第五話「黒鉄(くろがね)の守護者」②
更に敵機との距離が近くなり、機銃群が掃射を開始する……先頭機に銃撃が集中……爆散する。
砲撃に頭を抑えられた敵機群が高度を下げる……更に銃撃を集中……弾種は当たれば火が点く徹甲炸裂焼夷弾。
黒船の飛翔体は生体兵器の一種らしく、この手の兵器が極めて有効……距離が近くなってきたので、統制集中射撃から、各機銃の各個射撃へ移行する……敵機も次々被弾し、火達磨になって落ちていく。
そろそろ、回避行動に移る……ここまで来たら、側面を晒すのは止めにして、乱数回避を行いながらの近接射撃で近づいてくる敵機を片っ端から落とすのみ!
「……とりかぁじ! いっぱぁい! 続いて、機関出力全開! 30秒!」
艦体が一気に傾く……姿勢制御スラスターを吹かして、立て直し、一気に増速する。
コース自体は現戦闘域をランダムに角度に変化を付けながら、ひたすら取舵を切りつつグルグルと回り続けるだけ。
それだけで、爆撃機相手なら高確率で回避できる。
面舵は一切切らない……下手に面舵を切ると動きがフラットになるから、その瞬間が危険。
この対空戦闘はレイテで戦艦伊勢と日向が実施し大きな戦果を上げたと聞いていた。
わたしも、似たような回避機動で坊ノ岬を無傷で乗り切っている。
撃ち漏らした敵機の落とした小型爆弾が周囲にバラ撒かれる……けど、直撃はない。
敵機のコースは見切っていた……そんなものに、このわたしが当たる訳がない。
次々に上空に飛来……けれども、敵機はこちらの回避運動に読み切れていないようだった……。
敵の魚雷もどきも爆弾もどきが投下されるのだけど、どれも見当違いのところに落ちていく。
敵の技量は話にならないレベル。
これならば、近距離でもない限り、まず当たらないと思っていいだろう。
更に、こちらへの攻撃に夢中になってる隙に、上空からゼロ隊が容赦なく襲いかかり、一機また一機と確実に落としていく。
こちらもゼロを追う敵機を狙い撃つ……攻撃態勢に入った敵機は他の方向への注意が疎かになる。
また一機、爆散っ!
なかなか良い連携が取れている……祥鳳さんもなかなかのやり手だった。
「空海の連携ばっちりです! ……さすが、祥鳳さん……お上手ですっ!」
「初霜ちゃんにそう言われると、しほちゃん照れちゃうなぁ……。あ、右舷側にトライデント3機接近中……座標送る……直ちに迎撃してっ!」
……上空の祥鳳隊からの映像が転送されてくる。
敵は余程こちらが邪魔らしい……30機がかりで至近弾の一発も当てられないのだから、無理もない。
切り札として温存していたと思わしき高速爆撃機で、一気に仕留めるつもりのようだった。
「甘く見ないで……二番砲塔仰角80度! 弾種! 対潜砲弾……パワーレベル2.2で斉射二連! ……後方機銃群、敵機方向へ指向! 前方機銃群はボクスターを牽制っ!」
初霜には、出所不明ながらも、独自兵装もいくつか装備されている。
レールガンタイプの砲塔もそうだが……この対潜砲弾も同様だった。
これらの装備は、銀河連合軍では正式採用されている装備ではないようなのだけど、未来人の工廠設備を使った上での、量産も可能だという事で、補給の心配もなかった。
流体面上で炸裂し、重く細長い槍のような弾体をバラ撒き、運動エネルギーで潜行艦の装甲を貫通し撃沈する。
深度が深い相手には通用しないが、爆雷と比べると攻撃範囲が恐ろしく広いので、トライデントのように流体面直下を進むタイプの敵には極めて有効な装備だった。
対潜砲弾が炸裂……一拍置いて、大きなエーテルの柱が立つ! 一機撃破っ!
残りの二機も慌てたように水面上に飛び出し増速しようとする。
鉛筆に矢羽を付けたような形の機体から大きな翼が生えてきて、三角形の飛行形態へと変形する。
けれども、上空から祥鳳さんのゼロの銃撃が容赦なく襲いかかる!
……一機が被弾、失速して流体面に叩きつけられ、バラバラになる。
残り一機が増速してゼロの弾幕を振り切って迫る!
けれども、わたしは減速しつつ、砲火を集中。
翼の先端部をもぎ取って、姿勢を崩したのが見えたが……まだ落ちない。
「……今っ! 機関回せ……最大戦速! ブースター点火っ!」
浮き上がるような感触と共に艦尾に増設されたロケットブースターが点火……猛烈な加速Gがかかる!
