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第一話「紳士提督と彼女の始まりの物語」②

 人類共通の敵とも言える存在。


 ――黒船。

 

 それは、文明も知性も持たない……エーテル空間に最適化した宇宙生物の一種のようなのだが……。

 最小の駆逐艦タイプのものですら、軽く100mはあり、大きいものだと700mとか1kmなんて言う途方もない大きさのものもいると言う話だった。

 

 更に、エーテル気体中を飛び回る小型飛行種や、流体面下を魚のように自在に動き回る潜行艦タイプ、陸上に適応した両生種など多種多様な種類がいて……。


 エーテル空間航行船や中継港湾施設などへ、無差別に攻撃を仕掛けてくる。

 まさに、害虫的な存在。


 それは、宇宙時代の人類の要と言える、このエーテルロードの安全を脅かす存在となっていた。

 

 もちろん、人類もただ蹂躙されるままでいるはずもなかったのだが……。

 とにかく、相手がデカすぎるのだ……一番小さい、飛翔種や両生種も10mは余裕である。 


 なにより、エーテル空間内では、この時代の人類の宇宙航行艦の主兵装の光学兵器、長距離誘導兵器の類が全く使えず……。


 ほとんど唯一まともに使用できるのは、有視界でのとっくの昔に廃れた質量弾による攻撃のみだった。


 要するに、お互いを視認した上での大砲の撃ち合い……こんな20世紀の戦場のような戦いがエーテル空間の戦いという物だった。


 重力兵器だのレーザー砲、荷電粒子砲なんて、SF武器だってあるらしいのだけど、その辺はエーテル空間では色々制約があるらしく、全く役立たず。


 そんな状況を打破すべく……未来人が考えたのは、過去、質量弾の応酬を繰り広げた最後の戦争。

 第二次世界大戦の頃の戦闘艦群……それらを未来テクノロジーで再現すると言う試みだった。


 なんで、そんな発想に至ったのかは良く解らないが……過去一番どデカい大砲を積んだ兵器を探すうちに戦艦大和に辿り着き、これ、水に浮かんでるし、エーテル空間ならむしろいい感じじゃね? ってなったらしい。


 かくして、その画期的なんだか、斜め上なんだか、なんとも言えない試み自体は、それなりに上手く行ったようなのだが。


 ……なんか戦闘艦作ったら、女の子もセットで付いてきたよ? と言うのが、彼女達戦闘艦艇頭脳体と呼ばれる女の子達の由来。

 

 これは、未来人を持ってしても、なにがどうなって、こうなったのか良く解ってないようなのだが。


 過去の戦闘艦を再現する際、未来の宇宙戦闘艦同様マザーコンピューターによる無人運用を前提として、過去の戦闘記録やらなにやらをまとめてインプットした結果、ヒューマンインターフェイスデバイスとして最適なもの……と言うことで、女の子型のインターフェースデバイスが爆誕したらしい。


 彼女達は、戦闘艦の生まれ変わりのようなもので、過去の大戦における戦闘艦としての戦いの記憶を持つ生粋の戦士達にして、思春期の少女特有の何かと難しくも面倒くさい気質も併せ持つと言う……。


 未来人をして、頭を抱えるに十分な存在だった。


 誰が呼んだか、星の世界の少女達……そんな意味を込めて「スターシスターズ」なんて呼ばれてもいるらしい。


 そんな彼女達の面倒を見るべく、やはり同じように過去の同時代の人物を再現した……と言うのが、私達、提督だの司令官だのと呼ばれる……通称「再現体リビルダー」と呼ばれる者達だ。 


 選定基準は良く解らない……私のような一介の元パティシエでしかない紳士に何をしろというのだか。


 まぁ、女の子は大好きなんだけどね……主に鑑賞していたいという意味で。

 

 一度、この世界の偉い人にそんな疑問をぶつけてみたのだけど。


『君こそが我々が忘れてしまった「愛」を体現する人物だから』


 ……とすごく爽やかな笑顔で、哲学的な返答を返されてしまった。

 

 つまり、私は私に正直でいればいい! 紳士道バンザイ!


 ……そう言う事だと勝手に解釈した。

 それでも別に問題ないらしいので、私は我が道を邁進する……何か不都合でも? ないなら、オーケー、問題なしっ!


