第七話「切り札はキミの中に」②
「こちら、初霜です……あと5分で戦闘域に到達。状況はモニターしています……祥鳳さん、港湾統括頭脳体とわたしでダイレクトリンクを確立するようリクエストをお願いします」
初霜からの緊急通信……どうやら、何か思いついたようだった。
「初霜、何かいい手があるのかい?」
「施設防衛隊の装備は見たところ、電磁投射砲が中心ですよね? そう言う事なら……わたしの主砲も電磁投射方式なので、こちらの射撃データから、エーテル空間内での射撃誤差修正最適値が算出出来るはずです……多少はマシになると思いますので、お願いいたしします」
何というか……渡りに船だった。
そうか! 確かに初霜の主砲はレールガン方式に改良されていると言う話だった。
レールガンはまだまだ実用性に難があると言う話ではあったのだけど……実際、初霜は雷電姉妹との戦いで、アウトレンジでの精密射撃を決めており、幾度かの戦いでも極めて高い命中率を誇っていた。
つまり、エーテル空間戦でのレールガンの扱いについては、初霜はこの未来世界でも先駆者……第一人者とも言えた。
「任せてくれっ! しほちゃん、聞いてのとおりだ……ちょっとこれは、最優先で頼む!」
「解りました! そっか、初霜ちゃんってそんな凄い装備だったんだ。私らの砲って火薬でバーンって撃つ奴だから、電磁投射砲の射撃補正値なんて良く解かんないんだけど……実際の射撃データがあるなら、話は早いよ! えっと……あっちは最優先で処理するってさ……初霜ちゃん……お願いするね! ついでに、先の初霜ちゃんの戦闘ログも送っとく……空海連携戦術の見本って事でさ!」
「ありがとうございます……もうやってます。向こうの頭脳体からは、Thank youっていっぱい送信してきてます。最後にI love youとか送ってきたのは何かのシャレなんですかね? 根本的にはわたし達と同じような存在って話ですが……まんざらでもないんですね」
まったく、いざという時の初霜様々だった。
戻ってきたら、ねぎらってやらないといけない……甘党な初霜だから、特大ケーキかバケツプリンでも作ってやるか。
一段落着いたら、祥鳳艦内の厨房にでも籠もって、皆のために食事とスイーツでも作るとしよう。
ちなみに、この祥鳳自体……大戦中、航空母艦へ改装される前は「剣埼ホテル」なんて呼ばれていただけに、設備の充実した厨房、広い入浴施設などもあり、艦内エレベーターもあって、居住性を考慮された作りになっている。
揺れもほとんど感じさせない安定性と言い……実は移動基地としても優秀だった。
誰だ? 祥鳳ちゃんを不幸艦なんて言ったのは……。
いずれにせよ、私の役目は戦闘前のお膳立てと、戦い終わった皆を労ってやる……そんなもんだ。
ここは、ひとつハッパでもかけるとしよう。
「しほちゃん、全員に通達だ……戦闘が終わったら、スペシャルディナーとスペシャルスイーツを振る舞うから、楽しみにするようにと……」
「あはは……もう終わった時の事を考えてるんですか? でも良いですね……ご馳走が待ってるなら、意地でも生き延びてやろうって思いますもん。……提督も士気高揚が上手いんだからっ! うん、私……頑張っちゃいますっ!」
軍隊でも食事が与える士気への影響は極めて大きいという話だった。
腹が減っては戦は出来ぬ……昔の人はよく言ったものだ。
そう言う意味では、私の特技もまんざら役立たずとは言い切れないと思う。
そして、港湾部の攻防戦の状況は、あれから明らかに好転していた。
現在、こちらの被撃墜数は20機ほどだが、敵機もすでに半数を駆逐。
初期の乱戦で大分食われたようだったが……数的にはすでに逆転していた。
と言うか、味方の数がドンドン増えているような気もする……。
もちろん、一機の敵機も突破を許しておらず、港湾施設への被害は敵が砲台へ制圧攻撃をかけたことでそれなりに出ているが、最重要防衛目標のゲート施設と避難民の乗った民間船への被害は出ていない。
初霜と疾風が加勢し、奮戦しているのもあるが、未来人側の兵器も敵機をそこそこ撃墜するようになっている。
「何が変わったのだろうな? あの劣勢から拮抗以上まで一気に持ち直したな」
「大きな点としては、どうも地上砲の弾種を変更したようですね……。重音響弾とか言う威力は低いものの広範囲に衝撃波を広げることに特化した……元々は対潜兵器の一種らしいです……。詳しくは良く解らないんですけど、初霜ちゃんからデータ提供があったようで、早速生産して実戦投入したみたいですね……。それに戦闘機も自動工廠で次々増産して、出来た矢先に飛ばしてるみたいです……なにそれ?」
「……初霜は試作レベルの兵装データを多数所持していると言う話は聞いてたが……。音響弾を対空戦闘で使うなんて発想……どこからそんな事を思いついたのだろう。それに戦闘中に兵器増産とか意味が解らない……未来人も色々おかしいぞ」
「普通に撃ってもまともに当たらないから、とにかく広がるタイプの弾を使わせた……。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる……そういうことですかね。どうも味方機もお構いなしのようですが……あの機体、やたら頑丈で安定性も高いようで、多少衝撃波に巻き込まれても平気みたいです。逆に敵機は巻き込まれると、相応のダメージを食らうらしくて、バタバタ落ちてますね。それに、初霜ちゃんが何機か戦闘機をダイレクトコントロールしてますね……あ、偵察機の映像来ました……」