敵機が慌てたように上空で爆弾をバラ撒くのが見えたが、このタイミングなら問題ない……案の定はるか後方でエーテルの柱が幾重にも重なる。
機銃群が応戦……離脱しそびれたトライデントが火達磨になって爆散する。
上空に敵機なし……祥鳳戦闘機隊と合わせて20機ほど撃墜と言ったところか。
10機ほど抜かれて、レックスさんの方へ向かったようだけど、大半が爆弾嚢を投棄し、向こうの隠し玉だったトライデントを殲滅した以上、もはや戦力外と言うレベルだろう。
向こうの直掩機と駆逐艦4隻の防空網なら、さしたる問題は無いと思う。
けれども一息つく暇もなく祥鳳さんから、コール。
「こちら、祥鳳……索敵機が敵の第二波を捕捉……案の定ね。なお、敵の攻撃目標は港湾施設と特定、規模は第一波と同数。更に後続の第三波も確認……こっちも同数……目標はレックスさんみたいね。いい感じにバラけてくれたみたいね……これなら、なんとかなりそう」
波状攻撃と言えば聞こえは良いけれど、攻撃目標はてんでバラバラ。
黒船に戦術指揮官がいるかどうかは知らないけれど、いたとしたら三流のそしりは免れないだろう。
「解りました……それでは、私は港湾施設側の迎撃に、向かおうと思います」
「了解……さすが初霜ちゃん……言うまでも無くって感じだね……私もそれがベストって判断してた! お願いっ!」
続いて、レックスさんからの緊急連絡。
「こちらレックス……祥鳳ちゃんに初霜ちゃん、私の強行偵察機が敵艦隊を捕捉しました。敵主力所在地はエーテルロード合流点付近……やっぱり、敵の空母タイプが来てるみたいです。ネストガーディアン級……軽空母タイプが4隻……一箱40機……全艦全機出撃済みと確認。……これは最低でも第4波くらいまでは覚悟しないとです。それとビッグクローラー級……超大型戦艦タイプの姿を確認……まさか、こんなものまで……」
レックスさんがそこまで言うと、全員が通信機の向こう側で息を呑むのが解った。
確認されている黒船の中でも最大の大きさを誇る大型戦艦種。
「続けますね……それに加えて、護衛の駆逐艦タイプ……ザカーガーディアン級多数……10隻はいます。恐らく、この布陣だと水雷戦隊が先行しているはずです……。それに潜行艦タイプのフロッグ級も数隻居ます……これは要注意。これは、かなり本格的な侵攻艦隊のようです。上流域からの流入が確認されてない以上……エーテルロードが黒船の巣と繋がっちゃったみたいですね……。これは早急に叩き潰して敵の掘ったエーテルロードそのものを封鎖しないと。キリがないわ……」
当初確認されていた想定戦力を遥かに上回る大艦隊だった。
どうやら最悪の事態が進行しつつあるようだった……黒船の巣。
……どこか違う宇宙にあると言われるそこへ乗り込み、殲滅する……それがわたし達の最終目標なのだけど。
現状の対策としては、黒船の艦隊を全て殲滅した上で、エーテルロードを封鎖する。
封鎖自体は、人工ブラックホール爆弾という物凄い爆弾を使って、エーテルロード自体を崩壊させれば済む……そう聞いてはいる。
どうせ黒船が掘ったエーテルロードなど、わたし達にとっては害悪でしか無い……。
これまでは、もぐらたたきのように出てきた矢先に殲滅していたのだけど。
この宙域は辺境、最外縁部ストリームの一角……配置戦力も少なく、おまけに未来人の危機感も薄く、後手に回ってしまった……その結果がこれ。
改めて、黒船の恐ろしさと言うものを垣間見た気がした。
けど、誰が悪いと言う訳でもない……ほんの10日足らずで、ここまでの大規模侵攻艦隊が編成されてしまった前例は無い。
何の備えもなく、人知れず艦隊が集結し奇襲……為す術もなく、陥落していても何らおかしくなかった。
提督が尽力してくれて、増援艦隊をかき集めてくれて、未来人達を煽り宥めすかして、なんとか戦える体制が出来た……。
この場に雷達がいてくれれば、少しは楽だったかもしれないけど。
彼女達を先行させたからこそ、ここを凌げば次の一手……勝ち筋が見えてくる。
必然的に、こちらの戦略目標は、これで定まった……しかしながら、現有戦力でそれが可能だろうか?
いや、それよりも今のこの戦局を乗り切るのが先決。
幸い敵の攻撃は波状攻撃……といえば聞こえは良いが……。
要は戦力分散の上での駄目な攻撃の見本のような攻撃となりそうだった。
これなら、各個撃破で十分対応できる……こちらにとっては好都合な話だった。
ただ、ヘビークローラーは厄介……全長700mと恐ろしく大きい。
巨体からくる桁違いのタフさと長射程砲……わたし一人では、刺し違え覚悟の特攻戦術で内部からコアを破壊する以外、打つ手がない……さすがに、生還は厳しいかもしれない。
けど、イザとなったらやるしかないだろう。
皆を……護れるなら、わたしは喜んでそうする……。
黄昏時、夕日を背景に沈みゆく大戦艦……必死の防戦も敵わず力尽き沈んでいく仲間達。
護れなかったあの日の記憶が蘇る。
あんなのは……もう二度と繰り返したくない……。
そう言えば……。
ふと、同じ地獄の戦場をくぐり抜け、最後まで共に戦った僚艦のことを思い出す。
こちらの世界で、どの艦が何処にいるかと言った情報はあまり聞かなかった。
たった一隻、わたしを見送ることになった武勲艦。
この戦いが終わったら、提督にでも彼女の行方を聞いてみよう……。
……わたしはそんな事を考えていた。