「永友少佐……どうだね? エーテル空間での生活には、少しは慣れたかね? それに、彼女達にも随分懐かれたようじゃないか」

 

 色々と物思いに浸っていると、傍らの司令官席に座るロバート・クレイマン准将が微笑ましげと言った様子で見つめていた。

 

 この人は私とほぼ同時代の旧世界人で、いわば同胞と言えるアメリカ人だ。


 年齢は私の倍近い……なんでも、私と同い年の息子さんがいたらしく、何かと親身になってくれるいい親父さんのような存在だった。

 

「ロバート准将……いやはや、私みたいな若造が少佐とか言われると、何とも言えないですよ。あれくらいの年頃の娘は、まさに可愛い盛りじゃないですか……嫌いになんてなれませんよ。……けど、彼女達が戦うと言われると、なんとも複雑な思いですね……」

 

 私がそう答えるとロバート准将は、机の上の軍帽を目深に被る。

 

「そうだ……悲しいかな、我々は彼女達を戦場に送り込む側なんだ……。せめて、気持ちよく戦えるようにしてやりたいものだ。だが、彼女達はああ見えて歴戦の戦士達だ……二人共、勇敢で素直ないい娘達だ。もっとも、黒船との戦闘で君の前任者を死なせてしまった事で、随分落ち込んでいたのだ。それを君はあっさり、立ち直らせてくれた……私は、君を彼女達の指揮官として正式に推薦しようと思うのだがどうだね?」

 

「ははっ……私は戦争に関してはド素人ですから。しばらくは、准将のところで、色々勉強させて欲しいですね……実戦の現場に立ち会うのだって、今回が始めてですから。もちろん、仮想現実……VRでの演習やシミュレーション戦闘は経験しましたが……リアルとなると、また違うものなのでしょうね」

 

「ああ、現実の戦場は常に過酷だ……あんなVRなど上辺だけの体験版とすら言い難い。だが、我々の役目は、端的に言って彼女達を喜んで戦場へ向かわせることなのだよ……。その点を鑑みると、すでに君は十分いい仕事をした。なによりあの娘達は、君と同じ日本を故国とする艦だからね。多少生きていた時代が違うと言っても、かつての敵国人の私にあれこれ命令されるよりは、きっと幸せだろう」


「そういう物ですかね……それにしても、あの二人だけを先行させたのは、むしろ戦力分散といえませんか? 未知の敵に対するにしては……些か問題ある対応なのではないでしょうか?」


「事前の連絡によると相手は、はぐれの駆逐艦クラス一隻だけだぞ? 敵性潜行艦も飛翔体も、近辺では確認はされていない……。同格の相手に倍の戦力なら、歴戦の勇者たる彼女達が負ける道理がない。それに、本艦アトランタはライトクラスといえど、巡洋艦だ……彼女は実に優秀な艦だ……そうだろう?」

 

「はい、准将と少佐の安全は、この私が保証いたします!」


 そう言って、ブリッジ中央に立っていた肩の辺りで切りそろえたブロンド眼鏡の女性が振り返って微笑む。

 もっとも、彼女も大人には見えない……やっぱりセーラー服を着てるせいで、女子高校生か何かにしか見えない。

 

 彼女達は、どうも色々と変な固定概念を持ってるらしく、基本的にセーラー服を着てる者が多い。


 確かにあれは元々水兵の服装なのだけど……21世紀の日本人の感覚だと、女子中高生の制服だ……どう見ても。


 まぁ、私はむしろ可愛らしいので、十分ありだと思うのだけどね。

 

「頼もしいね……実に。私も君のような素敵な艦に乗れて光栄だよ。戦いになったら、当てにさせてもらうよ?」


「はっ! この身に変えてもお守りいたします! 大丈夫です! 万が一……雷達が抜かれても、本艦直衛にサムナー級のイングラハムを先行配置してます。スペック的には、雷達特型駆逐艦よりも強力ですから、一対一なら負けはないでしょう! もちろん、私もイザとなれば戦います。さすがに、駆逐艦相手に遅れは取りません。……それに後続にフレッチャー級が8隻と護衛空母のガンビア・ベイもいますからね。イングラハム、そっちの準備はよろしくて?」

