速度も早く、足の速さには定評がある。
その為、黒船との戦いに真っ先に駆けつける緊急展開部隊としての任を担ってるし、航路保全の巡回任務などで、ひっきりなしにあちこち巡る毎日だった。
おかげで、練度もトップクラスと自負してるし、知り合いも多い。
黒船への初期対応で頻繁に出番があるので、未来人からも精鋭部隊と認識されており、艦の装備についても最新、最高のものが装備されている。
まぁ、中にはありがたくない代物を押し付けられることもあるのだけど。
第6艦隊でも、最後に戦局を決める突撃艦隊の一員でもあるのですよ?
もっとも突撃バカ揃いだから、守勢に回るとてんで弱いんだけど。
その辺は作戦立案の段階でそんな状況にさせないようにしてきたし、イザという時は私が身体を張ってフォローして来た。
グエン少将も勇気はあっても、作戦能力は皆無だから、参謀役の私の言うことはちゃんと聞いてくれる。
と言うか、突撃さえできれば、割りと満足な人なので割りと動かしやすい人なのだ。
私も、皆のことを散々バカ呼ばわりしてるけど、蔑んだり、上から目線とかしてませんから。
皆、勇敢で愛すべき馬鹿達……私にとっては、大事な仲間達なんです。
ちなみに、所属駆逐艦同士の仲はとってもいい……皆、趣味は読書。
……そう読書! いいね? 読書なんだからねっ!
コホンッ……大事なことなので三回言いました。