映像を見ると、突出した初霜の周囲に10機ほどの例の新型機が集まっていた。
漏斗状の機体が非常識な空戦機動で縦横無尽に飛び交いながら、その大口径砲を群がる敵機へと連射している。
近距離から放たれるそれは、命中精度も高く敵機は次々落とされていく……。
この光景どっかで見たと思ったら、某機動戦士のファンネルって奴だ。
そう言えば形もよく似ている……何というかすごい光景だった。
さすがに初霜も演算リソースを随分つぎ込んでいるのか、艦自体はあまり動きがない。
けど、その辺りは疾風が上手くフォローしているようで、近づこうとする敵機を全く寄せ付けていない。
と言うか……疾風の本格的な戦闘は、初めて見るのだけど、常にいい位置に回り込んでいて、うまい具合に初霜の盾となっていた。
その上、初霜の対空砲と連動しているようで、双方の機銃弾による濃密な弾幕を形成していた。
しほちゃんの専属護衛艦だったと言う話だったが……。
対空火器もしっかり増設しているようで、彼女もなかなかどうして護衛戦闘に長けているようだった。
太平洋戦争では、ウェーク島攻略で先陣を切ってまっさきに沈んでしまったようなのだけど……。
そもそも、先陣を任せられる位なのだ。
本来、練度なども相当高かったのではないかと思わせる戦いぶりだった。
「にっひっひ……初霜ちゃんとのダイレクトリンクいいっすね。初霜ちゃんの電探システムと未来予測射撃管制システム……。こいつはいいっすね! 疾風にも見える! 見えるっすよ! そこぉっ!」
「疾風さん、とっても助かります……誰かに護ってもらうのって、なんだか妙な気もしますけど」
「こう見えて、あっしも護衛戦のプロなんすよ? この場は疾風にお任せあれーっ! あらよっと! うはっ! あっしら大人気っすよ! でも、初霜ちゃんには指一本触れさせねぇっす! 初霜ちゃん、この疾風に惚れちゃいけねっすよ?」
「やだもぉ……惚れませんよぉ……でも、ちょっとカッコイイとか思っちゃいましたけどね!」
「初霜ちゃん、頬を赤らめながら、そんなセリフ言っちゃ、あかんっす! も、萌えるーっ!」
初霜と疾風……意外とウマが合っているのか、オープン無線からはそんな百合っぽい会話と楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
それにしても……地上砲火が網をかけて、敵機を一箇所にかき集めて航空隊と初霜達とで集中砲火……。
「……これは敵は堪ったものではないな……何とも一方的じゃないか」
思わず、そんな感想が漏れる。
「そうですね……あの未来人の戦闘機を見た時はどうかと思いましたけど。戦闘ログによると、初霜ちゃんが港湾統括頭脳体へ進言し、先方が食いついたようですね。音響弾で敵機をかき集めた上で、長射程大口径砲を集中砲火すれば命中精度の低さも補える。無人戦闘機を空飛ぶ砲台と割り切っての運用……本来の用途とは明らかに違いますけど……。ホント、良くこんなこと、現場でとっさに思いつきますね……これは私も負けてらんないね……」
しほちゃんが感心したように呟く。
まったく、初霜は本当に色々やってくれる……。
使えない産廃兵器を運用で有効活用……作り手側としては、思いもよらない運用なのだろうが……兵器とは、敵を倒し殲滅するのが目的なのだ。
未来人の技術力は、文字通り惑星ひとつを動かす程度にはハイレベルなのだ……だから、要は使い方次第……何とかとハサミは使いよう……そういう事だった。
一方、レックスさんとリチャード艦隊にも、敵編隊第三波が接近中。
案の定と言った様子で、クロスホーン級高速巡洋艦と4隻あまりの駆逐艦ザカーデストロイヤー級が敵機の集団に続いている。
航空戦力で護衛をかき回して、水雷戦隊で一気に突破し大型艦を狙う……。
連中のよく使う戦術らしい……。
「頼むぞ……リチャード少佐、エリソンちゃん達」
祈るような気持ちで私は戦術モニターを見つめていた。
えーと。
初霜ちゃんのせいで、二次大戦レベルの戦場がいっきにガンダムな世界へ。(笑)
「機動砲システム」とでも名付けましょうか?
ちなみに、疾風は初霜とリンクした事で初霜の持つ先進ソフトウェアを共有してます。
地味に疾風もパワーアップ。
彼女も初霜と同じ護衛艦タイプなので相性も悪くありません。
元々、飄々としながら仕事はする古参兵って感じなので、疾風ちゃん強いっ!
でも、何か初霜ちゃんとキマシフラグが……。
もっとも対空戦を一方的な殲滅戦に変えた一番の要因は重音響弾です。
ちなみに、これやっぱり初霜の持ち物で、本来の用途としては対潜撹乱用なんですが……駆逐艦砲では口径不足で微妙だったと言う。
なお、即席で300mmとかの大口径砲弾を工廠で生産しつつ、出来たてを撃ちまくるとかチートじみた事やってます。
ハマると強いぞ! 未来人……でもどうせ、この戦訓をあさってな方向で活かすんだろうな。
次回は、リチャード提督の駆逐艦隊にスポット移します。
エリソン達に四人に個性を与えたせいで、既存の一部設定や容姿の描写がこっそり変更されてます。