 

 キリッとした表情で返すアトランタ……彼女は真面目な娘だ。

 

 ……実に頼もしい。

 

「あ、ふぁい!」


 アトランタに話を振られたイングラハム。

 慌てたような声とバリボリと言う咀嚼音が聞こえてきたと思ったら、一瞬遅れてモニターに赤毛のポニーテールの女の子が映る。

 

 片手にはクッキー、慌てて隠そうとしてるけど……残念ながら手遅れだった。

 

 艦隊出撃前のブリーフィングで、自己紹介ついでに私のお手製クッキーを、ロバート艦隊所属のスターシスターズの子達全員にプレゼントしたのだ。

 

 こう見えて、私は日本ではパティシエをやっていたのだ……。

 だから、ケーキやクッキーなぞは材料さえ揃えば、いくらでも作れる。


 その気になれば、芸術作品のような本格的なものも作れるのだ?


 ちゃんとした菓子製造技能士の国家資格持ち……つまり、お菓子作りの国家認定プロだったって訳だ。

 自分の店だって持ってたし、TVに紹介されたりもした位には、高く評価されていたものだ。

 

 もっとも、パティシエなんてやってたのは、若い女の子にモテたいからと言う不純な動機だったのだけど。

 けれど、いつしか、自分の制作したスイーツで女の子達が笑顔になる瞬間を見る……その事に幸せを感じるようになった。


 その想いが、私を一流職人と呼ばれるほどまでに成長させてくれたのだ。

 

 実際、クッキーは彼女達には大ウケで……皆、争うように持っていった上に、それまで胡散臭い目で見られていたのが一気に受け入れられてしまった。

 

 どこの世界でも女の子連中は、甘いものに目がない……自分の特技が役に立つのは、実に嬉しい事だった。 


「ちょっと、イングラハムッ! 戦闘配備中に何、のんきに食べてるのよっ!」


 それまでキリッとしていたアトランタが、ドスバタと足踏みしながら叫ぶ。

 まぁ、緊張感とかシリアスな空気とか、色々台無しになったのは確かで……気持ちは解らないでもなかった。


「だって、永友少佐の焼いてくれたクッキーが美味しくてぇっ!」


 イングラハムが涙目で言い訳中……基本的に彼女達は、戦闘中一人となる事が多いので、やりたい放題とも言える。


 誰だったかは忘れたが、下着姿で艦橋にハンモック吊るしてた娘もいた……。

 

 日本の娘達は比較的真面目な娘が多いと言う印象なのだが、アメリカ系はどうもフリーダムな娘が多い……。

 この辺はどうしてもお国柄が出る……そういう物らしい。


 もっとも、私はどちらも好きなのだがね。

 美少女とは、存在するだけで正義なのだ……。

 

 だけど、こんな風に不意打ちで回線繋がれることもあるのだから、油断してたイングラハムが悪い……と思う。

 まぁ、戦闘を前にして平常運転と言うのもむしろ、頼もしいと言えよう。

 

 准将は、そんな二人のやり取りを微笑ましそうに見つめていた。

 

 お互いの性癖を暴露し合った訳でもないのだが……なんとなく、准将からは同好の士の匂いがする。

 そのうち、酒でも酌み交わしながら……美少女への愛について、語り合える日が来るかもしれない……。

 

「言い訳無用っ! 私だって、一枚だけ食べて残りは後でって我慢したのにさっ! あとで、お仕置きだからね!」


「そんなーっ! あ、それよりアトランタ、雷達が接敵、戦闘開始したみたい! イングラハム……後方支援のため、先行します! 通信終わりー!」

 

「あ、こらっ! ……話の途中で逃げんなっ! っと……オホンッ! 准将、少佐……失礼しました。状況はイングラハムの説明通り、先行していた雷電姉妹が敵艦と接触……戦闘を開始しました……戦術モニター出します。ご指示があれば、いつでも承ります!」

 

 そう言って、キリッとした顔で敬礼し、休めの姿勢を取るアトランタ。

 

 流石に切り替えが早かったが……うん、アトランタ……君の本性というものを見れて、オジサンは悪くない気分だよ?

 

 美少女は怒っていても可愛い……どうやら、ここは素晴らしい職場のようだ。


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